2024年4月20日土曜日

【Nikon F2】大好きなNikon F2シリーズについてあれこれと(基本編)

ソフトシャッターレリーズ AR-1を常時つけている。
AI Nikkor 50mm f/1.4Sは時代考証が合わないけど許せ

■Nikon F2シリーズのことを書いておく
筆者がいちばん好きなカメラはNikon F2だ。今回はこのF2について書く。いままでこのブログでF2についてあまり書いてこなかったのは、筆者以外にもFやF2について書く著者は多く、筆者ごときが出る幕はないのではないかと思っていたから。詳しいひとたちが多すぎて、自分独自の興味深い話はそうそうできないもの。

文献を見ながら書くが、うんちくもあまり出てこない。明らかなまちがいがあれば修正するが、ニコ爺諸兄におかれましてはどうぞ生暖かく見守ってほしい。

いずれも自前の機材の写真であり、それも、コレクターではないからある程度使った傷のある機材だ。レンズもほとんどがAI-Sであり、時代考証も一致しないことはあらかじめ申し上げておく。

■Nikon F2の基礎情報
Nikon Fはニコン初の一眼レフカメラであり、もしかしたら世界初のプロ用システム一眼レフでもあったといえそうだ。1959年(昭和34年)の発売以来、業務ユーザーから絶大な支持を受けていた。とはいえ、もともとはライカ式の横走りシャッターを用いた距離計連動式(レンジファインダー)カメラのNikon SPのボディ幅を延長して、ミラーボックスを設けた構造だったから、ユーザーが増えるに従って、さまざまな改良すべき点が指摘されるようになった。

堅牢性とシステムの拡張性、優秀な交換レンズシステムによってFは高い評価を得ていたために、Fの後継機種の開発は急がれたわけではない。当初は「F'(エフダッシュ)」とよばれた後継機種の開発は1965年(昭和40年)春に始まり、時間をかけて後継機種に求められる機能をつめていったようだ。

その後継機種は同年9月に「Aカメラ」というコードネームになり、開発が本格化した。そのときに後継機種には以下のことが求められた。
  • F用レンズがそのまま使用できること
  • ライカ型のままのシャッターボタンの位置を改善すること
  • 切り替えミスが起こることがある巻き戻し機構を改めること
  • 幕速を向上させてシャッター速度の高速化を図ること
  • 超望遠レンズ使用時のミラー切れを解消すること
  • 露出計内蔵のPhotomicファインダーを小型化すること
  • 角に丸みを持たせること
  • 取り外し式の裏蓋を改めること
これらの実現するために、内部機構はNikon Fのものを流用せず、一から設計し直されることになった。

そうして1970年(昭和45年)に試作機が完成し、漏光試験や耐候試験などの品質保証チェックを1年間かけて行い、1971年(昭和46年)9月にNikon F2として発売がなされた。上記の改良がなされた結果、以下の特徴を持つカメラに仕上がった。
  • 常時ミラーアップが可能になった。ミラーアップが必要なレンズも装着可能
  • シャッターボタンの位置が一般的なカメラ同様に前部へ移動した
  • 巻き戻し時は底面のボタンで巻き上げを解放する仕組みに
  • 35ミリフィルム幅を通過する幕速が14.5ミリ/秒から10ミリ/秒に向上しシャッター最高速は1/2,000秒に、スピードライト同調速度は1/80秒にそれぞれ高速化できた
  • セルフタイマーを利用した2〜10秒のスローシャッターを搭載
  • ミラー全長を28mmから30mmにしてミラー切れを解消。ミラー動作がしゃくりあげ式に変更された
  • ボディ側に電池収納室を設けてPhotomicファインダーを小型化した
  • 四隅に丸みを持たせた
  • 裏蓋の開閉は蝶番式に
  • 多重露光も可能に
さらに、1/80秒から1/2,000秒までは中間シャッターが使用可能になった。モータードライブも、メーカー窓口に持ち込まずとも無調整で使用できる。こうしてF2は時代の要求に対応して、Fをより高精度化した機械式一眼レフカメラとして世に送り出されたというわけだ。

