2023年春のダイヤ改正のことを私自身はあまり強くは意識していなかった。JR西日本の和田岬線に残された最後の103系電車R1編成の置き換え、JR東日本では高崎線・吾妻線を走る651系電車の置き換えがあり、西武鉄道では秩父鉄道乗り入れ列車がさらに減便されたことは知っていた。
首都圏での大きなニュースは、かねてから建設中であった相模鉄道と東急東横線を結ぶ神奈川東部方面線のうち、相鉄・東急新横浜線が開業したことだろう。相模鉄道はJR埼京線だけではなく、東急東横線・目黒線、東京地下鉄副都心線・南北線、東京都交通局三田線、埼玉高速鉄道埼玉スタジアム線、そして東武東上線とも直通運転を始めた。
本稿執筆時点では相鉄の車両が東武東上線内を走る、あるいは東武の車両が相鉄線内を走ることはないようだが、首都圏の交通ネットワーク化の流れとしては、非常に大きなインパクトを持つといっていい。横浜駅周辺開発のかつての主体であった相鉄が、みずから開発したターミナル駅を使わない旅客輸送を本格化させたというところが重要なのだ。
■東武東上線末端区間の「輸送力の適正化」
直通運転のない西武鉄道沿線利用者の自分には、この神奈川東部方面線の完成とそれによる恩恵を受けることはそうはないかも……と思っていた。東海道新幹線を新横浜で利用することがないもの。だが、東武東上線のダイヤ改正によって意外にもすぐにそれを体感することになった。東上線森林公園以遠と越生線もダイヤ改正で大きな変更が行われたからだ。
「ワンマン 森林公園行き」だ |
先日来から撮っている越生線のダイヤにも変更があったようだが、より大きな変化は東上線森林公園検修区所属の8000系電車4Rワンマン車の東上線での営業運転区間が拡大されたこと。従来は小川町から寄居までだったそれが、昼前後の閑散時間帯と深夜だけは、森林公園から寄居になった。そして池袋方面から小川町まで行かず森林公園が終点の列車も増えた。
東武鉄道公式サイトより。 東上線ワンマン運転区間拡大を示した概念図 |
森林公園から小川町にかけての「お客様のご利用状況に合わせた輸送力の適正化」「時間帯ごとの運転本数の見直し」(いずれも東武鉄道公式)がこうして行われたわけだ。
■森林公園発着ワンマン列車は坂戸まで回送する
私はこのことをじつはダイヤ改正当日まで気づいていなかった。あいかわらず、うかつであれな感じだ。そして、ダイヤ改正翌日にひさしぶりに東上線の寄居まででかけたところ、いろいろと変わっていることに気づいて驚かされたのだった。
まず、乗った下り急行列車が森林公園止まりだったこと。小川町行きが減って快速もなくなり、川越市以遠は各駅停車になる列車が増えて所要時間も増えたし、森林公園止まりが増えたな……と思ってはいたのだが。
そうして坂戸に着いたところ、越生線ホームである2番線に「回送」と表示されたオレンジベージュの81107編成が出発待ちをしていた。越生まで回送する運用があるとは思えなくて、直感的にこれは東上線下り方面を目指しているのだと気づいた。運転士氏が本線の信号待ちをしている雰囲気がした。先行する急行列車にちらりと視線を走らせるさまを見て、そう思った。
そしてさらに、乗車中の下り急行列車は高坂と東松山のあいだで、セイジクリームの81111編成上り列車と離合した。いままでも越生線への送り込み回送列車は存在した。だが、これはそうではないと判断できた。時間がことなるし。
そうして森林公園で急行列車から降りると、始発の寄居行き列車は2番線に上り方向からやってくるという。 テツのひとたちがみな上り方向を見ていてわかった。ほどなくして、さきほど坂戸で見かけたオレンジベージュの81107編成が上り方向から入線してきた。乗車していた下り急行列車に続行して下ってきたことになる。
坂戸から回送してきた81107編成が寄居行き始発列車として森林公園2番線着 |
