Nikon F2、D2X、Dfとならべてみるとレンズの外形寸法が だんだん大きくなっているところが興味深い |
■カメラボディの「握りやすさ」とは
このところずっと考えていることがある。それは、カメラボディの握りやすさを決める要素とは、いったいなんだろうかということ。
それは数年まえに、その外見デザインが好きで買ったNikon Dfがいまひとつ自分の手に合わないように思えたことがきっかけだ。
誤解してほしくはないのだが、Nikon Dfがとくに握りにくいカメラであると非難しているわけではない。Gタイプのオートフォーカス(AF)ニッコールレンズの、比較的軽量な製品と組んで使うには問題は感じなかった。
ところが、DタイプのAFニッコールレンズや、マニュアルフォーカス(MF)のAI-Sタイプニッコールレンズの比較的大柄で重さのあるレンズと組み合わせると、初期出荷状態では、あるいは純正の「Df用グリップ DF-GR1」を使っても、私の手にはあまり握りやすくはなく思えたというだけだ。そこで、AI-Sニッコールレンズでも⌀52mm口径のレンズを使うようにしたら、握りにくさはずいぶん軽減された。
人間の手の大きさは千差万別だから、既製品では合わないことがあってもおかしくはない。
サードパーティ製グリップつきLプレートを加工して装着したら Nikon Dfは自分の手に馴染んだ |
Nikon Dfはその後、純正ではないとある東アジアの某国製グリップつきアルカスイスタイププレートを相当カスタマイズして使い始めたら、自分の手にとてもよく合うようになったという話は以前書いた。グリップに滑り止めとかさ増しのためにグッタペルカを貼ったところ自分の手に馴染むようになった。以来、Dfにこのグリップは手放せない。
このグリップつきL型プレートは購入時に、そのままでは装着ができない、ずいぶんいいかげんな商品であったために、みなさんにおすすめしかねるものなのが残念だが。
なお「グッタペルカ」というカメラ用語は令和のいまは通じなさそうだ。植物の乳液から作る素材によるカメラ用貼り革のこと。歯科治療で使うものは「ガッタパーチャ」だ。カメラ用語はドイツ語ふう読みで歯科用語は英語ふう読みなのは、おもしろい。
ここでひとつの仮説を思いいたった。それは、カメラの握りやすさは直接的にはグリップの深さに大きく関係しそうだということ。そこで、自分の好きなカメラボディの厚み(ボディ自体とグリップ部分を含めた厚み)とグリップの深さ(グリップがないものはモータードライブのグリップの深さ)を測ってみることにした。
Nikon F2+MD-3は自分には握りやすいかたちだ |
そんなわけで測ってみました |
選んでいるカメラの機種の偏りはゆるしてほしい。また、F2はモータードライブMD-3つきだ。F2+MD-3の「グリップの深さ」はMD-3先端からすきまをふくめてF2ボディに当たる部分を測っている。また、ボディ右側(グリップ部分)の厚みは均一ではない機種もあるので「いちばん厚い部分」を測った。グリップも同様。
こうしてみるとボディ+グリップの厚みはまちまちだが、自分にとってある種の基準であるF2+MD-3、そして他のグリップのある機種のグリップの深さはほぼ、みな20mm程度以上あることがわかる。いっぽう、サードパーティ製L型プレートを装着するまえのDfのグリップの深さは12mm程度だ。おそらく「そういうこと」なのだろう。
■絶対的な要素はおそらく「グリップの深さ」
フィルムカメラの時代よりも内部機構が高度複雑化したために、デジタルカメラでは一般的にはボディの厚みが増している。
イメージセンサーと画像生成に関する部分が発熱すると画質低下を招くために、冷却に関しても工夫する必要がある。デジタルカメラではデジタル的にソフトウェアでノイズ除去を行うまえに、ハードウェアの側でノイズを発生させない仕組みを工夫することが回路や機構設計で重要なのだと、むかしむかしなにかの席で後藤さんに伺った記憶がある。先日発表されたPanasonic LUMIX S5IIにも冷却用の空気孔が設けられているのを見て、その話を思い出した。
したがって、センサーサイズが35mmフォーマットであっても、内部機構の複雑化により従来の35mm判フィルムカメラよりもボディが分厚い機種が多い。また、かつてのフィルムカメラと同程度のボディの厚みを持つカメラは、35mmフルサイズよりも小さいサイズのイメージセンサーを搭載した機種であることが多い。
とはいえ、ユーザーの手の大きさがデジタルカメラの時代になって変わったわけではない。だから、デジタルカメラになってからはフィルム時代よりもグリップに関してずいぶん設計を凝らすようになっている。現代のカメラの設計にあたっては、ボディの厚みをできるだけ抑えつつ、グリップを深くするという工夫をこらしているようだ。デジカメWatchの古い記事でD750について設計者がそう答えている。
グリップ部分の「深さ」が重要なのだろうね |
MD-3をDfに装着できないかと考えたことも(いろいろ無理) |
