■雨脚がますます強くなった
里山の春の風景を見たくて上信電鉄沿線を訪ねた日の夕方のことだ。日没ごろの終点近い駅にいると天気予報のとおりに雨脚が強まってきた。それに耐えるのも飽きたので、あたりが完全に暗くなるまえに上り列車に乗った。上り列車からはあちこちで散りつつあるサクラを見かけて、そのつど後ろ髪引かれる思いになる。でもそういう気持ちをこらえて、往路に目星をつけておいた駅で降りた。
■雨のなかで花びらを散らしていくようすに惹かれた
降りた駅には駅の敷地内にけっこうな樹齢であろうソメイヨシノの木がある。高崎に近いので終点に近い駅よりも開花が早かったろうから、すでにかなり花が散っていた。昼間の明るいうちにではなく、夜になってからここを訪ねようと決めていたのは、そういう理由だ。夜のほうが散りかけの木でもめだたない。駅の周囲は住宅地だが、明るいわけではない。もちろん、ライトアップなどもされていない。自転車置き場の照明と駅構内の構内灯が光源だ。さらに、列車の明かりを光源にするつもりで三脚を立てて待った。そこへ上下の列車がやってきた。前照灯がLEDではない車両だと前照灯の光に赤みがかかっているので、花も赤く染まるところがいい。
上下の列車を撮った。仕上がりは下り列車のほうが好みだった。上り列車は停車位置が木よりも奥にあり、さらには前照灯の強い光をこの構図で浴びるとフレアが盛大に発生してしまったからだ。
上り列車が去るとあたりはすっかり暗くなってしまい、これ以上はもう撮りづらいので駅の待合室に戻ってきた。すると、近所の飼いねこが眠っていた。以前にも書いたように、この駅のねこではない。
待合室には掛け時計がチクタクと時を刻む音、雨が屋根を打つ音が響く。あとは、最近導入されたと思しき空気清浄機の音がするだけ。待っている客は私しかいない。このねこもだいぶお年を召しているようで、いつ来ても眠っていることが増えた。寝床をつくってもらっているところを見るとふだんもずっと眠っているのだろう。
それにしても次の列車までは50分近くやることがない。19時台は上り列車が1本しかないのだ。だから時間を持て余してしまい、ねこを写したり機材の片づけなどを行っていると、ねこは耳を動かして起き上がって動き始めた。うるさくしてごめんな。
そのうち、ねこは私を警戒しつつみづくろいを始めた。「ねこが体をなめると雨が降る」という言い伝えがどこかになかったっけ……。私がいることがストレスなのかもしれない。すまん。
■元気でいてほしい
ねこは駅長さんが不在の時間にもその代わりを務めてくれているようだ。もうけっこうなお年みたいだけど、元気でいてくれよな。そんなことを話しかけると、ねこはさもうるさそうにプラットホームに出ていってしまった。そのうち上り列車がやってきたので、私も家路についた。ねこのことを考えていたらいつのまにか私も居眠りをした。
【お願い】ねこがいる駅のことは、上信電鉄が好きでよく通われている方ならば、よくお読みになればどの駅であるかは容易に判別できると思います。それゆえに、私は意図的に駅名を明記していません。駅で飼われているねこではありませんので、なおさら保護のためです。コメントをいただく際にも駅名を書き込むことはくれぐれもご遠慮くださいますよう、お願い申し上げます。
【2023年2月6日追記】
駅長さんの貼り紙によると、さる2月3日にねこは永眠したそうです。
【撮影データ】
Nikon Df/AI AF Nikkor 35mm f/2D, AI AF Micro-Nikkor 60mm f/2.8D/RAW/Adobe Photoshop CC