2020年11月18日水曜日

【ソビエトレンズ】Jupiter-9 85mm F2.0のフレア対策と、撮れば撮るほどその性格がよくわからなくなるという話

Jupiter-9 85mm f2.0に
Takumar 105mm F2.8/100mm F4用
レンズフードを試用中

■古いレンズにはフレア対策を
Jupiter-9 85mm F2.0をはじめとするソビエト製レンズだけではなく、古いレンズ全般にいえることだけど、コーティングや内面反射防止対策が未熟だった時代のレンズは総じて斜光線に対して弱い。フィルムよりもずっと平面性が高い撮像素子前面のローパスフィルターや保護ガラスなどに反射してしまい、画面全体を覆うベーリングフレア(内面の乱反射)が生じやすい。 

フレアを生じさせないには、斜光線での撮影をあきめるか、逆光に強い現代のレンズを用いる。ある程度絞ること、あるいは左手で斜光線を隠すハレ切りをするか、画面四隅に写り込まない長さのレンズフードを用意するのも効果がある。ところが私自身は逆光や斜光線自体は好きなので、そういう光線下でこそ撮影したくなる。三脚を立てての撮影ならば左手も空くけどね。いろいろと私は古いレンズには向いていないユーザーかもしれない。それもくやしいので対策を考えたくなるわけ。

レンズフード なしで撮影したM39マウントのモノコートレンズ
上左はF2.0、上右がF2.8
下左はF4.0、下右がF5.6

Jupiter-9のアタッチメントサイズは⌀49mm。マルチコート化されたものも同じサイズだ。そこで私は、AIニッコール85mm F2Sでいま用いている⌀52mmのAIマイクロニッコール105mm f/2.8S用のスプリング式フードHS-14 を、49mm-52mmのステップアップリングを介して使おうかと思っていた。 既製品のレンズフードはたいてい短めだ。保護フィルターをつけてもけられないようにしてある。だから「85mmレンズには105mmや135mmなどのより望遠のレンズフード」を私は使う。ただし、広角レンズはすなおに表記に従ったほうがいい。

同じ条件でTakumar 105mm F2.8用レンズフードを装着
上左はF2.0、上右はF2.8
下左はF4.0、下右はF5.6

■Jupiter-9に使えるのでは、とゴーストがささやいた
そんなことを考えていたある日、とある全国チェーンのカメラ店でふと見つけた⌀49mmの「Takumar 1:2.8 105mm 1:4 100mm」と刻印のあるしっかりした作りで質感のいいメタルフードを装着してみた。値づけを変えられたくはないのであえて名前は秘す。お値段は数百円だ。

するとレンズとの大きさのバランスもよく、なによりも予想以上にフレアをカットする効果があった。レンズフードの有無の差の大きさにはおどろくほどだ。レンズフードの作りのよさも素敵だ。この時代から旭光学工業(当時)のカメラ、レンズ、付属品はていねいに作られていていいよね。「お値段以上PENTAX♪」と鼻歌を歌っ……すみません、この部分だけは少し盛った。気持ちはほんとうよ。

これらレンズフードの有無を示す画像はいずれもごみ取りとクレジットなどの文字を入れただけで、α7IIの「クリエイティブスタイル:ビビッド」で撮影したJPEG画像のままで手を加えていない。コントラストと彩度は「スタンダード」よりも高いはず。

レンズフードなしでも、F4まで絞るとフレアが軽減される。絞り羽根がフレアカッターの役目も果たすからだ。しかし、フードをつけたほうはシャドウ部分のしまりも改善される。そしてF11くらいになるとかえって乱反射がスポット的に目立つことも。だから私はフードを使いたい。

フードなしでも私の使っている個体はF2.8までは空を写すさいに画面四隅が暗く落ちるところをみると、フードのせいでけられているわけではない。先日こちらも電子書籍を出して、その際にあれこれ撮っていたずっと新しいM42マウントのLZOS MC Jupiter-9 85mm F2.0のほうは絞り開放でも周辺光量落ちはここまではっきりとはしなかったはず。

正直にいうと、私自身はこのフードを入手してフレアを自分で多少はコントロールできるようになったので、最近になってJupiter-9を改めて使う気になった。⌀49mmでTakumar望遠レンズの名前が刻まれているレンズフードを店頭で見つけたとたんに、Jupiter-9にちょうどよさそうだと「ゴーストがささやいた」のだ。少佐じゃないけど、レンズフードだけに。

こういうのが「フード病」の患者の典型例かもしれない。だが、レンズに装着して家で「やっぱいいわ」と眺めて空シャッターを切っておしまいではなくて、外に持ち出して撮影にちゃんと使っているところが俺はまだちがうと思いたい。この言い回しそのものが重篤さの証拠なんだけどね。



■ずっと所有していてもうまく扱うことができなかった
私自身が所有しているJupiter-9はM39(Lマウント/ライカスクリューマウント)版でKMZ製の1950年代製とおぼしきものだ。"П"の刻印があるが、これは"просветление оптики(反射防止膜、つまりコーティング)"の略号だ。Jupiter-9やJupiter-11 135mm F4.0などのアルミ製鏡筒が無塗装のソビエト製望遠レンズ見ると、私にはいつもTu-95戦略爆撃機を連想させる。なんとなくね。

ものすごく安価に入手したものだ。ただし購入当初にはレンズ面に拭き跡が残されてピントも甘く、国内のカメラ修理店で調整してもらっている。なにしろイズマイロフ公園の蚤の市で買ったものだから。調整をしてもらいレンズ自体の調子はよくなっても、レンジファインダーカメラでは使いこなすことが私にはできなかった。 



そうしてめったに使わないまま25年も手元に置いておいた。最近になって思い立ってSony α7IIに装着し、電子ビューファインダーで拡大表示をしながら使うとずいぶん細かくピント合わせができるようになり、きちんとピント合わせをした写真からはいろいろとおどろかされてこうして記事を書いている。遅まきながら「こういうレンズであるのか」ということをいまさら知りつつあるところだ。ずいぶん遠回りしたけど、そういうものごとが私には多いみたい。

フィルムカメラを使っていた当時はほんとうに稚拙な腕前だったということに気づいてはずかしくなる。Sony α7IIとVoigtländer VM-E Close Focus Adapterにはずいぶん助けられている。フィルムカメラのままだったら、いまでもこのレンズをうまく扱えないままだったと思う。



■撮れば撮るほどどういうレンズであるのかわからなくなる
私がいま気に入っているのは、F2.8からF4程度に絞って、拡散光下や薄暮で撮ったときのおだやかな描写だ。そして、使えば使うほどにこのレンズの性格が私にはますますわからなくなる。ひとことでわかりやすく端的に、キャッチーに説明しづらいというのか。知れば知るほどひとことで言い表しにくくはなるかもしれない。

そしてまだ経験の蓄積が足りない。これは、これから探求していくものごとがまだまだあると考えることにしている。世の中には、自分が知らないものごとのほうがずっと多くあるというわけだ。


このレンズを持ってひさりぶりにロシア、行ったことのない旧ソ連加盟諸国、あるいは中央ヨーロッパに行って、路面電車のある風景を撮ってみたい。ボディはPanasonic LUMIX S5やSony α7Cだとおもしろそうだ。真冬だと手動絞りでも予備レンズがいるかもね。いまはちょっとあれがまだああだから、そんな夢想をして楽しんでいる。

【撮影データ】
Sony α7II/Jupiter-9 85mm F2.0(KMZ、M39マウント)/RAW/Adobe Photoshop CC 2021