Nikkor-S Auto 55mm F1.2で完全逆光だとフレアとゴーストは出る。 背景も整理しきれずにいろいろとよろしくない |
よく晴れた日の午後遅くに、入間川沿いのサイクリングロードを自転車で走った。こんどは先日のエントリーで記した八高線入間川橋梁よりも下流にある、川越線入間川橋梁をめざした。直通運転を行っているから、走っている車両はどちらも同じなのだが。
■日没を待ってみたら
とはいえ、209系3100番代ハエ71・72編成が走っていた2021年春以来、ずっと行っていなかったのだ。決して遠いわけではないのに。私は特定の列車をねらうのではないと、いつでも行けるような気がして足が遠のくのかもしれない。もともと、そうそうアグレッシヴでイケイケな性格でもないのに、年齢相応の不調もあるから。認めたくないものだな。
■逆光に弱いレンズなのに到着時は完全逆光
さて、八高線入間川橋梁には太陽の位置を気にして出かけたのに、下流の川越線橋梁にはあまり意識もしないででかけた。この場所は季節により日の入りの方向がだいぶ変わるのにね。冬は上流方向に太陽が沈み、春から夏は下流方向に沈むのだ。
到着したときには太陽はまだ高く、下流側の川越方から見るとちょうど真正面にあるような状況だった。そして、Nikkor-S Auto 55mm F1.2やAI Nikkor 85mm F2Sのような、フィルム時代に作られていまのレンズと比較すると、強い光にはずっと弱いレンズをカメラにつけてきた。冒頭のカットはモノコートのNikkor-S Auto 55mm F1.2で到着直後に撮ったものだ。太陽を画面内に入れているので、画面左側にフレアとゴーストが出ている。しかも、長めのレンズフードも自宅に忘れてきたというていたらく。
学ばないあたりが私もずいぶんhorse & deerといいますか、あれよね。おでばがだから。
フレアやゴーストが好きなひとは若いひとたちにはいるようだけど、こういうでんちゃの写真を撮るときには、私には望ましくはない。雰囲気描写にも貢献しなくて、こういう写真ではまったく意味がないもの。私にはそういうわけでフレアとゴーストは「お断りします」というところ。根本凪ちゃんがカバーして歌うバージョンを貼りますよ。
べつに逆光などは怖くはない。ダイナミックレンジ(記録可能な階調再現範囲)内に収まるように露出を設定して撮ればいい。もっとも、知らないひとにはこのことがいちばん難しいのかもしれない、とTwitterを見ているとひしひしと感じる。自動露出(AE)で撮影するならば露出補正も使う。そしてRAW現像時にシャドーを持ち上げてハイライトを飛ばさない処理をすればいい。フレアとゴーストも強い光を入れないように、対策を講じればいいだけだ。
そう思って太陽を画面内に入れないように「なんとかする」ことを考えた。通過時刻が決まっている特定の列車を撮りたいわけではないから、待てばいい。
1. 太陽が動くまで待つ
2. カメラを構えるポジション(位置、あるいは高さ)を変えてみる
3. レンズを向けるアングル(角度)を変えてみる
Sun ServeyerのARビューで日没方向を確認した |
例の太陽と月の位置予測スマホアプリ「サン・サーベイヤー(Sun Serveyer)」でみると、カメラを構える位置を右にするなどして構図を工夫すれば、日没直前の太陽は画面外にできそうだ。右側にある木で太陽を隠してしまうのもいいかもしれない。
逆光とわかっていても私がこの場所に来たのは、いくつかの理由がある。橋梁の上流側には手すりがあるので、車体にかかって邪魔をするように思える。
下流から撮ればこの時期ならば側面を反射させることもできる。ただし、下流側から撮るのでもカメラの高さが高いと背後にある建物や並行している初雁橋が画面に入る。私は画面に入れる意味のない建物や周辺のものを写真内に入れたくはない。いつもいつも書いているように、できるかぎり画面をシンプルにしたい。
そこで、ややカメラを構えるポジション(位置、あるいは高さ)を下げて、レンズをやや下から見上げる角度(ローアングルで)構えている。
カメラのポジションをやや下げて、レンズのアングルをやや下から見上げるようにすると、背景をすっきりさせて、列車の背後を空だけにすることができる。ただし、209系3500番代とE231系3000番代のもともとこぶりなパンタグラフも、車体に隠れて見えづらくなるのと、極端な仰角にはしたくはないので、高さの調整のための試写を私は相当繰り返すよ。
2021年6月に撮った209系3100番代ハエ72編成。 このときはAIAF Micro-Nikkor 60mm f/2.8Dを使った。 遠近感や収まりのよさは60mmがいいかも |
2021年の春にそうやって撮った209系3100番代ハエ72編成の写真が気に入ったので、こういう撮り方をすることにしたわけだ。そのときよりも側面の反射をめだたせるように撮影位置を工夫してはいるけれどね。
この場所にはそれ以前にも10年ほど通っていたのに、この手法を思いついたのはここ数年だ。どんなものごとでも10年くらい続けないと身につかないのかも。私がうかつなだけか。
