■すばらしい秋晴れに恵まれて
朝起きて窓の外を見るのがいつも楽しみだ。日の出のころに目覚めるとなおのこと楽しい。その時間にだけ見られる空の表情というものがあるからだ。11月2日の朝はむしろ雲が多くて、晴れてはいても太陽は雲間から顔をのぞかせるといった感じ。だから、西武池袋線と西武秩父線で西武秩父を目指すまで、空模様はどうなることかと思っていた。けれどそれは杞憂だった。
11月2日(土)に、秩父鉄道三峰口駅では「おかげさまで創立120周年☆ちちてつサンクスフェスタ」が開催された。三峰口でひさしぶりに行われる鉄道イベントであり楽しみにしていた。だから、天気が心配だったのだ。それが、予想以上の好天に恵まれた。むしろ雲ひとつない青空で天気がよすぎたほどだ。
ええと、ごめん。ちょっといい子に書きすぎた。このイベントが行われると発表されたさいに、鉄ヲタとしてはいくつかのたいへん気になる文言が目に入った。10月31日づけの秩父鉄道公式サイトより引用してみよう。(傍線と赤字は筆者による)
【展示車両】
●SLパレオエクスプレス+電気機関車
★11/2はSLとEL(電気機関車108号)の蒸電運転を行います
★特別ヘッドマーク掲出・青色ナンバープレート装飾
※SLは通常運転を行い、三峰口駅構内停車中のみ展示します。
●東武鉄道8000系車両(2両編成)(13:00~14:00頃展示予定)
●西武鉄道4000系車両(4両編成)
●新ラッピングトレイン「彩色兼備」(お披露目)
☆休憩車両として車内を見学できます。(10:00~14:00)見学いただいた方に「A4クリアファイル」をプレゼント!※なくなり次第終了
☆秩父鉄道公式インスタグラムアカウントのフォロワー限定で「A5クリアファイル」を「案内所B」でプレゼント!※なくなり次第終了
●モーターカー+貨車ホキ2両展示
☆運転台を見学できます(10:00~15:00)※途中12:00~12:30休憩
おわかりいただけますか。そう書くといまどきの「いかがでしたかブログ」みたいだ。SLパレオエクスプレスは青ナンバーで蒸電運転。しかもデキ108との組み合わせになる。これだけでも見てみたいと思わせるりっぱな価値がある。けれど、「パレオ以前」からの古参秩父党員である筆者としては、もうひとつ見逃せない文字が目に入ったわけですね。くりかえしますよ。
●東武鉄道8000系車両(2両編成)(13:00~14:00頃展示予定)
■プレスリリースを見て茶を吹いた
このイベントがもしも2019(令和元)年に行われるのではなく、1989(平成5)年に行われるのであれば、筆者だってこう思って読み飛ばしたはずだ。「東武8000系ってあれやろ。『私鉄の103系』と呼ばれとる、東上線系統ではめずらしゅうないあの『ふつうの』電車やろ」「東武特急『みつみね』『ながとろ』号で休日に秩父線内を走っとるやないか」と。
ところが、それから30年経ってみると。東武8000系電車は1992(平成4)年3月末のダイヤ改正により東武東上線発着の秩父鉄道直通列車が廃止されて以来、少なくとも定期ダイヤでは三峰口や上長瀞に姿を現したことがないはずだ。だから私はプレスリリースを見て茶を吹いた(気持ちのなかでは、ね)。
だから、11月2日はかならずや秩父鉄道を訪問するぞ、と決意した。そうしてもうひとつ思ったのは、東武8000系電車が秩父鉄道の寄居から下り方向を走る姿をこの目で見たいということ。そういう視点でさきほどの文字列をよく見てみよう。
●東武鉄道8000系車両(2両編成)(13:00~14:00頃展示予定)
ときに、よい子のみなさんはSLパレオエクスプレス5001列車と5002列車のダイヤをご存知だろうか。下り5001列車は三峰口に12:50着、上り5002列車は14:03発だ。そしてさきほどの文字列にはなんとあるかな。
つまり、東武8000系8506編成(秩父鉄道ATSを搭載して秩父鉄道線内を自走できる東武8000系2両編成(2R車)はいまやこれしかない)は、SLパレオエクスプレスと雁行して三峰口までやってくるのではないか、と予想できませんかね。
東武8000系電車は東上線でもワンマンの4R車ならば小川町〜寄居で走っているし、越生線にもいる。大宮でもちょっと待てば「柏」と一文字しかない行き先表示で野田線(アーパー線、ではなくてアーバンパークライン)を走る姿も目にできる。2R車と呼ばれる2両固定編成も都内なら亀戸線や大師線で日夜活躍中だ。筆者自身は先日、太田〜赤城を桐生線の2R車で往復し、ていねいに整備された軌道上をぶっ飛ばす姿にしびれたばかり。数を減らしてはいるけれど、まだめずらしい電車ではない。800系・850系と名乗る3R車も健在だ。
