2020年8月29日土曜日

【カメラ機材のお話】いろいろなニッコールレンズにコンタックスメタルフードを装着して悦に入る俺は「フード病」をこじらせたに決まってる

コンタックスメタルフード4と67/86リングを
58mm-67mmステップアップリングを介して
AF-S NIKKOR 50mm f/1.8G(Special Edition)に装着した

■「フード病」とは恐ろしい病気
3年前の春に「フード病」の話を書いた。レンズの描写性能ではなくレンズフードの格好のよさばかりに気をとらわれてしまい、その実用性ではなく外観を重要視するようになる病気のことだ。純正品が用意されているにもかかわらず外観が気に入らないと非純正品をわざわざ用いるケースや、重篤になると「フードが格好いいから」という理由でレンズを手に入れることさえある。ただし、純正フードの深さや効果に不具合があるからという実用性を考えて非純正製品を入手するのは、まったくもって健全なので安心してほしい。

繰り返しになるが、外観と質感などの非実用性にだけ心ひかれるようになったら、あかんやつや。もっとも重篤になると入手してもそのレンズフードを装着したレンズで写真を撮らないようになる。そうなると手遅れだ。そういう「口でしか写真を撮らない」罹患患者は少なくないけどな。さいわい私自身はあの記事を書いたあとにこのフード病からは回復していて、日常生活をふつうに送ることができていた。宇宙世紀の来たるべきあの日までは。

しばらくまえにAF-S NIKKOR 50mm f/1.8G (Special Edition)には、付属する純正のプラスチック製の「バヨネット式レンズフードHB-47」ではなくRTSシリーズ用の金属製「コンタックスメタルフード4」と「67/86リング」を組み合わせたものを、さらに58mm-67mmステップアップリングを介してつけているむねを書いた。

これらはいずれも自宅にあったものばかりだし、けっこう似合うように思えた。深さ(長さ)はバヨネット式純正フードHB-47よりもわずかに浅い(短い)ので、有害な斜光線によるフレアをカットするという「実用性」においては劣る可能性がある。素材が金属製であることによる見ための向上という意味しかないだろうか。思えばすでにここに発症の萌芽はあった。

とはいえ、これだけならばまだよかった。3年前のフード病の記事でも記したように「いちどは数に入らない(Einmal ist keinmal)」というくらいだ。なんといっても、古いカメラやレンズをたくさん持っている老害の無邪気な自慢ですむ。いまふうにいうと「むかしのカメラはよかったおじさん」のイキリというところだろうか。そこですませばいい。ただし、見えない敵をかってに想定して戦いを挑み「まだ純正プラスチックフードで消耗してるの」などと、他人を不愉快にする挑発的な単語を意図的に選んで発言するようなことは、SNSやブログなどのオープンなネット空間をふくめて公的な場で行ってはいけない。ダメ、ゼッタイ。炎上しちゃうし下品だからね。

■しばらく落ち着いていたのだが
このフード病がここ数年間は私には現れることはなかった。だから、機材や周辺機器にとらわれるようなこともなく、幸せな写真生活の日々を過ごしていた。もっとも、自分の弱さを知っているので、カメラ店にはオンラインでもオフラインでもできるだけ近寄らないようにはしていた。

ところが、と書きかけて大きなため息がでるのはなぜか。おろかにも私はまたひさしぶりにカメラ店に行ってしまい、完治していたと思っていたフード病を発症させてしまったのだ。つまり、自宅にあったほかのコンタックスメタルフードをさらにいろいろと装着したくなり、ステップアップリングをあらたに手に入れただけではなく、持っていなかったコンタックスメタルフードを増やしてしまった。

病的な思考であるためにけっして論理性が感じられないものの、患者としての発言もしておきたい。それは以下のようなものだ。

「ニッコールレンズの135mmより焦点距離の長いレンズにはかつて、組み込み式フードが備えられているレンズがあった。ただし、これらはいずれも短めであり、触れると容易に引っ込んでしまうものも多い。たとえば、AI-SニッコールレンズではAI Nikkor ED 180mm F2.8S 、Dタイプニッコールレンズでは、AI AF Nikkor 180mm f/2.8D IF-EDやAI AF DC-Nikkor 135mm f/2Dなどがこれに相当する。

