2021年3月18日木曜日

【航空自衛隊YS-11FC】さよなら、飛行点検隊所属YS-11FC。52−1151号機が退役


■ロールス・ロイス「ダート」ターボプロップエンジン搭載のYS-11FCが退役
航空自衛隊(以下、空自)の入間基地に所属する飛行点検隊が使用していたYS-11FCのうち、残された最後の機体(52-1151号機)がさる3月17日にラストフライトを行って退役したそうだ。報道関係者には事前に情報公開がなされたようで、NHK首都圏のニュースでもラストフライトのようすが報じられている。

私は報道機関につとめているのでも、航空機趣味関連媒体で仕事をしているのでもないし、空自に知人もない。だからラストフライトのことは事前には知らなかった。それでも、ここ数日の訓練のようすなどを見ると「終わりの日は近い」のだろうと想像していた。そこで最近はできるだけ撮影回数を増やしていた。撮影者が急増しているので定番位置を注意深く避けながら。だが、ラストフライトのあった17日午前中は外出できず自宅にいて、エンジン音を聴いていた。

そういうわけで、今回のエントリーでお目にかける写真はいずれもラストフライトの日の写真ではなく、2006年から今年までに撮った52-1151号機の姿だ。旧ブログなどでみなさんにはすでにお目にかけたカットもある。2019年に退役した僚機12-1160号機についても以前記事にしているので、興味のある方はそちらも参照されたい。



■近隣住民に長いあいだ親しまれてきた
YS-11FCについての詳細は私が説明するよりも、前述のAviation Wireをはじめとする専門媒体の記事を参照していただくほうが手っ取り早い。同記事によれば入間基地の飛行点検隊には1971年にはじめてYS-11FC(12-1160号機)が新製配備され、その後空自の人員輸送機であるP形から1991年に62-1154号機が、1992年に今回退役した52-1151号機が追加改造されて3機体制で業務を行っていたという。

入間基地の航法機器の保守点検のための観測に用いられるだけではなく、全国の空自基地の航法機器観測にも用いられていたそうで、平日の午前中に離陸してどこかの基地まで飛んでいき夕方戻ってくる、あるいは日中や夕方に入間基地周辺を飛ぶ姿が長いあいだ見られた。住民と協定があるためなのか、夜間と土休日には基本的には飛ばない。

基地のある狭山市、入間市だけではなく所沢市や川越市、東京都東村山市、小平市などの近隣在住のみなさんで、平日に市内にいる方ならば、この赤と白の塗装、尾翼のチェック模様をまとう姿は親しまれていたはずだ。2008年1月に西武多摩湖線の101系電車を撮影したこのブログの記事でも、小平市上空を飛ぶ姿を見て記している。村山貯水池(多摩湖)、山口貯水池(狭山湖)、西武狭山線沿線、あるいは西武池袋線小手指駅から稲荷山公園駅のあいだ、あるいは西武新宿線航空公園駅から狭山市駅のあいだにいるときなどにも基地へ帰投する姿をしばしば見ていた。

「茶畑と住宅が混じり合う風景のなかを赤と白の中型機が飛ぶ」というのが、入間市や狭山市あたりの典型的な風景のひとつだといってもよかったのではないか。それは私の思い入れが強すぎるかな。少なくとも、私はそういう光景を見ると「いかにも入間や狭山という感じがする」ように思っていた。

さらに、ロールス・ロイス「ダート」ターボプロップエンジンは独特の動作音がする。だから、慣れれば音だけでYS-11FCをはじめとする原型エンジンのまま使われていた各種機体は「YS-11だ」と判別できた。そして、飛行音がわかりやすいことから、離陸方向や着陸方向から風向がわかるので、季節を意識する判別理由にもなった。基地近隣に長く住んでいると、どの時期のどの時間帯には離陸方向や着陸方向がどうなるかということを、なんとなく覚えるようになるからだ。




■筆者は2006年冬から撮り続けてきた
私が基地近隣に住むようになったのは2005年からだから、もう15年ほど経つ。その時点でも旅客用のYS-11は退役寸前だった。いわゆる「団塊ジュニア」に属する私の子どものころにはYS-11はすでに「古い飛行機」だった。航空機を利用して旅行をすることが少なかったので、羽田空港や観光で出かけた南紀白浜などでYS-11の姿を見たことがあるくらいで、あとは千葉県芝山町の航空科学博物館や、所沢市の所沢航空発祥記念館で保存されている機体しか知らなかった。