それでも、秩父鉄道線内で羽生〜寄居を回送する東武鉄道南栗橋車両管区への入出場列車ではなく、寄居〜三峰口を8000系電車が走る姿はひさしく見ていない。私が子どもの頃に秩父鉄道に通い始めたころに見た『みつみね』『ながとろ』を思い出させる姿をもういちど見られるなら、見てみたい。鉄道趣味に出戻りして秩父鉄道に通うようになってからずっとそう願っていた。
1984年11月23日、三峰口 |
1987年3月、武州日野〜白久(後追いです) |
1988年11月、三峰口 |
そんなわけで、私は浦山口駅に西武直通列車1本めの次の普通電車で降り立った。直通一本めには乗り損なったので、Sトレイン1号で西武秩父に行き、御花畑で乗り換えて、浦山口着が9時49分ということね。そうして浦山川のキャンプ場にやってきた。SLパレオエクスプレス5001列車の通過は12時半ごろなので、三時間近くまえなのだけど。まあ、狙撃兵みたいなもので、早めに行っていい場所を確保して息を潜めているほかないのよ、いい写真を撮りたかったらさ。
■流れが変わっておどろかされる
昨年は体調が悪くて動けず、今年もなかなか調子がよくならなかったから、浦山川のキャンプ場に来たのはかなりひさしぶりだ。紅葉には少し早いだろうと想像はついたものの、ここは山のなかっぽい雰囲気が好ましい。昼頃になれば河原に光も差すことは覚えていた。
管理人に使用料金を払って河原に来てみておどろかされたのは、先日の大雨によるものだろうか、川の流れがすっかり変わっていたこと。長靴を持ってくるか直前まで迷ってやめてしまったのだけど、長靴は持ってくるべきだった。それでもじつは、長靴がなくても橋梁のかなり近くまで近接できるようになっていた。ほんとうはもっと画面右側に渡りたかったのだが、水量が多いのであきらめた。
靴やズボンを濡らすと、着替えがないとこの時期は冷えて風邪を引くから。もうなんどもやった、それ。
ここは撮影者が多くてもなんとか撮影ができるところがいい。ただ、私がいちばん乗りだったとはいえ、橋の近くまで私が行ってしまうとみなさんもそういうアングルでしか撮れなくなるだろうから、近くに行くのはやめた。
河原の土はまだ水分を含んでいて、盛り土に立っても足元が崩れるほど。水辺にカメラを構えてしばらく待った。ただ、日陰で水辺は寒いんだ。デイキャンプのひとたちみたいに、お湯を沸かす道具があれば楽しそうだ。
■パレオは黒煙をはいて通過! だが闘いはまだ続くわけで
そうして12時半ごろのSLパレオエクスプレスの通過をまずは待った。列車が浦山口に到着するごとに少しずつ撮影者が増えてきて、あわてたみなさんはいちように砂場に足を取られていた。水辺は冷えますなあ、などと話しているうちに12時半になり、5001列車がやってきた。それが冒頭の写真だ。みごとな黒煙を見せていて、ちょっとおどろいた。
そうしてもうひとつ、私が感心したのは、ここに集ったみなさんの大部分がSLパレオエクスプレスの通過後にまだ何かを待ち構えていること。そう、みんな東武8000系の走りを撮りたくてやってきたというわけ。おまいら、東武8000系がほんとうに好きだなあ! これは私なりの最上級のほめ言葉だからな。
SLパレオエクスプレスが通過してから15分ほど経つころに、そうして東武8000系電車8506編成が姿を現した。ほんとうだあ、ほんとうにきたよ! 浦山川の鉄橋を走ってる! 人を笑うことができないくらい私も東武8000系電車が好きです。
(上り返却回送をねらう「その2」に続きます)
ごいっしょしたみなさん、お会いできてうれしかったです。イベントを開催してくださった秩父鉄道のほか、東武鉄道、西武鉄道、地元自治体などの関係各位のみなさんにも心よりお礼申し上げます。そのうち、2R車を先頭にして、東武博物館所有の8111編成を1ユニット抜いて2R+4Rにして秩父鉄道線内を走ってくれる日も、図々しいのは承知のうえですが心よりお待ち申し上げます。また、浦山口駅頭でおいしいお茶を入れてくれて、しゃくし菜漬けをくださった地元のみなさん、キャンプ場の方もほんとうにありがとうございました。
【撮影データ】
Sony α7II/Jupiter-12 35mm F2.8/RAW/Adobe Photoshop CC 2019