■降雨や水べりでの撮影の「後始末」を忘れずに
先日の二日間の上信電鉄沿線撮影行は両日ともに雨に降られた。強い雨ではなくてもやむことはなく、傘を差してはいても機材も服も、カメラバッグもずぶ濡れになった。投宿先に着いてもまずは着替えて機材とバッグを乾かすことから始めた。室内の湿度が低すぎることが多いビジネスホテルの低湿度ぶりをこれほどありがたく思うことはなかった。そうして撮影を終えて帰宅してから、本格的な機材の清掃に一日費やした。
そこで、今回のエントリーではそうした「雨の撮影後の後始末」について思うことを、あれこれ書きたい。もっとも心がけるべきはできるだけ機材を濡らさないことにつきるが、意図的に濡らすわけではなくても、撮影中に濡らしてしまったものは仕方がない。それに、この知識は海辺や水辺での撮影のあとにも必要だろう。
用意するものは、乾いた綿の複数枚のタオルと、写真には写っていないがシルボン紙のレンズクリーニングペーパー、クリーニングクロス、ブロワー、綿棒、無水エタノールとブラシといったところ。ニコンから発売されていた(知らないあいだに販売終了していて残念な)「クリーニングキットプロ」と同内容だ。綿棒は写真には通常のものが写っているが、ベビー用が細くてなにかと便利。
なお、界面活性剤入りのレンズクリーナーは私は好まないので一切使わない。あれはいわば液体洗剤のようなものであるし、拭き残しを生じさせやすいからだ。レンズやフィルターのガラス面の清掃にはおすすめしない。
また、リンク先のキヤノンイメージングゲートウェイのこのページはよくまとまっているので参照されたいが、OA用のエアダスターは外部の清掃には使えるが、センサーダスト清掃には不向きだ。着脱可能なノズルが吹き飛んでイメージセンサーを破壊する危険性や、微細なダストをイメージセンサー面に固着させてしまう危険性もあるからだ。したがってこれも私は用いない。
■まずは乾いたタオルで濡れた部分を拭く
まずはカメラ、レンズあるいは三脚などの使用した機材を乾いた綿のタオルでそっと拭き、全体の水分をできるだけ取り除く。ボディに装着していたレンズはまだ外さない。いっぽう、着脱はできるがカメラ内部に水分を侵入させることがない部品、つまりクイックシューやグリップなどは水分を拭ってからボディから外す。ストラップも外して重曹水と石鹸で洗っておき、しばらく干しておく。そのあとで、タオルなどを敷いて風通しのいい部屋にしばらく機材を置いておく。
外気温が低い時期に室内に機材を持ち込むと、結露が起きることがある。このときも全体の水分をまずは乾いた綿のタオルで拭い、そのあとしばらく機材の温度が室温と同じになるまで置いておく。
なお、潮風を浴びたあとならば、いちど水道水を浸して固く絞ったタオルで機材外面を軽く拭いておくほうがいいだろう。また、雨のあとに限らずふだんから撮影後には無水エタノールを浸したタオルなどで、機材の外部をときどき拭いておこう。機材の外部のとくに滑り止めのラバーなどには皮脂や汗が付着しているからだ。皮脂や汗はカビが生える原因になりやすい。
カメラバッグとインナーバッグ、三脚ケースなども風通しのいい場所に干しておき、乾いてから汚れはブラシで落とす。ナイロンのバッグは私はときどき重曹水で洗う。リュックサック形のバッグはとくに体と密着する部分が多くて皮脂や汗が染み込みがちなので、雑菌も繁殖しやすくにおいの原因になりやすい。重曹は水に溶けにくいので、ぬるま湯を使うとよく、かつ使ったあとは流水でよくすすいでから干すこと。晴れた日に洗濯をするほうが望ましい。
■キャップの裏側もきれいにする
■内部部品の固定方法や位置を記録しておく
前群繰り出し式のレンズはヘリコイドを伸ばし、ズームレンズならば望遠端に伸ばしてから水分をおおまかに除く。前後キャップとレンズフードも外す。そのあとで、同様に乾いたタオルの上で乾かす。乾かすまえにはヘリコイドを何度も回すことやズーム操作をできるだけしないこと。水分を手の届きにくい内部に浸水させる危険性があるからだ。伸ばす動作を一度行うのみにして、水分を拭い乾かす。
