2021年6月6日日曜日

【レンズフードの話】第六次レンズフード戦争いよいよ勃発す! ニコンゼラチンフィルターホルダーAF-1で純正フードよりもフードの長さを長くする


■ゼラチンフィルターホルダーをキミは知っているか
ゼラチンフィルターホルダーというものがある。2021年のいまとなってはほぼ過去形で「かつてあった」という言い方をしてもよいだろうか。カメラメーカー各社からも純正アクセサリーとして販売されていた。

2021年6月現在のいまでは、新品で入手可能なカメラメーカー製のものはおそらくニコン製のみで、お店によってはもしかしたら店頭在庫があるというところだろうか。製造はとうの昔に終了しているはずだ。

念のために説明しておくと、ゼラチンフィルターとは薄い膜状のシート形の光学フィルターだ。3インチ(75mm角)と4インチ(100mm角)の2種類の大きさがある。リバーサルフィルムの製造ロットごとに生じてしまうことのある乳剤のばらつきによる発色の差を補正する、あるいは色温度の補正に用いる細かい色補正用(CC)、光量の調整用(ND)、あるいは紫外線カット用(SC)、赤外透過(IR)用に、コダック(ラッテンフィルター)富士フイルム(アセテートフィルター)が用意されていた。

そして、これら薄いシート形フィルターをレンズ前に装着する道具が、ゼラチンフィルターホルダーというものだ。

これら薄型の膜状のシートフィルターは、このようにレンズ最前部に取りつけるのが主流だ。ただし、口径が大きい超望遠レンズや最前部が大きく飛び出ているレンズには、製品によっては鏡筒内部に差し込む方式(ドロップイン式)になっているものもある。シグマの超広角レンズには最後部に装着できる製品も。

ゼラチンフィルターホルダーAF-1とねじ込み式フードHN-12

こうしたシートフィルターはフィルム時代にはリバーサルフィルムで撮影してポジ原板を納品する業務ユーザーと、相当本格的に撮影をするアドアマに用いられていた。いっぽう、ほとんどのアマチュアユーザーには不要だった。それは、カラーネガフィルムで撮影するならばプリント時に色補正はできるので、色補正(CC)フィルターを使う意味がほとんどないからだ。

そしてデジタルカメラの時代になり、ホワイトバランスを用いることで、露出倍数がかかる光学的な色補正フィルターは基本的には不要になった。だから、薄型シートフィルターを用いるひとはいまやそう多くはないだろう。いまでも有効なのは光量補正を行うNDフィルターとIRフィルターくらいだろうか。

35mm判カメラ用のゼラチンフィルターホルダーで有名なのは、キヤノンFDレンズ時代の製品だろう。他社のカメラを使っていてもゼラチンフィルターホルダーだけはキヤノン製を用いるというユーザーが多かったようだ。キヤノン製ホルダーの特徴は、ホルダー前部に2cm程度の連結式フードをレンズ焦点距離に合わせて装着できることと、レンズ装着側がアダプター式であること。アダプターを交換すればひとつのホルダーでも複数の口径のレンズの使用できた。EOS用にも同じ構造のものが近年まで販売されていた。

■ゼラチンフィルターホルダーAF-1と偏光フィルター用ねじ込み式フードHN-12

1984(昭和59)年6月1日版アクセサリーカタログより

ゼラチンフィルターホルダーはニコンにもあった。マニュアルフォーカスレンズ時代のものがAF-1とAF-2で、ニッコールレンズがオートフォーカス(AF)化されたころにAF-3AF-4に置き換わった。日本写真機工業会刊行「93年カメラ総合カタログ VOL.106」によると価格はAF-1が税別3,000円、AF-2は税別6,000円とあった。

このうち3インチ角用AF-3と4インチ角用AF-4は、現在でも店舗によっては在庫があるようで新品でも入手可能なことがあるようだ。それぞれに専用フード(AF-3にはHN-36、AF-4にはHN-37)とレンズに装着するための専用アダプター(AF-3用は52/62/67/72/77mmの5種、AF-4用は52/62/67/72/77/82/95mmの7種)もあわせて入手する必要がある。

