2022年11月23日水曜日

【ソビエトレンズ】「古いレンズを使ううえでの注意事項」をすっかり忘れていたという話


■ひさしぶりにソビエト製L39マウントレンズを使ったら
EVF(電子ビューファインダー)がうまく使えなくなってしまった、というのか、EVFと背面モニターの切り替えがうまくできなくなってしまっていたソニーα7IIボディが修理から治ってきた。そこで、その試写を兼ねてソビエト製ライカスクリューマウントレンズをひさしぶりに使っている。KMZ Jupiter-9 85mm F2がおもだ。ここ数年の私は85mmくらいの焦点距離が画面を整理しやすくて便利だと感じているからだ。




私の手元にあるものは、モノコートで距離計連動式のライカスクリューマウントのものだ。内部に植毛紙を貼り、非純正のTakumarレンズ用金属製フードをつけるなど、自分でできうる限りの反射防止対策を施した。

ひさしぶりに使うJupiter-9は楽しい。ひと絞り絞ってF2.8くらいで撮るのが好みだ。

原設計のSonnar 85mm F2は1933年に発売されたそうだが、その当時においてはものすごく先進的で、のちに世界じゅうで真似されたり手本にされるような高性能のレンズだったのではないか、なるほどさもありなんといまごろ思う。

私が使っているのはschotのガラスでもなく、ソビエト製ガラス用に再設計されているライカスクリューマウントのクラスゴールスク光学機械工場(KMZ)製の59から始まる製造番号の個体だが、コーティングやガラスの経年劣化はあっても、原設計レンズから基本的な収差の残し方などはそう大きく変わっていないはず。そういう個体でも、F2.8まで絞るだけでずいぶん描写が画面四隅にまで均一になる。絞っていってもそう高精細になるというわけではないが、人物撮影などにはよさそうだ。

最近になってKMZで再生産されている(2012年ごろから少なくとも開戦前までは再生産されていたはずの)Helios-40-2 85mm F1.5のような大きさと重量(アタッチメントサイズは直径82ミリ、長さ約950ミリ、重さは三脚座つきで旧タイプは約1185グラム! 2012年以降のモデルは約850グラムだそう)にならず、「ふつうに携帯しやすい」アタッチメントサイズ直径49mm、距離計連動式用で長さは80ミリ、重さ約335グラム、M42用は長さ65ミリ、約400グラム、Kiev-10用は長さ62ミリ、約400グラム(いずれも公称値)というサイズで、そこそこの性能を持つから性能と大きさのバランスがよく使い勝手がいい。だからこそ、長きに渡って生産されて最終的には一眼レフ用に転用され、マルチコートまで施されたのだろう。

■むかしは「逆光で撮影しない」「画面端に被写体を置かない」ものだった
第二次世界大戦前の有名な高性能レンズの末裔であり、のちの交換レンズ設計に大きく影響を及ぼしたレンズの系譜に連なるであろうレンズを使いながら、思ったことがある。

それは、私はすでに現代のレンズに慣れている人間であるということ。むかしのレンズは、強い逆光や点光源を画面内に入れてはいけなくて、画面四隅に被写体を置いてはいけない、ということをすっかり忘れていた。

いいかえれば、撮影時にあれこれ注意しないでもそつなく写せる現代の製品は、特殊な技能を必要としないし、万人にも使えるようになって非常にありがたい存在なのだ。



私はいろいろとうかつなので、たいてい撮影後にRAW現像をしてみて、そういうことに気づく。そういえばそうだった、という感じで。そうでなければEVFで拡大表示にしているときに、そういえばそうだ……という感じで。

『銀河英雄伝説』の外伝で、ラインハルトが「古代(作品世界での古代、つまり我々からすると現代)の銃弾を使うピストル」はブラスター(作品世界の光線銃)よりも反動が大きいので、ねらうときに腕のぶれを加味して的の上をねらえ、と教えられるシーンを思い出した。

あるいは、Zorki-3などのパララックス補正のない一眼式ファインダーの距離計連動式カメラで最短撮影距離の1メートル付近で近接撮影をするときに、じっさいに見えているファインダー像よりも「右下の隠れて見えない部分」に被写体を置くつもりでねらわないと、できあがりの写真の構図がずれている、という使用上の注意もあったね。

