朝晩の冷え込みがはっきりと強まり、木々も色づき始めた。もうすっかり秋本番のようだ。11月だからね。そして秋といえば「シャコウ」の季節だ。いいよね、シャコウは。
■黒パをいつも貼るのも惜しく思えてきて
シャコウという音読みをする漢語由来の単語はいくつも思いつく。秋といえば鍋物を囲んで日本酒を……えへへへ、いやあ、寒くなりましたね。すみませーん、お酒もう一合追加ね! あと、おちょこをもうひとつ! という意味を連想する方には「社交」だろうか。
私がここでいいたいのは、八海山の純米大吟醸を冷で! あと、焼いた銀杏も追加で! などというほうの「社交」ではなくて、斜めから被写体に当たる「斜光線」という意味の「斜光」だ。太陽が低くなり、被写体にあたる自然光がじつに好ましい。真夏の真上から照らす太陽光では、被写体によっては影が濃すぎる。秋の午後から夕方に雲が出てきて、太陽光が拡散されるのも、被写体や撮影意図によっては風情があってまたよしかな。
そういう好ましい太陽光の季節ということは、古いカメラとレンズを使っているとあれですよ。昨年もあれこれ書いていた、フレアとゴーストに気をつけないといけないということ。
昨今はフレアやゴーストを画面内に大きく取り入れる絵柄がはやっている。私自身は、人物撮影などでまぶしさなどを表現するために意図的に画面内にフレアを生じさせることはいやではない。自分でもやってみたい。だが、いつも書いているように、強い光源が画面そばにあるために生じる斜光線からの「意図しないフレアやゴースト」がものすごくいやでたまらないのだ。自分の写真ではできれば、フレアやゴーストをアウフヘーベン、ではなくてコントロールしたい。一眼レフで撮影する際にミラーの影が画面内に不均一に生じるのがいやだし。
画面内に強い光源を写し込むことで生じるフレアとゴーストは最新のレンズでも防ぎにくいし、そこまでは求めない。デジタルゴーストはPhotoshopで消すことができることもある。だがフレアはPhotoshopでは直せない。
繰り返しになるけれど、画面内に光源を写し込んでいなくても、画面そばにある光源によって生じる、意図しない、表現に対して必然性を感じさせない、自分でコントロールできないで画面に「生じてしまう」フレアがたまらなくいやなのだ。すこーしもエモくないわー。
その解決方法は、最新のレンズを使う、あるいはその状況での撮影をあきらめるのでなければ、いわゆる「ハレ切り」しかない。画面に写り込まない範囲でレンズ前面を斜光線から遮る影を作ることだ。ハレ切りには黒い傘を使うのがもっとも効果的だろう。だが、それは三脚を用いる場合ではないとできない方法だ。ホットシューにアダプターをつけて黒い板を用いる場合は、ホットシューを傷めないように要注意だぜ。そこで、手持ち撮影時にもうまくハレ切りをすることを考えていて、純正よりも長くしたレンズフードを装着し、左手や黒いパーマセルテープ(シュアーテープ)を使う方法を昨年来から行ってきた。
それはまあ、いいのだけど。パーマセルテープを毎回毎回貼るのも少々あれだよな……と考えていた。ハレ切りが必要になる状況というのはしばしば明るすぎる日中が多く、背面モニターで撮影画像を再生しても四隅がよく見えない。その結果、かなり慎重に試写して確かめたつもりでも、貼る位置がよろしくなくて画面四隅にパーマセルテープで暗くけられてしまうことがある。すごいだろ、意味がわからないだろ。ハレ切りしたつもりなんだぜ、それで。
ゼラチンフィルターホルダーなどの記事にも、レンズ前面に取りつけるキャップ式フードのようなものを自作するといいのではとも書いていた。ところが私は不器用で工作が得意ではない。素材を円形にきれいに切り出すことができないし、ハーゲンダッツのキャップに四角い開口部をうまく設けることができるだろうか、などと考えてためらっていた。あれは着色しづらい素材だし。
そしてなによりも、よくいうと「手作り風味が強すぎる仕上がり」になるのもいやだという、怠惰で不器用なくせにわがままで見栄っ張りなところがあるので。「あ、ご自作されんですね」といわれる感じの仕上がりの工作物になるのはその。あー、うるさくてめんどくさいなー、俺氏。
