2023年8月17日木曜日

【撮影術】三脚使用時に確実にぶらさない工夫の話 その1選び方編

■「三脚を使えばぶれない」わけではない
夏場は三脚を使う撮影が増える。昼が長いにもかかわらず。それは、花火撮影や星景写真、空の動きをタイムラプス(微速度)撮影で記録する機会が筆者には増えるからだ。レジャーシーズンで冬よりも活動的になるから、ともいえる。いずれも、どれだけカメラやレンズの手ぶれ補正機構の性能が向上しても、三脚なしには写すことができないものだ。

たとえば筆者はタイムラプス動画を撮るのに動画モードではなく、静止画をインターバルタイマーを使って連続撮影し、それをつなぎ合わせる。だから、撮影時にわずかでも画面が動いてほしくはない。作例は15秒おきに1時間連続撮影した計240カットから作成したものだ。


ところが、ぶれに注意したいから三脚を使うのに「三脚を使ってもぶれてしまうこと」(正確には「ぶらしてしまうこと」)がある。エントリーユーザーには、もしかしたら意味がわからないかもしれない。

この「ぶれ」は、シャッター速度が遅くて被写体の動きに対応できなくて生じる「被写体ぶれ」ではない。三脚を使っていてもカメラや機材がゆれて画面全体をぶらしてしまうことがある、という意味だ。

長く写真をやっているひとで、望遠レンズや望遠ズームレンズを使うひと、あるいは星景写真や花火写真などでスローシャッターを多用する、あるいは長時間露出にして撮影をするひとなら、このことはご理解いただけると思う。

今日はこの「三脚使用時にぶらさない」対策についてお話していこう。長くなるので2回に分ける。

第一回目はまずは三脚選びの基本について記す。この基礎知識を守っていることを前提にしたうえで、ぶれ対策を話したいからだ。ただし、申し訳ないが「2023年8月最新モデルの買い物情報」という感じの具体的な製品選びの話ではない。

それでも書いたのは、最近名称が変わった某ミニブログなどを眺めていると「カメラやレンズにはお金をかけているのに、三脚や雲台には無頓着で、機材に対応している三脚を使っていない」ユーザーや「三脚を使うときの工夫」をご存じないユーザーが、どうやらかなり多いのではないかと思えることがしばしばあるから。杞憂ならばよいのだが。

知っているよと自信のある方は読み飛ばしてほしい。

■すべての用途に対応できる三脚は存在しない
三脚に求められる要素は、撮影の種類によりけりだ。用途によって必要とされる三脚の大きさや重さがかわるから。それゆえに三脚製品は数多くある。『ちゅっ、多様性。』ということですよ(はて)。

たとえば、撮影者をふくめて記念写真をスマホで撮るためには、数千円で買えるような小型でパイプ径の細い軽い三脚でも困らないだろう。使いやすいとは思えないので積極的にお勧めする気にはならないものが多い。でも、こういうユーザーはスローシャッターを使うことは少なそうだし、三脚がしっかりしていることよりも、軽くて小さく携行性に優れるほうが優先されそうだ。

また、望遠レンズを使って撮影するのでも、1/500秒などの高速シャッターでしか使わないユーザーであれば、使用機材の大きさや重さにぎりぎり耐えられる程度の三脚でも構わないかもしれない。価格的には数万円程度で購入できるものだ。

いっぽう、何時間ものあいだレンズを被写体に向けておく星景写真などの長時間露出を用いるユーザーには、ほんのわずかなぶれでも困る。こういうユーザーには、パイプ径が太くて重さもある程度以上あり、価格的にも「それなり」……5万円以上しそうな製品ではないと役立たない。

まことに残念ながら、すべての撮影に共通で使用しやすい三脚というものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね(春樹語)。

村上春樹先生はともかく、三脚に関しては「小は大を兼ねない」のだ。

もしかしたら、スマホで使うにもパイプ径の太い質量のある大型三脚を常時使うというのであれば、困らないのかもしれない。業務用にスマホできちんとした写真を撮影する必要があるときならばともかく、レジャーではスマホ用に大型や中型の三脚を携行するのはいやだよな。

