2019年11月21日木曜日

【カメラ機材の話】「親指AF」を試用中なり

被写体への距離が離れているので
AF測距をしてから構図を変えてもなんとかなる例

■「親指AF」をキミは知っているか
者はひさしぶりに手元のデジタルカメラのオートフォーカス(AF)設定を変更した。いまその試用をしているところだ。それは、いわゆる「親指AF」への設定変更。通常のデジタルカメラのAFはシャッターボタン半押しで作動する。これを解除して、ボディ背面にあるほかのボタンにAF-ONの動作を割り当てた。シャッターボタンとはふつうは人差し指で押すものだが、このAF-ONボタンは親指で押すことになるので、「親指AF」などという呼び名があるというわけだ。

筆者はこの設定を昔から知ってはいたけれど、日常的に用いることはなかった。けれども少し気が変わって、この設定を試したくなった。


■ミドルクラス35ミリフルサイズ一眼レフには便利かも
親指AFとは前述の通りに、AF動作を割り当てたAF-ONボタンで行う設定。シャッターボタン半押しAFの解除と組み合わせることで、なんらかの専用ボタンを押しているあいだだけにAF動作を行うようにしたということだ。

親指AFに設定して使いやすくなるかどうかは、被写体、撮影スタイル、好みの構図による。あえていえば、フォーカスロック(AFロック)の使用頻度が高いユーザーに向くといっていい。そして、親指AFが向く条件は大きく分けて二つある。ひとつは、カメラのフォーカスポイント(AF測距点)が画面内にどう配置されているか。

とくに、ミドルクラス35ミリフルサイズ一眼レフを用いて手持ちでファインダーAF撮影するユーザー向けだといっていいのではないかと思う。というのも、ミドルクラスでは位相差AF(ファインダーでのAF)のフォーカスポイントは比較的画面中央寄りであり、画面周辺部には設けられていないものが多い。被写体に対峙して構図を決めても、主要被写体が画面周辺部にあると、ピントを合わせたい部分にカメラのフォーカスポイントが重ならないことが多いはずだ。そこで、たいていのユーザーは主要被写体に近くに位置するフォーカスポイントを用いてピント合わせをいちど行ってから、フォーカスロックをかけてピント位置を固定したまま、構図の微調整(前後の調整ではなく、上下左右の調整)を行ってレリーズしているはず。

このフォーカスロックの使用頻度が高いならば、シャッターボタンの役割はレリーズだけにして、必要なときにだけ割り当てたAF-ONボタンでAFを動かすほうが合理的ともいえる。

こうやって画面中央に主要被写体を置かない場合に
フォーカスロック(AFロック)は必須だ

ミドルクラス35ミリフルサイズ機だと、
フォーカスポイントが画面の端のほしいところにはないことが多い

■コンティニュアスAFサーボ常用派にも向く
親指AFが向くもうひとつの条件は、カメラのAF挙動(フォーカスモード)にもありそうだ。初期設定である「シングルAFサーボ(AF-S)」は「シャッターボタンを半押しするごとにピント合わせを行い、初期設定ではピントが合うとAFが停止し、シャッターを切ることができる設定」。べつの言い方をすれば、ピントが合わないとレリーズできない。これを利用しているのがシャッターボタン半押しを続けることによるフォーカスロックだ。

だが、シャッターボタンでフォーカスロックをし続けるにはシャッターボタンをずっと半押ししている必要がある(ボタンのホールド設定ができる機種ならば指を離すことはできる)。いちど指を離して半押しを行うと、AF測距はあらためて行われるからだ。この「シャッターボタン半押しを続けている」時間が長く頻度が高いならば親指AFにするほうが便利かもしれない。

また、「コンティニュアスAFサーボ(AF-C)」はシャッターボタンを半押ししているあいだずっとピント合わせを行い続けるので、どこかでAFをオフにする(フォーカスロックを行う)には、フォーカスロックボタンの併用が欠かせない。筆者は一眼レフではつねにコンティニュアスAFサーボを用いている。ピントが合わなくてもレリーズができるほうが好ましいからだ(シングルAFサーボでもレリーズ優先に設定することはできる)。そこで、コンティニュアスAFサーボとフォーカスロック(AF-L)ボタンを常用するのが筆者のつねだ。こういうユーザーにも親指AFは向いている。