いっぽうマニュアルフォーカスレンズの時代に販売されていたAF-1とAF-2は、いずれも3インチ角用でレンズの口径がそれぞれ決められていた。AF-1は⌀52mm、AF-2は⌀72mmだ。AF化されて最前面のレンズ口径が大型化してアタッチメントサイズの統一がなされなくなったために、AF-3とAF-4ではキヤノン製と同じ構造になってレンズ装着側に各種アダプターが用意されるようになったのだと思われる。⌀52mmや⌀72mmはいまとなってはサイズが小さい。

このうち、今日は⌀52mmのAF-1の話をしようと思う。

AF-1自体は単なる⌀52mmのホルダーだ。裏面には⌀52mmの凸ネジが設けられていて、その基部が回転する。いっぽう前面に⌀60mmの凹ネジが切られていて、別売のねじ込み式フードHN-12を前面に装着可能な構造になっている。

このHN-12は「52mm円偏光・偏光フィルター・AF-1用」と説明されているちょっと変わったフードだ。まず、2つに分解可能な構造になっている。基部側後部には⌀60mmという見慣れない口径のネジが切られていて白い丸印が側面にある。前部は⌀72mmだ。いっぽう、延長側のほうは前後に⌀72mmのネジが切られていて、緑の丸印が入れられている。

AF-1からHN-12の延長部を外したところ

さらにHN-12を基部と延長部にわけた

HN-12基部の後部は⌀60mm、前部は⌀72mm
HN-12延長部は前後ともに⌀72mmだ

HN-12基部裏面には偏光フィルターで用いる際の指標がある

このHN-12はかつての⌀52mmのニコン純正偏光フィルターに用いるためのものでもあった。偏光フィルターならびに円偏光フィルターは完全逆光で使うことはまれだろうが、逆光に弱い。そしてかつてのニコン純正偏光フィルターはおそらく画面四隅のケラレを防ぐために、フィルター前面にレンズ側よりも直径の大きなネジが切られていて、この専用フードを用いる仕組みになっていた。⌀72mmの偏光・円偏光フィルター用にはHN-13というフードも用意されていた。こちらも同様にフィルター前面の直径が大きめにされているために、HN-13自体は⌀86mmだった。

そして、HN-12の延長部はレンズ焦点距離に合わせて、複数を重ねて使うことができる。複数枚使用する場合には基部を外して延長部のみを使用する。

緑の丸印のあるHN-12の延長部は複数組み合わせることが可能だ。
⌀72mmなのでこの延長部だけをなにかに使うこともできる

この「AF-1にはHN-12を使う。そしてHN-12の延長部は複数重ねることができる」ということは最近になるまで私は知らなかった。それをとうとう知ってしまったのだよ、ワトソン君。

しかも、とあるお店で中古のAF-1&HN-12とAF-2がセットでワンコインという価格をみて飛び上がった。ゼラチンフィルターホルダーは業務用途のアクセサリーなので、新品でホルダーとフード、アダプターを合わせて買うとかなり値が張る製品だった。とはいえ、デジタル一眼レフが本格化してから仕事で写真を撮っている私には買う必要がとくにはないと感じられていた製品だったのに。

それがセットでワンコインって……あなた。だから、不可抗力さ。あ、イヌが入っているわけではないよ。

なお、HN-12は驚くことにまだ在庫があるカメラ店がある。また、HN-12は偏光フィルター用の基部と延長部のセットで売られている。ただし、新品では延長部だけ購入することはできない。

現存するAF-1の内部モルトプレーンは劣化しているだろう。
筆者は除去して部分的にモルトを貼り直した

■HN-12を重ねてみる
私がAF-1を使うのは、ゼラチンフィルターを使うからではない。だってあれすごい値段がするんだぜ。おまけに傷もつきやすく、取り扱いに注意が必要なのだ。そのうち、濃いNDフィルターはアセテートフィルターを使おうと思うけれど。むしろ、⌀52mmまでのレンズで純正よりも長いレンズフードとして使いたい。