国鉄101系電車の外観に近いながらも主電動機のパワーアップを行い、より汎用的で経済的な仕様にした103系電車を彷彿させはしないか……しないか。

ただ、このFと外観が比較的よく似ていることで、FシリーズのなかではFやF3と比べると、少し地味な印象もある。存在感という意味では少々損をしているのではないか。それは筆者の誤解だろうか。でも、へそ曲がりな私はそこも愛おしく思う。なお、Fの外観は亀倉雄策のデザインで、F3はジョルジェット・ジウジアーロによるものだが、F2は社内デザイナーによるデザインなのだそうだ。

「ゆっくりFです」「ゆっくりF2だぜ」(うそ)
F後期型とは遠くから見るとよく似て見える。
巻き上げなどはF2のほうがずっとなめらかだ

■機能を拡張できるおもしろさ
F2にもF同様に複数の交換式ファインダーとモータードライブが用意された。基本機種はFとはことなりTTL露出計を内蔵した「F2 Photomic」であり、露出計のない「アイレベルファインダー(DE-1)」もあわせて用意されたというかたちだ。カラーポジフィルムを使った印刷物のカラー化の時代だったからだ。

このおかげで、F2もF同様にファインダーやモータードライブの組み合わせによってさまざまな表情を持つようになった。筆者がもっともいま好ましく思うのはクロームボディで露出計のないアイレベルファインダー(DE-1)を装着し、モータードライブを装着しない姿だ。そのシンプルさを好ましく思うようになった。筆者が大人になった……ジジイになりつつあって体力が落ちたからか。認めたくないものだな……。

クロームのアイレベルファインダーで「素の感じ」

だが、少年のころはブラックボディに「Photomic ASファインダー(DP-12)」を装着し、「モータードライブMD-2」または「MD-3」と「バッテリーケースMB-1」を装着して、望遠レンズと組み合わせた姿に「しびれる」思いでいた。大きくて迫力があり、大きな巻き上げ音をさせながら作動するモータードライブをかっこいいと思っていた。いかにも業務用の道具という雰囲気もある。両者はこうして見ると同一のNikon F2と思えないほどことなる印象を与えて、非常におもしろい。

F2以外にも、キヤノンF-1シリーズ、ミノルタX-1シリーズ、ペンタックスKシリーズ、MXやLX、オリンパスOM-1からOM-4、あるいはコンタックスRTS IIなどの1970年代から80年代のシステムカメラは筆者は大好きだ。モータードライブが着脱できるカメラが好き。いろいろと組み合わせることができ、用途に応じてつけ外しができるアクセサリーが多数用意されている……「男の子ってこういうのが好きなんでしょ」というやつの典型かもしれない。

手動巻き上げと電動巻き上げの両方を用途ごとに使いわけできるのは楽しい。いまのデジタル一眼レフやミラーレスカメラにも拡張するアクセサリーは用意されてはいるけれど、ここまで念入りではないでしょう。

Photomic AS(DP-12)つきブラックボディに
モータードライブを組み合わせるとアツい

■シンプルなデザインのアイレベル
筆者はF2とF3のアイレベルファインダー接眼部の姿が好きだ。どういうわけか、ボーイング727のリアエンジンや垂直尾翼のあたりを連想させる。関西方言でいうところの「しゅっとしてはる」という感じなのではないか……ようしらんけど(無責任)。引き締まっていてムダがない感じがするからね。

F2とF3のアイレベルファインダーの接眼部はかっこいい

角ゴシックのロゴがお好きでしょ

1970年代から1980年代(昭和40年代なかばから50年代)のカメラに使われていた、正面の角ゴシック体のNikonロゴも力強くて好ましい。デジタル一眼レフのNikon DfやZシリーズのヘリテイジデザイン機Z fcとZ fも、このロゴだからいい。私がDfを使い続けているのは、マウントアダプターなしでFマウントレンズを使用できるデジタル一眼レフであり、この角ゴシックのロゴが用いられているから。それにつきる。