そう思って用途別にサイズのことなる三脚を用意するようになると、手持ちの三脚の数が増えていく。三脚にもまちがいなく沼はある。沼の住民の皆さん、ゲームの始まりです。

■「価格が高いものほどいい」と書くと試合終了ですよ
三脚選びに関して非常に乱暴にいうと、三脚の使い勝手や性能は価格と比例する。つまり、高級モデルであるほどぶれにくくしっかりしていて、いろいろと気が利いている製品が多い。カメラやレンズならばエントリーモデルでも、より新しい製品ならば高画質ということはある。だが、三脚と雲台は価格と使いやすさ、ぶれにくさはほぼ比例する。

使用機材の質量が大きいほど、最大推奨荷重が大きい製品が要求される。三脚自体の重さもそれなりにはなる。そうなるとお値段の張る三脚が必要になる。みんな大好き「軽くて小さい」を目指せば目指すほどぶれやすくなるのだ。

だが「値段の高い三脚を買うがよろし。アデュー」「HUSKY QUICK SETしか勝たん」ではつまらない。だから、こう言い換えようかな。

ぶれに強いことを第一に求めるならば、予算の範囲内で、好みのデザインやブランドで、自重が自分の持ち運びに適した重さで、できるだけ最大パイプ径が太くて段数が少ないものがいいよ、と言い直そう。伸ばしたときの長さと縮めたときの長さももちろん大切だが、話が長くなりすぎるので長さ(高さ)の話は軽く触れるだけにとどめる。


パイプ径が大きくなればなるほど、三脚としては安定はする。だが、質量も大きくなり価格も向上する。運搬するにも負担になりがちだ。

最大パイプ径30mmのManfrotto 055シリーズは「中型」三脚

脚部のロック方式にはナットロック(ツイストロック)とレバーロックがあり、前者はどちらかというと高級モデルに広く用いられている。微調整はナットロック式のほうがしやすいとされている。レバーロック式は水が内部に入っても抜けやすい気がする。隙間があるものが多いからともいえる。

センターポール形状でわけるとセンターポールにエレベーターを持つものとないもの、収納時にセンターポールを脚部の中央に収納してよりコンパクトになるトラベラータイプがある。

■使用機材の総重量が三脚と雲台の「最大推奨質量」以内であることが大前提
筆者は公共交通機関利用派であり、ミドルクラス一眼レフとエントリークラスミラーレスカメラを使うことが多いので、所有する三脚は「中型」と「小型」だ。

奥からManfrotto 055 XPROB、Velbon Professional Geo V640、
GITZO G1120 Sport Performance MK2
 
具体的には最大パイプ径⌀28mmの「Velbon Professional Geo V640」(カーボン4段)と最大パイプ径⌀30mmの「Manfrotto 055 XPROB」(アルミ3段)をおもに使う。

Velbon Professional Geo はモデルチェンジして4段モデルはN640に。

Manfrotto 055シリーズの最新モデルはMT055XPRO3。脚だけでも購入できる。カーボンモデルもある。

小型三脚は「GITZO G1120 Sport Performance MK2」(アルミ3段)で最大パイプ径⌀24mm程度のものだ。さらに、最大パイプ径⌀21mmの「Velbon ULTREK UT-3AR​​」(現在は「小型トラベル三脚 ​​UT-3AR」(トラベラータイプ、5段)もたまに使っている。

Velbon Professional Geo V640とVelbon ULTREK UT-3AR

このうち、三脚側の最大推奨荷重はV640が4kg(耐荷重18kg)、UT-3ARは1.5kg(最大荷重6kg)。​​055 XPROBは「耐荷重7kg」、G1120は「耐荷重6kg」とされている。「最大推奨荷重」は後二者はわからない。

また、筆者がおもに使っている梅本製作所の自由雲台「SL-60ZSC」の「最大積載質量」は6kgとある。

「最大推奨質量」「耐荷重」では示している値がことなる。海外メーカー製品ではとくに「最大推奨荷重」は出さないのでわかりにくい。「最大推奨荷重」は「きちんと使えばぶらさない重さ」であり、「耐荷重」や「最大積載質量」は「ぶれるかどうかはわからないが、製品を壊さないですむ最大の質量」だと判断したほうがいい。

Velbon Professional Geo V630とV640の説明書にある「最大推奨質量」。
Velbonはこういう表示をしてくれるところにも好感が持てる

だから、最大積載質量の記載されていない製品では、おそらくは耐荷重のせいぜい6がけから7がけ程度が「安全域」と思ってよさそうだ。(2024年2月追記:「耐荷重」の表記も計測方法が統一されていないのであてにならない説があるそう。表記の半分くらいと思ったほうがいい説もあるとかなんとか)

