窓の外はトンネルの闇。ときおり車窓を蛍光灯が瞬く。車内の明かりがトンネルの内壁を照らすほかは、信号関連機器が見えるだけ。あたかも暗闇を切り開くかのように高らかな轟音を響かせて、急行電車は加速し続ける。用賀、桜新町、駒沢大学を通過した電車はしばらく走り続けたのち、速度を落とし、そして三軒茶屋に停車した。
今日は田園都市線に乗った。沿線での用務から帰社する際に東急ファンにとっての「神電車」である8500系に乗って、神の加速音を心に刻み込んだ。急行南栗橋行きに充当された8635編成だ。
三軒茶屋での乗降が終わり、ドアが閉まる。進行現示が表示され、出発進行だ。そして電車はぐいぐい加速していく。再び8500系の加速ぶりに聞きほれる。それにしても、この加速音は実に気分を高揚させる。
往路で乗ったのは東武硬座車だった。厚く垂れ込めた雲を彷彿させるかのような陰鬱な気持ちが晴れなかったのは、この加速音を耳にしなかったからにちがいない。
そこで、下車駅Toksでお布施をすることにした。ふと見たら売っていた電車クリアファイルと青ガエルのメモ用紙を入手した。クリアファイルを見て私は微笑んだ。イラスト化されているのが、8606編成なのだ。そして、メモ用紙にある"Series 5000 Aogaeru"の文字にも。私はふだん鉄道グッズを買うことはないのだ。
そのご利益はかなりばっちり効いたようだ。復路は溝ノ口で8500系に乗ることができたからだ。往路の陰鬱な思いはいまやどこかに失せた。復路に二子新地で見た空には遠くに天使のはしごが見えた。渋谷までの急行運転区間での走りを堪能することができた。そして、都心の下車駅では久しぶりに8614編成を見た。
いっちょうやるか! つみあがった未完成原稿の山を見ながら(比喩です)、私は袖まくりをした。というわけで、爛れた心を神電車サウンドで抑えつつ、筆者は生きていますぞ。