このくらいならばフォーカスポイントは
主要被写体にきちんと重なることが多いけれど

こういう置きピンをする場合には
フォーカスロックボタンを押し続けるのは不便だ

■親指AFが不要な場合もある
いっぽう、自分の写真ではつねにフォーカスポイントと主要被写体が重なっているよ、というユーザーには必ずしも必要ではないかもしれない。もちろん、俺は常時マニュアルフォーカスだ! という硬派な方は自分の道を突き進んでほしいし、フォーカスロックを長押しするような場合には、ボディやレンズのAFを切ってしまう(MFに設定してしまう)方法に慣れているならば、それもいいだろう。

マニュアルフォーカス派には関係ないだろうさ。
汝の道を行くがいいよ

また、三脚をつねに使用するユーザーにも不要だろう。というのも、構図をあらかじめ決めてから正確なピント合わせを行いたいならば、三脚を立ててライブビューによる撮像素子面での像面AFを用いるほうが原理的にもずっと正確だ。それが可能な状況ならばこれがいちばんいい。

■設定方法は「シャッターボタン半押しAF」の解除
この親指AFの設定方法はメーカーや機種ごとにことなるが、考え方としては「シャッターボタン半押しAF」を「しない」にすることと、AF動作の専用ボタンを割り当てることが必要だ。基本的には以下のようになる。

●AF-ONボタンがあらかじめ設けられている機種
(ミドルクラスからフラッグシップのカメラ)
メニューからシャッターボタン半押しAFを解除するだけ

EOS6D Mark IIにはAF-ONボタンはあらかじめ用意されている

●AF-ONボタンが設けられていない機種
(エントリークラスからミドルクラスのカメラ)
シャッターボタン半押しAFを解除してから、AF-Lボタンなどの任意の(
そして設定可能な)ボタンに「AF-ON」を割り当てる

Nikon D7200、D7500やD750などは
「AF-L/AE-Lボタン」に「AF-ON」を割り当てる

AF-ONボタンがあらかじめ設けられている機種でも、シャッターボタン半押しAF駆動の解除は必須だ。そうしないと、AF-ONボタンでAF測距が行われても、シャッターボタンを半押しするとあらためてAF測距が行われてしまい、AF-ONボタンでの測距がむだになる。

Nikon D7200の例。まずは「カスタムメニューa4」で
半押しAFレンズ駆動を「しない」に

D7200ではさらにAE/AFロックボタンを
AF-ONボタンに設定する(AF-ONボタンのある機種は設定不要)

こうやって画面内を被写体が比較的大きく占める場合は、
APS-Cサイズ機ならば筆者は半押しAFでもいいなあ

■じっさいに試用してみて
筆者はこの親指AFをずっと用いてこなかった。それは、私有していてAF追従撮影をもっぱら行うカメラがAPS-Cサイズセンサー(ニコンDXフォーマット)のD7200であり、フォーカスポイントが35ミリフルサイズ機に比べると比較的画面の周囲にまで設けられていて、構図の変更を大きくしないでも主要被写体のピント合わせをしたい部分にフォーカスポイントの設定ができることが多かったからだ。また、ミラーレス機でも一眼レフに比べて画面の周辺部にまでフォーカスポイントが設けられているので、この場合も同様だろうか。

じっさいに試用してみると、ミドルクラスの35ミリフルサイズ機では親指AFは便利だと感じている。フォーカスポイントが画面周辺部にないために、フォーカスロックを使用する頻度がかなり高くなるからだ。APS-Cサイズ機ではどちらでもかまわないかな。被写体にもよるね。

というのも、動く被写体を撮影するにも、近接してくる列車や航空機などの比較的動きが規則的な被写体を望遠レンズで画面いっぱいにとらえつつ、予測駆動AFを用いてAF追従撮影(つまり、コンティニュアスAFサーボ(AF-C)で撮影)する場合には、シャッターボタン半押しAFのほうが筆者には使いやすいと感じたからだ。置きピンでの撮影とことなり、構図の微調整を行わないからだろう。こういう撮影の場合にはけっきょくは撮影中に従来のシャッターボタン半押しAFに戻したこともある。慣れの問題なのだろうか。ただ、筆者は所有するカメラの操作系をできるだけ揃えたいので、しばらくは親指AFを基本設定にしつつ、状況ごとに柔軟に使いわけていこうかと思う。

ひさしぶりにまともな文章を書こうとしたら、ずいぶん考え込んじゃった。コーヒーが苦い。むせる。

【撮影データ】
Nikon D7200, Df/AI AF Micro-Nikkor 60mm f/2.8D, AI AF Micro Nikkor 105mm f/2.8D, AI AF Nikkor 300mm f/4 ED/RAW/Adobe Photoshop CC 2020