■今年もまた川越線・八高線電車散歩
梅雨だから仕方がないものの、降雨の予報があると自転車で遠出しづらいと前回書いた。そこでまた、余暇の時間には川越線・八高線の電車に乗って「電車散歩」をすることにした。鉄道をじっさいに目にして、乗っていないとどうしても私は「鉄道のどこが好きなのか」「どういう絵にしたいのか」という勘が鈍るからだ。
どういう絵を撮りたいのかという自分の視点を忘れてしまっては、写真にならないもの。それに列車に揺られて車窓を流れる風景を見ていると、気持ちがまぎれるしね。
川越線と八高線の沿線はずいぶん宅地開発が進んで、線路沿いは必ずしも列車の写真を撮りやすいとはいえない場所が増えた。それでも列車から見ていると田畑や雑木林が多い区間もあるところがいい。自宅からせいぜい15キロメートル圏内なのにもっと遠出しているように思えるから。
遠出してもいいのだろうけれど、私がまだ控えているのはいつもいう「あれがああだから」という理由だけではない。ちょっとした願掛けのようなものだ。
昨年春より記事にしている209系電車のうち、登場時のインバーター装置を持ち「平成年間の最初のころの電車の磁励音」を響かせている2編成の3100番代にはよく遭遇する。本年10月に改造工事が終了するという209系3500番台車とE231系3000番代車のワンマン運転対応改造もかなり進み、大半は改造工事が終了したようだ。ハエ71と72はそれまでの予備車として最後の活躍をしているというわけだ。
この日も川越線下り列車に乗ったらすぐにハエ71編成の上り列車と交換した。これから先のどこかで待てば、ハエ71編成を撮ることか乗ることができるのではないか、などと思うとニヤニヤがとまらない。フォカヌポウ。ごめんなさい、最後だけちょっと盛った。
八高線にいちど乗ってしまうと入間川橋梁には行きづらい。東飯能で降りて、列車を利用するならばいちど西武池袋線に乗り換えて飯能に行ったうえで元加治に出る必要があるので、短距離でも時間がかかる。東飯能から入間川橋梁までは2キロメートル少々なので歩くことは不可能ではない。だが、もっと早い時間ではないとこれから橋梁へ向かっても明るいうちに撮れないのではないか。そう思い、入間川を渡った先まで電車散歩を続けた。
■加治丘陵があるから歩くのは時間がかかる
ちなみに、金子から入間川橋梁のあるあいわ広場までは八高線ぞいの東京都道・埼玉県道218号二本木飯能線を歩くと4キロメートル程度で、45分程度かかるはずだ。私はいままでに何度かその逆のコース、つまり入間川橋梁から金子まで歩いたり、自転車で向かったことがある。そのほうが時間がかかるはず。それは加治丘陵があるから。線路は加治丘陵の端に敷かれているが、それでも勾配がある。
この二本木飯能線がねえ……自動車やオートバイ、あるいはロードバイクで通るならば楽しいかもしれないなあ。そう思うとため息が出る。
つまり徒歩やシティサイクルには楽しい道ではない。坂できついしわびしい気持ちになるので、まったくおすすめしない。入間川から行くと入間メモリアルパークにかけて道路は上り坂が続く。「墓地までぼちぼちいこか〜」と思える楽観的な方にだけおすすめできるかも。
なにしろ、ひいこら登っているとそばを自動車がびゅんびゅんと追い抜いていくのだ。沿道にあるのはバスの車庫とゴルフ場と倉庫くらいで、歩道は一部区間にしかない。飲料自販機はあるかもしれないが、飲食店のたぐいもないはず。飯能や東飯能まで歩くほうが、住宅地を選べば排気ガスを浴びることがないので、ずっと楽しいや。
駿河台大学を経由して飯能と金子を結ぶ路線バスがあればいいのに。大学がスクールバスを走らせているから需要がないのだろう。西武バスの飯能営業所管内なので、ときどきこの道を営業所へ戻る回送バスが走っている。歩いているときにそれを見ては、乗れたらいいのにと思う。
