■遊園地の花火をいつも心待ちにしている
西武鉄道沿線在住歴が長いせいか、夏休み期間には遊園地の打ち上げ花火が身近に感じられる環境にさいわいいたためだろうか、夏になると遊園地の花火をいつも楽しみに心待ちにしていた。筆者は小学生から大学生になるころには東京23区内に在住していて、としまえんの花火を自宅から見ることができた。埼玉県内に転居してからも、週末の西武園ゆうえんちの花火を自宅窓から見ることができる家にたまたま住んでいた。意図してそういう場所に住んだわけではないけれどね。
どちらも遊園地自体からは距離が離れていたので、ときには遊園地やその近辺に出かけて花火を見た。そういう楽しい思い出があるせいか、どこかの花火大会にたまたま出くわすことがあると、いまでもうれしくなる。
昨今のあれのために、各地の花火大会は見物客が密集しないように軒並み中止になっていて、とても残念だった。また、としまえんはなくなり、西武園ゆうえんちもいつからか花火の打ち上げをやめていて、さらにリニューアルのために休園していた。残念ながらここ数年は花火から縁遠くなっているなあ、と思っていた。そこへリニューアルが終わりグランドオープンした西武園ゆうえんちでは7月15日から9月5日まで「大火祭り」と称して、花火を毎日打ち上げると発表があったときには、思わず歓声をあげた。
そういいつつも私は花火をとくに好んで写真に撮ることはない。それでも、夏の風物詩は撮っておきたい。それに、自分のスキルアップのためにも三脚を持ち歩くことが可能な場合には打ち上げ花火を撮るようにしている。撮影時にいろいろと気を使う部分が多いのでいい練習になるのだ。
だから、この夏は自宅から西武園ゆうえんちの花火をよく撮っていた。打ち上げの時間は19時45分ごろから50分ごろまでの5分間で、演目というのか花火の種類や打ち上げパターンも毎日同じようだった。
ISO 400でF5.6・1秒を基準にした。 暗所表示または黒地に白文字表示ができる機種は暗所撮影に便利だ |
自宅からの撮影を数回試して露出データをとったのちに、もしかして列車と一緒に写せるのではないかと思い至った。そこで、それを試してみた。
■狭山線の列車と花火を同一画面に収められないか
みなさんもよくご存知のように、歴史的な経緯から村山貯水池・山口貯水池(つまり多摩湖と狭山湖)周辺には西武鉄道の4つの支線がある。多摩湖線、西武園線、狭山線、そして新交通システム(案内軌条式鉄道というべきか)のレオライナーこと山口線だ。このうち、西武園ゆうえんちにいちばん近くに線路があるのは多摩湖線と山口線だ。また、西武園線の西武園駅でも打ち上げ花火を見ることができるようだ。
山口線西武園ゆうえんち駅(旧 遊園地西駅)そばの遊園地敷地内にある長崎電気軌道から譲渡された元仙台市電の路面電車と花火を写した写真は、Twitterでも見かけた。また、西武園駅ならば、列車も停車していてこの写真の場所よりも打ち上げ場所に近いので、もっと花火を大きく写すことができるようだ。多摩湖駅(旧 西武遊園地駅)では列車と花火を同一画面に写すのは、筆者にはむずかしそうだ。
赤いアンカーのある場所がWalkerplusによると打ち上げ場所 (Google Mapより画面キャプチャー) |
それらの路線でも撮ってみようかと考えたものの、筆者がねらいたかったのは狭山線だ。それは、新101系電車が走っているからという、じつにあれでヲタ的な考えによる。ただし、新101系電車といっしょの画面にうまく収めるという考えは、後述のように撮影を始めてからはあきらめざるをえなかった。
狭山線の線形と地形を記憶からたどりつつ、Googleマップやストリートビューから思い出したのが、途中の跨線橋だった。ほかにも数カ所考えていた場所はあったけれど、それは今年はけっきょく試さなかったので、来年度以降の課題とする。
■明るいうちに現着して構図とピント、露出設定を行う
花火撮影に限らず、夜景撮影や星景写真の撮影でもいえることだが、写真をうまく撮りたいならば、暗くなるまえに撮影現場に到着して準備を行うのがもっとも重要だ。「きれいだなあ」とながめるだけならば直前に到着するのでもかまわないだろうが、機材の設営と設定にはそれなりに時間もかかる。さらに、暗いと手元や足元も見づらいので準備に時間もかかる。あわてるとケアレスミスも増えてよろしくない。
基本的には花火撮影は秒単位の露出を与えるので、三脚は必須だ。まず、足場のしっかりしている場所にぐらつかない三脚を置く。三脚を使用できる場所であることが大前提だ。三脚も最大脚径28mmくらいのがたつきのない中型三脚の以上ほうが、あれこれと心配しないでいい。エレベーターはできるだけ使わない。そして、センターポールの先端部にあるフックにカメラバッグなどをかける。風でバッグがゆれて三脚に振動を伝えないように、このバッグは必ず地面に接地させる。レリーズ時のぶれを少しでも防ぐためだ。
