■三輪鉱山の主(あるじ)のような存在
武甲山にある秩父太平洋セメント三輪(みのわ)鉱山には「主(あるじ)」がいる。「ぬし」と呼んでもいい。秩父鉄道が好きでくわしい方だと、「三輪鉱山の主(あるじ、またはぬし)」というと、とある具体的な人物を思い出す方も多いだろうが、私がしようとしているのはその方の話ではない。三輪鉱山にいる入れ替え用機関車(スイッチャー)D502号のことだ。
秩父鉄道の武甲山の麓の駅から三輪鉱山までは、構外側線あるいは三輪線とよばれている全長約1キロメートル程度の引き込み線がある。その構外側線の奥にある三輪鉱山構内で、石灰石を貨車に積み込む際に用いられているのがこのD502号だ。
駅構内から20パーミルの勾配になっているその構外側線を行く電気機関車(デキ)のようすを写真に撮ったり、眺めることは多い。だが、その奥の三輪鉱山の主であるD502号の姿は、鉱山のゲートの手前から観察したことはあっても、私自身は写真にまじめに撮ったことは多くはなかった。
■鉱山から出て電気機関車を補助するところを見てしまった
先日、自宅を始発列車で出て鉱石貨物列車のようすを見に出かけた。そうして湯乃澤橋のところで待ちながら見ていたところ、この日の朝一番の三輪鉱山行き列車は構外側線の鉱山の手前あたりで停止してしまった。
ふだんの停止位置はもう少し先だった気がするなあと思っていたところ、奥の鉱山から汽笛が聞こえて、D502号が出てくるところが見えた。
この場所は山の陰にあるために、正午ごろまで日が差さない。そして、落ち葉と路面の結露によって電気機関車だけでは粘着力が不足したのだろう。D502号は牽引してきたデキ506号を、おそらくは補助するために先頭に連結され、両者が汽笛を鳴らして鉱山に向かって貨車を牽引していった。
D502号が鉱山からほんのわずかに出てきたところを自分の目で見たのは、はじめてだ。そうそうあってはほしくない事態だろうとは思うが、雨などで路面が滑る場合にときおりこういうことがあるようだ。
■根岸から秩父にやってきてはや20年過ぎ
このD502号はセミセンターキャブのディーゼル機関車で、新潟鐵工所(現 新潟トランシス)製だ。日本石油精製根岸製油所(現 ENEOS根岸製油所)で用いられていたそうだ。僚機D504号は根岸で予備機としてまだ活躍しているのだろうか*。D502号のほうは秩父にやってきて20年ほどたつという。だから、もはやここの主(ぬし、またはあるじ)といってもいいだろう。もっとも、秩父鉄道にはもっと古くから稼働している機関車がたくさんいるけれどね。
D502号は運転台の左右の窓が私にはタレ目のように見える。そう思うと、「根岸からやってきたタレ目のおじさん」のように思えて、親しみがわく(気がする)。新潟生まれのィヨコハマ育ちで寡黙ながら頼りになるおじさんだ。「イイネ!」とクレイジーケンバンドの横山剣の声まで脳裏に聞こえてきた気がする。いくらなんでも妄想が過ぎるな私も。
三輪鉱山でのD502号の仕事は、架線の張られていない積み込み口に貨車を牽引して入っていくというもの。そのためか車体が白っぽく汚れている。この鉱山構内にふだんはいて、鉱石貨物列車が到着すると動き出し、積み込みが終わると所定位置で待機している。
ずいぶんむかしからいたのに私が写真に撮ったことがなかったのは、この機関車がやってきたころには鉄道趣味から離れていたことと、電車をおもに追いかけていたから。そして、三輪鉱山のゲートから鉱山を眺めはしても撮るのはひかえめにしていたから。なんとなく遠慮していたというのか。
■晴れると完全逆光
この日はそういうわけで、鉱山からわずかに外に出てきたD502号を見て興味が湧いたことと、ずっと日が差さない場所にいるのも体が冷えたので、鉱山のゲート手前の日向に行って体を温めつつ、D502号のようすも眺めることにした。
この場所は日が差すと完全逆光になる。私は逆光で撮るとディーゼル機関からの排気が浮かび上がって見えるところが好きだが、持参したAI AF Nikkor 180mm f/2.8D IF-EDにつけていたレンズフードがやや短く、太陽光がレンズ前面にもろに当たるとはっきりとフレアが出ることが光学ファインダーでもわかった。昨年入手した非純正の長いレンズフードを自宅に置いてきてしまったのだ。AI AF Nikkor 180mm f/2.8D IF-EDはそれにしても、逆光にこんなに弱いのか。私の持っている個体だけかなあ。マニュアルフォーカスのAI Nikkor ED 180mm F2.8Sとは、どうやらいろいろと描写がことなるレンズみたい。
持ってくるべきだった「非純正の長いフード」はこれ |
そして、手持ち撮影なのと黒いパーマセルテープ(シュアーテープ)をカバンから取り出して調整して貼りつける時間がなくて、先日試作した3インチ角ゼラチンフィルターホルダー用マスクを使いながら、左手でできるだけフレアカット(いわゆるハレ切り)をしているが、それでは足りずに画像のコントラストが甘いカットがある。キヤノンゼラチンフィルターホルダー用の手持ちのフード4枚では180mmでは長さが足りなかった。もっと新しいレンズだといいのだろうなあ。
そういうことが気になる方は、まず適切な長さのレンズフードを装着したレンズを用いること。フレアやゴーストを気にされない方が多いのかもとTwitterだと思うけどね。そして撮影時に太陽の角度に気をつけるなり、あるいは曇りの日に写真を撮ることをおすすめする。撮影者が移動するだけでもフレアの発生を軽減させることは可能だから。そして、それでも私は、ハレ切りをしながらでも晴れている日にこの機関車を見るほうが好きだ。
ここでD502号が動くのは、平日と土曜日の午前中から昼にかけての3から4本の鉱石貨物列車が運行されるときだけだ。日曜日や3月と9月の太平洋セメント熊谷工場の定期点検などで鉱石貨物列車が運休の日は、石灰石の積み込み口の下の所定位置にいて動かない。D502号を見たいなら鉱山のゲート手前から、くれぐれも作業や出入りする自動車の通行のお邪魔にならないように、そっと観察するようにしたい。もし自動車で行かれる方は鉱山ゲート前に駐車するのはぜったいに避けよう。また、係員氏などから万が一指示を受けた場合には素直にそれに従おう。
【撮影データ】
Nikon Df/AI AF Nikkor 180mm f/2.8D IF-ED/RAW/Adobe Photoshop CC
*2024年5月追記
このD502号はセミセンターキャブのディーゼル機関車で、新潟鐵工所(現 新潟トランシス)製だ。日本石油精製根岸製油所(現 ENEOS根岸製油所)で用いられていたそうだ。僚機D504号は根岸で予備機としてまだ活躍しているのだろうか:2024年1月13日付毎日新聞で廃車が予告されていたとおり、老朽化のため先日廃車されました。
*2024年6月16日追記
D504号が「DD502」と改番されて神奈川臨海鉄道川崎貨物駅で目撃されたとの投稿がXにありました。神奈川臨海鉄道に譲渡されたのかもしれません。