■秩父党の「歴史が動いた」日
12月8日。1941年であればそれはまさしく歴史が不幸に動いた日だ。2012年のこの日は古くからの秩父鉄道ファン(秩父党)にもまた、もしかしたら記憶に残る日となったかもしれない。1000系1007編成秩鉄リバイバルカラー編成(通称チョコバナナ。以下同)のラストランが行われたからだ。
たしか、検査表記によれば当初の検査期限は10月いっぱいまでであったと思う。でもそこで引退させずに、ラストランという花道を用意してくれた秩父鉄道関係者にはこの場を借りてまずお礼を申し上げたい。そして、おだやかな好天に恵まれたことにも感謝したいというもの。日の出の頃は霜が降りて冷え込んだし、午後から夕方にかけては冷たい風が吹いたものの午前中から昼過ぎにかけては暖かささえ感じさせる天気で、線路際にいるのも楽しかった。
■走りを撮るか乗るか、それが問題だ
さて、事前に公表されたダイヤによれば、1007編成は臨時急行(おそらく1005列車)のダイヤで熊谷から三峰口まで走る。熊谷を出て三峰口着が13時ごろ。そして1時間ほど三峰口で1000系の残り3編成と並べて展示されたのち、14時少し前に三峰口を1008列車と思しきダイヤに乗って出発。熊谷には15時すぎに到着する。その後、パレオくん情報(公式ホームページからちょっと探すと出てくる)によれば熊谷到着後は普通列車として羽生まで1往復して、ちょうど1時間後に熊谷まで戻るというおまけ運用も用意されたようだ。
三峰口構内の配置図や、記念乗車票の配布や熊谷駅と三峰口では絵柄が違う数量限定記念入場券の発売、記念乗車票を持つ乗客への撮影会への優先権なども事前公表されるなど、集客上手な秩父鉄道のテクニックが感じられる催しだった。
となると、ですねえ。私はいろいろ危惧したわけですよ。さらに、ここ2週間ほどの沿線のチョコバナナ撮影者の増加ぶりを加味すると、こりゃあ結構な人出になるぞと。そして、三峰口での折り返しまでの時間が短い……。のろまな私にうまく行動できるか。いっそ撮らずに乗りに徹するか、と迷いに迷ったけど、ここしばらく走りを撮れていないし、10月に武州荒木から影森まで夕方うたた寝するほど乗ってそれなりに乗りは堪能したから、やはり12月8日のこの日は走りを撮ることに徹するべきであろう。
そう思い、この数週間は行動計画やイメージトレーニングを重ね、今日のこの日を迎えたというわけ。起床して、空模様を見て思ったね。ニイタカヤマノボレ一二〇八!
■朝の直通列車で一番乗り
少しだけ出遅れ、池袋発の西武池袋線からの直通列車1本めに乗った。「経験上直通で来る客が多いのではないかと予想されるから、それ以前に着いておくべし」と思ったのだけど、直通の時間より早くは起きられなかった。ところが、あれあれあれ。ここで撮ろうと予定していた駅で降りた乗客は私一人。そして、午前中の場所も午後の場所もどちらにも一番乗りできてしまった。パレオエクスプレスの特別な運行や桜などの季節だったら、家からもっとも早い列車で来ないと間に合わないことが多いのに、これは意外。
もっとも、午前中の場所には10分後にもう一人同業者の方が現れたから、早めの行動で正解だった。でも、同じ場所にやってきた同業者の方は合計3人。私鉄イベントはまったり撮れていいですねえ、などと笑いあう。 それにしても、やはり山の麓の駅は寒い。降りたのは9時というのに日影が多く、畑や木々の霜がまだ残っていて商店の前の水槽にはけっこう厚い氷が張っていた。そんな様子を撮りながら、所定の場所で列車を待つ。
さて、この駅にチョコバナナがやってくるのは12時半だというのに、なぜ9時にいたかって? そりゃあもちろん、場所のキープを意図したからだけど、それだけが理由ではもちろんない。三峰口で並ぶ1000系合計4編成のうち、どれかがそれなりに早いスジで送り込まれて来るにちがいない。そう、今日のこの日は運がよければ1000系を効率よく撮影できる日だと踏んだからだ。そして、それは意図通りになった。チョコバナナ1007編成がやってくるまでにスカイブルー1001編成とオレンジバーミリオンII 1003編成が現れたからだ。やったぜ!