そのうえでピント合わせを行なって構図を決める。明るいうちのほうがピント合わせもしやすいし、傾きや画面内のよけいなものも確認しやすい。ピントは決めたらレンズのピントリングを不用意に動かさないように、ピント位置を決めたあとでマニュアルフォーカスモードに切り替えてしまい、ピントリングをテープで固定してしまうのもいい。
■比較明合成をするつもりで露出を決めた
筆者ははじめから、撮影後にAdobe Photoshopで複数画像を比較明合成(コンポジット)を行うつもりでいた。なぜかというと、花火が打ち上がるタイミングと列車がやって来るタイミングが合わないから。平日ダイヤでは花火が打ち上がっているときには列車は来なかったし、土休日ダイヤでも列車が画面内にいるタイミングで花火が好ましい状態になっているかどうかは、その日の天気などに左右されてしまう。だから、一発撮りをすることははじめから考えなかった。
比較明合成とは、数秒程度の露出で連続撮影した写真をPhotoshopで「ハイライト部分を中心に重ねていく」方法。ホタルや星などの軌跡の撮影によく使われる。
秒単位、もしくは分単位以上の露出を与えて一発で撮影する方法では、撮影中にレンズに強い光を浴びるようなトラブルに対処できない。数十秒間ならばともかく、もっと長いあいだシャッターを開いているあいだに、どこかの自動車のヘッドライトを浴びてしまう、カメラをぶらす、電池が切れるなどというのは落胆するでしょう。短い露光時間のカットを複数枚重ねていくこの方法ならば、失敗したカットは使わなければいい。
そこでマニュアル露出モードでISO 400でF5.6、1秒程度を基準に考えて連続撮影を行うようにした。1秒程度ならば長秒時ノイズも発生しにくいだろうという考えからだ。また、ISO 400ならば高感度ノイズ低減の影響も大きくはないはず。長秒時ノイズ低減は露出時間と同じ時間がかかるので連続撮影のテンポが悪くなる。だから、長秒時ノイズ低減は「しない」にしておく。
ふだんは「する」でも今回は長秒時ノイズ低減は「しない」 |
露出ディレーは連続撮影をするために1秒に |
カメラ内で多重露光時に比較明合成が選択できる機種や、「ライブコンポジット」などと称して撮影中にハイライト部分を重ねていく様子を目視しながらコンポジット撮影ができるカメラならば、それを使うと同じことができる。筆者が使ったのはそういう機能のないNikon Dfなので、撮影後にPhotoshopでの展開を行なった。RAWデータで撮影し、それぞれ現像をしてからPhotoshop内で比較明合成を行なっている。
1秒おきに自動的にレリーズするようにインターバルタイマーを設定した |
同一構図で撮った写真を複数枚重ねるということは、それぞれに微妙なずれやぶれがあるとうまく重ならない。だから、レリーズ時にカメラに触れることも避けたい。リモコンやスマホアプリから撮影できるならば、それを用いよう。ミラーアップや露出ディレー、後幕電子シャッターなどの機能があればそれも使いたい。筆者はカメラ内のインターバルタイマーと1秒間の露出ディレーを使った。
ずっと文字ばかりで読んでくださっているみなさんも飽きるだろうから、Photoshopでやったことを以下に示すね。
こんな感じに撮ったカットと (レイヤー名002) |
色や打ち上がり方のことなる花火を撮っておいて それぞれRAW現像をした(レイヤー名003) |
土休日にたまたま列車と花火が合ったカットに重ねた (背景レイヤー) |
Photoshopでいちばん下の「背景」が列車の写っているカット |
花火が写っているべつの2枚を「背景」レイヤーの上に起き、 レイヤー属性を「比較(明)」にした。 こうすると画面内のハイライトのみが 「背景」レイヤー上に重なっているように見える |
002と003のレイヤーを レイヤー属性「比較(明)」にして重ねたもの。 さらに、画面内の余計な明るい部分を「自然な彩度」で彩度を落としたり レベル補正で暗くしてめだたせないようにし 画面全体の明るさや四隅を調整して完成だ |
文字で説明すると長くてくどくてむずかしく思えるかもしれないが、やっていることはじつに簡単だ。「ぶれたりずれたりしないで撮った複数の写真をハイライト基準で重ねた」だけだ。この方法だと、地味な花火も複数重ねてはなやかに見せることにもなる。
また、重ねるうちの一枚のピントを意図的にアウトフォーカスにして重ねると、ハイライトをにじませるソフトフォーカスにすることも可能だ。イルミネーション撮影などで役立つこともあるので、ご参考までに。
あれ、新101系はどうしたの……と思われたかたは慧眼だ。夕方の野球開催日ではない日の平日ダイヤにのみ走る新101系電車でも試した。ところが、花火が打ち上がっているあいだにはこの区間を走らないので、空の露光差が大きいことと、新101系電車の尾灯はあまりめだたなくて、気に入らなかったのよね。スマイルトレイン(30000系電車)のほうが写りが気に入ったのだもの。
【撮影データ】
Nikon Df/AI AF Nikkor 35mm f/2D/RAW/Adobe Photoshop CC/3枚の写真を比較明合成