2020年11月28日土曜日

【ニッコールレンズの話】第四次レンズフード戦争・ニッコールレンズの戦い終戦か。AI Nikkor 85mm F1.4Sの斜光線対策を考えた

AI Nikkor 85mm F1.4Sに装着した
コンタックスメタルフード5+72/86リング。
内部に植毛紙を貼った

■所有するAI Nikkor 85mm F1.4Sは斜光線に弱かった
11月も終わりになり、東京首都圏の紅葉も見ごろを過ぎつつあるようだ。というのは、近隣の紅葉しか自分の目で見ていないから。「ようしらんけど」というやつ。

レンズフードなしで撮影。太陽は画面左。
絞るとフレアカットはわずかにはできるがシャドウはしまらない
絞り値は上左がf4.0、上右がf5.6
下左がf8.0、下右がf11


もっとも確実な対応策はできるだけ適切なレンズフードを備えている、マルチコートでデジタルカメラに対応した内面反射防止処理を備えたできるだけ新しいレンズを使い、レンズ前面部に当たる強い光をなにかで遮りながら、つまり「ハレ切り」を行いながら撮ることにつきる。

ところが、新しいレンズではなくて、所有歴だけは長いAI Nikkor 85mm F1.4Sで撮ってみたくなったのだ。このレンズは……というよりも、もしかしたら私の所有する1985年ごろに製造された個体だけなのかもしれないが、購入当初から斜光線に弱いことは知っていた。太陽そのものを画面に写し込む場合には悪くはない。斜めからレンズ前面部に光が直射してしまう場合に、絞り開放では場合によってはフレアが出てしまう。絞ればわずかに解消するもののシャドウのしまりがなくなる。絞るとフレアは消えても、画面中央にスポット的に明るい部分が生じる。イメージセンサー前面の保護ガラスなどの平面性が高いデジタルカメラでは顕著だが、フィルムカメラでも多かれ少なかれフレアは発生しやすい。

AI Nikkor 85mm F1.4Sにかぎらず、デジタルカメラ登場以前に製造された古い大口径レンズには一般的にそういう傾向はある。同じ条件でAI Nikkor 85mm F2Sに変えて撮ってみても絞り開放ではベーリングフレアが出たから。だが、「一般的な傾向」だから仕方がないとあきらめるまえに、改善することはできないか。そのフレアをカットしてみるとどういう絵になるのかを試したいのだ。

季節感が揃わないけれど、春先に撮ったもの。
純正フードHN-20を使用。
太陽は画面左にあり、
その斜光線を受けて左側のシャドウがしまらない

なお、より後期に製造されたものはコーティングの色がことなるようだが、べつの個体を使用したことや、複数の個体で撮り比べたこともないので、ほかの個体では斜光線に対してどうなるのかはわからない。だから、この記事は「私の所有する個体では」という条件づきで読んでほしい。

■コンタックスメタルフード5を使ってみたら
そこで、思いついて安価なコンタックスメタルフード(以下、C/Yメタルフードと略)を見つけてはあれこれと試していた。まずは「85mm F1.4」という焦点距離と開放F値がおなじ、かつてのC/Yマウント用Planar T* 85mm F1.4で推奨されていたC/Yメタルフード4を72/86リングで装着してみると、外観のバランスはいいものの、純正フードのHN-20を使うのと斜光線での効果は変わるようには思えなかった。

しかも、口径が同じ⌀86mmでより長いC/Yメタルフード5を試しに装着してみても、画面四隅がけられないのだ。そうなるとC/Yメタルフード4の効果はレンズ前面部の保護程度なのではないか。

そう思ってC/Yメタルフード5+72/86リング、さらに長さを延長するために⌀72mmのガラスフィルターの中身を取り外した枠を装着して試していた。それでも、フレアはかなり改善されるとはいえ、かえって四隅が白っぽくなることがあった。

■敵は思わぬところにいた
よく晴れた日にあれこれと条件を変えながら試していて、遅まきながら気づいて、装着していたC/Yメタルフード5の内部を観察した。すると、反射防止塗料が劣化してかなり剥離しているのがわかった。

最近手に入れた各種C/Yメタルフードはとても安価なものばかりで、あちこちにこすれた跡や傷がある。外観がそうなのはかまわない。コレクションとして保存したいのではなく、実用したい。安い傷のあるものを選んでいたくらいだ。

コンタックスメタルフード5
左は内部に植毛紙を貼り、先端にもパーマセルテープを貼った。
ツギハギだらけだろ、全集中したんだぜ、これで。
右は未加工。反射防止塗料のかすれがわずかに反射している

だが、内面の反射防止塗料が大きく剥がれて、前面の縁も塗装が剥げて銀色に輝いているフードでは、よもやその部分が反射して悪さをしているのではないかとは思い至らなかった。

おまえのしわざなのか!

