ウェッツラー(ヴェッツラー、カメラ・写真業界の慣用例に従い以下「ウェッツラー」)で降りて、目的地である旧市街を歩き回いた。旧市街は狭いので歩くだけなら30分程度で回れてしまうだろう。私たちはお仕事なのでなんどもなんども行ったり来たりした。
ここはカメラが好きな方にはおわかりのように、35mm判フィルムカメラを世に広めたエルンスト・ライツ社が創業した町だ。オスカー・バルナックが撮影した写真と同じ場所を写してみようじゃないか、というのが来訪目的だ。日曜日だったのでカメラを見せてもらうとか、買うわけではない。聖地巡礼だ。かつての大井町みたいなものですよ。
子どものころに読んだ「Nikon Nice Shot」に影響されているのか 出先で野菜が売られていたらそりゃあ写したくなりますよ |
■宿泊して早朝に歩きたい
ウェッツラーは石畳の古い町並みが保存されている古い町だ。ラーン川沿いに古くから工業が発達したそうだ。歴史に興味があるひとならば楽しめるだろうか。神聖ローマ帝国時代に町が栄えて裁判所が設けられ、裁判所に赴任したゲーテが『若きウェルテルの悩み』のヒロインであるシャルロッテのモデルとする女性と恋愛もした場所なのだそうだ。
「ロッテハウス」はシャルロッテのモデルになった 女性の住んでいた家なんだって |
石畳に落ち葉と赤い乗用車……ヨーロッパですな |
そんな歴史のある町ではあるけれど、もしかしたら日本の観光客はドイツカメラキ☆GUYの熱烈なファン以外はあまり行かないかもしれない。旧市街は大都会であるプラハなどにくらべるとずっと素朴な町に見える。
私たちは曇った日曜日に半日歩いただけだが、泊まってみたら楽しそうだ。早起きして散歩したいね。まあ、日本人観光客が押しかけてシュトゥルム・ウント・ドラング(Sturm und Drang)なんてことになるとあれだけど。
ラーン川沿いに巨大なミノックスがあった。 大きなミノックスっておかしくないか |
バルナックが写した店。 これを撮っていたら通りかかった観光客に 「よお、俺もニコンだよ!」とうれしそうにされた。 ライカで有名な町から万国のニコ爺にあいさつを送る! |
帰路もヴェッツラー→ジーゲン→ケルン中央→デュッセルドルフと同じ経路で乗り換えながらデュッセルドルフに戻った。一日寒い曇りの日だったのに、帰路に少し晴れ間が見えた。「天使のはしご」が撮れないかと窓の外を撮ろうとしていたら、乗客のみなさんに「なにかあるのかな」という顔をされた。好奇心を抑えきれなかったらしい酔っぱらいのオジサンに「お前、あー、ドイッチェランド、あー、ジャーマニーに、あー、なにを、ごにょごにょごにょ」と尋ねられた。お前はドイツに来て何を撮っているのだ、といいたかったのだろうね。
こういう色の電車は日本にはないですねえ。ドイツ国旗色? |
「いったい何を撮っているのだろう」と乗客のみなさんに思われた |
あんよをどこに置いているの |
■ジーゲンの保存車両を改めて眺めた
今度はジーゲンで一時間ほど待ち時間があったので、構内の保存車両を撮る時間があった。ただ、朝よりも手前に留置されている列車が邪魔して撮りにくかった。あのレールバスは昔のトミックスのレールバスみたいでかわいいなあ。
入庫した電車が増えて撮りづらくなってしまった |
入線してきたときは機関車が先頭だったのに 機回しせずにそのままケルン中央まで走るとは |
帰り道はさすがに疲れて居眠りした。日本国内で三時間も列車に乗ることはあまりないから、楽しい経験をさせてもらった。ちょっと驚かされたのはジーゲンからケルンに向かう列車がペンデルツークというやつだったこと。電気機関車が最後尾で、時速100キロほどの速度でケルン中央駅まで走るのだ。尾久と上野の短距離の推進運転しか知らないからね、すごく驚かされた。
そして、マクドナルドのプレミアムローストコーヒーの味はドイツでも同じだった。時間つぶしにジーゲンでもまたマクドナルドでコーヒーを買ったのね。アメリカ人かよ。いや、きちんとした喫茶店に入るほどの時間はないという場合にファストフード店は便利じゃない。
ソウル駅でもロッテリアでやっぱりコーヒーを買うことが多い。英語で注文すると若い女性の店員が韓国語で「コピ?」と念を押すところがかわいらしくていいんだよ。
旅行先でお土産としてカメラを買うことができる余裕がほしいが そんなものはいまでもないし、日曜日でお店もしまっていた |
■どこに行ってもおそロシア語ばかり聞こえる
それにしても、ドイツはどこへ行っても清潔で落ち着いたところが多くていいね。ヨーロッパにいちおう属しながらもヨーロッパからはヘタすると仮想敵国扱いをされてしばしば仲間に入れてもらえない、一時期「EUプラスα」という標語が流行った、男でも町中の公衆便所に入るには勇気がいる、どこかの国の連中が憧れるわけだ。
この旅行中に毎日どこへ行っても、町中でも郊外でも、ヴェッツラーの行き帰りの列車の車内でも、あるいはヴェッツラーの町や調べ物をしに入ったインターネットカフェでも、おそロシアを話す人たちがたくさんいるのだ。
めずらしい海外取材はこれでおしまい。こういう経験はそうそうないから貴重だった。仕事ではなくヨーロッパに行く機会があればいいな。
【撮影データ】
Nikon D4/AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8G ED, AI AF Zoom-Nikkor 80-200mm f/2.8D ED <NEW>/RAW/Adobe Photoshop CC