2009年6月1日月曜日

【秩父鉄道1000系撮影記事】「秩鉄リバイバルカラーデハ100形タイプ」撮影記 後編

AI Nikkor 180mm F2.8S

■地元のみなさんと世間話をすべし
タンカタンカタンカタン……レールのジョイント音を大きく響かせながら、カーブを曲がってきた電車は警笛を鳴らして目の前に現れた。速度が予想外に速くてドキドキしながらカメラで追った。

話は秩鉄沿線に鉄道撮影にやってきた日の、午前中にさかのぼる。1000系電車1002編成秩鉄カラーリバイバル列車を待ち構えるために、国道140号を波久礼から上り方面に歩いた。めざす有名撮影地以外の他の場所も探すためだ。国道から田舎道に入ると、めざす撮影地があった。

でも、やはり先客がいて、私有地と思われる場所に入らない限り彼を避けることができそうにない。そこへお孫さんらしき小さなお子さんを連れた女性がやってきて、なんとなく挨拶する。SL撮りに来たの? ああ、むかしの塗装の電車ね。SLのあとの昼ごろに来るのね。あっちの畑がいいんじゃないの? こないだは『つばさ』(当時放送していたNHKの朝ドラ)のロケしてたわよ。

その「あっちの畑」への行き方を聞いて国道に戻り、次の踏み切りへ行くとまた彼女に会ってしまい、思わず笑った。改めて道を教えてもらって別れる。そういえば、彼らを撮らせてもらうのを忘れたのが残念……。

結局、畑まで行かないで小さな踏み切りでねらうことにした。そこへ、こんどはたばこを吸いながら男性がやって来る。いわく「あっちの畑」で待っていたら、あとから車で来たひとにまえに入られちゃったよ、まいったよ、という。うーん、やはり「あちら」は先客が多そうだ。残り時間を考えると、ほかのひとが来ないここにするかあ、思案した。けっしてベストな場所には思えないが、動画も撮ることにして三脚を立てた。

■F2とMD-3がうなる!
そうして待つこと一時間半。レンズを変えたり試したりしながらデハ1000を何本か撮影しているうちに時間になった。踏み切り警報機が鳴って緊張が高まる。そして、やって来た懐かしいはだ色と小豆色の塗りわけの列車にはヘッドマークがついていた。床下も塗装されピカピカだ。このあいだはなかったCTKロゴが追加されている。動画を録画しながらNikon F2をレリーズする。50ミリでF3.5で1/180秒の追い写しだ。さあ、写りはいかがなものか。F2につけたモータードライブMD-3の大きな音は、なんだか瞬間を切り裂いているみたいだ。列車はあっというまに行ってしまった。

雨はひどくなってきたけど気分は上々だ。さあて、上り列車はどこで撮ろうか。駅まで20分くらいは歩く場所にいるので、影森まで電車で追い掛けるゆとりはなさそうだ。時刻は正午すぎ。ひさびさのポジフィルムでの臨時列車の撮影に心配でなかば徹夜したのと、空腹で集中力が切れた。雨も本降りになってきた。そうなると今度は荒川鉄橋のような有名撮影地で撮りたい気もするし、秩父市内まで戻る時間も惜しいので、いろいろな撮影地に行きやすく昼食をとれる店の多い長瀞駅で降りた。

店を見始めてから気づいた。ここは観光地価格だったんだ! ということに。あきらめて観光客価格のそば屋に入る。さいわい、立派に盛り付けられた天ぷらやそばかりんとうが出てきて、なんだかんだいいながらかなり満足する。店員さんに愛想をふりまく元気も出てきた。今日はそんな「ローカル線撮影のセオリー:地元のみなさんと話すべし」ばかりを実践している。きっと、そういうことをしてみたかったのだろうね。 

■午後は上長瀞の桜並木で
腹ごしらえをしてから撮影地探しだ。相変わらず空は曇りがちなので、鉄橋だと背景が白すぎて冴えない写真になる。逆光や影を気にしないですむ天気だし、晴れていたら午後は木の影が出てしまう桜並木に行くことにした。考えたら、1988(昭和63)年4月の桜の季節に100形を撮ったのが秩父鉄道を写しに来た最後だったわけだし、あえていえば個人的な記念みたいなものだ。

1988年4月の1005編成。フィルムはTX。このころのほうが上手だ

桜並木の明るい緑の葉がきれいだった。それにしても桜並木も傷んだものだ。開花時期には場所取り用三脚が置いてある窪みに位置に着く。いまは幸い撮影者はほかにだれもいない。しばらくして上長瀞駅そばのカーブには後追い狙いとおぼしき同業者が来ただけだった。ここは晴れたら午後だと列車は桜の木の影になるから、みんなそれを見越して別の場所にいるのだろう。

薄日が差したり曇ったりと天候が落ち着かない。「いまに限っては晴れないでくれえ!」とあたかも運動会が嫌いな小学生のような祈りをしていたら、目指す臨時急行が来るころになって、空は再び暗くなった。駅から警笛が聞こえて、カーブを曲がって1002編成上り臨時急行がやって来た。

AI Nikkor 50mm f/1.4S

AI Nikkor 180mm F2.8S EDをつけたF2で追い掛けながら連写し、過ぎ去る列車は標準レンズつきのもう一台のF2で追い写しする。とりあえず今日の撮影はおしまい。よく考えたら、上り列車は乗ってみてもよかった。

■集中力切れで5002列車のまえに家路に
じつは上りのSLパレオエクスプレス5002列車がこれから来る時間だ。それなのに、ひさしぶりの真剣な撮影で気分はくたくただ。それにいまからならば、自宅まで乗り換えなしで帰れる西武鉄道直通電車に乗れることができる。そんなわけでSLの撮影はパスすることにした。15時で撤収するなんて気合が入っていないなあ。20年前はSL撮影のひとたちが、SLの1本あとのスジで走る100形が来るまえにどんどん撤収しているようすを見て笑っていたのに、いまや自分がSLを撮らずに帰ることに苦笑いをする。

ところが西武直通電車に乗りこみ、さっきまでいた桜並木を眺めていたら晴れ間が出てきた。そこへ上りSLパレオエクスプレス5002列車と交換した。日を浴びて走るパレオエクスプレスがものすごくカッコいいことに気づき、自分の選択の愚かさに苦笑いした。それにしても、SLパレオエクスプレスの乗客は老若男女ともにみんな笑顔でいいな、と思いながら家路に就いた。

ひさしぶりの秩父鉄道撮影はこうしておしまい。こうしていまにいたる秩鉄通いがはじまったというわけ。

【撮影データ】
Nikon F2, Nikon F2 Photomic A/AI Nikkor 50mm f/1.4S, AI Nikkor ED 180mm F2.8S/RVP100