使用機材が「最大掲載質量」以内、あるいは「耐荷重」未満の質量に抑えられていることが、ぶれ対策としてはなによりも重要だ。華奢な三脚はどうしてもぶれやすいのだ。

■カーボン三脚は転倒に注意
素材のちがいもぶれにつながる可能性もある。軽量なカーボン素材は運搬時には軽くて便利だが、使用時には素材の性質から「しなり」が生じない。そしてこれは素材には関係がないが、重量のある機材では脚部のほうが軽くなり、重心が高くなりやすい。

するとどうなるかというと、カーボン三脚はどうもアルミ素材の製品よりも強い風にあおられてあっけなく倒れる危険性が高いように思えるのだ。アルミ三脚ならば多少は持ちこたえそうな状況でも、ぱたん! と倒れる感じがする。

建築物と自然風景を撮影する知人のカメラマンは、カーボン三脚を選ぶさいには、アルミ三脚よりもパイプ径の太いものにするという。パイプ径が太いほうが三脚としては安定するからだ。これは合理的な考え方だろう。

だから、三脚中央部のエレベーターを使って高さを稼ぐことは、カーボン三脚ではとくにできるだけ避けたい。エレベーターは高さの微調整用だ。エレベーターの高さを上げすぎると重心が高くなって転倒しやすいし、ぶれやすくなるからね。

さらにストーンバッグやセンターポールのフックに重し(ウェイト、死重)を下げて、重心をできるだけ下げたい。重しはぶら下げるのではなく、地面に接地させること。

筆者は市販の(古くなって傷んで日常的には使いたくないむかしのコムサの製品)に水道水を入れたペットボトルを使うことが多い。自転車用ゴムバンドで三脚のセンターポールに(フックがあるものはフックに)引っかけて使う。

重しに使うのは砂でも大きな石でも、あるいはそのときに使わない機材を入れてあるカメラバッグでもかまわない。

パイプ径が機材に対してやや貧弱な三脚でも、こうすると意外とぶれを抑えることができる。「意外と」だから、下剋上的ななにかをものすごく期待されては困るよ。

ストーンバッグでもいいが
筆者はトートバッグに重しを入れて使う。
重しは必ず地面に設置させること

ペットボトルに現場で水道水を入れることができるならば
いちばん便利な重しになる。撮影後は中身は捨ててしまってもいい

■望遠レンズならば35mmフルサイズミラーレス機でも一眼レフ同等の三脚がいい
筆者が私有する機材で体感するのは、300mmF4クラスの望遠レンズと一眼レフボデイではV640か055 XPROBなどの最大パイプ径が30mm程度の中型三脚が欠かせないということ。

小型三脚のG1120は、一眼レフならばミドルクラスボディまで。使うレンズも単焦点レンズかせいぜい標準ズームレンズまでだ。ただし、ミラーレスカメラでもマイクロフォーサーズであれば、G1120でも望遠ズームレンズを使っても困らない。

また、小型トラベラー三脚のUT-3ARは最大推奨荷重1.5kgというくらいで、5段目の脚部はものすごくきゃしゃだ。だが、脚部を伸ばさないでいると最大パイプ径⌀21mmあるから、それなりだ(期待しすぎてはいけない)。筆者はマイクロフォーサーズ機とスマホに使っている。​​一眼レフや35mmフルサイズミラーレス機で使ったことはない。

長秒時撮影を行うくらいのシビアな条件で考えるならば、35mmフルサイズミラーレスカメラにも、とくに超望遠ズームレンズでは、筆者は一眼レフ同等の三脚が必要なのではないかとは思う。

もしかしたら、ボディサイズが小さいソニーα7シリーズやα9シリーズボディと単焦点レンズや標準ズームレンズを使い、長時間露出での撮影をしない方ならば、三脚サイズをひとまわり小型にできるかもしれない。

それでも、エレベーターを高く伸ばさないと撮影者の視線の高さにならないようなサイズの三脚では、ぐらついて安定せず使い勝手がそうよくはない。
​​
とくに最近のミラーレスカメラ用高性能レンズは一眼レフ用交換レンズよりも大きさと質量が大きい傾向にある。フラッグシップクラスの35mmフルサイズミラーレスカメラのボディもそれなりに大きく重いし。だから、一眼レフと同等のサイズの三脚が結局は必要になるのではないか。