Fの時代の丸ゴシックのロゴは細字で上品だが、私にはおとなしく見える。1940年代(昭和20年代)の雰囲気を伝えるのかも。ただ単に慣れの問題なのかもしれない。

そして時代考証は一致してはいないが、AI Nikkor 50mm F1.8S(国内版。最短撮影距離0.45メートル)を装着した組み合わせが気に入っている。

ファインダー視野率は100%、倍率は50mmレンズ使用時約0.8倍。いまのデジタル一眼レフの光学ファインダーよりずっと見やすい。スピードライト用のレディライトも備えられている……のだが、F2でスピードライト撮影をしたことがないから、その存在の確認をしたことがない。

AI Nikkor 50mm F1.8Sも時代考証が合わないけど
この組み合わせがいまはいちばん好ましい

■フォトミック系ファインダーにモータードライブをつけると……重量感マシマシ
いっぽう、ブラックボディにはPhotomic ASファインダー(DP-12)あるいは「Photomic Aファインダー(DP-11)」を装着して、モータードライブと望遠レンズを組み合わせたくなる。

筆者の少年時代は1980年代から1990年代(昭和50年代なかばから60年代、平成一桁代)で、当時のニコンのフラッグシップ機は1980年(昭和55年)発売のNikon F3から1988年(昭和63年)発売のF4だ。それなのにどういうわけか、その当時から「少し古いもの」が好きだったからか、筆者はF2の最終モデルである1977年(昭和52年)発売のNikon F2 Photomic ASを好ましく思い、どうにかして入手できないかとずっと思っていた。筆者が実際にF2ボディを入手したのは20世紀も終わるころで、「Photomic Aファインダー(DP-11)」は2005年ごろに、さらに念願の「Photomic ASファインダー(DP-12)」を入手したのは比較的最近だ。

Photomicファインダーはアイレベルファインダー(DE-1)とくらべると、無骨でごつごつしたデザインだが、F用よりは小型化されている。受光素子にSPD(フォトダイオード)を使用してLEDで露出計表示を行う「PhotomicSBファインダー(DP-3)」とそのAI化改良版DP-12は、制御基板も小型化されたためにすっきりとしたデザインに仕上がっている。EV-2〜17(ISO100)と、低照度にも強いという特徴がある。

AI Nikkor 180mm F2.8S EDに
ゼラチンフィルターホルダーAF-2と
82-86mmステップアップリングとHN-13
 (72mm円偏光・偏光フィルター用)

 F2 Photomic ASで真冬の季節、あるいは夜景を撮ってみたい

この組み合わせで少年のころは列車を撮ってみたかった。じっさいにそれを行うことができたのは、2009年になってから。秩父鉄道1000系電車1002編成が「秩鉄リバイバルカラーデハ100形タイプ」に塗装変更されて、その記念列車の運行の日だ。

■ミラーアップしないと使えないレンズにはF2がベストマッチかも
Nikon Fと同一のレンズシステムを使用できることがF2に求められていたから、ミラーアップの必要なFマウントレンズも当然のように使用できる。具体的には、「Nikkor-O 2.1cm F4」ほか初期のFisheye Nikkorレンズだ。これらはFとF2、ニコマートシリーズでしか使用できない。

Nikkor-O 2.1cm F4後部

F2にも似合う

Nikkor-O 2.1cm F4はゆがみの少ないレンズだ。Sマウントレンズから転用された対称形光学系を持ち、レンズ後端部が大きく出っ張っている形状のために、デジタルカメラではかつてのRICOH GXRでならば使用できたそうだが、35mmフルサイズデジタルカメラで使用した例を見たことがない。おそらくは装着ができないのだ。Fマウントレンズ用の通常のマウントアダプターは使用できない。このレンズ用ヘリコイドの動きを固定するための、専用の突起がないからだ。

35ミリフルサイズのデジタルカメラに装着ができても、センサー前面のカバーガラスの曲率に左右され、画面周辺部に色かぶりと像の流れが生じるだろう。このレンズを使いたい場合はおとなしくF2に組み合わせて、フィルムで撮るほうがなにかと確実だ。デジタイズがうまくできる環境にあるかどうかが気にはなるが。

