2021年7月29日木曜日

【レンズフードの話】第七次レンズフード戦争 キヤノンゼラチンフィルターホルダーを予期せず入手し新展開か

F-1やFDレンズ時代の
キヤノンゼラチンフィルターホルダーと
専用レンズフード

■キヤノラーに俺はなる!
以前からレンズフード関連記事のなかで私は「有名なキヤノンゼラチンフィルターホルダーを使ってみたい」と何度も書いていた。ところがそれを書いていたころには、手ごろな価格のものどころか、手ごろではない価格のものさえも見つけることができなかった。インターネットオークションや某有名フリマアプリを使えば見つけることはでるが、じっさいに手にとって見ることができないので好きではなく、もうずいぶん利用していない。

だから、評判の高さは知っていても自分の手で触れたことさえなかった。

EOS用の3インチ角シートフィルター用のIII型(GFH3)および4インチ角シートフィルター用のIV型(GFH4)ならば、製造終了しメーカー在庫が払底していても、もしかしたらまだ入手はしやすいかもしれない。ただし高価だ。ニコンのAF-3およびAF-4と同様にホルダーとフード数枚、さらに必要なアダプターリングを新品で買うと1万円以上かかる。

そう思って、すっかりキヤノンゼラチンフィルターホルダーのことをあきらめようと決めて、その存在さえ忘れていたある日のこと。とあるカメラ店のジャンク用品コーナーに、興味のあったFDレンズ時代のキヤノンゼラチンフィルターホルダー(ホルダー本体に"Canon HOLDER FOR GELATIN FILTER"とあるもの)が並んでいるのを目にした。フードがふたつと⌀52mmの純正アダプターリングがついてワンコインだぜ。イヌ入りではなくて、税込みで硬貨一枚という価格だ。

嗚呼、南無三。

「セリヌンティウス。」メロスは眼に涙を浮べて言った。「私を殴れ。ちから一ぱいに頬を殴れ。私は、途中で一度、悪い夢を見た。君が若し私を殴ってくれなかったら、私は君と抱擁する資格さえ無いのだ。殴れ。」
(太宰治『走れメロス』)

すぐそばには、専用フードがさらにもうひとつ数百円でジャンク棚にありましてね。政府高官ふうにいうと、私はものを増やさないように「いろいろな意見があるのは承知しているが、万全の体制で努力している」のですが。はい、ご明察。完落ちしました。引用する文学作品はむしろ『人間失格』や『白痴』『悪霊』のほうがふさわしいかもしれないな……。よくしゃべる! 

こうなったら、キヤノラーに俺はなる! 「潜水艦は伊号、飛行機は92式、カメラはKWANON、皆世界一」*だからな!

■作りのよさにほれぼれする
もっとも、カメラボディとレンズ一式すべてをいま急にキヤノン製にする勇気は私にはまだない。たまたまニコンを使っていて、慣れているし困らないからというだけの理由だ。

それでも、ときおり妄想はする。EOS-1D X Mark IIIとサブカメラボディのEOS R5に、16-35mm、24-70mm、100mmマクロ、70-200mm、300mmなどとEF Lレンズばかり持つ写真生活はきっと快適だろう、などと。"Make it possible with Canon"(キヤノンでそれができるように)とほんとうに思う。以前使わせてもらったフラッグシップ一眼レフのEOS-1D X Mark IIも、フルサイズ一眼レフのエントリー機種であるEOS 6D Mark IIだってすごく楽しかったもんな。あこがれるよ。何でも確実に撮れそうだし、死角がなくなりそうで、無敵なのではないかなどと夢想する。

そう思いながらニコンとパナソニックの古い機材をおもに使っている私は、「ゼラチンフィルターホルダーだけは『俺はキヤノラー』」だ。以前から揃いつつあるニコンゼラチンフィルターフォルダーAF-1とAF-2も、もちろん今後も使う。2021年になってゼラチンフィルターホルダーを集めて私は何を目指しているのか、自分でもよくわからない。私、自分が怖い。

前置きはさておき、繰り返しにはなるが、キヤノンゼラチンフィルターホルダーは業務ユーザーのあいだでは評判が高かった。検索をかければpanproductの中居中也さんが記事にされていることがわかるはず。他社カメラユーザーでも、このゼラチンフィルターホルダーを使う業務ユーザーは少なくなかった。