■雲台も侮れない
三脚よりもじつは、雲台のほうが重要だという意見もある。梅本製作所の高精度自由雲台を使い始めて筆者はこのことを痛感している。

精度の低い雲台を使うと、数カット撮影しただけでほんのわずかに構図が変わってしまうことがある。機材がわずかに動いてしまうのだ。どんなに各部のネジをきつく固定しても、わずかに機材が動いてしまうのはけっこう苦痛だ。

梅本製作所の自由雲台「SL-60ZSC」

梅本製作所の雲台を使い始めて感激したのは、カメラを固定したあとで起きるわずかな構図のずれが、ほぼ完全に解消されたから。複数枚以上の画像を重ねて比較明合成(コンポジット)撮影をするには、わずかでもずれを生じさせる雲台では泣けるのだ。

梅本製作所の自由雲台は、ぜひ皆さんにも知ってもらいたい雲台だ。最近モデルチェンジしてさらにぶれに強くなったようだ。しかも、貴重な国産メーカーなのだ。

■三脚と雲台は実店舗で買おう
三脚と雲台こそ店頭で買うことを力いっぱいおすすめしたい。とくに、最初の一本はオンラインでしか購入できない海外製品はお勧めできない。そして、自分がその三脚で使いたい機材のうち「重いもの」を持参して店頭で試させてもらおう。もちろん、いろいろとくわしく助言をくれる店員がいるお店で買うべきだ。

そうなると、三脚メーカーから派遣されている店員や、ベテランの店員、趣味で写真を撮っていて相当上手な店員がいる店となると、ヨドバシカメラかビックカメラにつきるかもしれない。都内ならばフジヤカメラの機材館も頼りになる。

地方にある個人の写真店ならば、店主が撮影ツアーや写真クラブを主催するようなお店がよさそうだ。つまり、きちんと勉強をしているか、自分でも写真を撮るような店員に会えたらいい。

持っている機材を試すことを嫌がるお店は今後のおつきあいもちょっと……と思う。そういう経験は筆者にはないが。

もちろん、客だからといって、信頼関係がない店員に対して「常時タメ語」や命令口調で横柄に振る舞い、展示品を乱暴に使うのは絶対にだめだぜ。

自分の機材を持っていって三脚にセッティングさせてもらい、すべての脚部を伸ばしたうえで、がたつきはないか、脚部の伸縮はしやすいか、操作しやすいかを試す。実際に触れないとこればかりはわからない。運搬は公共交通機関で行うのか、自家用車を使うのか。そうなると長さや重さも考慮する必要がある。そんなことも考えて選びたい。

そういうわけで、地方在住でもリアル店舗で買ったほうが最初はぜったいにいい。

そして、カメラや三脚を使っていくうちに自分に必要なスペックがわかってくる。素材、パイプ径、段数、重量、伸長、縮長、エレベーターの有無、通常エレベーター型かトラベラータイプか、脚ロック方式などのスペックは撮影スタイルや使用目的に応じて変わるはず。オンラインで買うのはそれが明確になってからだ。つまり、完全なカメラ初心者や三脚初心者ではなくなってから、オンライン店舗もうまく活用しよう。

また、三脚は「精密機械」というわけではないが、メンテナンスフリーでずっと使えるわけではない。長年の摩耗や劣化で内部のプラスチック製のストッパー部品が壊れるようなことはめずらしくはない。水辺や砂地で使ったあとは、内部に侵入した水や砂を除去する必要もある。そう思うと、メンテナンスを請け負ってくれるサポート体制がきちんとしているメーカーの製品を選びたい。HUSKY、GITZO、Manfrotto、Velbon、SLIKは少なくとも国内にサポート窓口や修理委託会社がある。Leophotoも日本総代理店に相談すれば対応してくれるだろうか。

高価な三脚はメンテナンスをきちんと行えば、カメラやレンズよりも長く使うことができる。HUSKYやGITZOならば適切にメンテナンスをし続ければ、自分の体力がおとろえない限り一生使えるのかもしれない。イニシャルコスト(導入時の費用)はかかっても、サポート体制のある製品を選ぶほうがなにかといいはずだ。「コスパ」(コストパフォーマンス、対費用効果)とは単にイニシャルコストが安いだけではない。運用してみてそれで追加費用がどれだけ抑えられるかどうか、長く使えるかどうかも含めて「コストパフォーマンス」なのだから。

今回は「三脚の選び方と使用時の基本的な注意」について書いた。長くてごめんな。次回は「基礎知識はわかった。だが断る! でも細かい注意事項はあるのかよ」について説明していこうと思う。ウドのコーヒーは苦い。むせる

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