自衛隊機や軍用機については私は通り一遍の知識しかない。基地近隣に転居してきてはじめて入間基地ではまだYS-11シリーズが複数用いられていることを目にして、ようやく遅まきながらYS-11シリーズに対しての興味を持った。基地近隣でいちばんはじめに住んだ家は、台所の窓を開けると基地へ着陸するための最終アプローチを行っている航空機を大きく見ることができる物件だったので、よく見かけるようになってその存在を認知したからだ。

そのころから、「少し古めかしいもの」への興味を持つようになっていたということもある。さらに、鉄道写真をふたたび撮り始めるようになりデジタル一眼レフ用にオートフォーカスの望遠レンズをいくつか入手して、航空機も撮影できないことはない機材が手元にそろった。





■YS-11FCで写真の勉強をしたようなもの
そういうわけで被写体として好ましいという思いから、基地近隣に住むようになってからYS-11シリーズの撮影を始めた。現在もまだ残るスーパーYSをはじめ、人員輸送用のYS-11Pなどもときおりそのころは飛来した。だが、入間基地では基本的には平日にしか飛行を行わない。だから、会社勤めをしていた当初は航空祭のほかは、なにかの用事があるときにだけしか撮影に時間をさくことはできなかった。

あるとき、有給休暇を取得して自宅にいたある夕方に散歩をしながら滑走路を見渡す有名な場所に来た。そのときにたまたま52-1151号機が基地に戻ってきた。夜間飛行訓練であればタッチ・アンド・ゴーを数回繰り返すので、待っていると撮影機会は複数あることが多い。その姿を持っていたNikon D70とAI AF Zoom-Nikkor 80-200mm f/2.8D ED <NEW>で追い写しをした写真が、自分にとってははじめて撮ることができたまともな写真だった。これで撮影がおもしろくなって、薄暮をねらって本格的に撮り始めた。日中に見かける姿も魅力的だが、薄暮の時間は撮影の難易度が高くなるところも私にはおもしろく思えた。練習しがいがあるではないか、と。

写真に限らないが、どんなものごとでも上達するためには、たいていのひとにとっては回数をこなす必要がある。同時に他人の優れた写真もたくさん見ておくことも。カメラを持って写真術を長くやっているつもりでも、基地近隣に住んでいても、はじめのころは撮影回数を多く持てなかったので、なかなか航空機の撮影技術は身につかなかった。だから、撮るたびに自分の腕前にいつも失望していた。

そのくせ、他人の既発表の写真そっくりにはできるだけしたくないという思いだけは強かった。撮影する被写体が同じであり、構図によっては撮影場所にも制限がある。だから、結果的に他人の写真に似てしまうことはありえる。それはやむを得ないと思う。だが、私としては撮影前から他人の既発表の写真に似せることはしたくない。これはなにを被写体にしていても強くそう思う。

そう思うと撮影者が多い「順光になる定番撮影位置」で撮影するのではなくて、いろいろと撮影場所や撮影方法を工夫する必要があった。でも、そのことが航空機だけではなく鉄道などのほかの分野であっても、自分の写真撮影の技術向上につながっていったと思う。私の写真に昼間の順光でとらえた写真が少ないのはそういう理由だ。

ほかの基地に飛来するようすや、市内の高い建物から撮るようなこともすればよかったのに、そこまでできなかったことは努力が足りないなあ。私はエアバンドも聞かないし脚立も使わないような人間なので、できる範囲でなんとかしたというところかな。



いつのまにかYS-11シリーズ、とくにこれら飛行点検隊の3機のYS-11FCは私にとって、秩父鉄道1000系電車と並んで「かっこよく写してみたい」と思える存在になっていったことは興味深い。古くて興味がないと思っていたものが、古いからこそ興味が湧くと思うようになるなんてね。好きになったら理由はいらないな……YS-11FCは私にはおとなになってから夢中になって写したいと思えるありがたい存在だったし、そのために写真の技術も身につけることができた。もちろん、これからもまだまだ腕を磨いていきたい。

いつかお別れの日がくることは予想できたものの、そういう思い入れの強い存在が退役したのは、やはり一抹のさみしさはある。いろいろと楽しい思いをさせてもらってありがとう、というべきなのだろうか。でも、航空機そのものにお礼をいうのではなく、老朽化して部品供給やメンテナンスに苦労されていたであろう航空自衛隊の関係者のみなさんに私は感謝したい。素敵な被写体をお借りできたことをお礼申し上げます。ありがとうございました。

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Nikon D70, D2X, D7200, Df, Canon EOS 6D Mark II/AI Nikkor 20mm f/2.8S, AI AF Micro Nikkor 105mm F2.8D, AI AF Zoom-Nikkor 80-200mm f/2.8D ED <NEW>, AI AF Nikkor ED 300mm F4S (IF), EF70-300mm F4-5.6 IS II USM/RAW/Adobe Photoshop CC 2021