■光線状態や構図を気にしないで撮影できるのは「技術革新」なのかも
むかしの製品にはいまの私たちが知らない、忘れている作法がある。そういうことを思い出しながら使うのが、古いレンズを使ううえで重要なことなのだろう。

思っているように最初は写せないこともある。それでも、いろいろと試行錯誤してみる必要がある項目が現代のレンズよりもずっと多い。それをおもしろいと思えるかどうか、というべきか。楽しいと思えないならば古い製品を使うことには向いていない。

レンズの話に戻れば、逆光や半逆光でもフレアやゴーストに邪魔されず、画面四隅まで画質が均一であるから、撮影条件を選ばない現代のレンズはおそらくは、先人のものすごい努力の成果なのだ。それをあたりまえのように享受しているが現代の我々だ。



■「レンズの特徴」を活かして撮影できるように……できるかな
もっとも私はむかしから、レンズの性能上の特徴を作画に活かすことよりも、むしろどんなレンズ機材であっても「それでできうる最大限の高画質に使う」ことを考えてしまう。基本的にはゆるい描写は好きではない。なにか特別な用途でもない限り、個々のレンズの描写の性質を活かすことよりも、自分の望む絵のためにどう使うかと考えるほうがおもだ。持っている機材でできるだけきちんと写すというのは業務で必要な考え方だものね。

それでもときには、レンズの描写を活かす撮影も考えてみたいなどと夢想したり。趣味の写真や作品性が求められる写真ならばいいのだ。いまふうの「エモい」写真もときには撮れるようになりたい。

「Takumar 1:3.5 135mm 1:4 150mm 1:5.6 200mm」と
刻印のある直径49mmフードをつけたKMZ Jupiter-9 85mm F2

生産終了時には1万円程度で購入できてとても安価だったLZOS製M42マウントレンズは、いま思えば入手しておけばよかったのかもしれない。当時はいまよりもずっと自分の腕が拙くて、うまく使えないと思っていた。数年前に友人から借りて使ってみたら、いまの自分には思っていたよりもきちんと使うことができた。ただ、円安もあって現在はずいぶん価格が高騰してしまい、国産のニッコールレンズのほうが手に入れやすいほどだ。壊しにくく性能的にも確実で修理してくれるところも見つけやすいニッコールが安価であれば、私はついニコンを選んでしまう。そう思うとLZOS MC Jupiter-9 85mm F2とはたんに「縁がなかった」ということかな。

■VoigtlanderのVM-E Close Focus Adapter IIがおすすめ
筆者が使っているのは旧モデルだが、ヘリコイドつきアダプターであるVoigtlander VM-E Close Focus Adapterはオールドレンズ使いには心底おすすめしたい品物だ。距離計連動式カメラ用レンズでも一眼レフ用レンズのように近接撮影ができるようになるので、撮影時のストレスが減るからだ。お値段は安くはないが、これがなかったら筆者はα7IIに古いレンズをつけて撮る気がしなかったとさえ思う。そのうちNikon Zボディを導入するならば、やはりヘリコイドつきアダプターであるVM-Z Close Focus Adapterを購入して使いたい。

Voigtlander VM-E Close Focus Adapter II
(ライカMマウントレンズ→ソニーEマウントボディ用)

Voigtlander VM-Z Close Focus Adapter
(ライカMマウントレンズ→ニコンZマウントボディ用)


■拙著kindle電子書籍『LZOS MC Jupiter-9 85mm F2.0 オールドレンズデータベース: Foton機種別作例集339』も好評発売中です!
L39ライカスクリューマウント(距離計連動式カメラ)用ではなくM42マウント化されてマルチコートが施されたより新しいLZOS(リトカリノ光学ガラス工場)製MC Jupiter-9 2/85の本をAmazonのkindle電子書籍で出しております。月額読み放題制のkindle unlimitedにも対応しております。ぜひご一読くださいませ。

【撮影データ】
Sony α7II/KMZ Jupiter-9 85mm F2(L39)/RAW/Adobe Photoshop CC