2021年3月2日火曜日

【航空自衛隊YS-11EB】夜間訓練飛行にて。薄暮の空を駆けるYS-11EB


■撮るのはあいかわらず夜の飛行機
日没前後の薄暮のころに飛ぶ航空機の姿が好きで、このブログでもときおり記事にしている。自宅近隣に基地があるので被写体として身近に感じられる存在だ。そこで、いまでも散歩がてらに滑走路周辺にカメラを持って歩いている。日中に飛び交う姿にも見ていて心惹かれるのはもちろんだ。だが、より詩情やロマンを感じさせるのは私には薄暮のころに飛ぶ姿だから。完全に日が落ちるまえの薄暮の時間がいい。



■最新機材がないなら「工夫する」
夜間訓練飛行が行われる日には事前にそれが告知されるから、見るにも撮影するにも予定が立てやすい。ただし、日没が早い時期は正直にいえばできるだけ新しいカメラとレンズのほうが撮影はしやすい。

つまり、できるだけ大口径で明るく、流し撮りにも対応した手ぶれ補正機構(ニコンでいうならばVR、キヤノンならばIS)を備えた逆光に強いコーティングと鏡筒設計のレンズと、高感度耐性の高くて暗所で動体撮影にも使える位相差AFを備えているカメラボディがあればといいということ。

とはいえ、そういう機材がない場合は仕方がない。手持ちの現有勢力でなんとか工夫したい。そうやって手ぶれ補正機構のない1980年代の設計のレンズと数世代前のボディという古い機材でも「なんとか工夫している」のがいつもの私の写真だ。

そうはいいつつも、D850ボディやD780ボディとAF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VRでも使えばいままで撮れなかった写真が写るだろうか……Z 6 IIとFTZアダプターでFマウント超望遠レンズがいいだろうか……高感度はD5やD6、いやまてよ。いまでもEOSのほうがもしかしたら得意なのかも……などと撮影中や現像時に思うことはある。楽にきれいに撮れるのかなあと思うと新しい機材を導入したくなる。いやいや、うまく撮れないことを機材のせいにしてはいけないんだってば。まずは自分の知恵を絞って腕でなんとかしなくちゃ。

もっとも航空機撮影は私の場合はなにかに掲載する作例以外は業務ではない。私の写真は自分のための写真であり「航空機のある風景写真」だ。望遠レンズで航空機を画面いっぱいにとらえるのは日没前後の明るい時間にして、暗くなってからは望遠レンズを使わない絵柄をねらう。そういう工夫をすればなんとかなるはず。

というのは、私はいつも一枚写真ではなく複数の写真を組み合わせて雰囲気を描きたいと考えているからだ。編集者だからなおさらそういうことを考えるというよりも、そういう「見せ方」を学びたくて編集者になった。だから、複数枚の写真を並べるのでも被写体を見せる大きさ、距離感、向き、色合いなどに変化を持たせたい。これは何を撮るときでも同じだ。「見る側」の視点で考えると、構図や撮影距離が同じ写真ばかり見るのはあきてしまうということはご理解いただけると思う。



■音でわかる「スーパーYS」
YS-11のエンジンを換装した「スーパーYS」にふくまれる現存する機体にはYS-11EAとYS-11EBがある。YS-11EAのほうはしばらく前のエントリーでも書いた。機体に大きなレーダー用の突起(レードーム)があるEBはややいかめしく見える。だが、どちらも姿を現せば私はよろこんで撮る。このスーパーYSのエンジン音は独特で回転数が上がると音が一瞬のあいだ聞こえなくなるタイミングがある。それを耳にすると、姿が見えなくても「いま飛んでいるのはEAかEBだ」ということがわかる。これはおそらく、基地近隣住民のみなさんも意識しなくてもご存知なのではないか。



■「いまだ見たことのない姿」を求めて
基地近隣に転居してきてからなにかと追いかけてきたこれらスーパーYSも退役が近づいているようだ。すでに後継機となるRC-2の配備も始まったそうだ。ここ数年で「自宅近隣で撮影可能な私にとって好ましい被写体」が姿を消しつつあるともいえるけれど……私が転居してきてから15年以上「好ましい被写体」が存在し続けてくれたことに感謝しないといけないだろう。

見慣れた被写体であっても撮り続けるのは、いまだに見たことのない姿があるにちがいないと思っているからだ。地上の滑走路を背にした離発着の姿よりも空を背景に写すことが多いのは所有機材の制限によるのではない。ないわけではないけど。かっこよくいうと空模様は過去と同じには決してならないから……ちょっと気取りすぎた。けれど、いまだ見たことのない、あるいは写真にできていない姿がまだあるはずだと思うのだ。

それにしても、他人の既発表の写真のまねになるのがいやで、昨今のあれがああなるまえから定番とされる撮影者が集中する撮影位置からの写真は自分はできるだけ避けている。そういうカッコつけを考えているのに、自分の絵柄の種類がまだ足りないので、いまひとつカッコよくないというのが自分の課題だ。自分の過去の写真の真似のような絵柄にばかりしてしまうのは、まだまだ努力が足りない。

「音楽の鳴っている間はとにかく踊り続けるんだ。おいらの言っていることはわかるかい? 踊るんだ。踊り続けるんだ。何故踊るかなんて考えちゃいけない。意味なんてことは考えちゃいけない」(村上春樹『ダンス・ダンス・ダンス』)ということなのだろうね。

(おことわり)引用文の漢字の開き方などは本誌の表記ルールとはことなりますが、原文のまま引用しています


【撮影データ】
Nikon D7200/AI AF Nikkor 24mm f/2.8D, AI AF Nikkor ED 300mm F4S (IF)/RAW/Adobe Photoshop CC 2021