レンズ面の清掃は各部が乾いてから行う。ブロワーで目視できるゴミを飛ばしてから、無水エタノールを浸したシルボン紙で拭いて汚れを落とし、乾拭きして仕上げる。ブラシなどでレンズ面を掃くことはしない。シルボン紙は折りたたんで使い、毛羽が立ったら捨てる。拭き残しのないように気をつけよう。
拭き方についてはニコンイメージングジャパンのウェブサイト内にある以下のページの説明がわかりやすいので参照されたい。「Enjoyニコン」内「フォトテクニック:レンズレッスン」の「 Lesson13:レンズのお手入れの基本」だ。
ただしクラシックカメラなどの、コーティングが弱いむかしのレンズを拭くときはあまり力を入れないように。ガラスやコーティングに傷がつきやすいものもあるからだ。
レンズ内部に水分を混入させたことは、国産メーカー製の現代の製品では体験したことはないが、古い外国製品ではある。そういう場合は費用をかけてでもメーカーか、専門の修理業者に依頼しよう。専門家に支払う費用を惜しむべきではない。そういう修理代金が惜しいひとはクラシックカメラやレンズを使う資格がない。文化財だからね。
まずは、前述のキヤノンイメージゲートウェイの記事「お手入れ定期便 vol.5」をみなさんには一読してもらいたい。
掃除機もかけたホコリの少ない部屋に機材を置いて数時間経って乾いたところで、ボディに装着していたレンズを外す。パッキン部分などを拭いておく。ときにはCPU接点部分も乾いた綿棒で拭いておこう。ホットシューの接点部分もときどき乾いた綿棒で拭くといい。汚れていたら無水エタノールを使う。
メモリーカードスロットのカバー、バッテリー室カバー、各種端子カバーもこの段階で開けて清掃をする。ブロアを吹きブラシで拭く。メモリーカードスロットや各種端子の極めて小さい電子接点にはさわらないように。また、カバー四隅にホコリや皮脂などがたまることによる汚れも、綿棒や竹串などを使ってていねいに落としておく。汚れがたまるとカバーがきちんと閉じなくなる恐れがある。
ファインダー接眼部の清掃と、ミラーレスカメラのアイセンサーの清掃もレンズ面と同様だ。ブロアーでゴミやホコリを取り除いてから、折りたたんだシルボン紙に無水エタノールを染み込ませて拭き、拭き残しのないようにする。
一眼レフでファインダースクリーンの取り外せるものは、ゴミがめだつ場合には取り外してブロアーで吹く。最近のカメラはスクリーン交換ができず、取り外しができないものが多いので、マウント部からブロアーで吹く程度しかユーザーレベルでは作業ができないだろう。そういう機種でゴミがめだつ場合には、カメラメーカーの修理サポートで清掃してもらうほかない。
センサーダストの清掃を行うならば、こうしてカメラやレンズ外部の清掃をひと通り終えたあとに行うことが望ましい。筆者自身はカメラを下向きにしてミラーアップさせてからブロワーで吹くのみで、本格的な清掃はメーカーに依頼する。拭き残しを生じさせるのがいやなのと、筆者が業務ユーザーとしてお世話になっているメーカーサポート窓口のある新宿や原宿まではそう遠くはないから。
清掃時に忘れがちなのはレンズの前後キャップやボディキャップの、とくに裏側の清掃だ。キャップの裏側にゴミやホコリが付着したままで使用すると、レンズ面やボディ内部にホコリを付着させる原因になりかねないので、ブロワーで吹いてホコリやゴミを飛ばしてから、ブラシなどで隙間の部分もきれいにしよう。ときには、流水で洗うのもいいだろう。洗ったあとはもちろんホコリの少ない部屋で乾かすこと。そして乾いたらブラシなどでホコリをよく払うこと。
これらのキャップ類を衣類やバッグのポケットに入れる習慣のあるひとは、とくにこまめに清掃を心がけたい。カメラボディ内にセンサーダスト用の除去機能があっても、ボディキャップ裏側にホコリがあるようではせっかくの除去機能をだいなしにしてしまう。
■三脚もまずはすべて伸ばして乾かしてから
