平日の秩父鉄道をひさしぶりに訪ねたら、自分がすっかり忘れていたせいで、まったく予期していなかったデキ108号が牽引する三輪(みのわ)鉱山発の鉱石貨物列車に遭遇して、興奮して連写した話の続きだ。そのまま武甲山の麓の駅周辺を歩いて下り方踏切にやってきた。よく晴れていていろいろなものを写しながら歩くのは気分がいい。AI Nikkor 85mm F2Sは持ち歩きにも軽快でいい。
監視塔もずっと使われていないのだろうなあ |
融雪カンテラは冬期の必需品だ |
すると上り方の踏切警報機が鳴り始める音が風に乗って聞こえた。列車の汽笛も聞こえた。水色の車体で一灯だけの前照灯も見えた。なんということか、さっそく次の三輪鉱山行き鉱石貨物列車がやってきたというわけだ。しかも、牽引しているのはデキ105号。デキ100形電気機関車のうち、いまでは1両しか残されていない後期形で車体四隅に丸みがある車両だ。
デキ105牽引鉱石貨物列車が三輪鉱山に向けて出発 |
■操車係を乗せて三輪線へ
私は『貨物時刻表』を持ってこなかったから、ダイヤがわからないなあと油断していたわけだ。油断にもほどがある。武甲山の麓の駅構内でいちど列車は停車し、操車掛氏を乗せてすぐに列車は走り出した。そうしてしずしずと三輪鉱山に向けて列車は進んでいく。停車中にレンズをAI Nikkor 85mm F2SからAI Nikkor ED 180mm F2.8Sへつけ替えてねらった。
このところ、走る列車をねらうにも位相差AFのあるカメラではカメラのオートフォーカス(AF)で撮影していたので、マニュアルフォーカスの望遠レンズで置きピンだけの撮影をひさしぶりするのは緊張感がいつもよりも高まる気がした。とはいえ、駅構内をゆっくりと時速20km以下で走る列車であり、明るい昼間だから被写界深度も稼ぐことができるのでマニュアルフォーカスの望遠レンズでもピントを追うことはできる。あとは練習するのみ。
■三輪から降りてくる列車をねらう
三輪鉱山で20両のヲキ・ヲキフを入れ替えながら石灰石を積むには30分程度はかかるはずだ……と思いながら、SLパレオエクスプレス5002列車の名撮影地でもある湯乃澤橋へ向かった。三輪線が右に大きくカーブして三輪鉱山に向かう地点だ。ここは山陰にあり、三輪線は木の枝の伸び方によっては日陰になる。この日は正午過ぎで逆光でも背景に日があたっていて明るい。線路や奥の木々も逆光で輝く感じが私は好きだ。列車にまだらに影になるよりもいい。
ここでようやく、スマホ検索で鉱石貨物列車のダイヤを検索しまして。さらに、ありがたいことに通過時刻を貼り出してくださる「この場所の主(あるじ)」のかたのおかげもありまして、ああなるほど……とおおよそのダイヤを知ることができた。カーブの奥にある三輪鉱山からはときおりスイッチャーやデキの汽笛が聞こえてくる。見に行ってみてもいいけれどまあ待ってみようか。
そして、ある程度の状況の描写もしたいのでAI Nikkor 85mm F2Sを装着して画面構成を考えることに待機時間をあてた。そうして、武甲山の麓の駅に到着してから40分程度で三輪鉱山から列車が下ってきた。まずは画面奥に列車がいるところをレリーズしてから、ピントを調整して列車が近づいてくるところを写した。
三輪鉱山から列車が降りてきた |
日陰になることが多いので明るく写せてうれしい |
三輪鉱山から列車が降りてくるところをきちんと撮影したのは、10年以上ぶりかもしれない。そういうめずらしい行動をしているときにデキ105が先頭に立っていたのはとてもうれしい。列車はブレーキを掛けながら慎重に武甲山の麓の駅に向かって下っていった。その姿も撮り、思わずガッツポーズをした。周囲に誰もいないことを確認してから。ちょっぴり「エイドリアーン!」とかいいそうな気持ちになったので
「最終ラウンドが終わって、ゴングが鳴ってもまだ立っていられたら、俺がチンピラじゃないってことを、うまれてはじめて証明できるんだ」
というかの『ロッキー』の有名なセリフも思い出した。おおげさだなあ。ちょっと盛った。
■コンティニュアスAFサーボとダイナミックAF(9点)が動体撮影時のAF基本設定
今回の撮影ではすべてマニュアルフォーカスのAI-Sニッコールレンズを使っているので余談であるが、ふだんの筆者はAFレンズを用いているし、位相差AFのあるデジタルカメラで走る列車を撮影するには、コンティニュアスAFサーボによるAF追従撮影とAFロックを組み合わせて撮影している。置きピンでまず撮りながら、接近してくる列車をさらにAF追従撮影を行って連続撮影してショット数を稼ぐ、という撮影をするためだ。
ただし、エントリー機種で位相差AFがあまりあてにならない一眼レフ、とくにミラーレスカメラやコンパクトデジタルカメラでヘッドライトに幻惑されやすいような機種、位相差AFのない機種ではAF追従撮影をあきらめてシングルAFサーボにして置きピンで撮影することが多い。
筆者が望遠レンズや望遠ズームレンズでAF追従撮影をする場合、Nikonのデジタル一眼レフでは以下の設定になる。動作の設定をAF-C(コンティニュアスAFサーボ)に、AFエリアモードの設定を「ダイナミックAF(9点)」だ。動体の動きを予測してAF駆動をさせて、ピントが合わなくてもレリーズできる。途中で構図を変える場合にはAFロックを併用する。そしてAFエリアは1点でもいいが、複数のAFエリアでアシストしながら被写体を追う「ダイナミックAF」を使う。ダイナミックAFも9点だ。列車や航空機などの被写体の動きが規則的であるものならば対応できる。
さらに筆者はAFロックをしやすくするためにいわゆる「親指AF」に設定している。シャッターボタン半押しでのAFをオフにして、別途AF-ONボタンを押しているあいだだけAF駆動をさせる方法だ。構図の変更をする場合にもAFロックボタンを押しながら行うのでもいいが、親指AFであればたんにAF-ONボタンから指を離すだけで可能になるところが気に入っている。ただし、これはお好みに応じてというところ。シャッターボタン半押しによるAFで問題を感じない方はそのままでいいだろう。
Nikon Dfでの例。赤枠内がAFに関する設定 |
AF設定ボタンを押しながら前後ダイヤルで設定する |
なお、Nikonの一眼レフには被写体の色情報やコントラストをもとに被写体の動きに応じて自動測距する「3D-トラッキングAF」というものもあるが、AFエリアを自分で決めるのが筆者の流儀なので、あまり用いない。同様に、ミラーレスカメラにある「追尾AF」よりも筆者はコンティニュアスAFサーボを使う。これも同様に自分でAFエリアを選択したいからだ。ご自分の撮影スタイルにあわせて参考にされたい。
筆者は親指AFに設定しているので半押しAFはオフだ |
【撮影データ】
Nikon Df/AI Nikkor 85mm F2S, AI Nikkor ED 180mm F2.8S/RAW/Adobe Photoshop CC 2021