『ローカル戦士センガタン』は 昭和の戦隊モノへのオマージュだろうから 偽昭和風写真によく似合うかも |
■「フィルムの写真」と聞いて連想するものは
以前にも書いたことがあるけれど、いまの30歳台以下のみなさんにとって「フィルムカメラで撮った写真」(≒ 銀塩写真*。以下「フィルム写真」と略)というと、大多数のみなさんが連想するのは黄色や緑の色被りがあり、コントラストが低くフィルムの粒子が目立つような褪色したカラーネガフィルムからのプリントのようだ。さらに、フレアとゴーストが入ってハイキーにしてあればなおそれっぽいのだろう。
期限切れフィルムや輸入フィルムでわざと色被りをさせて粒子が目立つ写真を「フィルム写真らしい」という理由で好む方が一定以上いることに、SNSを見るたびに気づかされる。SIGMA fpのカラーモードにある「ティールアンドオレンジ」、各社カメラにあるブリーチバイパス(銀残し)ふうの絵作り設定、あるいはブラックミストフィルターなども、こうしたレトロでフィルムらしさを表現するツールなのだろう。
■アラフィフのおっさんには新鮮な感覚なのよ
アラフォーというよりもアラフィフに近い筆者には、その感覚は新鮮だ。ついでにいうと自分の年齢にもあらためておどろかされるけれど、それはまあいいや。
ええと、話を戻す。色被りをさせて粒子が目立つ写真が「フィルム写真らしくて」好ましいというみなさんの感覚に新鮮さを覚えるという話ね。それはなぜかというと、色被りやフィルムの粒子が目立ってしまうことは、フィルムを使っていた当時の筆者には嫌でたまらないものだったから。さらに、筆者はどちらかというと、フィルム写真というと高彩度で高コントラストなカラーリバーサルフィルム(カラーポジフィルム)の写真を連想するからだ。
このあたりは、どちらの感覚が正しいという話ではない。マウント取りでも皮肉でもない。たんに経験の差なのだろう。アマチュアユーザーならば「カラーリバーサルフィルムを使ったことがあるか」だろうし、職業写真家ならば「カラーリバーサルフィルムで業務の写真を撮影し原板で納品した経験があるか」、編集者ならば「納品されたカラーリバーサルフィルムで仕事をした経験があるか」によって「フィルム写真らしさ」連想はことなるのだろうと、少し年上の写真家たちと話している。
まじめにいえば、筆者にとってのフィルム写真らしさとは8ビットカラーの256階調にしばられない連続階調(アナログであること)にあるのではないか、などとも思う。だが、そのあたりの話は難しくなるばかりでおもしろくないのと、筆者にはうまく語る技量と知識がないので、それ以上は語らない。
■「フィルム写真らしさ」を感じさせる要素を考察した
よく晴れた日の色あざやかな写真も褪色するのさ。 コニカカラー百年プリントの印画紙を探してきた |
そんなことを考えているうちに、デジタルカメラで写した写真をいまのみなさんが連想するフィルム写真のように見せることはできるかなあという、いたずら心がむくむくと心のなかで湧いてきた。そこで、数年前の記事でもやったことがあるけれど、あらためて「褪色したカラーネガプリントふうにデジタル画像を見せる」方法を考えてみたというわけだ。これはだから、写真の見せ方を考える実験だ。
カラーネガプリントが褪色するとどうなるかをまず考えてみた。基本的には以下のようになるだろうか。
1. 黄色からアンバーの色被りを起こしてカラーバランスがおかしくなる
2. あざやかさが失われ、全体の濃度も低くなる
3. 解像感や鮮鋭度はもとからあまり高くはない。さらにそれらが失われる
蛍光灯下の補正用のフィルターを使わないで撮ると 緑色の色被りをしてしまうことを再現したつもり |
4. 蛍光灯下、水銀燈下、あるいは白熱電球下でのカラーバランスを補正しきれていないプリントがある(とくに、同時プリントで仕上げが早いものなどには、色温度の補正ができていないものがある)
