2020年12月12日土曜日

【ニッコールレンズの話&秩父鉄道デキ撮影記事】黒テープでハレ切りしながら逆光で秩父鉄道デキを撮る話

Sony A7II+AI Nikkor 50mm F1.8S
持っているカメラを撮るなんてあれだけど
これも完全逆光だから
「斜光黒パ斬り」をしているよ

■「おうち工作」で試していたことを実践した
ここ最近は「おうち工作」をしていた。政界の黒幕や特務機関がお金のちからで人心掌握をして世論を誘導するという「工作」の話ではなく、「手先の作業」のことね。自宅とその近辺であれこれと試行錯誤を重ねていた。それが前回までのエントリーでしつこく書いていた、古いレンズに純正よりも長めのレンズフードを探し出して効果の有無を調べていたというあれだ。

逆光撮影の際にフレアが生じてしまうレンズでも、できるだけフレアをカットするとどうなるのか、ということに強い興味が湧いたからだ。なお、「フィルムの乱反射」を指す「ハレーション」と「レンズの乱反射」という意味の「フレア」は厳密にはことなるようなので、本来であれば「フレアカット」というべきなのだろうが、誤用であっても慣用的に使われ続けている「ハレ切り」という用語を以下でも用いる。

人物撮影などでいま流行している撮り方のひとつとして、フレアを画像効果として意図的に使うのはいい。私がいやなのは、意図しないフレアが生じてしまい、コントロールできないこと。画面内の一部分だけに跳ね上がっているミラーの影(?)が映ってしまうのはとくに困る。こういう影が出てしまうのはミラーのある一眼レフだけかもしれないけれど……あれをとくになんとかしたい。

こういうのはまだ……意図的にねらったのならばゆるせるけど

画面上部のように、フレアと不均一な影が出るのはいやだ

その試行錯誤の結果わかったのは、フード自体を長くするよりもさらに効果的な方法があるということ。今日は秩父鉄道沿線にひさしぶりに出かけ、実際の撮影現場でその効果を確認したという話をしよう。

「写真はイメージです」なんてね

■太陽は冬の昼過ぎに山の端からその姿を現す
秩父鉄道沿線には10月末の平日にデキ108号の鉱石貨物列車への最終運用を偶然撮ってから、足を向けなかった。電気機関車(デキ)が冬期にはパンタグラフをふたつとも上げて走るようすを見たくて、それが始まるまで様子を見ていた。紅葉シーズンには沿線に行きたいと思っていたものの、あれがほら……ああだから。県内在住だから秩父はそう遠くはないけれど。

仕事自体が不要不急な私のような人間は、人出が増える土日やイベントを可能ならば避けたい。自分がなるのも、無自覚なまま万が一広げてしまうのもいやだ。そこで人出の少なそうな平日に時間を作って出かけた。

駅で列車を待つあいだに逆光にカメラを置いてカメラの写真を撮るという、たいへんあれなことをしながら、武甲山の麓の駅にのんびりと向かった。

道中はうたた寝をしてしまい、秩父で上下の鉱石貨物列車が交換するところは写真に撮れなかった。空いている暖かい列車に乗るとほらf分の1ゆらぎが……積車の上り列車の先頭がデキ105号で下りの返空列車の先頭がデキ103号であるということもわかった。

武甲山の麓の駅で降りて歩き始めると、秩父で追い抜いたデキ103号牽引の鉱石貨物列車が到着した。一旦停止して操車掛氏を乗せると、三輪(みのわ)鉱山に向けて砂煙を上げて登っていった。

のんびり向かったのは、ラッシュアワーを避けるためと、撮影地に日が差すのを待つため。三輪鉱山から降りてくる鉱石貨物列車の先頭に立つデキがパンタグラフをふたつ上げている姿を、それも山影にあるあの場所に日が差すところを見たい。ところがあの場所は正午過ぎないと日が当たらないのだ。そして、着いた時間ではまだ日が差さない。

日が差すまで待った

■完全逆光! だが俺はくじけたりはしない!
10月末に来たときに比べると、すっかり日差しは冬のそれになってしまった。日の出は6時半ごろで、16時半には沈んでしまう。そして、日中でも太陽の高度が低く、光に強さがなく影が濃く出る。被写体へのあたり方はうまく使えたら感じがいいので好きなのだけど、カメラのレンズにも斜光線が当たりやすい。この扱いには注意が必要だ。

三輪鉱山から降りてきたデキ103号を撮ったときには、空に雲が多くてあたりに日が差さなかった。だから、次の列車まで待った。

正午ごろの便の先頭に立つデキ501号の下り方正面は
左右で窓ガラスの大きさがことなるかのように見える

正午過ぎに雲も切れて待ち構えていた場所に日が当たり始めた。そこへデキ501号が三輪鉱山に向かって坂を登ってきた。下り方正面の左右の窓ガラスのパッキン(Hゴム)の色がことなり、まるで左右の窓の大きさがことなるように見えるのはおもしろい。この列車が石灰石を積んで、三輪鉱山から降りてくるのを待つことにしよう。

そう思っているあいだに、太陽の光がレンズの前面に当たるようになってきた。線路の奥の木々やレールが輝くようすはとても好ましいのだけれど、完全に逆光だ。そして、今日も古いAI Nikkor ED 180mm F2.8Sを使っている。フレアは出てはほしくはない。万事休すか!