2021年にこうして手にとってみると、なるほど、むべなるかなと思う。フードの長さが2cm程度(ネジ部分を除くと17mm程度)と浅い(短い)ので、これを複数枚組み合わせての長さの調整が比較的しやすい。使用説明書が手元にないので詳細を確認しづらいために、私の誤解があったら申し訳ない。フード1枚で焦点距離35mm程度に、2枚で50mm程度、3枚で85mm程度のレンズに対応していると思う。

各部分が肉厚で重みもあり、頑丈でがたつきもないところがすばらしい。同時代のニコンAF-2よりも重さがある。シートフィルターを支える部分の素材は樹脂のようだが、経年していてももろさは感じさせない。フード内部には植毛がされているところにも感心させられる。

私の手にしている個体は相当使われてきたようだ。安価だったのは、ゼラチンフィルターを用いるユーザーが減ったからという理由だけではなく、そういう理由だ。それでも重曹と石鹸を使い古歯ブラシでこすって、水で流し汚れを落としてみると、歴戦の勇士という雰囲気になった。こういう道具は使い込まれていると迫力があっていい、と思うのはおそらくヲタだからだろうけれど。フード基部のねじがやや固くねじこみしにくい個体なのは残念だが、使用上困ることはない。ワンコインだったわけだし。

私の手元にはキヤノン関連の資料がほとんどないので、発売時期や当時の価格がわからない。1980年代のTシリーズ以前にカメラに用いられていたロゴマークのステッカーが貼られているところを見ると、おそらくは旧F-1の時代に発売されたはずだ。EOS用のものは1956年制定のキヤノン企業ロゴと同じロゴが入れられていて、英文表記も"HOLDER FOR GELATIN FILTER"ではなく"GELATIN FILTER HOLDER III(もしくはIV)"だ。

EOS時代の3インチ用III型とはロゴや細部がことなる

⌀52mmアダプターリング(S-52)、ゼラチンフィルターホルダー本体
レンズフードに分解したところ

■純正アダプターリングつきがおすすめ
前述のように、このキヤノンゼラチンフィルターホルダーはシステムフードというべきものだ。アタッチメントサイズ⌀72mmのレンズ以下に対応する。ゼラチンフィルターホルダー本体と、別売のレンズ前面に接続するアダプターリング、そして別売の専用レンズフードからなる。

ニコン製ゼラチンフィルターホルダーAF-1およびAF-2とはことなり、ホルダー全体が開くのではなく、スリットにシートフィルターを差し込む形式だ。したがって、遮光用のモルトプレーンは用いられていない。ただし、スリット幅はそう大きく設けられているわけではないので、厚みのあるアクリル製角型フィルターには使用できないだろうと思う。

レンズに接続するアダプターリングの外径は⌀72mmだが、サードパーティ製ステップアップリングでは外径が小さいものが多いようだ。だから、できるだけ使用頻度の高いレンズに合う純正アダプターリングも忘れずに入手したい。ただし、一部の店舗に在庫があるIII型用アダプターリングが使用できるのかどうかは私にはわからない。使えればいいのだが。

私は⌀52mmレンズ用しか純正アダプターリングを持っていないが、たまたま所有していたミノルタ製62-72mmステップアップリングはちょうど合った。また、⌀72mmの光学フィルターにはゆるみなく合うようなので、⌀72mmのレンズには不要な⌀72mmフィルターの中身を抜いたフィルター枠を用いている。

なお、写真の⌀52mmレンズ用アダプターリングには「S-52」と刻まれている。じつは「W-52」という刻印のアダプターリングもある。W-52は開口部分の直径が小さくなっている。おそらくはレンズ口径の小さい広角レンズ用だ。口径の大きなレンズではS-52ではないと画面四隅がケラれてしまう。汎用性が高いのはS-52とあるものだ。購入時に注意されたい。

⌀52mm用アダプターリング(S-52)を装着
サードパーティの外径72mmステップアップリングでは
ゆるいことが多いようで、その場合にはパーマセルテープなどで
外径を太らせる必要がある

また、複数枚重ねることができるフードは⌀80mmといっていいのか、独自の口径だ。所有する⌀82mmの各種レンズフードより小さい。III型用フードは⌀82mmだそうだ。そうなるとIII型用のものよりも小さくて組み合わせることはできないと思う。