■電子制御化されるまえの機械式カメラの最高峰
筆者がF2にロマンを感じてやまないのは、カメラが電子制御化されるまえに、機械式制御でできるだけ高精度に仕上げたというところなのだと思う。Fの製造により設計も製造にもノウハウを蓄積して「脂が乗っている」ころでもあったはず。そしてなにより、景気がよくて日本の製造業に元気があった。

機械式制御で中間シャッターが使えること、幕速の高速化によってミラー支持枠をより堅牢にする必要があったために、チタンを使っていることも、手が込んでいるし興味深い。

F3はよりさらに露出制御を高精度化するために、クオーツによる制御を行う電子式制御化された。F3は電子制御化されていても非常に堅牢なことで有名だし、筆者自身も優秀なカメラだとは思う。それでも「機械でできる限り制御する」というF2に、昔からどういうわけか筆者はロマンを感じてしまう。露出計以外は電池がなくても動かせるというところが頼もしいと思うのだ。オイルショック前に考えられた元気のよさがある。

電池の入手のできない寒冷地でもフィルムの凍結を防ぐことができれば、撮影をあきらめないで済む。New FM2を持ってとある北の大国の首都で1年間生活したことがある筆者は、こういうことを考えるのが好きだ。もっとも、これから先、筆者自身が例のZの国で真冬にフィルムで撮影する機会があるとは思えないが……ポーランドやバルト三国、カザフスタンには行くことはできるからね。

アイレベルファインダー(DE-1)つきクロームボディでも
MD-3+MB-1をつけると迫力が出る

ブラックのNikon F2 Photomic ASがずっとほしかった

さきごろニコンOBのみなさんが経営するニコンカメラ修理専門店フォト工房キィートスでも、F3は一部部品の払底により場合によっては修理受付不能になってしまったそうだ。電子制御を行うカメラはそういうことがある。F2もモータードライブの修理は受け付けてもらえなくなった。露出計に関しても修理不能な場合があるが、機械部分の故障や不調であれば、部品交換を伴うものでなければ、修理できる確率がまだ高い。そういうところも好ましい。

いろいろ書いたけれど、Fふうにクラシックな外観をしつつ近代化されてその後のカメラのように使い勝手に違和感がなくなめらかであること。F2のそういうところが好きなのだ。それを長々書いたのが今回のエントリーだ。

【参考文献】(みな絶版かも)
■「ニューフェース診断室」ニコンの黄金時代 1(朝日新聞社)(1999年10月)
■ニコンF2完全攻略(Gakken)(2001年8月)
■ニコンFシリーズ ニコンF・F2・F3のすべて(日本カメラMOOK)(日本カメラ社)(2000年7月)

■いいわけめいたもの
「写真好き」と「カメラ好き」はイコールではない。写真を撮るにはカメラという道具が必要だから、撮影機材にある程度は詳しくならざるを得ない。機材にまったくむとんちゃくでいい写真を撮ることができるひとは、天才しかいない。だから「写真好き」で「カメラ好き」という人間もいないわけではない。ただし「カメラ好き」には「カメラを語るのが好き」「集めるのが好き」「買うのが好き」で「写真を撮ることはそれほど好きではない」ひとたちもいる。これらのひとたちは「写真好き」とはいえない。「写真好き」とは「混ぜるな危険」というくらいに好みが合わないから要注意だ。

かくいう筆者自身は「写真好き」で「カメラ好き」だ。ただし「カメラを語るのが好き」な部分はあるが「集めるのが好き」でも「買うのが好き」でもない。また、筆者はF2が旧製品ではない時代に業務で用いていたわけではない。

今回のエントリーは、そういうある程度は「カメラを語るのが好き」でも、どちらかというと使うことに重きを置く人間が書いていることは、念頭に置いてもらえるといい。

■より正確にはこちらもどうぞ!
もとニコン「中の人」であるとよけん先生(豊田堅二さん)のF2アイレベルに関する記事がPRONEWSに掲載されています。上記の「より正確な記事」はぜひそちらをご覧くださいません。