2020年10月31日土曜日

【秩父鉄道撮影記事】デキ108号、三輪鉱山から出発

2020年10月29日

■引退発表を見て早起きして行ってみた
さきごろ公開された秩父鉄道公式Webサイト内での発表(リンク先はPDFファイル)によれば、電気機関車デキ108号が本年12月で運用離脱するという。11月3日(火曜・祝日)に三峰口で行われる「ちちてつ秋まつり~SL転車台公園オープン記念イベント~」において貨物車両を牽引するのが最後であるとも。関連して「電気機関車108号機 引退記念乗車券」の発売も発表された。

1週間ほどまえに運用のことはなにも考えずに「好きなカメラとレンズを持って散歩したい」という気持ちでひさしぶりに平日の秩父鉄道を訪問したところ、たまたま三輪(みのわ)線から降りてきたデキ108号牽引の上り鉱石貨物列車と遭遇できて感激していたところに、その訪問翌週に上記の発表に接することになってとてもおどろかされた。そこでそれを知った翌日にむりやり平日休みを作って秩父鉄道を訪問し、朝の武甲山の麓の駅に降りた。三輪線を行くデキ108号の姿を見ることがあわよくばできないかと期待したからだ。


■ねらいどおりにデキ108号が現れた
事前の計画では東武東上線の朝のラッシュアワーのピークを避けるために始発列車で出るつもりだった。だが少し寝坊してしまい、到着したのは武甲山の麓の駅から三輪鉱山へ行く2本めの列車の出発前だった。駅構内には真っ赤に塗装されたデキ506号が貨車の先頭に立ち、出庫準備を始めるところで運転士氏が各部を点検していた。目のまえでパンタグラフが上がった。

そこで、三輪鉱山に向けて線路が大きくカーブする湯乃澤橋へ行ってみた。まだ太陽が低くてあたりは日陰だ。ところが、三輪鉱山からは機関車の汽笛が聞こえる。すでに始発列車は三輪鉱山へに到着していて、それがヲキ・ヲキフに石灰石を積み終わるような時間だったからだ。するとまもなく、ゆっくりと機関車がやって来る音が聞こえて、もしかしたらと期待していたデキ108号が姿を現した。前夜に武甲山の麓の駅で入庫して一晩留置されて、朝の三輪鉱山行き一番列車に充当されていたというわけだ。

じつをいうとこれは偶然の出会いではない。この日は目撃情報からたまたま前日のようすを想像できたからむりして朝の武甲山の麓の駅にやってきたわけだし、この仕業は予想通りだった。でも、いわば撮影地についてカメラを準備したとたんに現れたものだから、感激しているまもなかった。もちろんうれしく思えたけどさ。

三輪鉱山を出たデキ108号牽引の列車はゆっくりと勾配を下りて武甲山の麓の駅構内でいちど停車し、ほどなくして三ヶ尻に向けて出発していった。

■どうやらおそらく最後の出会いだった
このあとは私も上り方向へ移動した。よおし! 今日は一日中デキ108号を追いかけて「あんなカット」や「こんなカット」を撮っちゃうぞ! と意気込んだ。ただし、この日も「東武鉄道×秩父鉄道SAITAMAプラチナルート乗車券」を用いて東武東上線経由でやってきたので、その切符を使って移動できるのは上り方では寄居までだ。

だから、後続列車でためしに追いかけてもみても寄居まででは追いつくことができなかった。武川まで行けば追いつけたものの、あきらめた。そこで、ふたたび下り方面に移動して線路ぎわでデキ108号が折り返して来るのを待った。

ところが、折り返しの鉱石貨物列車の先頭にはデキ108号の姿はなかった。武川で緑色のデキ505号と車両交換がなされて、デキ108号は入庫してしまったからだ。そのようすをTwitterで知らせてくださった方がいたので、私は折り返し列車が姿を表すよりまえにそのことを知った。

振り返ってみると朝の武甲山の麓の駅での出会いはぎりぎりのタイミングでなされた、たいへんな幸運なものだったらしい。デキ108号は武甲山の麓の駅を出庫して三輪鉱山まで行き、それを三ヶ尻まで運ぶいわば「ひとヤマ」で入庫してしまったからだ。おそらくは私には、デキ108号が走る姿を見る最後のチャンスだっただろう。デキ108号が三輪線を行く写真がなかったので、こういうかたちで撮影できたのはとてもよかった。それを見てなんとなく力が抜けてしまい、残してきた仕事もあるからなあ、とまだ午後早いのに帰宅してしまった。

それ以降は現地で自分の目で確認ができないので、かならずしも確実だとはいえないものの、どうやらその翌日以降もデキ108は武川にずっといるようで、もしかしたら11月3日のイベント前日または当日までに三峰口まで送り込み回送として走る以外には動かない可能性もあるのではと個人的にはにらんでいる。過去の1000系電車の特定編成の引退記念イベントがあるときも数日前からその編成は動かさない傾向にあったから、そこからの類推だ。もちろん、動く機会があればうれしいし、それに遭遇できればラッキーだ。