いえ……そこに気づかなかった私が悪いのです。敵は私のなかにいたわけ。風邪にはコンタックがバキューンと効くかもしれないけれど、「フード病」にはコンタックスではだめなのかなあ、などと一瞬でも罰当たりなことを考えてうたがった俺を殴れ。

■アニメ『シティハンター2』のエンデイングテーマからYOASOBIまでワープ
そうして、ソビエト製レンズの鏡筒内部で切り貼りしたように、家にあった裏面シールのある植毛紙をふたたび取り出して、レンズフードの内部に貼った。72/86リングの溝のない部分にも。貼り方があれでツギハギだらけだし隙間もあるけれど、本人は全集中の呼吸をして作業をした……つもり。今週になって流行しているアニメの原作マンガをようやく途中まで読んだからね。次の人生ではフレアの鬼になんてならずに、成仏してください……と念じながら作業を進めた。いや、フード病の鬼は私か。

植毛紙を内部に貼ったC/Yメタルフード5+72/86リング
そして枠だけのフィルターを重ねている。
絞り値は上左がf4.0、上右がf5.6
下左がf8.0、下右がf11


さらに、前面の縁にもパーマセルテープを貼りつけると、なんというか……「いかにも業務用」という感じの姿になった。レンズフード側面のテープは、開口部四隅に貼ってハレ切りする場合のために貼ってある。みっともない姿と思われるかもしれないけれど、これで写真がきちんと撮れるならばいいのだ。

f11でレンズフードなし。
クリップオンストロボを左上から当てた。
レフは当てていない。
カメラの巻き上げをしていない点はすまぬ!


f11でレンズフードあり。
写っているカメラ(Zorki-3)の
黒い部分が引きしまった。
写っているカメラの巻き上げはできてはいないがゆるせ!

ここまで対策してみると斜光線に対してはかなり強くなった。例の作品のラスボスである鬼舞辻無惨(きぶつじ・むざん)ふうにいうと「ついに太陽を克服するものが現れた!」「これは限りなく完璧に近いレンズフードだ」……という……いや、それほどではないな。おそらくは、円筒形よりも角型や花形のほうがかたちとしては理想的だ。円筒形のままのこのフードでは光源の向きや角度によっては、これだけでは防ぐことができないベーリングフレアは起きることはある。

それでも、フードなしで使う場合よりもずっと安心だ。絞り開放で画像を見せる一眼レフのファインダーではイメージセンサーおよびその前面のガラスカバーなどによる反射は見えない。さらに、背面モニターで再生しても周囲が明るいと観察しづらい。ミラーレスカメラの電子ビューファインダーでも同様だ。極端なフレアならばわかる。だが、シャドウの浮きやスポット的なフレアになると屋外では再生しても観察しづらい。シートフィルムで撮影する大判カメラのようにかぶり布でも用意しない限り。だから、いずれにせよ斜光線にはできるだけしっかりと対策しておくほうがなにかといい。

私は塗装の道具も持っていないことと、植毛紙を持っていたのでそれを用いた。雑に取り扱っても剥離しにくいという理由もある。だが、エアブラシを使える方ならば光陽オリエントジャパンの反射防止塗料「真・黒色無双」を使うほうがもちろんスマートに仕上がるだろう。スプレーで塗装するほうがより効果的だという。古いメタルフードに用いるには、元の塗料の剥離とプライマー処理も必要だろう。そのうち私も試してみたい。

三脚を立てて撮影するならば、アンブレラホルダーと傘を使うのもたいへん効果的だった。もちろん、黒い板などでもいい。蛇腹式のフードを使えばさらに万全だろう。蛇腹式のフードは私は所有していないので、いいものを見つけたら使ってみたい。

こういう写真はレンズフードは関係ない

レンズフードをしても太陽を隠す

もう冬になるんだなあ

太陽を隠すのはもはや習慣かもしれない

こうして斜光線に強くなった1980年代のレンズであるAI Nikkor 85mm F1.4Sを持ち、枯れ葉舞う北風は厳しさを増すけれど(*1)……沈むように溶けていくように(*2)近隣を撮り歩きながら、1980年代のTM NETWORKの歌詞だったはずなのに現代のYOASOBIの歌も思い出して、なんとなくしんみりしまうわけね。もう冬だなあ。

【撮影データ】(作例写真)
Nikon Df/AI Nikkor 85mm F1.4S/ピクチャーコントロール:スタンダード(彩度+1)
(カメラ内で生成したJPEG画像のままクレジットを入れてリサイズしたのみ)

*1「枯れ葉が舞う北風は厳しさを増すけれど」:「STILL LOVE HER(失われた風景)」TM NETWORK(作詞:小室哲哉、作曲:小室哲哉、木根尚登、編曲:小室哲哉)の歌詞より引用

*2「沈むように溶けていくように」:「夜に駆ける」YOASOBHI(作詞・作曲:Ayase)の歌詞より引用