秩父鉄道の電気機関車のうち、デキ300形はどちらかというと外観は地味でその存在がめだたないように思われる。だが、デキ200形の使用経験をもとに改良され、秩父鉄道の電気機関車の標準仕様となった記念すべき機関車だ。特殊な台車による空転防止機構を改め、標準的な台車を用いながら電気的に粘着力を補う構造にされた。のちのデキ500形も基本的な仕様はデキ300形に準じている。外観的にめだつところはなくても、デキ500形と並んで秩父鉄道の電気機関車の主力を担う重要な機関車だ。
全3両製造されたうち、2021年10月現在は302号機があざやかな水色塗装をまとっている。
1967年に登場した当初は、前照灯は大きな白熱灯が2つ並んでいた。かつての小田急電鉄の電車のヘッドライトのようでおおいにめだった。1980年代まではこの大きな前照灯だったことを覚えている。これがシールドビーム式に置き換えられて、少々おとなしい印象を与えるようになった、と私自身はまことに勝手ながらそう感じる。それが悪いという意味ではないですよ。
■飾り気のなさがじつは魅力的かも
製造以来3両とも日々、鉱石貨物列車や秩父鉄道線内を経由して行われる他社の鉄道車両の回送列車の先頭に立っている。いまでこそ302号が聖火輸送列車のための特別仕様として標準塗装とはことなる水色をまとっているものの、デキ300形は登場時には茶色に白裾帯、そして現在の濃い水色に白裾帯という、いずれも「標準塗装」のままの姿でいることが多く、特別に取り上げられてめだつような存在ではないように感じられる。電気機関車にもいろいろなカラーバリエーションが増えたいまとなると、このふだんの姿のままのデキ300形のデキ301号と303号は、その飾り気のなさがかえって魅力的かもしれない……と先日の訪問時に気づいた。シンプルでプレーンなところがいい。いまさら遅いよ、とみなさんに思われるかもしれない。私はどちらかというと「デハ派」(電車派)だからだ。
だがしかし、その飾り気のない雰囲気の機関車も、夜に前照灯をこうこうと灯して走る姿には迫力を感じさせる。たいていの鉄道車両は、夜にその姿を見ると非常にカッコよく見えるようになると思うのだ。
そういえば『真夜中は別の顔』というタイトルの小説があった。例の「超訳」という本の訳文は、同じ表現の繰り返しが多いように思えてストーリーを追うことには向いていても、描写を味わうものではないように思えたっけ。
シドニィ・シェルダンのことはともかく、先日のエントリーで夕方の広瀬川原から目指したのは、日没後の武州原谷貨物駅だった。その日の日中に見た機関車のどれかを、武州原谷で撮ってみたいと考えたからだ。真夜中ではなくて夕方だけどね!
そういうわけで武州原谷に着いたときには、すでにあたりはすっかり日が暮れていた。構内にはすでに返空の鉱石貨物列車がいるのが見えた。予想していたように牽引機はデキ301号だった。
ただし、私の予想が大きく外れたのは、この日は夕方に影森行きの返空列車があるということ。武州原谷で石灰石を積み込んで三ヶ尻へ行く列車ではなく、影森へ向かう途中に休止している列車だった。
曇り空の昼間に見たときよりもずっと迫力がある気がして、このときからデキ300形のことがすっかり好きになってしまった。撮ってみたい存在が、こうしてひとつまた自分の認知に加わった。こうして病気はどんどんひどくなるということかな。
【撮影データ】
NikonD7200,NikonDf/AI Nikkor 50mm F1.8S, AI Nikkor 85mm F2S, AI Nikkor ED 180mm F2.8S/RAW/Adobe Photoshop CC