鉱石貨物列車の上下交換を待っていたら、返空列車として下り武州原谷行き列車の先頭には、撮りたいと思っていたデキ105号が立っていた、その話の続きだ。少なくとも同じ場所で1時間も待てば、デキ105号が戻ってくる。そう思って私は震えた。あとは待つだけだ。
そうして待つあいだに、太陽が雲の隙間からときおり顔を覗かせるようになった。すっきり晴れて青空になるわけではない。だが、日差しがわずかでもあるほうがずっといい。いざ列車が来るタイミングではどうなるかと思いながら待った。
そうして勾配の上に待望のデキ105号が見えて、血圧が上がった。さいわい、やわらかい日差しも差している。
■負ける気がしねえ!
朝からいまにいたるまでに、今日はものすごく……ものすごく強運ではないか! すごいぞ。あとは撮影設定の失敗をしなければいいだけだ。「負ける気がしねえ!」とヤンキー的なセリフを吐きつつ、慎重には慎重を重ねて勾配を降りてくる列車に向かってAF追従撮影をしながらレリーズをした。斜光線を浴びてブレーキハンドルを操作する運転士氏が見えた。
そうして、列車がゆっくりと目前を通過するのを見届けて、さらに後ろ姿も180mmで撮った。空はまだわずかに晴れたままだ。
■長瀞で追い抜けることに気づいた
午前中から撮影をしていて、ここまでいい運用に当たることは予想していなかった。だから、デキ105号が去っていって気が抜けた。さすがにここでも同じ写真ばかり撮るのもよろしくはない。そこで、忘れものをしないように慎重に撮影現場の撤収作業を行って最寄り駅に戻った。
駅でどこかに移動しようと時刻表を見ていて気づいた。後続の上り列車に乗ると、さきほどの上り鉱石貨物列車を長瀞で追い抜く。つまり、もう一度デキ105号を撮影するチャンスがあるということだ。そう思ったら追いかけるだろ、そりゃ。
■そんなわけでデキ105号をまたもやゲット
この日は西武鉄道発行の「秩父フリーきっぷ」でやってきていたので、秩父鉄道線内のフリー乗降区間が野上~三峰口という制限があった。いま考えたら、さきほどの駅から普通乗車券を別途購入してもっと上り方向の別の駅まで移動してもよかったのかもしれない。だが、ふたたび空も暗くなり始め、空模様もやや怪しげだったので明るいうちに撮影可能で、かつ長瀞より先というと選択肢はひとつしかなかった。
この駅構内にカメラを向けるのはかなりひさしぶりだ。必要なレンズの画角は覚えていたから、長瀞で鉱石貨物列車を先行した普通列車から急ぎ足で撮影地に向かい、カメラの準備をしていた。そのうちに遠くにデキ105号の前照灯が見えた。もう一度やるぞう!
ところがですね。その。じつにあれなのですが。以前この駅でねらっていたのはいま考えると1000系電車やSLパレオエクスプレス5002列車だったのですね。あるいは、デキ牽引の列車でも旅客列車であり、鉱石貨物列車ではなかった。だからですね、そのあの。「鉱石貨物列車と対向列車が交換する場合は、先行してやってきた鉱石貨物列車は上下どちらであっても、最初に到着したほうが副本線に入って退避する」というルールと、この駅の副本線の位置をすっかり忘れていたのですよ。おはずかしい。何年通っているんだちゅーの。
もし旅客列車と上下交換する鉱石貨物列車ならば、鉱石貨物列車は旅客列車のまえにやってきても画面左側の副本線に入って退避するわけ。旅客列車と交換しないでたんに通過するだけならば、本線を通過する。つまり「旅客列車と交換するかどうか」で本線に入るか副本線に入るかどうかは変わるというわけ。それを忘れていた。
このときのデキ105号牽引上り鉱石貨物列車は旅客列車と交換するスジだったというわけさ。だから、見ているうちにデキ105号は渡り線を渡って左の副本線に入っていってしまい、自分が立っている場所から望遠レンズではうまくねらえない場所に停まった。そして、交換する対向の下り普通列車がやってきた。
ああ、いけない。どうすればいいのだろう! ととっさに考えて三脚に固定していないサブのカメラを取り出してマイクロ60mmを装着し、手持ちで構えて出発シーンを撮ったのがこれ。線路の反対側に渡る余裕はなかったみたい。真っ白ではないけれど白っぽい空を画面にたくさん入れるのを避けたくて、今日はずっとそれまで望遠レンズを使っていたのになあ。
もういちど出会ったデキ105号はゆっくりと出発して武川へ向かっていった。いっぽう、私のほうは先ほどの駅で自分のひらめきと集中力はどうやら使い果たしてしまったようだ。でもまあいいや。この駅で撮ることは予定していなかったから、これはおまけの撮影だ。
だからこれを追いかけるのはもうやめて、この日の撮影はおしまいにした。集中力が一度切れると、もうそれ以降はねばってもあまりうまくいかない。そして、3両しかないデキ100形を一日ですべて見ることができたという幸運を享受できたのだから、これ以上望むのは欲が深すぎる。そう思って、これで引き上げた。
たまにはこういう運がいい日もある。じっさいに線路際に立たないと運のよさも享受できないから、やはりカメラを持って出歩くのはやめるべきではないね。もちろん、情勢が許す限り、慎重に行動しつつだ。
【撮影・RAW現像・レタッチについて】
レンズの選択:曇りがちで空を画面にたくさん入れたくはない。さらに勾配を降りてくる列車をねらうのと、やや離れた駅にいる列車の姿をねらうために、望遠レンズを選んだ。D7200には300mm F4を装着して450mm相当にし、Dfは180mmをつけた。最後のカットのみ仕方なくマイクロニッコール60mmをD7200に装着して90mm相当だ。
露出設定:曇り空だからね。「飛ばさずつぶさず」という露出に設定してRAW+JPEGで撮影し、RAW現像とレタッチをした。
絞り値:絞り開放からせいぜい二絞り程度にとどめる。300mm F4のレンズはF5.6からF8程度、180mm F2.8でもF5.6程度までしか絞らない。
ホワイトバランス:ホワイトバランスは5,000Kの数値入力だ。
AF(オートフォーカス):いつものようにAFモードは「コンティニュアスAFサーボ(AF-C)」で「AFエリアモード」は「ダイナミック9点」を選択し、AF追従撮影を行なった。親指AFによるフォーカスロック(AFロック)も併用している。
RAW現像:ハイライトを抑えるためにハイライト部分はマイナス補正し、シャドーを見せるためにシャドー部分をプラス補正をした。画面全体の明るさはRAW現像ソフト上で露出量の再設定をして決める。絵作り設定はAdobe Camera Rawの「カメラスタンダードv2」で、彩度は+10程度だ。ヒストグラム表示と警告表示も見て確かめつつ、RAW現像の最後に慎重に足す。最後の空が画面内にたくさん入っているカットはRAW現像を2度行って、レタッチ用に明るさのことなる2カットを用意している。
レタッチの内容:画面四隅に周辺光量落ちを作っている。画面内に意図せず写り込んでしまったものをめだたせないように、レイヤーマスクを作成してその部分の彩度と明度を落とす処理を行った。最後のカットはRAW現像を2度行い、車体のシャドーをつぶさないカットと空を飛ばさないカットを作り、各領域ごとにレイヤーを重ねている。
【撮影データ】
Nikon Df, D7200/AI AF Micro-Nikkor 60mm f/2.8D, AI AF Nikkor 180mm f/2.8D IF-ED, AI AF Nikkor ED 300mm F4S (IF)/RAW