んーん。こんなものは大丈夫。がんばるんだ! 俺はできるやつだ! 俺はくじけることはぜったいにない! と竈門炭治郎ふうのせりふを使うのは、アマゾンプライムビデオでアニメも観たし、近くの映画館で映画も観たから。映画泥棒の「カメラ男」が飛び跳ねるようになっていて……以下略。

デキ501が降りてくるころには日が差した。私はこれを待っていた

いや、そうじゃない。こういうことがあってもいいように、「おうち工作」でいろいろ試していたから。そういう妄想をしているあいだに汽笛が聞こえてデキ501号が山を降りてきた。さっそく全集中、「逆光の呼吸」をして「壱ノ型『斜光黒パ斬り』」を使った。

くだんの漫画を観ていない方や興味のない方をいま置き去りにする言い方をした。ごめんね、「キメハラ」にならないように、ちゃんと説明するからね。

■レンズフードに黒テープの端切れを貼っておくべし
このところしつこくあれこれと「逆光でも古いレンズを使う」対策を考えていてわかったのは、前述のようにレンズフードの長さを伸ばすだけでは限度があるということ。望遠系のレンズはみな純正で指定されているよりも私は長さを足している。しかし、それだけではまだ対策不足だ。

まず、太陽や光源からの強い光がレンズ前面に当たらないようにカメラの位置を工夫すること、強い光源を画面内でうまく隠すことが大前提だ。そのうえでさらにフレアを出さないように対策するには、スタジオでブツ撮りをする写真家のみなさんがやっている黒いパーマセルテープでハレ切りをすることにつきる。このほうがレンズフードの長さを伸ばすよりも、よほど効果的だった。

パーマセルテープとは業務用紙テープのこと。15年ほど前にパーマセル社が買収されて「シュアーテープ」(Shurtape)というのがいまは正式名称だ。日本国内ではまだパーマセルテープというほうがなじみがあるだろう。黒いパーマセルテープを略して「黒パ」というひともいる。業務上の符丁だ。遮光できることと、剥がしたあとに糊が残りにくいところが特徴だ。

レンズフード前面の四隅に黒テープを貼った

三輪鉱山から降りてくる列車を完全逆光で撮るのにも、このテープによるハレ切りの準備をして撮影に臨んだ。やり方は簡単で、黒いテープをレンズフード前面に、ケラレ(黒い影)の生じないぎりぎりのところに貼る。それだけだ。

そこで、一眼レフならば絞りを決めてからライブビューにする。ミラーレスカメラならば電子ビューファインダーでもいい。絞りを決めてから貼りつけてしつこいくらいに四隅を見ること。もし、撮影距離や絞りを変えたら、そのつど調整と確認を繰り返すこと。完全逆光では見づらいので、試写もして拡大再生をしてしつこーくしつこーく念入りに確認しよう。撮影直前にもフードやテープがずれてケラレが生じていないかくどいくらいに確認する。

Shurtape(シュアーテープ)はこれ。
堀内カラーでは「パーマセルテープ」の名前でまだ売っている。
銀一では「シュアーテープ」の商品名だ

前述のようにこれは私が考えついた独自の技法ではない。スタジオマンあがりの写真家にはあたりまえの作業だ。けれど私にはそういう経験はないからね。そして、話には聞いていたこれをきちんとやってみたら、ハレ切りには手軽なわりにはいちばん効果的だった。

ただし、三脚を立てて時間をかけてじっくりと撮影できる場合、具体的には、風景撮影などをでは傘やハレ切りボードを使ってレンズ前面に直射光をあてないほうがより効果的だ。デジタルカメラの背面モニターも見やすくなり、カメラの発熱防止にもなりそうだ。だが、手持ちでの列車の撮影では私はもっぱらこの方法を選ぶ。撮影方法によって使いわけよう。

撮影のたびにテープを持っていくように、私はかばんにいつも入れている。だが、忘れたことも少なからずあるし、今後も大いにありえる。そこで、望遠レンズのレンズフードには端切れを貼りつけてある。この端切れでもじゅうぶんに足りる。レンズフードをぶつけたときに保護もできる。

画面奥のレンズのように
レンズフードに端切れを貼っておくといいよ

Tamron 35mm F/2.8 Di III OSD M1:2(モデルHF053)のキャップ式フードが、開口部の四隅に丸みをもたせてレンズ前面に角型のマスクをする形状で、この「斜光黒パ斬り」をしているのと原理的に同じだ。このレンズはさらにレンズ後ろ玉のうしろにもフレアカッターが備えられているようだ。Webサイトで見ただけでじっさいに触れたこともなく、タムロンの方にたずねたこともないので、近接撮影時に邪魔にならないようにレンズフードの形状がこうなっているのだろうと想像しているのだけど、じつは理想的なレンズフードのかたちはこういうものかもしれない。

【撮影データ】
Nikon Df/AI Nikkor 180mm F2.8S/RAW(列車)
Sony A7II/AI Nikkor 50mm F1.8S/RAW(Df外観と状況説明)
(機材写真はNikon D7200/AI AF Micro-Nikkor 60mm f/2.8D)

*記事初出時に「逆光の呼吸壱ノ型『四隅黒パハレ斬り』」としていたものを「斜光黒パ斬り」に改めました