■日々これマイクロニッコール
修理に出していたAI AF Micro-Nikkor 60mm f/2.8Dが手元に帰ってきて、じつにうれしい。というのは、ここ5年ほど、筆者はなにを撮るときにでもAI AF Micro-Nikkor 60mm f/2.8Dを常用しているから。業務上必要なブツ撮りに使うのはもちろんのこととしても、自分の趣味の写真やなにかの息抜きに撮るような写真でもそうだ。だから、手元にないと非常に困るし、修理が完了したのはとても喜ばしい。
マイクロニッコールを常用するには理由がある。マイクロフォーサーズも併用するようになると、ふつうの一眼レフ用レンズでは最短撮影距離が長く感じられるようになってしまったから。たとえば、50mmや85mmなどを使うと被写体に思うように近接できないことが多いのだ。35mm判の50mmレンズの最短撮影距離は45センチ、85mmレンズでは85センチ程度だ。それがあまりおもしろくない。マイクロフォーサーズで50mm相当になる25mmならば、最短撮影距離は25センチ程度、85mm相当になる42.5mmでも、30センチ程度まで近接できることに慣れてしまった。それが、AI AF Micro-Nikkor 60mm f/2.8Dならば、21.9センチまで近接でき、最新のAF-S Micro NIKKOR 60mm f/2.8G EDならば18.5センチまで近接可能だ。カメラを持ち替えてもなにか制限があるというのは私にはストレスを感じさせる。
かたや、冒頭にアップした写真のように、ほぼ無限遠にピント合わせをするような遠景の撮影でもマイクロニッコールは欠かせない。こうして無限遠域の撮影から20センチ程度まで近接しての撮影にまで一本のレンズで対応できるというのは、なんだかおもしろい。自由にあれこれ写せる気持ちになる。そういう理由で、マクロ撮影をしないときにもマイクロニッコールを使っているというわけ。
■AI AF Micro-Nikkor 60mm f/2.8Dとは
筆者がこのAI AF Micro-Nikkor 60mm f/2.8Dを使い始めたのは、Nikon D70を手に入れてからだから、そう昔ではない……と書きかけて、D70の発売が2004年春であり、私がD70を使い始めたのはその年の秋だったはずなので、えーと15年経つのだから、けっこう昔だ。みなさんご存知の通り、D70はニコン初の「20万円を切るコンシューマー向けデジタル一眼レフ」として大ブレイクした機種であり、キヤノンEOS Kiss DIGITAL(初代)とならんでデジタル一眼レフをポピュラーにした機種といっていい。それから15年も経つわけですよ。
いっぽう、AI AF Micro-Nikkor 60mm f/2.8Dは1993年12月発売とある(「アサヒカメラニューフェース診断室 ニコンの黄金時代 2 」朝日新聞社(現 朝日新聞出版) 2000年1月 )。このレンズはフィルムカメラのNikon F90シリーズが登場したころに、マルチパターン測光とフラッシュのマルチ調光にレンズの距離情報を応用する3Dマルチ測光および3Dマルチ調光に対応して、エンコーダーを搭載したもの。これは、撮影距離に応じて露出計の分割パターンを変更するためだ。光学系自体は1989年10月に発売されたAi AF Micro-Nikkor 60mm F2.8Sと変わらない(現在発売されているものは、最新のニコンスーパーインテグレーテッドコーティングに変更されている可能性がある)。このSタイプレンズは、AFマイクロニッコールレンズではじめてレンズ単体で等倍撮影を可能にしたもの。だから、AI AF Micro-Nikkor 60mm f/2.8Dは原設計が1980年代末といっていい。やっぱりこう書くと古いなあ!