しかも夜は真っ暗だ。もっとも、そんなところを夜になって歩いている私のほうが不審者ではある。ドライバーのみなさんから見ると怖かったかもしれないな、私。
だから、もし金子から入間川橋梁へ徒歩で向かうならば遠回りにはなっても、桜山展望台を経由して、トーベ・ヤンソンあけぼの子どもの森公園のあたりに出てくるハイキングコースを歩くほうが、気持ちよくていいはずだ。桜山展望台経由であればあいまに眺望も楽しむことができてよいだろう。入間市Webサイトには「加治丘陵マップ」のダウンロード可能なリンクもあるので参考にされたい。
金子から歩くのであれば、お弁当とおやつは持参するとなおいい。金子駅前には居酒屋と食料品店兼立ち飲み屋はあるけれど、それ以外には飲料自販機くらいしかないからだ。ハラールフードを扱う食料品店には興味が湧くけれどまだ入ったことはない。興味本位でお邪魔するのは失礼かな……と思うから。
下り方向に歩いて東京都道・埼玉県道63号青梅入間線まで出ると、南峯公会堂の向かいにマミーマート金子店はある。駅から徒歩10分程度だろうか。
また、この青梅入間線には西武池袋線入間市駅とJR青梅線河辺駅を結ぶ西武バス入市32系統が走っている。大昔の中武馬車鉄道のルートだ。東青梅まで行くバスと金子駅前まで乗り入れるバスは一日に数本しかないが、入間市〜河辺は1時間に1〜2本程度運行され、さらに八高線のガードそばにある南峯停留所まで行けば入間市行きの本数が増えるので「便利な西武バスでショートカット!」するのもいいだろう。(リンク先は西武バスWebサイトのPDFファイル)
■米軍のハーキュリーズを見てソ連社会主義リアリズム絵画を思い出す
入間川橋梁からこのあたりで列車を待っているとしばしば米軍機はしばしば見かける。横田への進入路にあたるのだろう。B-29がこのあたりに(以下自粛)。
さあて、どうするか。結局空はまた雲に覆われたから薄暮を待つか。今日はもうロケハンだな。本気でバリバリ撮るというよりも「私はどういう絵を撮りたいのか」を探る感じでいこうっと。Que sais-je? (私は何を知っているのだろう)ってところですよ。
とりあえずこれから先、少なくとも1編成は八王子行きに209系3100番代車(ハエ71編成)は来る。もう一本のハエ72編成は、八王子方にいるはずだ。暗くならないうちに高麗川・川越行きになってやってくるかもしれない。希望的観測、もしくは願望だけど。
そう目星をつけて踏切に出た。前も撮ったことがある構図で駅を見ると、ソビエト時代の社会主義リアリズム絵画の代表作ともいえる、アレクサンドル・デイネカの描いた『ペトログラード防衛』のようになる気がした。
米軍機を見てソ連絵画を思い出すなんて我ながら「あたおか」すぎるだろ、と思いつつ。いや、ちょっと待ってほしい。1938年に開業したモスクワ地下鉄マヤコススカヤ駅にはデイネカの描いたモザイクに飛行機の絵もある。当時は飛行機はまだ未来的な乗り物だったから。「飛翔」「上昇」というのもロシア・アヴァンギャルドや構成主義、未来主義が好んで用いた概念だったのだ。ロシア・アヴァンギャルドはアメリカニズムとスタイル上の親和性があり、世界を作り変えようという野望を秘めていた。社会主義リアリズムはその世界変革志向を受け継いだものだ……。なるほど、シベリア送りだ。
踏切警報機が鳴り始める直前でこういう感じだから、上下の列車交換ではないといまひとつかもしれないなあ。もっと焦点距離の長い手ぶれ補正機構のある機材のほうがいいかも。
【撮影データ】
Nikon D7200/AI AF Micro-Nikkor 60mm f/2.8D, AI AF Nikkor ED 300mm F4S (IF)/RAW/Adobe Photoshop CC