2014年3月11日火曜日

【ソビエトカメラチラシの裏記事】Kiev中判カメラを記事にできない理由 その2


初期型のロゴが好き

■寝床でワシも考えた
前回のエントリーでくどくどくどくどと「Kiev中判カメラを記事化できないのは、私は好きすぎるから」「好きな理由は説明できない」「だからなおさら簡単には勧められない」そして、「とはいえ私の好きな道具なので、モノを知らない奴に貶されるのは不愉快だ」「ソ連やロシア文化圏を見下すひとには向かない(*1)」(←言ってないか)と、自己意識肥大すぎる文章をしたためた。

そのあと、一風呂浴びて床に就いてから「お勧めできない最大の理由」を思い出した。文章を書き終わってようやく思い出したところが、いかに私がKiev中判カメラに対して冷静ではないことがご理解いただけると思う。こうなっちゃいけないだろ、やっぱり。

日本市場だけではなく、世界中で「ソビエト製品」は「粗悪品」扱いされていて、中古品でもあるために、そして、前項で述べたようにカメラの形をした「古物(こぶつ)」だから購入時は二束三文で手に入る。少なくとも数年前まではそうだった。でも、それは購入時のイニシャルコストだけ。そのかわりこのカメラはランニングコストが割高なのさ。

純正のラバーフードがカッコ悪くてコンタックスメタルフード着用

まず、フィルム購入代金や現像代についてはいまさら述べない。でも、きちんと使うためには、中古の個体は相当信頼できるところから買うのではないかぎり、そのまま使えるということはない(*2)。とにかく、使う前に調整や修理が必要だ。そしてそれを日本国内で依頼すると、安価だった購入価格と関係なく一人前の費用がかかる。

なお、国内でKiev中判ボディの修理や調整を依頼したことは私はないので、どこで扱ってくれるかも知らない。旧ソビエト諸国や旧東欧圏に送るのでも、修理代自体は安くてもEMSやFedEx(*3)でやり取りすると、ものすごい送料がかかる。

購入価格が安いから買うというひとと「安く買ったものでも修理費用が安いわけではない」ことに納得できないひとは、ソビエト製カメラには向かない。それどころか、旧製品となった中古カメラやレンズを買う資格(*4)がない。

そして、私に質問をするのはいいけれど、あなたの望む答えを私がしないからといって「ご返信ありがとうございます」というひとことがいえないひとにも、申し訳ないけれど中古カメラをおすすめしない。感謝をしてほしいから善意で返答するわけではもちろんないが、返答する義務は私にはない。それでも返答してもなしのつぶてとは、私には徒労感ばかりが募る。そういうところやぞ、と思うぜ。

ついでにいっておくけれど、職業編集者で写真家である私に写真を無料で使わせてほしいという依頼も、同じようにずいぶん図々しい依頼だと考えるので、私からはいっさい返答もしないよ。あなたに無料でお仕事を依頼したらよろこんでくれますかね。
 
でも、購入費用よりも高い修理調整費用を嬉々として払うのは私たちKiev中判ヲタだけで十分だと思うぜ。クレイジーだ。前回のエントリーを読んでいただけましたか。そもそも「部品取り用カメラ」を所有するなんておかしいもの。

左シャッターは悪くないけどソフトシャッターはあるといい

■カメラは一台あればいいんじゃね
これから「カメラはケースバイケースに応じて使いわけよう」「2本目に買いたい交換レンズはこれだ!」みたいな企画を考える仕事をしていた私が、あえていってはいけないセリフを書くよ。

カメラなんて一台あればいいじゃない
カメラがなければiPhoneで撮ればいいじゃない

もしあなたが可処分所得がたくさんありお金の使い道に困るとか、カメラをたくさん持つことが好きでたまらない方であれば、どうぞどうぞ、つねに最新機種をフラッグシップからエントリー機に応じて各社デジタル&フィルムカメラを買い替えてください。もうほんとうにオナシャス! 写真業界と日本経済を救うのはあなただ。あらかじめ謝意を表します!(*5)

でも、写真趣味を少し持て余し気味ながらつつましく暮らしている私が、趣味に独身時代ほど時間と費用をかけられなくなり、そしてそのことが苦でもなくなったいまとなっては、カメラなんて一台あれば十分だと実感として思う。というのは、カメラに限らず機械を稼働状態にしておくにはメンテナンス費用がかかるのだ。

