水面がきらきらと輝いてまぶしい。さらさらと流れる水音が絶え間なく続く。時刻は15時を回ったところ。そろそろ来るはず......来た!
速度を落として排気をたなびかせて、SLパレオエクスプレス5002列車が荒川橋梁を渡る。望遠ズームレンズをつけたカメラで追う。汽笛が鳴る瞬間をいまかいまかと待ち構えていると、橋梁を渡り終わる頃に悲しげな汽笛が川面に響き渡った。
ああ、冬の汽車はいいな。
いま私が感じている気持ちは、きっと旅情というやつだ。世界の美しさをかいま見てしまい、だれかにそのことを伝えたくてたまらない気持ち。だがしかし、これを共有できる人、あるいは共有したいと思える相手はそう多くないことを、大人になってしまった私はもう知っている。
いけね、新年そうそうとんでもないチラシの裏になりそうな勢いだ。巻いていこう。
さて、時計の針を少し巻き戻す(巻きで行く=急ぐと書いたのに)。時刻は1月3日の13時過ぎ。秩父鉄道SLパレオエクスプレス5001列車「秩父路初詣号」を秩父市内で撮ってから、のんびりと最寄り駅まで戻り、その足でまっさきに向かったのは荒川橋梁だ。往路は正面から狙ったのだから、復路は側面がちで狙いたい。日章旗はなんとなく見えればよろしい。上り5002列車が荒川橋梁を通過するのは15時頃なので、日の長い季節ではまだいかにも昼間の雰囲気にしかならない。冬場でも15時ではまだ西日の雰囲気にそのままではならないが、そこはデジタルカメラなのだ。「忍法ホワイトバランス色温度数値入力の術」を使えばいい。昨年の冬期運行の時期に冬の荒川橋梁が気に入ったのだ。
いや、最近は季節を問わずに来ている気がするけど。まあ、いいのいいの。
いくら河原は収容人数が多いとはいえ、ある程度前にいないと好みの場所はやはり占めにくい。上りパレオエクスプレスの通過の2時間前に来たのは、やはりベストを尽くしたいという思いから。そういえば、去年の1000系電車引退直前の頃にも同じようなことをしたっけ。進歩がないね、私も。
冬の河原を吹き抜ける風は冷たい。ときおり通りかかる舟下りの客に手を振り、録音中に咳き込むことのないように、持参した飴でのどを湿らせる。なにかで読んだ狙撃兵の真似だ。あいまに、カメラのテストのためもあって行き交う電車を撮る。鉱石貨物列車は運休なのは、まだ三ヶ日だからやむをえない。ナナハチも撮れたし、5000系も来た。
気分は「少しも寒くないわ♪」といったところ。
うそ。いやまあ、すっげえ寒かったですよ、じつに。そして14時を過ぎる頃に、自分が占めていた場所の周囲にもほかの撮影者が徐々に集まり始めた。電車が駅に到着するたびに数人ずつ増えた。よく見ると順光側の荒川ライン下り発着場側にはカメラの放列が見えた。
ダイヤと腕時計をためすつがめつ眺めるのにも飽きたころ、ようやくしずしずと5002列車がやって来た。空はまだ青いので、やはり「忍法WB色温度数値入力の術」の術でとんでもない色温度を入力した。業務カメラは動画なので、RAW現像はできない。どうしても慎重になる。
狙ったアングルのなかでは汽笛は鳴らなかったけど、蒸気機関車のシルエットは雰囲気よく撮ることができた。趣味写真なのでフレアとデジタルゴーストもまあいいや。業務用カメラのほうは最新レンズなのでゴーストもなくて驚いたし、そちらもばっちり。これならば、大丈夫。よし、やはり今年の初撮りは成功だ。
【撮影データ】Nikon D2X・Ai AF Zoom-Nikkor 80-200mm f/2.8D ED <NEW>・ISO100・RAW(Capture NX2にて現像)