【2020年11月5日追記】
予想通りにデキ108号はこのあと11月2日のイベント前日まで動かず、前日に三ヶ尻まで単機回送してから貨車と連結し、秩父まで回送。イベント当日に秩父から三峰口まで回送し、イベント終了後に秩父まで回送し、翌日に武川まで回送して運用を終えたようです。また、12月12日(土)に「電気機関車108号機牽引で行く12系客車乗車&撮影会ツアー『快速秩父路デキ108号』」というお別れ列車がツアー形式で走るむねが発表されました。

■デキ108号についてあらためて説明すると
さて、デキ108号は1951年(昭和26年)に日立製作所で製造された松尾鉱業鉄道ED502号が前身だ。1972年(昭和47年)の松尾鉱業鉄道が廃止になったあと、僚機ED501号とともに秩父鉄道に譲渡されて秩父鉄道デキ100形に編入された。秩父鉄道デキ100形の量産車デキ102号からデキ106号よりも製造が古く、いまとなっては秩父鉄道で最古参の電気機関車になってしまった。

同様に日立製作所で製造された私鉄向けD形50トンクラス電気機関車であるデキ102号から106号とは仕様がよく似ていることからおそらく秩父鉄道に譲渡されたのだろう。秩父鉄道での使用に適した改造がされたのちに、ほかの電気機関車と共通して運用されてきた。

現在の秩父鉄道の電気機関車の標準塗装である水色に白帯という塗装は、もともとこれら松尾鉱業鉄道ED501・502号が松尾時代の末期にまとっていたものだといい、それが秩父鉄道では導入時にいちど、茶色に白い裾という当時の秩父鉄道標準色に変更されたのちに、全機関車に松尾鉱業鉄道の水色の塗装が採用されることになったようだ。これはちょっぴりおもしろいエピソードだ。

このデキ108号とすでに廃車になっている107号の外観上の特徴は、寒冷地での使用を想定して正面窓上につらら切りが備えられていること。これは秩父でも撤去されなかったのでこの機関車を識別する一大特徴となった。動輪が4軸のD形電気機関車ではあるものの、同時代に製造されていた国鉄EF15形電気機関車と正面のデザインが似て見える。

2020年10月29日

■いろいろと撮ってはいるものの
デキ108号は2015年に僚機デキ107号が退役してから、「つらら切りのあるデキ100形機関車」の最後の1両になった。それまでも秩父鉄道入線後はたいていはどちらかが走っていることが多く、その姿を数少なくないひとたちが記録している。秩父鉄道が好きなみなさんにも愛されている電気機関車だったといっていいと思う。近年は各種イベント列車に起用されることが増えていたのもその証拠のひとつではないか。

私は300系電車や100形電車を追いかけていた少年のころにもこの機関車は好きだった。ただし、そのころはほんとうに写真撮影の技術がつたなくてうまく写せていない。そして、鉄道趣味を再開してから秩父鉄道を訪ねても、私には1000系電車やSLパレオエクスプレスの撮影がおもで、鉱石貨物列車はそのあいまに撮影していたというのが正直なところだろうか。だから、いろいろな場所で見かけているのに、うまくいったという手応えのある写真はそう多くはない。以下の写真もすでにみなさんにお目にかけたものが多い。

2009年11月

2013年12月

■荒川橋梁の絵が多い
とくにここ数年は、いわゆる編成写真ではない撮り方をしたいと思うことが多く、絵柄をシンプルにするために、日没の時間になると荒川橋梁に足を向けることが多かった。デキ108号が牽引する鉱石貨物列車を荒川橋梁でなんども見ている。

ところが、鉱石貨物列車をねらって追いかけていたわけではないので、「冬期の積車の上り列車の写真」が手元に多くないのだ。つまり、パンタグラフを2つあげて鉱石貨車に石灰石を山積みにして走る姿で満足のいく写真が少ない。デキ108号の引退が予告されてからハードディスクのなかをいろいろ引っかき回して見てそのことを知ったから、あわてて撮りに出かけたというわけ。

ほんとうは11月をすぎてパンタグラフを2つあげるようになったら、またむりして平日休みを作ってこっそり撮ろうかと思っていたのに。悪巧みはそうそうできないというわけらしい。

2014年1月

2014年1月

2014年11月

2017年5月


■おだやかに最後の日を迎えてくれたらと思う
今後の運用は私はもちろんまったく知らないし、11月3日(火・祝)はイベントへ行くつもりがないので、もうこれ以上私にはデキ108号を撮影できる機会はなさそうだ。この機関車を撮った際のさまざまな楽しい思い出を振り返りながら過ごそうと思う。

こういうご時世でもあるので、車両自体にも沿線各地での人的なものもふくめて、なんらかのトラブルのないようにおだやかに最後まで走り続けてくれたらと願うばかりだ。

2012年11月

【撮影データ】
Nikon D2X, D7000, D7500, Df, Panasonic LUMIX DG-GH5/AI AF Nikkor 35mm f/2D, AI AF Zoom-Nikkor 80-200mm f/2.8D ED <NEW>, AF-S DX NIKKOR 16-80mm f/2.8-4E ED VR, AI Nikkor ED 180mm F2.8S, LUMIX G X VARIO 12-35mm/F2.8 II ASPH. POWER O.I.S./RAW/Adobe Photoshop CC 2021