5. 撮影時にカメラ側に日付印字機能がある場合、撮影日時などがフィルム幕面に入っている
6. 光沢プリントで縁ありを依頼すると、印画紙にブランド名が入っているものがある
■これらの要素をAdobe Photoshopで作ってみた
撮影に興奮してたくさん撮ってしまい 「焦ってフィルム交換をするのにうっかり裏蓋を開けてしまった」 そんなことのないひとだけ私に石を投げなさい(いや、投げないで) |
そこで、これらの要素をRAW現像時から考えつつAdobe Photoshopで作ってみたのが、これらの掲載写真だ。なお、最新のカメラならば機種によっては撮影時にアンバーのトーンを強調してシャドウを持ち上げ、コントラストやシャープネス、彩度を落とすようなカラーモードやフィルター効果などに設定すると、褪色したようなフィルム写真の雰囲気にすることもできる。
また以前も書いた通り、フィルムの傷(スクラッチ)は好きではないので入れていない。
まず、黄色からアンバーの色被りはホワイトバランスを高め(6,000K以上)にしている。手軽に行うならば「ホワイトバランス:曇天」などに変更する。蛍光灯下で撮影した写真はわざと緑被りをさせるために、3,000K程度にした。
掲載写真では、手を抜いてCameraRawにあったプロファイルの「モダン」もしくは「アーティスティック」に含まれる、画面全体のコントラストを下げて色被りを与えるプロファイルを使ってしまった。これはたんなる横着だ。プロファイルを使わない場合でも、RAW現像時の方向性はニュートラルもしくはフラットなどの名称のついた絵作り設定にして「色被りを与えてコントラストを下げ、シャドウのしまりをなくす」ように考えよう。そして彩度は下げる。
また、CameraRaw上でシャープネスもオフにする。シャープネスが強いと「デジタル臭」がなくならない。そして粒状ノイズをやや多めに加える。わかりやすくいうと「できるだけゆるくする」ということだ。基本的にはこれだけだ。
ただし、それだけではおもしろくはないので筆者は褪色した縁あり同時プリントを探してスキャンした。そこにあるFUJICOLOR HRや百年プリントの文字をそのまま利用するためだ。この褪色したプリントの余白も決して純白(RGB 255.255.255)にしてはいけない。この余白自体も黄色く色被りしているほうが「それらしく」見える。そして白縁にRAW現像した写真をはめ込んだ。大いなる蛇足だけどね。
しかし、神は細部に宿るのだ。よくいうぜ、と我ながら思う。ようしらんけど。
また、日付はそれっぽいフォントを探して写真に載せた。その際にもベクターデータである文字をいったんラスタライズを行なって(画像に変換して)からぼかしを加えている。いろいろな境界線をぼかしてめだたなくすることも、デジタル臭をなくすテクニックだ。
また、ここでは本物の昭和の写真ではなく、平成時代の写真でもどことなく昭和に見えるような被写体のものを選んだ。そこで、少しまえの1000系電車が走っていたころの秩父鉄道の写真を使った。
■「写真とはかくあるべき」なんてものは存在しないのではないか
強調しておきたいけれど、筆者は「いまのみなさんが連想するフィルム写真」や「秩父鉄道」をからかってばかにしているわけでは決してない。ちょっと前の写真を「さらに古く見せるにはどうすればそう見えるかな」というちょっとした実験をしているだけだ。
さらにいえば「写真とはどういうものか」というじつに哲学的な命題への一考察をしているわけですよ。大げさだなあ。でもマジで。
先日のエントリーで問うたのは、被写体の希少性だった。今回は特定の機材やマテリアルとの関連性、写真の見せ方について考察しているのだ。キャプションのない一枚の写真から物事を判断するのに、被写体やプリントの状態に頼るはず。けれど、写真はいくらでも作ることができるので、被写体からの読み解きも不確実だというひとつの証明かもしれない。