そして使わないカメラを飾っておくコレクション趣味は私にはない。コレクターになる緻密さがないもの。しかも、私にはコレクターになるために金儲けをするガッツがないので、なおさらコレクターになる資格もないのだと思う。

メーターなしファインダーは視度補正レンズを入れないと見づらい

写真撮影を仕事にするなら予備機は必要だ。でもここで述べるのはあくまでも趣味の写真術においてだ。とはいえ私は昔から「サブカメラ」を有効に使いこなせない不器用な奴であることもある。そこを差し引いても「本気の撮影ではないから機能や画質が劣る機材でもかまわない」という割り切りが私にはどうしてもできない。私は常時本気で撮影したい。「適当に撮ればいい」というのはだいいち被写体に失礼でしょう。

だから、赤ん坊を撮るにも仕事でも使っていたデジタル一眼レフがいちばん確実に写せるから好きだし、散歩に行くのでものらねこや身の回りを撮るのでも、適当に撮ることができず、公私ともにD2Xしか使わなかった。実は相当真面目なんですよ、こう見えても私。

どんなときでもきちんと写したい、という私はオカシイのかもしれないけどね。だから「トイカメラ」などを使う気に絶対になれない。Kiev中判カメラはじゅうぶん高画質で、趣味用途には必要であれば真面目に撮ることもできる、自分の意思に応じてくれるカメラが一台あれば、私はいいや。

それなのに「部品取り用カメラ」を所有しているのだ。そこまで好きなのか、と問われたら照れ笑いを浮かべながら頷く。好きでもあるし、正直いえば意地とか意固地(*6)みたいなものもあると思う。でも、自分の信条に反しているこの矛盾を思い浮かべるたびに胸が苦しくなる。この件に関してだけは断頭台の露と消えても文句はいえない。貝になりたかったよ、まったく。

レンズの内面反射を少しでも減らすために、マットブラックを塗ったり

■それでも好きならどうぞ。でも見当外れの記事を書いたり私をうらまないで
そう思うと、ブローニーサイズのフィルムカメラを使い続けるならば、そもそもそのこと自体が私には大変なチャレンジャーに思えてならないが、日本国内ならばマミヤかペンタックスを持つほうが後悔しないだろう。国産でありメンテナンスも国内で可能だ。ボディもアクセサリーも流通量が多い。中古で購入し、稼働可能状態にしておくにはもちろんメンテナンス費用もかかるだろうけれど。

それなのにKiev中判カメラを私が好むのは……このカメラとこれらを作り出したひとたちが好きだから。ごめん、非論理的で歯切れがものすごく悪い。ソビエト体制や某国政府をはじめとする旧ソ連加盟国の政府や国家はどれも好きではないけど、ロシアをはじめとするスラヴ人たちが好きなのさ。これでも元スラヴィストだからね。

でもね、とにかく写真を見てくださいな。修理・調整したあとでもこれだけ手を最低でもかけないといけないんだ。わかるかな。安く買っても結局は高くつくんだ。こういうことができない・わからない・めんどうくさいと思う方はソビエト製カメラに限らず、古いカメラなどに手を出さないほうが幸せだ。知らないでいたらなお幸せだと思う。

それでももし、どうしてもというならば……レンズだけ買ってマウントアダプター遊びにとどめておくほうが精神衛生上いい。それも華奢な自動絞りのなく、修理できる国産品かライカレンズがいい。

そして「ロシアレンズにはあたりはずれがある」(「広義のロシア」かもしれないけれど「ロシア」とは限らない。ウクライナとベラルーシにもメーカーがあり、ソビエト社会主義のイデオロギーのもとで作られたのだから「ソ連」「ソビエト」だ。ウクライナやベラルーシを「ロシア」とよぶのは、カナダを「アメリカ」、オーストリアを「ドイツ」と呼ぶのと同じようなことだ)「初心者におすすめ」(ぜったいにむり)「コストパフォーマンスがいい」(ランニングコストは高い)「チープでいい」(我々にとってチープに感じさせるようにしか作れなかった)などという、伝聞で聞いただけの見当外れのことは、よく知らないならばYouTubeで袋文字で「やってみた」などとあおるとか、「文頭なので」だらけで形式名詞を漢字のまま書く文章をnoteで広めないで。