また、純正フードが用意されていても、その長さが短いと思われるものも多かった。AI Nikkor 85mm F1.4Sに付属するねじ込み式フード‎HN-20は金属製で肉厚のしっかりしたものではあっても、深さが短いように思われてならなかった。だからこれらもコンタックスメタルフードで代用できないかな……と考え始めてしまったところ、南無三、病気をぶり返した。セリヌンティウス、俺を殴れ」

AI Nikkor 50mm f/1.4Sには
52mm-55mmステップアップリングを介して
コンタックスメタルフード4と55/86リング


■コンタックスメタルフードのこと
コンタックスメタルフードについても説明しておきたい。京セラがカメラ事業を終えたのが2005年でもう15年もまえになるから、知らないひとも少なくないだろう。かつてヤシカおよび京セラが「コンタックス」ブランドで一眼レフカメラシステムRTSシリーズを展開していた。コンタックスはカール・ツァイスによる設計のレンズとポルシェデザインのカメラボディを売りにしていた高級ブランドだった。この京セラ・コンタックス、あるいはヤシカ・コンタックス略してヤシコン(Y/C)は高品質で、ライカほどではないにせよ高価格帯の商品展開をしていた。そのためかアクセサリー類も比較的充実していた。

コンタックスメタルフードとはその京セラ・コンタックスブランドのRTSシリーズ一眼レフ用アクセサリーのうちのひとつ。アタッチメントサイズが⌀86mmに揃えられた金属製レンズフードで、深さに応じて1から5が用意されていた。超広角レンズ用には⌀82mmのW-1もあった。さらに、レンズのアタッチメントサイズに合わせて変換するアダプターリングも各種用意されていた。これら55/86リング、67/86リング、72/86リング、82/86リングなどをメタルフードと組み合わせて用いる。

ただし、AF距離計連動式カメラだったGシリーズと、AF一眼レフだったNシリーズ、645シリーズにはレンズごとのフードが用意されていた。だから、コンタックスメタルフードとは通常はコンタックスシリーズ35mm一眼レフ用のものを示す。

RTS用レンズでの組み合わせや詳細については、コンタックス専門店である新宿のカメラの極楽堂Webサイトにある特設ページを参照されたい。検索して見つけてくださいね。

一連のコンタックスメタルフードはいずれも金属製で、内側には反射防止に溝が掘られて反射防止塗装施されているというように、しっかりした作りが特徴だった。ただし、もともとやや大きめの口径のレンズをさらに大きく見せる。レンズへの固定方法は汎用的なねじ込み式なので、アタッチメントサイズが合えばもちろん他社製レンズにも使用できる。

なお、京セラがコンタックス事業を終えたあと、用品メーカーのユーエヌからコンタックス銘をなくした同様のものが製造販売されていたが、2020年現在では大手量販店やAmazonでは販売終了とある。製造は終わり、店によっては在庫のあるものがかろうじて売られているようだ。中古でも"CONTAX"の文字が不要なひとにはこちらのほうが多少は安価に入手できるだろう。

AI Nikkor ED 180mm F2.8Sと
AI AF Nikkor 180mm f/2.8D IF-EDには
コンタックスメタルフード5と72/86リングを装着


■実用性を求めたい
そんなわけで、カメラ店にふらりと行ったある日のこと。「コンタックスメタルフード5」と「55/86リング」「72/86リング」の傷だらけのものを見つけてしまい……ハイ、ご明察! というわけだ。箱入り美品を手に入れなかったのは、理性を完全に失ったわけではないから……ではなくて、コレクションがしたいわけではないから。傷だらけならばもちろん価格も安くなる。ゆがんでいなければ、傷だらけのもののほうが気兼ねなく使うことができて私には実用しやすい。