特定の機材やマテリアルではないと得られない写真、というものはそう多くはないのではないかな。「写真はかくあるべき」というものなんて存在しないという例でもあるよね。
昭和というよりもほぼ日の「味写」 |
これらをEPSON 写真用紙[絹目調]、またはキヤノン写真用紙・絹目調(いずれもアマゾンアフィリエイトリンク)でプリントするとそれらしく見えるだろうか。ただし、絹目印画紙では当時の同時プリントは縁なししかなかったはずなので、その点は要注意だ。印画紙サイズもA判よりもL判や2L判のほうがそれらしく見えるだろうね。
みなさんの参考になるかどうかは怪しいけれど、これらのフィルム写真ふうに見せるテクニックを少しでも楽しんでいただけたらさいわいだ。なお、このテクニックを悪用してだれかをだましてはいけませんよ。とくに、画像処理を禁じているような写真コンテストにだまって応募するようなことはよろしくないからね。
【撮影データ】
Nikon 1 V1, D2X/1 NIKKOR 10mm f/2.8 ,AI AF Nikkor 35mm f/2D, AI AF Zoom-Nikkor 80-200mm f/2.8D ED <NEW>/RAW/Adobe Photoshop CC
光線引きを作るために、 まず画面端をグラデーションツールで赤く |
そのうえにベージュ色のグラデーションを重ねた。 グラデーションツールを使うのは 被りを不均一にするためと境界をぼかすため。 被り部分と画像の境界にぼかしがないと「デジタル臭」が出る |
色被りをした感じのプロファイルを選ぶと簡単だ。 カメラ内にそれらしい絵作り設定やカラーモード、 フィルター効果がある機種ならばそれを選んでもいいだろう |
スクリーンショットを撮る際に macOSではコマンドキーを押すと 各項目に「自動処理」が加わってしまうようだが、 筆者はすべて「自動処理」ではなく行なっている。 ホワイトバランスを通常の5,000K程度から6,000K程度にしていること、 コントラストを下げていること、彩度を落としていることを見てほしい |
noteにてAdobe Photoshopによる「偽昭和風銀塩写真」の作り方を解説しました。
■関連項目
■注釈
*「フィルムカメラで撮った写真」(≒ 銀塩写真):21世紀に入ってからはミニラボ機は、原板がフィルムであってもスキャンしてデジタルデータ化し、それをレーザーで銀塩印画紙にプリントするデジタルレーザープリンターになった。いま、カラーネガフィルムからプリントをDPE店に依頼するとネガと一緒にデジタルデータももらえるのは、ネガを現像してからデジタルデータ化して銀塩印画紙にプリントしているからだ。デジタルカメラの画像も同じ機械でプリントできる。つまり原板がフィルムで銀塩印画紙が使われていても、デジタル画像にいったん変換されたデジタルプリントだ。
本稿では、それ以前のネガ原板からデジタル的な分解(デジタル画像データ化)をしないアナログプリンターで印画紙にプリントされた写真を念頭において書いている。「ニアイコール銀塩写真」と記したのはそういうわけだ。
銀塩印画紙にプリントされたデジタルデータは、ミニラボ機の初期設定で強めにシャープネス処理がされていて、一見すると解像感がとても高いように見える。レンズつきフィルムで撮影したものも解像感が高く見えるし、もともと高解像の高性能交換レンズで撮影すると、シャープネスが強すぎることさえ。とはいえ、銀塩印画紙なのだから褪色自体は同じようにしていくだろう。
レンズつきフィルムで撮影したものも、自慢の舶来高級カメラで撮影したものも、あるいは最新のデジタルカメラやスマホで撮影したものも、どれも非常にシャープに見えるようにプリントされるので、そのプリントから「ゾナーとズミクロンの差を見わける」ことは困難だ。フィルムのもつアナログな階調もデジタル化されるために狭められているし、すべて同じように見せてしまうという価値観の大逆転を感じさせて、筆者には少々愉快でもある。