2020年2月21日金曜日

【カメラ機材の話】AI Nikkor 85mm F1.4Sについてあれこれ思うこと(試写編)


■AI Nikkor 85mm F1.4Sのチェックをしてみた
AI Nikkor 85mm F1.4Sのことを「オールドニッコール」と呼ぶのは抵抗がある。1940年代のレンジファインダー式のSマウントレンズや1950年代の初期のFマウントレンズならばともかく。だがしかし、いつから「オールドレンズ」と呼べばいいのかというふうに考えていくとその線引きはとてもあいまいなものにしかならない。

そこで、1981年に発売されてすでに2006年とされる発売終了から15年近くが経ったのだし、いまやニッコールレンズの主流はFマウントレンズでもDタイプからGタイプであり、むしろこれからはミラーレスのZシリーズが主流になっていくのだろうから、もうしかたないと自分を納得させて「オールドニッコール」という言い方を……いや、したくないな。だから、私自身は本稿ではその言い方はしない。

さて、今回はその「30年間所有はしていても、きちんと使いこなせている自信がない」AI Nikkor 85mm F1.4Sの描写を知るために、ちょっとしたテストをしてみた。とはいっても、解像力チャートを用いた本格的なものではない。A3用紙にプリントアウトした樋口一葉『たけくらべ』を壁面に貼り、それを写した。だから、あくまでも簡易的なチェックだということをあらかじめお断りしておきたい。

■『たけくらべ』を撮る
解像力チャートではなくても、コントラストのはっきりした絵柄のものならばなんでもいい。ここで私が『たけくらべ』を用いたのは、Sマウント用マイクロニッコール5cmF3.5を東大の小穴教授が撮影したという故事にならったことと、パブリックドメインだから。まあシャレだ。新聞紙でも『吾輩は猫である』でもなんでもいい。

これをA3のフォトマット紙にプリントアウトして、IKEAの有孔ボードにマスキングテープで貼りつけた。そうして、できるだけ水平で平行になるようにカメラをセットして絞りを変えて撮っている。撮影距離はA3用紙の数センチ内側になるように。撮影距離は計っていないが、85mmで1メートルちょっとというところだろうか。厳密な解像力テストであれば撮影距離はもう少し離すべきかと思われるので、繰り返すがこれは簡易的なチェックだ。

ピント合わせはライブビューで等倍に拡大しながら行った。なお、事前に無限遠が出ていることは確認済みだ。その結果、光学ファインダー上でピント合わせを行った場合とライブビューでピント合わせを行った場合でピントが変わること(スクリーンの取り付け位置のずれやサブミラーの角度のずれによるもの)もないと思われる。

また、この個体は無限遠はレンズの無限遠指標の中心よりもほんのわずかに手前に設定されているようで無限遠指標の位置に設定するとオーバーインフになるが、望遠レンズでもありヘリコイドの無限遠で「あてピン」ができるような調整をすべきではないだろう。気温の変化などで無限遠が出なくなることのほうが困るからだ。



■撮影画像を見てみると……
そうして撮影した画像をView NX-iでまず全体表示したスクリーンショットが以下の2枚だ。わずかに斜めなのと完全に平行になっていないのは申し訳ない。F1.4とF2.0の2枚のみ掲載する。F1.4では大きく周辺光量落ちが見られるのがわかると思う。それが、ひと絞り絞るだけで大きく改善する。どうやら樽型収差もあるようだ。



さらに、中央部を等倍に拡大したもののスクリーンキャプチャーが以下の2枚だ。同様にF1.4とF2.0のみ掲載する。サムネイルではわかりにくいが、F1.4は思っていた以上に解像感がある。ただし、文字の周りにパープルフリンジが見られる。そして周囲にわずかにフレアが見られる。これもF2.0でかなり改善する。パープルフリンジとフレアが消えて文字がだいぶすっきりと見えるようになる。



■ほかの被写体でも試した
「絞り開放のF1.4では高周波の被写体の周囲にパープルフリンジが見られて、フレアがかかる」という特徴を覚えておいておこう。このことを頭に入れて、今度は屋外で樹木を撮った。手持ち撮影なのでわずかに画角のずれがある。いずれもライブビューで等倍に拡大しながら写した。F1.4では大きく周辺光量落ちがあり、枝の周囲にパープルフリンジが発生し、画面全体がややフレアっぽい。それがF2.0でかなり改善する。



ははあ、なるほど。絞り開放時の大きな周辺光量落ちとパープルフリンジはデジタル一眼レフで撮影しているからより顕著にみられるものだが、これほどはっきりしなくても周辺光量落ちとわずかなフレアはフィルムで撮っても現れるはずだ。

パープルフリンジやフレアっぽさがあっても、私が予想していたよりもこのレンズはずっと解像感がある。「解像度が高い」わけではなく「解像感がある」だ。正直にいうと、もっと解像感のないレンズなのではないかと思っていた。かのマイクロニッコール55mmF3.5のころよりもぼけの美しさを追求したレンズとはいえ、それでも1980年代のニッコールレンズなのだから、きちんとしているはず。それを忘れていた。

私自身が求める「解像感の高さ」はそうシビアなものではないとは思う。なにしろ文献複写用のレンズではなく「ポートレートレンズ」なのだ。それでもこの結果はなんだかうれしい。ピント合わせの訓練をしていけばもっときちんと使えるようになるのではないかと思わせるから。きちんとピント合わせをしていくとどういう絵になるのか、もっと知りたくなった。

なお、煩雑になるので省略したが、F2.8ではさらに改善されF4.0からF5.6まで絞れば周囲まで画質が均一化し、F8.0からF11で回折するようだ。F1.4のレンズなのだから、それはごくあたりまえの結果かもしれないが、それがほんとうかどうかを自分で試してみるのが「科学的」な思考だろう。

どちらかというと、人物などをやわらかい雰囲気に撮るほうがこのレンズには向いている。私としては、人物を撮るときに被写体深度を求めないならばF2.8が安全値。わざとフレアっぽくするならばF2.0。静物を撮るならばF4.0からF5.6、風景をきちっと撮るならばF8.0というところだと思う。私自身はフレアをいかす撮影をあまりしないので。

まとめると、とくにデジタル一眼レフの撮影倍率が低い光学ファインダーで私がピント合わせがしづらいと思ったその理由は、おそらくこのフレアっぽい感じのせいなのではないか。さらにいまのデジタル一眼レフ用スクリーンはマニュアルフォーカスではピントのヤマがつかみやすいとはいいがたい。そして画素数も増えているから、わずかなピンぼけでもめだってしまう。

そう思うと、AI Nikkor 85mm F1.4Sをよりきちんと使うには、一眼レフであればライブビューをためらわずに使うこと。あるいは見やすいEVFのあるミラーレス機で使う。Z6かS1、やっぱりα7IIIかなあ……と思いつつ、「カメラとレンズに自分が慣れる」ことをまずは目指していくことにする。おもに趣味と自分だけの写真のための道具だからね。しかも、これらAI-SニッコールレンズとDタイプニッコールレンズが似合うからという理由でDfを手に入れたのだもの。もちろん、仕事道具としてはZ6かS1、あるいはα7IIIはあったら便利だとは思うけど。これも一人前の海兵隊員(?)になるために訓練ですわ。♪はーらがへったらつばをのめー(ミリタリーケイデンス)

【撮影データ】
Nikon Df/AI Nikkor 85mm F1.4S/RAW/Adobe Photoshop 2020