AI Nikkor 85mm F1.4Sには
コンタックスメタルフード4と
72/86リング

いいわけをすると、これで組み込み式ながらも深さが足りないうえにすぐに引っ込んでしまうフードを備えたAI AF Nikkor 180mm f/2.8D IF-EDおよびAI Nikkor ED 180mm F2.8Sに、しっかりしたフードを装着できるようになった。さらに、すでに持っていたメタルフード4が72/86リングでAI Nikkor 85mm F1.4Sにも装着できるようになった。ただ、これは私にはあまり格好よくは見えないな。

そして、ジャンク箱の奥からはさらに⌀82mmのメタルフードW-1と62mm-82mmステップアップリングも見つけ出した。AI Nikkor 20mm f/2.8SにはこのW-1が合う。金属製で格好はいいけれどゆるみがちで、撮影中にしばしば外れてしまう純正のかぶせ式フードHK-14のかわりになることも発見した。

AI Nikkor 20mm f/2.8Sには
62mm-82mmステップアップリングを介して
コンタックスメタルフードW-1

いずれも質感と格好はいい。ただ、コンタックスメタルフードの弱点は効果のわりには大柄であること。フレア対策にはおそらくはもっと口径が小さくて深いほうが実用的だろう。いまのレンズフードが円筒形ではなく花形でバヨネット式なのは、ズームレンズがおもだからでもあり、軽量なままより深く効果的にできるからだ。だから、フレア対策がより可能なべつの方法を見つけたら、私はこれらを使わなくなるかもしれない。ここに書いていることは2020年8月末現在の私の好みということ。

また、レンズに逆さに装着することはできない。したがって、すべてのレンズに個別に用意すると収納スペースを食う。だからそれぞれひとつずつだけをカメラバッグに入れておき、レンズをつけかえる際にああでもないこうでもない……と組み替えて使っている。

また、これらコンタックスメタルフードを装着するとレンズキャップができなくなる。かつては2種類のメタルキャップが用意されていた。私はさすがにそこまで手に入れるつもりがない。「アムロ、あんたちょっとセコいよ」って思われても仕方ない。わかってるよ! だから世界にひとの心の光を見せなきゃならないんだろ! じゃねえ。現在ならば実用的にはフードキャップを使うとよさそうだ。

注意点としてはフード自体にそれなりの重さがあるので、フード取りつけ部分が回転する、あるいは前後に動くAF用レンズには装着はおすすめしない。AF用モーターや駆動部分に余分な負荷をかけてしまうからだ。AFニッコールレンズで私がつねに装着しているAF-S NIKKOR 50mm f/1.8G(Special Edition)とAI AF Nikkor 180mm f/2.8D IF-EDはフード取りつけ部分が動かないものだ。

Dfシルバーを使うくらいだから
「フィルムカメラっぽい外観」が好きという
どうしようもない弱点があるかも(いいわけ)

最近の私は悪めだちしない装備をめざしていたはずだった。ため息が出てしまうのはそうした思いとは裏腹の行動をしたからだ。コンタックスメタルフードはどうしてもいささか大げさに見える。いやでも、Nikon Dfシルバーを所有したあたりから性能よりも外観や質感にあれこれいう病気が……発症する因子はもともと多く持っていたということか。ラバーフードやフジツボフードは好きになれないとか、メタルフードでもカッチョ悪いデザインのものはいやだとか。フード病の典型例のようだ。美しいものがきらいなひとはいるのかしら……ああ、ときが見える……。

だが、ちょっと待ってほしい。新聞コラムかよ。そんなことにくよくよするならば天気がいいから、細かいことをごちゃごちゃと言っていないで写真を撮りに出かけたほうがいいな。人間の知恵はそんなもんだって乗り越えられる! 観賞用にするのではなく、実用してやろうじゃないか、と江戸っ子ふうに話を終えます。

【2020年10月2日追記】
以下に「補遺」を書きました。上記に加えてAI Nikkor 35mm f/1.4Sとメタルフード2を組み合わせているほか、ガラスを外して枠だけの「保護フィルター枠」を使用しています。