2020年12月13日日曜日

【ニッコールレンズの話&秩父鉄道デキ撮影記事】夜景撮影にも有効! 黒テープでハレ切りしながら秩父鉄道鉱石貨物列車の突放シーンを撮る

黒いパーマセルテープは美しく貼らなくてもいい。
こんな貼り方でも役に立つ

■「斜光黒パ斬り」は日中の撮影だけに役立つわけではない
前回のエントリーでは、完全逆光でレンズ前部に斜光線が当たる状況でも、カメラ位置を工夫しながら長めのレンズフードを装着し、さらに黒いパーマセルテープ(現在の正式なブランド名は「シュアーテープ」)をレンズフード前面に貼りつけると、フレアを切ること(フレアカット、もしくはハレ切り)ができるという話をした。

この「逆光の呼吸壱ノ型『斜光黒パ斬り』」が役立つのは晴天時の日中だけではない、というのが今回のエントリーの主題だ。 
 
■武州原谷貨物駅でYOASOBI
三輪(みのわ)鉱山から降りてくる列車を撮ってから、上り方向に移動した。だが、天気予報にあったように天気は「晴れときどき曇り」で午後からはむしろ雲が出てきた。だから、そのあいだに撮った写真はハレーションに悩まされることはほとんどなかった。 厳密にいえばないわけではないだろうけれど、画面内にそう強く影響が出ていないのでいい。

それは曇り空はどの方向から被写体を見ても逆光になるものの、雲が太陽光を拡散する役目を果たすので、ハイライト部分とシャドウ部分の輝度差が少なく「やわらかい逆光」になるからだ。ただ、光におもしろみがないので写真に変化を与えづらい。いっそのこと暗くなってからのほうが私には好ましい。

そこで、ここ数年のあいだごぶさたしていたものの、ひさしぶりに夜の鉱石貨物列車の姿を見たくなり、日没のころに武州原谷貨物駅に行った。夕方から夜に行くのはDD512号が導入されて稼働していた5年くらいまえに訪れて以来だろうか……自分のブログを見たらちょうど6年前だった!

武州原谷貨物駅をめざしたのは、じつをいうと午前中に三輪鉱山から降りてきて上り列車に充当されたデキ103号がそろそろ戻ってくるはずだと予想したからだけどね。

ヲキフが『夜に駆ける』!

■構内灯や街灯の光が乱反射。だが俺はできるやつだ!
♪沈むように溶けてゆくように〜*と鼻歌を歌いながら……ごめん、ちょっと盛った。とにかく、武州原谷貨物駅まで歩いてみるとさっそくデキ103号牽引の返空の鉱石貨物列車がたどり着いたところだった。
 
少なくとも1980年代なかばに私がはじめて来たときからいる武州原谷の主(ぬし)ともいうべきD304号が鉱石貨物列車を積み込み線に押し込み、石灰石が積まれていく音と、貨車をときおり移動させるためにディーゼルエンジンがうなる音、線路のジョイント音を聞きながらようすを見ていた。DD512号が来てもけっきょくはD304号を使っているのはおもしろい。DD512号が動いていることはあるようだけど、私が武州原谷を通りかかったり、意識して観察しているときにはD304号ばかり見かける。
 
空はみるみるうちに暗くなり、構内灯や街灯がはっきり見えるように。これは見ているぶんには美しくさえあるものの、写真に撮るには注意事項が増える。画面外にある街灯などの明かりもまた、写真撮影にはフレアの原因になるからだ。列車の前照灯などからの強い光をレンズが浴びてフレアが出てしまうのはやむをえない。だが、画面外にある街灯の明かりによるフレアは避けたい。さいきんは街灯のLED化が進み、電球よりも指向性が強いLEDの性質のためになおのことフレアは発生しやすいのようなのだ。
 
そして、そういう状況にも関わらず私が使おうとしているのはマニュアルフォーカスのAI Nikkor 28mm f/2.8SとAI Nikkor 50mm F1.8Sだ。とくに後者は経験上逆光ではフレアは出やすい。大丈夫なのだろうか。前回来たときよりも古いレンズなのは我ながらおかしい。
 
だが俺はできるやつだ! と例のマンガのセリフはもうどうでもいいよね。こういう状況でも私には「いつもよりもなんとかなる」という思いがあった。それは、「逆光の呼吸壱ノ型『斜光黒パ斬り』」を使えばいいから。
 
画面内にある光源による乱反射は完全には防げないけれど

■夜景撮影でこそハレ切りが必要なことが多いかも
武州原谷貨物駅での鉱石貨車への石灰石の積み込みにかかる時間は30分ちょっとだろうか。そのあいだに、私はレンズフードの前面の四隅に黒いパーマセルテープを貼った。あたりが暗いので、何度も何度も確認して試写をしては貼り直した。美しく貼ることはできなくてもいい。画面四隅に黒い影(けられ)が出ないようによく確認してほしい。
 
下り方へ推進運転をして

D304号が突放

ホッパーのある積み込み線から石灰石を満載した鉱石貨物列車が出てきたころには、私の準備も整った。そうして、D304号がデキ103号ごと鉱石貨物列車の編成全体を押し始めて、突放する姿を撮った。もちろん流し撮りだ。
 
ところどころに構内灯があたりを明るく照らす場所があるので、そこにさしかかるタイミングでレリーズした。
 
上り方の出発線へ進む

D304に突放されたデキ103号牽引鉱石貨物列車は和銅黒谷方の出発線に静かに進み、出発を待った。D304も所定の位置へ戻った。そこまで見届けているうちにすっかり暗くなったので、私も家路につくことにした。
 
この日はデキ108号ラストランの前日だった。翌日は土曜日で、どう考えても沿線の「定番撮影地」は混雑することは予想できた。だから私は平日の鉱石貨物列車をねらうことにした。デキ108号はもう撮ったから……。デキ103号の元気な姿を撮ることができたので、私は満足だ。

これでフレアが軽減できるのは痛快じゃない?

繰り返しにはなるが、この方法でも画面内にある点光源の強い明かりで生じるフレアは防ぎきれないし、4枚目のカットの右端にあるように、画面外からの明かりの影響も完全には防ぐことはできない。それでも、ある程度は画面外の環境光からのフレアをカットすることができる。それだけでもじゅうぶんだ。

こういうことをするのは手間がかかると思うかたもいるだろう。だが、撮影時に事前にできることをしておくほうが、RAW現像とレタッチの工程を簡略化できるので、結果的には写真の品質と作業効率を向上させるのではないか。

(参考)雨の夜なのはいいけれど、
画面右上にある構内灯の明かりによる乱反射はこまる。
黒パーマセルテープでこういうものを抑制したい

夜景撮影や星景写真を撮るひとはこの方法を覚えておくと便利だ。撮影設定がつねに同じならば、厚紙やプラ板に四角い穴を開けてマスクを作っておき、黒いパーマセルテープは微調整用としておくのもよさそうだ。都市や工業地帯などの夜景撮影では新しいレンズでも環境光によるフレアが生じることは少なくはない。スマートフォンのカメラやコンパクトデジタルカメラにも応用できる。なんといっても、黒いパーマセルテープでフレアをコントロールできるようになるなんて、おもしろいと思うんだ。

【撮影データ】
Nikon Df/AI Nikkor 28mm f/2.8S, AI Nikkor 50mm F1.8S/RAW

*「沈むように溶けていくように」:「夜に駆ける」YOASOBHI(作詞・作曲:Ayase)の歌詞より引用

**記事初出時に「逆光の呼吸壱ノ型『四隅黒パハレ斬り』」としていたものを「斜光黒パ斬り」に改めました。