2017年6月11日日曜日

【ニッコールレンズの話】AI Nikkor 85mm F1.4SをD750で使ってみた


■マニュアルフォーカスのAI Nikkor 85mm F1.4SをD750につけて撮った
35mmフルサイズセンサー(ニコンFXフォーマット)を備えたニコンD750を試用する機会があった。D750ボディはなんども試す機会はあったものの、自分で所有はしていない。35mmフルサイズセンサーを備えたデジタルカメラ自体を私は所有していない。そこで、高校生のころに買ったもののさいきんはめったに使わなくなっていたマニュアルフォーカスのAI Nikkor 85mm F1.4Sを装着して、少し撮ってみた。

■85mmに苦手意識があった
以前も書いたことがある。この「85mm」という焦点距離がセーネンのころにはあまり好きになれなかった。そのときには「なんとなく絵にできてしまう」ように思えておもしろみを感じず、さらに、おだやかな望遠圧縮効果がものたりなく思えたようだ……と当時感じていた理由を書いた。望遠圧縮効果がおだやかだからゆがみにくいともいえるけれど、望遠レンズとして使うには自分にはものたりず、それでいて標準レンズよりははっきり画角が狭いことが、そのころの自分の腕では使いこなせなかったのだろう。使っているうちにものたりなさを覚えるようになり、85mmという画角を自分では使わなくなっていた。

それが、いまや85mmという焦点距離がだんだん楽しくなってきたのだから、いろいろとおもしろい。マイクロフォーサーズのLUMIX G 42.5mm / F1.7 ASPH. / POWER O.I.S.がいまとなっては自分がいちばんよく使うレンズになったのだ。あのレンズはまた、近接できることと飾り気のないデザインも好きだ。

そこでふと思い出して、AI Nikkor 85mm F1.4Sを持ち出した。ふだん使う私物のニコンはDXフォーマット機のD7200なので、このレンズをつけると127mm相当と焦点距離が長くなってしまう。そのために90mm相当になるAI AF Micro-Nikkor 60mm f/2.8Dを使うことが多い。だからこそ、35mmフルサイズボディで85mmレンズを使ってみたかったのだ。

■ピント合わせの技術が稚拙だったからなのかも
AI Nikkor 85mm F1.4Sをこうしてひさしぶりに使ってみたら、けっこうおもしろいと感じた。20代から30代にかけてこの85mmをあまり使わなかったのは、焦点距離以外の理由があったのではと思わされたのが今回の試用結果だ。

このレンズは『アサヒカメラ ニューフェース診断室』によれば球面収差の補正タイプが過剰補正型ではなくて完全補正型なのだという。ぼけの美しさをねらったためだそうで、そのかわりに解像感はそう高くはない。さらに、絞り値を大きくしてもおだやかな解像感が変わらないように感じていた。それ以前のマイクロニッコールレンズや、Aiレンズ化ごろの1970年代までのニッコールレンズはむしろ、過剰補正型が多くて絞り開放でも解像感が高い。その代表ともいえるのが、かのマイクロニッコール55mmF3.5で、解像感は高いもののぼけ量は大きくない。

【2024年3月26日追記】
ニッコール千夜一夜物語第89夜にこのレンズが取り上げられました。合わせてご覧ください。

AI Nikkor 85mm F1.4Sに話を戻すと、そういった設計のためか……正直にいえば当時の私の目にはピントが合わせにくいレンズだった。当時のフィルムカメラではいまのデジタル一眼レフよりも表示倍率が高く、スクリーン上でピントのヤマもつかみやすい、つまりはファインダーが見やすいボディを使っていたはずだけど……数年前までは光学ファインダーではこのレンズを使う自信がなかった。

昨年私はじつは両眼の手術をした。それまではコンタクトレンズで補正していたのが、裸眼で無限遠が見えるようになってから、いまのデジタル一眼レフの光学ファインダーはフィルムカメラに比べるとピントの合わせやすさでは及ばないことにも気づいた。遠くの木々の葉の葉脈が裸眼で見えるようになって、手術後しばらくは散歩をしていても感激していたほどだ。いまでは撮影するときも裸眼でピント合わせをしている。

そういう事情もあり、目を傷めていたここ数年のあいだはとくに、光学ファインダーでマニュアルフォーカスレンズで撮影するのはあまり気が進まなかった。




■AI Nikkor 85mm F1.4Sは思っていたよりよかった
いまの最新の大口径レンズは絞り開放から解像感が高いので、もっと合焦部分がはっきり見える。だからもう少しピント合わせもしやすい。もちろん、絞ったときの解像感も高い。そして逆光にも強い。それにくらべると、D750ボディはローパスフィルターがあることも影響してか、AI Nikkor 85mm F1.4Sの絵は最新レンズで撮ったものにくらべるとずっとおだやかに感じられた。依頼仕事ではなく、自分のための写真を時間をかけて撮影することができる場合で、おだやかな絵がほしい人物撮影などに使ってみるのもおもしろそうだ。そして、ひさしぶりに味わった35mmフルサイズの被写界深度の浅さも楽しかった。

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【撮影データ】
Nikon D750/AI Nikkor 85mm F1.4S/Adobe Photoshop CC(RAW現像)