三脚もカメラやレンズと同様に、まずはすべての脚部を伸ばす。雲台部分や雲台のハンドルが外せるものは外してから、全体を乾いたタオルで拭いて水分をおおまかに取り除く。そのうえで、風通しのいい部屋で乾かす。筆者は扇風機を通年で使用している。数時間経って動きに支障がないならば、それで終わりでもいい。脚部を毎回のように分解して清掃する必要はないかもしれない。石突部分などに付着した土を拭いて仕上げよう。
ただし、カーボン素材の高精度三脚で各部の隙間が少なく、ナットロック(ツイストロック)式の脚部を持つものは、使用しているうちに生じたカーボンパイプ部分の削りかすが脚部内部にたまり、水分のわずかな混入でも汚泥のようなものが生じてしまい、動きの滑らかさが損なわれるようだ。ナットロック内に細かい砂が混入した場合も、除去する必要があるだろう。
そういう製品でなおかつ分解可能なものを使っているならば、脚部のロックナット内部の水分とカーボンのかすを除去する必要がある。なお、分解せずに防錆潤滑スプレーを使うのは厳禁だ。一般名詞で書いたが、5から始まる3けたの数字の名前のあの製品のことだ。あれを使うのはダメ。ゼッタイ。あれは錆などで固着した部分を緩ませて外すときに使うもので、使用後にきちんと拭って取り除く必要がある薬剤だ。
いずれにせよ、まずは全体の水分をおおまかに取り除くことが先決だ。
ロックナット部分の外し方は、お使いの三脚それぞれで確かめてほしい。ロックナットの「ゆるむ」の方向に回し続ければ外れるものが多いはずだ。注意すべきは内部部品の固定位置や向きを分解時にきちんと記録しておくということ。部品をゆっくりと外しながら、スマホでかまわないので、その工程ごとに写真で記録しておこう。筆者はこれをおこたって、組み上げるときになかなかうまくいかず、いやな汗をかいた。ダーマトグラフなどで付番して固定位置や固定方法を記しておくのもいいだろう。
このあたりのことは、筆者は以前デジカメWatchにベルボンの記事広告として書いたことがある。興味がある方はご一読いただけたらありがたい。
内部の回転止めのプラスチック部品は華奢なものが多いようだ。三脚が動かせなくなるとか、壊れるというのはこの華奢な内部部品の破損や経年劣化によるものが多いと思われる。だから、壊してしまわないように慎重に扱おう。乾いたタオルや綿棒でそっと拭いて水分とカーボンのカスを拭い、そのあとで乾燥させる。紛失しないように注意。そして、これら三脚の脚部内部の部品が乾燥してから組み立てよう。
なお、小型三脚などで接着剤が用いられていて分解ができない製品、あるいは自分にはうまくできそうにないと自信を持てない方、さらには忙しくて自分でやっている時間がないという方は、三脚のメンテナンスもメーカーに依頼したほうが確実だろう。少なくとも国産メーカーや国内総代理店ならば有償で対応してくれるか、補修パーツを持つ認定修理店を紹介してくれるはずだ。
ねんのために記しておくが、筆者はユーザーレベルの三脚の分解清掃をとくに推奨するわけではない。ひとには向き不向きがあり、こういう作業に向かないひともいる。筆者自身もほんとうは向いていない。ロックナット部分の細かいパーツの清掃と分解は有償になってでもメーカーに依頼したい、とは筆者も思った。
■雨で傷んだ植毛紙も張り替える
レンズフード内部などの植毛紙は濡れていると外部からの衝撃に弱く、傷がついたり剥離することがある。十分に乾燥させてから、傷んだ部分の植毛紙を張り替えよう。モザイク状に貼るのでも反射効果が変わるわけではないので構わない。あまりかっこうよく見えないだけだ。
雨の日にしか撮れない写真というものもある。だから、機材を濡らさないために晴れた日にしか撮影に出ないというのは人生の半分くらいを損しているのではないか(大きめに出た)。それはともかくとして、これら上記のほとんどの項目はみなさんもご存知で、すでに行っているもののはずだ。
だから、私自身が最近改めて気をつけている項目について記した。みなさんのお役に立つならばさいわいだ。