カメラボディのコンパクトさを好むひとはとても多いように見受けられるが、一般的にはカメラに限らず、道具というものはコンパクトさを追求すると携帯しやすくはなっても、操作はしやすくはなりにくいように思える。コンパクトなサイズで有名なとある大昔のカメラを思い出す。あれは欲しがるひとは多いようだけれども、じっさいにあれで上手に写真を撮っているひとは少ないじゃないですか(大暴言)。あれはじっさいには写真を撮らない、カメラを集めるとか語ることが好きなひとたちの道具だとさえ思う。きっと使いづらいのではないか。
少なくとも私にとっては、20mm程度の深さがあると握りやすいグリップになるのだろう。
思えば私はフィルムカメラを使っていたころから、ボディが握りにくい、グリップの深さが足りないといろいろなカメラに思って対策を立てていた。かつてのPENTAX LXのカスタムグリップはうらやましく思っていたほどだ。
美しい工作はできないので、私のしたことは底ケースを使うこととモータードライブを装着することがおもだ。FED-Zorkiボディにもバルナックライカ用底ケースを装着しているほか、貼り革が私の手には滑りやすく感じられるNikon FやF2ボディには底ケースを装着していたし、FM3AにはモータードライブMD-12をグリップとして使いたくて装着していた。Nikon 1 V1にもグリップを買ったし、Panasonic LUMIX GX7 Mark IIにもグリップ代わりにサードパーティ製底ケースを常時装着している。
自分の手がそう大きいと思ったことはないが、もしかしたら指が長いのかもしれない。
■重さやレンズとのバランスはもちろん重要
グリップの深さだけではなく、カメラボディ自体の重さと、それに装着するレンズの大きさと重さとのバランスも、カメラボディの握りやすさに大いに関係することはたしかだ。前述のように、重量の軽いAF-S NIKKOR 50mm f/1.8G Special Editionとの組み合わせでは、Dfボディでも握りにくさをあまり感じることはないから。
デジタルカメラの時代になってレンズの外形寸法や重さがどんどん大きくなりつつあるということも、カメラボディの握りにくさを感じさせることに影響しているのかも。
こうして見るとDfにもともとあるグリップはやはり浅い |
ここまでメリハリがあるとごつごつしていても握りやすい |
D2Xのグリップのしやすさは好きだった |
Nikon Dfの話に戻れば、Dfはクラシックなデザインをできるだけ再現しようとしたカメラだから、グリップが控えめにされたのだろう。それに、あまり大きく重量のあるレンズと組み合わせることは想定されていなかったかもしれない。カメラの開発コンセプトと私の使い方が残念ながら合わなかったということなのだろう。
Nikon Dfに関しては私は甘いな。なにしろ、ちょろい客なのでね。すでに旧製品であり、プロジェクトを主導された後藤さんももう退職されているし。
そう思うと、カメラメーカー純正ではなくてもサードパーティからでもグリップや底ケースが別途用意されている機種は、私には「それだけでありがたい」存在だ。もちろんなにもしないで握りやすいとか、純正でグリップが用意されているほうがいいけれど。使わないときは着脱できるというところも好ましい。めったに外すことはしないけれどね。
■「黄金比」のようなものはあるのではないか
α7IIのグリップは悪くない |
参考値としてあげたソニーα7IIの数値は興味深い。一眼レフと比べても、また35ミリフルサイズミラーレスカメラとしてもα7シリーズは小型で、ひとによっては「指が余る」ことさえあるが、グリップの深さは20mm近くある。ボディ右側のグリップ込みの厚みとグリップの深さの比率として考えても、厚みがやや控えめなわりにグリップの深さがある。そのせいか、握りにくさを感じることは少ない。ボディ自体の重さが一眼レフよりも軽いこともありそう。
ただし、α7シリーズはボディサイズがコンパクトであるぶん、重量のあるレンズとは組み合わせづらいところがある。そういう場合は各社から多数出ているL型プレートを使うと使いやすくなる。人気のある機種であるために各社から用意されているので、予算などに応じて選ぶといいだろう。
カメラ製品は想定されるユーザーの手の大きさ、使用するレンズの種類はまちまちだから、商品企画をするにあたって「どういう層にむけて使いやすく作るか」という答えはひとつではなさそうだ。この想定が難しそう。
ただ、なんとなく思っているのは、もしかしたらこの「ボディの厚みとグリップの深さ」「ボディとレンズの重量比」に関しては、多くのユーザーに「使いやすい」と思わせる「黄金比」のようなものは存在するのではないかということ。メーカーのベテラン設計者が心に秘めている「黄金比」が各社にきっとあるような気がする。あたかも「秘伝の味つけ」のように。設計者にたずねても「そうかもしれませんね」くらいしか答えてくれず、含み笑いをされそうな感じのものだ。
むしろそういう黄金比を見つけ出して、あるいは先輩から教わって守っているという設計者の方がいたら……惚れるよね。そういう設計者の方がいらしたら、ぜひにぜひにズギャーッとついてゆきたい所存だ!(なんとなくスタパ齋藤さんふうに終わる)