2022年7月21日木曜日

【八高線撮影記事】森のトンネルを行くキハを「深度合成」で表現する

小雨のぱらつく夕方に森を抜けて走る

■雨のなかを走る列車の姿が好きだ
「戻り梅雨」のように梅雨明け後にすっきりしない天気の日が続いている。湿度の高さは私にはつらいが、気温が高くないことはむしろ望ましい。そして、梅雨の写真をまだ撮り足りないという思いがあったから、早めの夏になるよりも、梅雨空は大歓迎だ。

鉄道にとって雨の日というのは、線路が滑るだろうからおそらくふだんとはことなる運転の苦労があるだろう。雨の日に定時運行を行っている列車の姿を見ると、それにたずさわる現場の皆さんご苦労、列車の姿に胸が熱くなる……ヲタだからさあ。雨粒を煙のように放ちながら疾走する列車、輝く路面、そんな光景はとてもフォトジェニックだと思うのだ。そういう瞬間をうまく写真にしたい。

ただし、雨の日は晴れの日にはことなるよさがあるとはいえ、それを活かして撮るには列車や自動車の運転と同様に、晴れの日とはことなる工夫は必要だ。そういう雨の日撮影に必要な工夫はいくつもあるけれど、そのうちのひとつである「白い空を画面内に入れないこと」は知っておいてほしい。

■線路を見下ろす陸橋にやってきた
そんなことを考えながら、森を抜けて走る列車を撮影できて自宅から遠くはない八高線の陸橋を訪ねた。八高線の列車を撮りたいというよりも「雨の日の夕方に森の中を走る列車を見下ろして撮影できる場所」を考えていて思い出した場所だ。

特定の鉄道路線や形式を撮りたいわけではなく、自分の撮りたい絵柄のために場所を選んだということね。そして、見下ろして撮影する理由は前述のように、白い空を画面内に入れないためだ。

陸橋の上からできるだけ左右がシンメトリーになるように、三脚を立ててカメラをセットし、水準器を見ながら何度も試写をして構図を決めた。夏至のころなので18時半を過ぎても雨の日であってもまだ明るい。だが、あまり明るめにするつもりはなくて「適正露出」で撮影して、撮影後にRAW現像でローキーに強調している。このあたりの加減は少々むずかしい。撮影時にローキーにしすぎると美しく仕上がらないことがある。撮影後に明るくするのは限度があるが、暗くするほうが簡単だ。

露出制御はそういうわけでAE(自動露出)ではなくマニュアル露出モードだ。AEではやってくる列車の前照灯に幻惑されて明るさが変わってしまう。ピント合わせも同様で、基本的には事前にピント合わせをしておく「置きピン」で撮影している。

だが、300ミリで正面がちにねらっているから、被写界深度は浅い。列車が画面奥にある場合と画面手前まで来た場合ではピント合わせの位置を変える必要がある。それはファインダー撮影での位相差AF (オートフォーカス)に頼ることにして、AFモードはコンティニュアスAFサーボ(AF-C)に設定して撮影する。位相差AFでのAFエリアを事前に確かめておき、列車の移動に合わせてAFエリアを変えるようにする。

■被写界深度におおいに考え込んだ
ここで考え込んだのはピントを合わせる位置と被写界深度の関係だ。列車が画面奥にいる場合に、そこにピントを合わせると手前の路面がぼけてしまう。35ミリフルサイズで300ミリの望遠レンズを使っているから、カメラからの撮影距離が長いとはいえ絞っても被写界深度はそう深くはできない。

冒頭のように列車を引き寄せて写した写真では、むしろ列車の背後はぼけていたほうがいい。だが、列車を画面奥においている場合には、今回は手前を大きくぼかしたくはない。

こういうふうに撮るのに
手前を大きくぼかしたくはないと考えた

私の好みとしては、手前の線路にももう少しピントが合っていてほしい。もし、もっと暗ければ列車だけにピントが合っていても、ぼけている部分がめだたないからいいのかもしれない。

ISO6,400にしてF8まで絞っても、ねらった範囲すべてにピントが合うわけではない。そして、F11などのより大きな絞り値を選ぶにも、列車の動きは止めたいので1/500秒より遅いシャッター速度にはしたくはない。

リサイズしているのでわかりづらいだろうが
オリジナルのピクセル数のカットでは手前はぼけている

そしてNikon Dfは個人的にはISO6,400までで使いたい。ではどうするか。

■Adobe Photoshopで「深度合成」を行う
まず考えられるのは200ミリなどのより焦点距離の短いレンズを使うこと。

そして、APS-Cサイズやマイクロフォーサーズなどの、イメージセンサーのサイズが小さいカメラを使うというのもひとつの解決方法だろう。だが、このときはDfボディしか持っていなかった。

そこで、構図や露出は同じままでピント位置だけを変えたカットを列車がやってくる直前に撮影しておき、ピントの合っている各部分をAdobe Photoshopで合成してひとつのカットに仕上げることにした。「深度合成」などとも呼ばれているテクニックだ。広告などで商品撮影を行う写真家にはおなじみのテクニックだ。

ピント位置を変えた写真その1

ピント位置を変えた写真その2

マイクロフォーサーズのカメラにはカメラ内で深度合成を行える機種もある。またD850は深度合成をパソコンソフトで行うための画像を得るように、ピント位置をずらして撮影する撮影モード「フォーカスシフト撮影」機能がある。それらを利用するのもいいだろう。Dfにはそういう親切な撮影モードはないので、自分でそれを行ったということだ。

列車が写っている写真に
ピント位置を変えて
線路にピントが合っている写真を重ねた

そう思って、ピント位置を変えて複数枚撮った。このときの注意点は、なんといってもカメラを動かさないことにつきる。ほんのわずかな動きであっても向きが変わってしまうと合成しづらいのだ。だから、しっかりした三脚と雲台を使おう。とくに雲台のわずかながたつきに注意したい。

手前にもピントを合わせているのは拡大しないとわからない

深度合成の具体的なやりかたについては、新規開設したnoteのほうで行うので、そちらを参照されたい。つまり、noteも始めちゃったってことだよ、ワトソン君!

【撮影データ】
Nikon Df/AF Nikkor ED 300mm F4S (IF)/RAW/Adobe Photoshop CC