そうして、散歩中のイヌに不審そうにクンクン匂いを嗅がれたり、蚊の飛ぶ音に悲鳴を上げそうになったり、あるいはすぐ下流にある東武東上線の橋梁を東急5050系4000番代車のQ seatの付随車がはさまれた編成を見ているうちに、日没がせまってきた。東上線のほうが複線だし列車の本数も多いのだが、あちらはワーレントラス橋というのかな。私には側面からねらいにくいのだ。
この日はだんだん雲が出てきた。そして、太陽を隠すこともあったので、どうなるだろうか心配になった。ところが、列車がやってくることに太陽が雲の切れ目から姿を現した。まさに『風の谷のナウシカ』映画版イメージソングの一節のように「雲間から光が射せば」というやつだ。もちろん、私のからだは宙に浮かばないよ。
AI Nikkor 85mm F2Sで。こんな空になって感激しちゃった |
下り列車も待った。RAW現像時にホワイトバランスはややアンバーとマゼンタ方向に調整はしているものの、色づきはこちらのほうが素敵だ。
フレームアウトさせたほうが車体の輝きを強調できるかも |
■日没後のようすは想像をいつも裏切る
的場で上下交換が行われるので、下り列車が去ったあと数分で上り列車も来る。さすがに光量が少なくなるかと思われたが、これはこれで雲に表情があっていい感じ。日没の空はいつみても私には、事前の予想を裏切られる気がする。ただたんに、私の予想が甘いだけなのか。ねばってみると意外とよくなるという経験だけを覚えているからかもしれない。そして、こういう空模様を見てしまうと、日没どきの写真がいつまでもやめられない。地味で目立つところもない支線を列車が行き交う、都市近郊ではありふれた景色をドラマチックに見せるのがおもしろいのだもの。
Adobe CameraRawの画面キャプチャーを示す。Lightroomでもあまり変わらないし、それ以外のRAW現像ソフトでも理屈は同じだ。
RAW+JPEGで撮影してRAWデータを現像する理由は、何度も書いているが単純だ。14ビットRAWならば16,384色で記録している。いっぽう8ビットのJPEGデータは256色だけで階調を作る。RAWデータにはより多くの階調情報を残されている。だから、RAWデータを現像してからレタッチをしたい。そのほうがレタッチ後にも画質の劣化が少ないのだ。(リンク先は市川ソフトの解説ページ)
①シャドーとハイライトと色飽和の警告表示を使い、無用な白とび、黒つぶれと色飽和を防ぐこと。とくに色飽和は注意したい。色を力強くしようとして彩度のパラメーターをがんがん上げて、階調が壊れている(色飽和を起こしてその部分がのっぺりしている)写真を見ると惜しくなる。そうなるときれいに印刷はできないから。私は色飽和を防ぐために、彩度の調整と同時に、色飽和を起こした場合にはコントラストを減らすことも。
②「逆光だと暗くなるから撮れない」わけではない。たしかに、極端な逆光では補助光を用いないと暗部がつぶれてそうなることはある。だが、シャドーが完全にはつぶれないような光線状態を選び「ハイライトが白とびしない程度に露出補正を行い、同時にシャドーを持ち上げて明るくする(コントラストを下げているのとほぼ同じ)こと」はできる。たいていはやや暗めの露出で撮影しておき、RAW現像時にシャドーを中心に明るめに補正する方法でしのぐ。カメラ側にそういうトーンに調整を自動でする機能も、いまのカメラならばたいていは備わっているよ。
ただし、HDRはスマホでもデジタルカメラでも複数枚の露出を変えて撮影した画像から生成するので、動きのある被写体には(とくにスマホは)向かないので注意。
③「彩度」「自然な彩度」をまっさきにいじらないこと。とくに、鮮やかでコントラストの強い絵作り設定(ニコン「ピクチャーコントロール」やキヤノン「ピクチャースタイル」など)を選んで撮影していたら、彩度の追加は大きくしないこと。まずは露出や階調の調整を行ってから、最後のほうに彩度のパラメーターをちょっとだけ触ることをおすすめする。「かすみの除去」や「明瞭度」を追加するならば、なおさら彩度を大きく変えるべきではない。すでに階調と彩度に手が加えられているからだ。もし彩度を追加するにも、前述のように色域外警告表示を使いながら、ほんの少しずつ慎重に、だぜ。
平成時代の写真術で「偏光フィルターを常用する」方法があった。私はこれはまったくおすすめしない。光量が減ることと階調がおかしくなることが多いから。もし偏光フィルターを常用しているならば、撮影後に彩度をさらに足すことはなおさら避けたい。
こういう話はRAW現像についての解説本にもあるから、理屈がわからない方は玄光社やインプレスなどから出ている解説本をぜひ読んで、体系的に学んでほしい。カメラ・写真関連の出版をやっている私からの心の底からのお願いだ。
【撮影データ】
Nikon Df/Nikkor-S Auto 55mm F1.2, AI AF Micro-Nikkor 60mm f/2.8D, AI Nikkor 85mm F2S/RAW/Adobe Photoshop CC