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道路上のがれき。外壁が崩れた建物やアスファルトをあちこちで見た |
■都心から歩いて帰宅しようと決めた
2011(平成23)年3月11日の東日本大震災の日のことだ。会社のある東京駅八重洲口方面から、内堀通り、新宿通り、明治通りを伝い、下落合を経て椎名町まで歩いた。
早々に家族とは連絡がつき、埼玉県茶畑だらけ市の自宅で無事でいるのはわかっていた。だから、会社の同僚たちのように会社に泊まることもできた。ただ、当時の私はアレルギー疾患がいろいろとあって、埃だらけの会社の床にダンボールを敷いて眠るのが嫌だった。そして、どこかのターミナル駅の近くまで歩いているうちに電車が復旧すればいい、と思った。
17時過ぎに八重洲口近くから歩き始めたときはよかった。コーヒーを片手にビルの前に出て談笑している人たちも少なくなかった。昼間は暖かかった日でもあり寒さはもうそう強くはなかった。大企業ではヘルメットと非常用袋が社員分用意されているようで、おそろいのヘルメットと非常用袋を持った会社員の方々を見て、うらやましいなと思ったり。
17時過ぎに八重洲口近くから歩き始めたときはよかった。コーヒーを片手にビルの前に出て談笑している人たちも少なくなかった。昼間は暖かかった日でもあり寒さはもうそう強くはなかった。大企業ではヘルメットと非常用袋が社員分用意されているようで、おそろいのヘルメットと非常用袋を持った会社員の方々を見て、うらやましいなと思ったり。
銀座ではすでに歩行者がみるみる増え、自動車は渋滞で動かなくなっていた。都バスも超満員のうえにまったく進む気配もない。首都高はすでに閉鎖されていて、無人の首都高をパトカーだけが走っていく。
■「電車は今夜中には動きません。以上」
夕方になるにつれて帰宅を急ぐ人並みはどんどん増えていった。有楽町を過ぎて日比谷公園のあたりにさしかかると、交番の警察官が拡声器を持って案内していた。
「JRと東京メトロは今夜中には動きません、以上」
これを聞いて歩いている人たちがみな失笑したのがおかしかった。「以上、じゃねえよ!」と突っ込む人たちも。会社にいればよかった……とちらりと思った。でも、この人並みを逆方向に無理やり戻るのも嫌で、とりあえず新宿方向へ向かうことにした。
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一般道はみるみる渋滞し始めた |
■コンビニと靴屋に大行列ができていた
麹町のコンビニエンスストアでトイレを借りようとしたら、その行列の長さに驚いた。そして、ミネラルウォーターとパン、おにぎりが飛ぶように売れていくことにも。それにしても、コンビニエンストアの店員さんたちは帰宅しないのか。不安な顔をせず働く彼らはヒーローだな、と思った。
沿道のファストフード店やビジネスホテル(新宿ではラブホテルもふくめて)はどこも満員だった。そんななかで「食事は出せませんがご休憩にお使いください」という表示を出していたハンバーガーショップ「Mバーガー」や、「休んでお茶を飲んでいってください」と呼びかける台湾料理店の人たちを見て、涙が出た。
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首都高ではパトカーが時折サイレンを鳴らして走るのみ |
■事態の深刻さを実感したのはもっとあとだった
私は会社でテレビニュースをじっくり見ていられなかったので、この事態の深刻さを初めて知って戦慄したのは、明治通り沿いにある新宿コズミックセンターに立ち寄って休憩したときだった。そこに並べられていたテレビ画面に映し出される、押し寄せてあらゆるものを飲み尽くす真っ黒い津波のようすに言葉を失った。
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国会議事堂前を通って新宿方面へ。歩行者も多くてパレードのよう |
コズミックセンターでは毛布の貸出しを行っていたので泊まることもできた。でも、埼玉県内の自宅にたどり着かなくても、都内の実家に行こうと決めて再び歩くことにした。
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路線バスは大渋滞のせいで大混雑。タクシーはたいていつかまらない |
■西武鉄道が夜のうちに復旧した!
高戸橋まで来たら都電荒川線が動いていた。そのようすを見て、つい数時間前まで何も思わなかった日常と同じ光景を見ることができて、ちょっとだけ安堵して元気が出た。
そして、合わない革靴に足を痛めながら目白通りに出て。ふと西武新宿線の下落合駅を通りかかったら……非常停止している電車に乗務員がいて通電しているのが見えた。そして、駅員が出てきて間もなく運転再開すること、池袋線は一足先に動き始めることを教えてくれた。
ありがたい。下落合でそのまま待とうかと思いつつ、椎名町まで歩いて西武池袋線に乗った。列車が本当に動いていた。そのおかげで歩行距離は13キロで済んだ。いつもと同じように動く列車の存在は本当にありがたかった。
埼玉県茶畑だらけ市に着いたら、まるで震災などなかったかのように見えた。そして日付が変わる前に帰宅できた。家族はすでに就寝していた。安堵して気が抜けた。
その日のうちに帰宅できたのは、西武鉄道をはじめとする関係各位のみなさんのおかげだ。感謝の気持ちでいっぱいだ。
Nikon D2X/AI Nikkor 50mm F1.8S/RAW