■デハ250形の朝の単行運転を見たくて前泊した
先日の上信電鉄沿線撮影の目的は、沿線のサクラの開花を味わうためだった。だが、それだけではなく、今年はもうひとつ大きな目的があった。それは、さる3月14日から行われている朝のデハ250形電車の単行運転を見ること。(2022年4月20日追記:4月21日より通常運行に復帰し単行運転は終了と、上信電鉄Webサイトにて発表されました)
デハ250形による単行運転は、午前中の早い時間にのみ行われている。取材時の4月4日現在では、土休日は下仁田(5:39)→高崎(6:40)の4列車と高崎(9:25)→下仁田(10:29)の15列車の一往復。平日はそれに加えて高崎(5:55)→上州富岡(6:33)の103列車と上州富岡(7:29)→高崎(8:07)の112列車の一往復が加わり、計二往復だ。これはつまり、土休日の高崎発の15列車以外を見るには沿線に前泊しない限り、埼玉県内の自宅からは公共交通機関使用派の私には間に合いそうにない。
そこで、高崎駅周辺のビジネスホテルに投宿することにした。そのさいに早期予約割引を併用するために、少し早めにオンラインで事前予約をした。ところがそのときに参考にした天気予報が結果としては外れて、二日間ともに降雨にあったというわけだ。雨なら雨でしっとりした雰囲気に写せるからいいし、雨でも私は絵にできる自信がある。ただそれでも、晴れた日とはねらい方は変えないと画面がしまらないなあ。
そう思って日曜日に訪問してロケハンを済ませ、雨に濡れるデキを写して過ごした。画面右奥に阪神ジェットカーに似た塗装のスカイブルーとベージュ塗装のツートンカラーのデハ252号が写っている。このことから、おそらく翌朝の高崎発上州富岡行き103列車は、このデハ252が充てられるのだろうと想像がついた。
■高崎発の始発列車で撮影地へ
翌朝もしとしと雨だった。4月上旬には5時半過ぎになれば空は明るくなり始めている。高崎駅近くの投宿先から上信電鉄高崎駅に向かい、切符を買った。始発列車に充当されていたのは昨日撮ったホワイトタイガー塗装の700形第3編成だ。
6時近い時刻のためか平日の下り始発列車の乗客は数人はいた。駅を出発する列車から高崎検修区の側線を見ると、デハ252がパンタグラフを上げて通電している。予想通り、この次の列車である上州富岡行き列車がこのデハ252で、その30分程度あとに高崎に到着する下仁田始発の列車が、登場時のリバイバルカラーに変更されたデハ251なのだろう。
晴れていたら烏川橋梁に行く。でも、雨だったらどうしようかという程度の予定でいたので、じっさいに雨が降ってしまうと考え込んだ。午前中に鉄道橋に平行にかけられた歩行者橋から線路を見ると順光だ。だが私はこの場所では逆光で撮るのが好きだ。そこで、鉄道橋の反対側へ回ってみたものの、水量が多くて水べりに降りるのはためらわれた。
そういうわけで「雨の日は晴れの日とねらい方を変えるべきだ」などと書いておきながら、結局は晴天の日に自分が撮るのと同じように、並行している歩行者橋の真横から列車をねらう構図を今回も用いた。そのかわり、画面内に大きく入る空は決して真っ白(255, 255, 255)にはしないように、露出はややアンダーめに設定することは必須だ。こういう撮影はやはり、JPEG撮影では無理だと思う。
背景に家並みなどを中途半端に入れないために、三脚をできる限り開き、カメラの高さを最大限に低くして列車を待った。できればもう少し低くしたい。
雨の日の早朝に橋の上で三脚を大きく開脚させてカメラを低い位置に構え、膝立ちになってカメラのファインダーをのぞいている私はどうみても不審者だ。ときおり通りかかる朝練のためにか早めに通学する自転車の高校野球部員諸君とあいさつを交わしつつ、「俺氏ぜったいに不審者だと思われているよな。デュフフ」などと考えた。
あいまに、まだ冬枯れの気配を色濃く残した河原の木などを写して待った。Nikon Dfの発売当初のコマーシャルのように、かちかちと無意味にダイヤル操作を行いながら、気分だけはイングランドの湖沼地帯でヒースの丘にいる気分。中二病気質を強く残したおっさん特有の自己陶酔ぎみな妄想にふけった。じっさいには、群馬県高崎市内にいるのに。妄想することは自由だからいいの!
ほどなくして橋のたもとの駅にある踏切警報機が鳴り始めて、列車が駅に到着する音が聞こえた。心拍数が上がる。そして、上州富岡行き列車のデハ252が川を渡り始めた。これを撮るために来たのだし、ほかのみなさんの写真で知っていたけれど……うわー! ほんとうに単行でトコトコと走ってる! やっほう!
■次に来るのは待望のデハ251
もっとも、かなり慎重にねらったつもりだし、けっしてできが悪いとは思わないものの、画面内の架線柱の位置を変えたくなった。そこで、高崎行きの列車が来るまえに改めて試写を繰り返しながらカメラの位置を変えた。ひさしぶりに来て、画面内での20メートル級の車両の長さが把握しきれていなかった。橋梁の1スパン程度の長さであることを思い出したので、画面右奥の木立の分量も減らすことにした。
そうして空もやや明るくなったころに、昨年来ずっと見たいと願っていながらなかなか見ることができなかった、デハ251の単行列車がやってきた。画面左には大きな曲線があるので、遠くから曲線を曲がって来る列車を見ていると、ふたたび心拍数が高くなった。だが、意図した位置でレリーズできた。ばんざーい!
■次はサクラを画面に入れて
高崎行き列車が去ると、さきほどの上州富岡行き列車が戻ってくるまでに1時間半ほどの時間がある。もちろん、朝間ラッシュアワーではあるので上り列車を中心に列車の運行本数が多く、いろいろな列車がやってくる。それらを合間に写しながら下り方向へ移動して、隣の駅まで歩いた。駅構内のサクラの木を画面に入れて、わずかなりとも春の気配を画面に収めたかったからだ。
そうして1時間半ほどほかの列車を撮りながら待った。雨はまったく止まないが、春の雨であって寒くはないから悲壮感はない。そして、さきほど橋梁で写したスカイブルーとベージュ塗装のデハ252が戻ってきた。高崎方の正面には白く枠が塗られた貫通幌が装着されている。幌がある姿をいままで見たことがないかもしれない。そして、暗い雨の日にはこの塗装は画面内のアクセントになるから悪くないとも。
【撮影データ】
NikonDf/AI AF Nikkor 35mm f/2D, AF Micro Nikkor 105mm F2.8D/RAW/Adobe Photoshop CC