フードは⌀80mmといっていいのか。
⌀82mmよりも小さい独自サイズのようだ。
EOS時代のIII型用フードは⌀82mmのようで互換性がないかも
(所有していないので確認ができない)



■キヤノン以外のカメラ&レンズにも似合う
このキヤノンゼラチンフィルターホルダーがもっともよく似合うのは、旧F-1とFDレンズに装着した姿だろう。艶ありブラックの旧F-1はほんとうにかっこいいと思う。いまでも旧F-1は所有したいんだよな。おそらくは旧F-1のころに業務ユーザー向けに発売が始められたものだろうから、時代考証も合うはず。

とはいえ、1980年代から2000年ごろまでのT90やEOS一桁シリーズにも、ものすごくよく似合うと思う。臙脂色のキヤノンのプロサポート会員向けストラップにも似合いそうだが、なつかしい赤と白のストラップをつけたA-1でもかっこいいだろう。

金色の地に赤い色の元箱(専用フード)のデザインもいい感じ

だが、シンプルで重厚なデザインだからか、各社のどの機材とも似合うのではないかなあ。私の家にはキヤノンのカメラはレンジファインダーのキヤノン7しかいまはないので、いつものニコンDfとSタイプAIニッコールと組み合わせてみることにする。その組み合わせに似合うと思ったから入手したのだ。

実用という観点から見ると、⌀52mmレンズ用アダプターリングがあり、それを外せば⌀72mmでも使用できるので、アタッチメントサイズがほぼ⌀52mmに揃えられているSタイプAIニッコールレンズで使用するには、使用するつどに着脱とフードの増減を行うことが苦でなければ、ひとつのゼラチンフィルターホルダーでレンズフードを共通化でき、それぞれ純正の指定されているフードよりも長さを稼ぐことができるので便利だ。ニコンAF-1やAF-2よりも便利に感じる。AF-3やAF-4ならば使い勝手は似たようなものだろうか。

私がゼラチンフィルターホルダーを使うのは、この「純正よりもレンズフードの長さ(深さ)を稼ぐため」だ。もちろん「カッコいいと思うから」ではあるけれど、「プロっぽいから」という理由ではないからね。カッコつけとしてもおっさんのたんなる思い込みさ。

ただし、ニコンAF-1より重くはなる。そこで、軽量なAF-1とAF-2はDタイプAFニッコールレンズに用いることにする。

AI Nikkor 28mm f/2.8Sにはフードは装着できない
(画面四隅がケラれてしまうので)

AI Nikkor 35mm f/1.4Sなどの35mmクラスにはフード1枚
(レンズによってはフードなしのことがいいかも)

AI Nikkor 50mm F1.8Sなどの50mmクラスにはフード2枚

AI Nikkor 85mm F2Sなど85mmクラスにはフード3枚

⌀72mmのAI Nikkor 85mm F1.4Sには
⌀72mmのフィルター枠(UVフィルターの中身を外して枠だけにしたもの)
を使うと装着できた

傷だらけで迫力が増す感じ

キヤノン以外のカメラにもよく似合う。
キヤノラーのみなさんはDfとAIニッコールをF-1とFDレンズに脳内変換してね

1980年代のフィルムカメラTシリーズ以前のカメラのロゴ。
こうしてみると上品で素敵だ

なお、遮光という点に関してはいつも書いているように、こうしてフードの長さをできるだけ長くすると同時に、黒いパーマセルテープ(シュアーテープ)か左手でもいいので、ハレ切りを行う必要がある。フードの長さを純正より長めにするだけでは、遮光効果が十分にあるわけではない。また、画面内に直接写り込む光源からの強い光によるゴーストとフレアは、防ぐことができない。

私のレンズフード戦争はこうして新局面を迎えることになったというわけ。「レンズフード戦争」というよりは、本人としては、安価に入手できるフィルム時代のアクセサリーを有効活用する遊びのつもりだなのだけど、どうかなあ。とはいえ、今後とも「安心安全な写真生活を目指す」所存だし「フード病に打ち勝った証としてのレンズフード遊び」を続けていこうと思う。

【注】
*「潜水艦は伊号、飛行機は92式、カメラはKWANON、皆世界一」:『アサヒカメラ』1934(昭和9)年6月号掲載の精機光学研究所(当時)の広告コピー