秋も深まるある日、自分で書いていることを、もしかしたら簡単に解決できるのではないかとようやく気づいた。ゼラチンフィルターホルダーに合うサイズでシートフィルター代わりに黒い紙を使えば、キャップ式フード同様の働きをするマスクをより簡単に作ることができるのではないか、と。厚紙やプラバンを切り出すくらいなら私でもできる。何枚も作っても手間がそうかかるわけではない。
梅雨のころからゼラチンフィルターホルダーが手元にあったのに、なんて鈍いのだろう。でもまあ、思いつくことができたからいいか。プラバンを切り出す元気も一時期はなかったというのも正直なところなのだけどね。まあいいさ。Лучше поздно, чем никогда.(遅くてもしないよりはましだ)
シートフィルター用のペーパーマウントを持っている方ならば、それを利用すればもっと簡単だろう。ペーパーマウントに黒いパーマセルテープでも貼るだけで十分かもしれない。スライドフィルム用のマウントを使うこともできるだろうか。
その切り出した正方形の中央にアスペクト比3:2になるように長方形の穴を開けた。開口部のサイズはまず、スライドフィルム用マウントを利用してケガキながら36ミリ×24ミリ程度からはじめて、それを同じ比率のまま大きくして何パターンか作った。開口部サイズはレンズの焦点距離と被写体への距離に応じたレンズの繰り出し量にもよるだろうから、各自工夫されたい。
素材は紙で作るのがいちばん簡単だ。私は試作品は黒い厚紙で作り、それからタミヤの0.5ミリ厚のプラバンを切り出し、中央に穴を開けた。耐久性を考えたからだ。自分の好みを考えると、雨の日にきっと濡らしそうな気がする。雨の日には強い斜光線は生じないはずだが、夕方から夜に街灯のある場所で撮ることは多いので、その場合の画面外の有害な環境光を避けたいとも思っているからだ。開口部を紙やすりで仕上げてから流水で洗い、タミヤカラーのマットブラックのスプレーで塗装をした。
さらに、黒いパーマセルテープや植毛紙(ウールペーパー)を片面だけは貼った。貼った面をレンズ側にして使うつもりだ。
「ハッセルブラッドプロフェッショナルシェード⌀50-70」にも3インチ角シートフィルタースリットはあるものの、せっかくスリットのあるレンズマウンティングアダプターを外さないと一般的なレンズに使用できない。そこで、同じように0.5ミリ厚のプラバンでプロシェード前部に差し込むための、アスペクト比3:2のフロントマスクを作った。私の持つ個体には、1:1のマスクも付属しなかったし。
さて、それではこれらを用いるとどんな効果があるだろうか……というのは、いままさに試しているところ。開口部の大きさを変えたマスクを複数用意したのは、小さいサイズで作ってみると画面がけられてしまうということを繰り返したから。「画面がけられないが効果のある開口部のサイズ」はけっこうシビアなのかもしれない。そのあたりの試写と検証がだんだん面倒くさくなったので、大きめのサイズのものも同時に作っちゃえ! という感じで作業をした。PDCAサイクルってそういうことなのにね。
そのうちの一枚を使いつつ、同時にさらに左手でハレ切りをしながら撮ったものが以下だ。マスクだけでもうまくハレ切りできないほどの、強い斜光線だった。そして、1980年代の製品だからそう「古い」と思いたくはないけれど、AI Nikkor 50mm F1.8Sは2021年から見たら「古い」レンズであり、斜光線に弱いから仕方がないのだ。このレンズはほんとうに、強い光に弱くなかったらもっといいのにな。それでも、ハレ切りしてみるとなかなかいい感じだと思うんだけど、どうかな。
手元にあるもう少し新しく、フレアやゴーストへの耐性がもう少しだけは強くなっているDタイプAFニッコールレンズでこれを使うとどうだろうか、ということも気になっている。また、大口径で好きなAI Nikkor 85mm F1.4SやAI Nikkor 35mm f/1.4Sにもうまく使えないだろうかとも。太陽光の斜光線以外に、夜の撮影時にしばしば起こる周辺の有害光のカットにも使えないだろうか。そのあたりはおいおい使いながら試していこうと思っている。