ここでわかったのは、この閑散時間帯の森林公園発着の8000系充当列車(ワンマン運転の4両編成)は森林公園で転線するのではなく、いちど坂戸まで回送して折り返してくるらしいということ。えー、わざわざ坂戸まで行くの! とは思わなくもない。
森林公園駅2番線に停車中の始発寄居行き |
でもよく考えたら、本線でも北春日部にある検修区から亀戸線への列車の送り込みも、曳舟まで8000系2R車を本線を回送させ、亀戸線からは大師線に送り込み、玉突きで大師線から北春日部まで走らせて入庫という大掛かりなことをするものね。それに比べたら坂戸〜森林公園はたいした距離ではないか。東武鉄道ではこういう回送はめずらしくはないのかな。
森林公園に都合のいい渡り線や留置線がないのか、それをあらたに改良するほどコストを掛けたくはないのか、それとも運行本数が多い駅で転線をさせたくないのか、そのあたりはよくわからない。ネットにアップしてくださっている方が作画された森林公園の配線図を見ると上り方にも渡り線はあるようだ。だが、本線上でいちど停まらないといけないならば、本線を長い時間支障してしまいそうだ。上記の理由から坂戸まで回送させるのだと想像している。もしまちがっていたらごめんぬ。
■東上線での8000系の活躍の場が増えた
とにかく、日中に森林公園〜寄居の営業運転を行うようになり、さらに坂戸まで回送するのだから、坂戸〜森林公園〜小川町を8000系が走る機会が増えた。古い電車好きにはこれは興味深い。
いままで10000系電車や30000系電車に乗りながら「ここを8000系が通るところを撮っておけばよかったなあ」と思う場所が私にはいくつかある。令和になってそういう撮影が可能になったわけですよ。
この日はセイジクリームの81111編成も東上線運用だった |
国鉄(JR)103系は確実に姿を消しつつある。それなのに「私鉄の103系」である東武8000系は、だいぶ数を減らして少しずつ置き換えが進んでいるとはいえ、こうして営業区間が増えた。ちょっとおもしろくはないか。
この日は筆者は森林公園から寄居までの下り列車としてオレンジベージュの81107編成に乗り、玉淀から小川町にはセイジクリームの81111編成に乗った。どちらも昭和の時代のリバイバルカラーだ。もう8年も走っている。
音程のあやしい『贈る言葉』の熱唱が右のお店から聞こえた |
さきほどの寄居行きが折り返して小川町行きに |
紺色で書かれた形式と車両番号に「東武鉄道」の文字 「らくだ色」の座席シートとクリーム色の内装板。 昭和の東武8000系電車はこうだったのです |
玉淀では上り列車のまえに下り寄居行きが先にくるというので、踏切そばに立っていた。するとそばの店からは音程のじつにあやしい『贈る言葉』の歌声が聞こえた。19時にしては酒量が多いように感じられたのは、日曜日だからすでに早めに始めたからなのかねえ。
そうして目のまえをセイジクリーム塗装の81111編成が通過する。『金八先生』に登場する堀切駅のあるあたりよりもだいぶ上流だけど、たしかにここも荒川は近いか……昭和98年すぎて思わず吹いた。ここは東京都足立区じゃないけど東武8000系は時代考証としては正しいわけだ。かのドラマはほとんど見たことはないけど。さんよんさん! よんきゅーいちいち! の時代ともだいたい同じかも。あ、撮影者のレンズも昭和のレンズだわ。
1988(昭和63年)9月 通過標識灯が残されている |
1988(昭和63年)9月 |
このところたまたま東武8000系ばかりを追いかけていたら、この日もあらためて東武8000系になにかと縁がある日だった。走っているうちに、もっといろいろな姿をうまく絵にできたらいいね。やってみよう。
【撮影データ】
Nikon Df, Sony α7II, iPhone 7 PLUS/AI Nikkor 50mm F1.8S, AI Nikkor 85mm F2S, AI AF Nikkor ED 300mm F4S (IF)/RAW/Adobe Photoshop CC