■まずは三峰口行きをねらう
撮影地でご一緒した方と、あれやこれや談笑し、合間に1000系国鉄リバイバルカラー編成などを撮影していると、おまちかねのチョコバナナの到着時間になった。遠くから勾配を駆け上ってくる様子をファインダーで見ていると、どうも車内が黒っぽく見える。近くまで列車が来て驚いた。車内は「ラッシュアワーの国電区間」のような大混雑だった。大量輸送に最適な国電型通勤電車の本領発揮というべきか。なるほど、ほとんどの同業者は走りをあきらめて最終列車に乗って三峰口での並びを撮るというわけらしい。
私がいた場所は何度も撮影したことのある撮影地だけど、考えたらチョコバナナを振り向いて駅にいる方向で撮ったのは初めてだった。駅構内を見ると、JR東日本からやって来た頃とあまり変わらない姿にちょっと見とれる。鶴見線あたりにも見えなくもない。デキやヲキ・ヲキフがいたらタイムスリップしたかのように見えただろう 。
■熊谷行き上りをねらう
さて、まずは下りは撮れた。1時間もしないうちに上り列車としてチョコバナナは戻って来る。先ほどの混雑ぶりを見て私はやはり当初計画した通り同じ駅の反対側で撮ることにした。パレオエクスプレスの有名撮影地であるこちらは午後の上りを撮る同業者で……ということを危惧し、普段は滅多にしない三脚での場所取りを朝一番にしておいたのだけど、ここに集ったのも結果的には4名。ちょっと拍子抜けした。もちろん、ゆったりと撮れるのはありがたい。コンビニで買ったみそポテトとおにぎりでちょっとしたピクニック気分で列車を待つことができた。沿線で撮影されているおっとっとさんと情報交換をしていても、どうやら山線区間の他の駅でも線路際で走りを撮ろうと構えていたのはそれぞれで数名ずつらしく、駅撮りではなく線路際にいたのはおそらく好き者か真性秩父党とみた。
山の麓だけあり、午前中に天気がよくてもたいてい午後は崩れて来る。その定説通り午後からはだんだん風が強くなってきた。でも、そのおかげで手前の駅を出発してゆっくりカーブを曲がる音がよく聞こえる。じりじり待っていると、1007編成はゆっくりと上り坂となっているカーブを曲がって姿を現した。
このパレオエクスプレス5002列車の撮影で有名なアングルで撮るのは毎度おなじみではある。とはいえ、下り列車を撮ってからでは移動時間をあまり稼げない、ほとんど逆光になる午後の上り列車なら、移動時間をかけずに構えることができるこの場所ならば、ヘッドマークを目立たせることができるので好ましい。撮影者が多くてもそれなりにキャパシティもある。
日影が多くなってしまい、日向はほんのわずか。太陽を急に雲間から顔をのぞかせたり。でも、そんなようすを連写し、振り返ってさらに撮る。同じアングルでチョコバナナを何度も撮ったことがあるのに、懲りずに撮る。撮影画像を再生しなくても手応えを感じた。
思えばこの3年間本当に楽しませてもらったし、気に入った写真もおかげでだいぶ撮りためることができた。ありがとう、チョコバナナよ!
※おっとっとさん、今日は情報の共有ありがとうございました。おかげさまで効率的に撮影できました。お互いに「トラ・トラ・トラ」といえそうな戦果だったようですね。
【撮影データ】
Nikon D2X/AI AF Zoom-Nikkor 80-200mm f/2.8D ED <NEW>, AI AF Nikkor ED 300mm F4S(IF)/RAW/Adobe Photoshop CC