なお、それ以前に短期間発売されていたAI AF Micro-Nikkor 55mm F2.8Sは、マニュアルフォーカスのAI Micro-Nikkor 55mm F2.8S(現在の表記ではAi Micro-Nikkor 55mm f/2.8S)の光学系をそのままAF化したものの、サイズが大きくなりすぎたために60mmに置き換えられた。マニュアルフォーカスの55mmはおどろくべきことに2020年夏まで現行製品だっだ。
■最新のニッコールGレンズは使うたびにため息が出る
2008年3月には、光学系が大きく変更されたAF-S Micro NIKKOR 60mm f/2.8G EDが発売された。AF駆動に超音波モーター(SWM)が用いられて静音化がなされたほか、M/A(エムバイエー)モードを備えることにより、AFとMFのレンズ側での切り替えをせずに移行できる。なんといっても、ナノクリスタルコートが施されて逆光耐性が大きく強められた。EDガラスも用いられて色にじみも軽減されているほか、絞り羽根も7枚から9枚になった。逆光にも強いし、色にじみが少ないせいかクリアに写る印象もある。発色もいい。ぼけもきれいなすごくいいレンズで、使うたびにため息が出るよ。Gタイプレンズにもし欠点があるとすれば、周辺光量落ちがDレンズよりもやや多めということくらいか。Dレンズのほうは逆光にはそう強くはないし、ぼけも、55mmほどではないけれど、それでもやや硬い印象がある。
マイクロニッコールは55mm f/3.5からf/2.8になり、さらに60mmになってDタイプからGタイプになるにつれて、解像力至上主義ではなく、解像度とぼけの美しさも考慮したバランスのいい描写を目指すように収差の補正タイプが変わりつつある。文献複写などを行うには、Dタイプのほうが向いているかもしれない。
だから、ニコンの一眼レフを使っているひとでこれからマイクロニッコールを手に入れるというなら、このAF-S Micro NIKKOR 60mm f/2.8G EDか、2006年3月発売のAF-S VR Micro-Nikkor 105mm f/2.8G IF-EDを力強くめいっぱいおすすめしたい。105mmのほうは逆光に強いうえに、光学式手ぶれ補正機構(VR)を備えているので、手持ち撮影でも心強い。言葉が乱れるけれど、どちらもほんとに超マジでいいんだ。D5600やD3400などの、5000台や3000台エントリー一眼レフでもAFが使えるし、Zシリーズミラーレス機でもマウントアダプター FTZを持ちればAFもAEも使うことができる。
■最新レンズではなくDレンズを使い続けるわけ
105mmではなく60mmを使うのは、筆者はDXフォーマットで90mm相当にして使うことが多く、その焦点距離に慣れているから。でも、それはDレンズを使い続ける理由にはならない。では、どうして筆者が最新レンズのGタイプレンズのほうがいろいろと優れていることを知っているのに、Dタイプレンズを使い続けるのか。
それは仕事だからです。
いや、仕事って言っちゃだめか。
(このくだりは、ニコンを今年退職された後藤哲朗さんが、メーカーでカメラづくりを長いあいだ行ってきて、ときには嫌な気分のこともあった。それを乗り越えることができたのはなぜか、という問いに対する返答のマネです。『デジカメWatch』の記事より)
古いレンズのほうを使い続けている理由はいくつもあるけれど、ひとつはまず、このレンズで自分が困らされたことがないので、積極的に置き換える理由が見当たらないということ。絞り開放だとやややわらかく写り、F5.6から8くらいまで絞ると見ていてぞくぞくするようなびしっとした写りになる。
「仕事だから」といういいかたをした理由は、私はできれば常用するレンズは同一シリーズで使いたいから。たまたまDレンズばかり持っているけれど、DレンズはDレンズ同士で色みや描写の特性が揃えてあるから。最新のGレンズを使うなら、常用するレンズもできればすべてGレンズにしたい。いまのレンズは交換すると色みが変わるということは少ないけれど、現像時にそんなことを考えないですませたいもの。
最後の理由はわりとささいなものだ。Dレンズのほうがデザインが直線的で好きなのと、金文字などがないので地味でめだたないことも好ましい。ちなみに、F2 Photomic Aファインダー(DP-11)やASファインダー(DP-12)、Nikon F4もいまだに所有しているけれど、AI測光に対応した絞り環を活用してこれらDレンズを装着して使ったことはないから、「絞り環がないレンズは嫌だ」とかいう「いかにもニコ爺的」な理由ではない。そういうのを期待した方にはもうしわけないが。
そして、60mmのほうはDタイプも
あれ……あまりほめていないと思われるかもしれないし、少なくとも愛情表現を丸出ししているのではないね。でも、仕事にきっちり使える安心感があるというのは、道具として望ましい。私にはそれだけの理由があると思っているよ。
【撮影データ】
Nikon D7200, Df/AI AF Micro-Nikkor 60mm f/2.8D/RAW/Adobe Photoshop CC 2020