「素人」もいい加減な記事を書くことの免罪符にしないでほしい。記事を書くなら最低でも日本語の、できれば英語の記事くらいは検索をかけて参照するといいと思う。表記や用字用語の揺らぎについては、業界内でなにかを参照するさいに「共同通信表記」と呼ばれている『記者ハンドブック 新聞用字用語集』というものもあるし、外国語のWeb記事を読むにはGoogle翻訳というものもあるからね。

これはいわばインフォームド・コンセントだ。私はソビエト製光学機器の悪口を書きたいのではなく、こういう欠点もあるのでご承知おきくださいね、という告知義務を果たしているだけだ。デメリットにいっさい言及しないセールスマンは信用できないのと同じだ。エントリーユーザーにはとくに優しくないものを気軽にすすめるのは、使いこなせなくてがっかりさせて、写真趣味自体をきらいになるユーザーを増やしかねないから嫌なんだ。そして、もしできればだけど、私のことをうらまないでいてくれたらありがたいな。

「ロシアカメラはあたりはずれがあっていいかげん」なのではなくて「調べもしないでものをいうあなた」のほうが私にいわせると「いいかげん」だ。そういういいかげんな連中に「あやしい」とかいわれるソビエト製品が気の毒だ。あやしいのは無知なうえに調べもしないでいいかげんなもの言いをする貴様のほうだぜ。


ミラーボックス下部とミラー裏には植毛紙を貼ること

(*1)「ソ連やロシア文化圏を見下すひとには向かない」:それはWASPへの劣等感の裏返しですよ。

(*2)「まずきちんと使うためには、中古の個体は相当信頼できるところから買うのではないかぎり、そのまま使えるということはない」:なにしろ古物(こぶつ)だからね。ただし2004年ごろまでKiev-60MLUボディは生産されていたので、そのころまではわりとちゃんとしたKiev-60MLUの新品を買うことはできた。私自身も新品で数台買っている。でも、それから10年経ったからなあ。調整なしでちゃんと使えるボディもレンズも、世の中にはもう存在しないのではないか。

(*3)「EMSやFedEx」:いまはロシア郵便(ポーチタ・ラシー)やウクライナ郵便(ウクルポーシュタ)は正常化したようだけど、2000年ごろまでのロシアでのエリツィン時代には普通郵便が届かないことがあった。それ以外の旧ソ連加盟共和国ではどうだかは知らない。EMSやFedExは保険をかけることができて追跡できるから利用した。高かったなあ。

(*4)「安く買ったものでも修理費用が安いわけではない」ことに納得できないひとはソビエト製カメラには向かない。それどころか、旧製品となった中古カメラやレンズを買う資格がない。:よく知らないおっさんに、えらそうでムカつくことをいわれてお気を悪くするかたがたくさんいると思うのです。お気に触ったらほんとうにごめんなさい。でも、これはほんとう。

だからあえて、スズキカメラ商会(東京・高田馬場)の先代のご主人の台詞を引用します。「およしなさいおよしなさい。お若い方は新しいものをお使いなさい。飛行機だってそうでしょう。プロペラ機より新しいジェット機のほうが快適で乗り心地もいいでしょう。古いほうがいいなんてことはないんです」

22歳だったかな、こういわれたときはうまく切り返せなかったけれど、それから倍生きてみると、先代のご主人のやさしさは理解できるよ。ひとには向き不向きというものがあって、あなたには向いていないから、がっかりしないうちにやめておいたらどう、という意味だ。

(*5)「あらかじめ謝意を表します!」:何かをお願いするときにロシア語でよくいう慣用表現だけど、日本では言ったことない。ちょっとおもしろい。

(*6)「意地とか意固地」:得をしない感情ですね。ものに思い入れとかこだわりなんて持たないほうがきっと幸せなのさ。「こだわり」とはもともとは「意固地」や「細かいことばかり気にする(拘泥する)」という悪い意味だもの。なんだかムーミンのミーみたいなことをいっているね。「ものなんて、心配と荷物をふやすだけ。第一に、気が重くなるでしょ。それに、旅行かばん。持ち歩くのは、まっぴら!」