このところあれこれと組み合わせていたコンタックスメタルフードは⌀86mmと大きいので、アタッチメントサイズが⌀52mmのレンズには大きくなりすぎる。そこで、⌀52mmまでにしか対応できないAF-1のほうが便利なのではないかと考えた。アタッチメントサイズが⌀52mm以下のレンズ用に汎用で使えるものないのかと探していて、つい見つけてしまったのがAF-1だった。私、自分が怖い。

AI Nikkor 50mm F1.8SにはHN-12をひとつ

AI AF Micro Nikkor 105mm F2.8Dには
HN-12ワンセットにHN-12延長部を二つ追加

具体的には、AI Nikkor 50mm F1.8S、あるいはAI AF Micro Nikkor 105mm F2.8Dを中心に試用している。前回のエントリーで書いたように前者はいまひとつ有効なレンズフードを決めきれずにいる。後者は純正のスプリング式フードHS-7も使っているものの、長さが足りないように思えるからだ。55/86リング+コンタックスメタルフード5ではやはり大きすぎる。

ちなみに、このHS-7は最近まで新品で売られていたが「58mmF1.2Sノクト・AF80mmF2.8・AF105mmF2.8マイクロ用」レンズフードだ。そう箱に記載されているのを見るとそれだけでドキドキするよな。しないかなあ。

AI AF Nikkor 35mm f/2DにはHN-12の基部のみ

筆者が試しているところでは、AI AF Nikkor 24mm f/2.8DとAI Nikkor 28mm f/2.8SではAF-1のみでHN-12は装着できない。AI Nikkor 35mm f/1.4SとAI AF Nikkor 35mm f/2Dで使う場合にはHN-12の基部のみ。AI Nikkor 50mm f/1.4SおよびF1.8S、AI AF Nikkor 50mm f/1.4DではHN-12をひとつ。AI Nikkor 85mm F2SとAI AF Micro Nikkor 105mm F2.8DではHN-12の延長部をさらにふたつ追加している。

■フードを長くするだけではフレアを防げない
ここまで書いてきて、有害光をカットする効果について私がまったく書いていないことを、読者のみなさんはお気づきだろうか。

ながなが書いたくせにあれなんですけどねえ、とため息が出るね。慧眼な方ならば前回書いた結論を覚えてくださっていると思う。毎回同じことをべつの表現で書くのも「クソだりいな」いうわけで引用しよう。

「四隅がケラれない長さで好きなデザインのレンズフードを使い、同時に必ずハレ切りするしかない」

結局は黒パでハレ切りするんですよ

とまあ、そういうことなのですね。レンズフードだけでは意地悪な光線でフレアカットをしきれない。広角レンズではとくにレンズフードだけでは強い光はなんともならないので、新しいレンズを使うほうなにかと手っ取り早……んーん、なんでもない。

また、標準から望遠レンズでも、フードの長さを長くするだけでは効果はあまりない。フレアカットの効果を求めるならばハレ切りも必ず併用すべきなのだ。ため息が出るのはそういう理由だ。

だからAF-1をはじめとするむかしのゼラチンフィルターホルダーは「こういうことをするのが好きな方」にだけ向いた道具といっていい。最短撮影距離近辺で撮影する際に無限遠時ではケラれてしまうくらいにフードを長くするというような使い方はできる。さらには金属製で精巧な作りは道具としての美しさが感じられる。じっさいに業務で使ったらそんなことを感じる余裕はないだろうが。

なお蝶番の部分の角は触れると痛い。そのうち不注意で手を切ったり服を傷めそうだし、万が一誰かにぶつけると怪我をさせそうだ。そこで保護用にパーマセルテープを貼った。

「円筒式のレンズフードはあまり役に立たないよ」と先輩の写真家の方にも聞いていたけれど、こうしていろいろ試してみるとそれを実感する。パイセンのいうことは忘れてはいけないものだなあ。長さを増やすだけでは大きく重くなるだけであまり効果がない。密林で売られているような汎用のねじ込み式花形フードを使うか、広角レンズにはアイスクリームなどのプラスチック製キャップを四角く切り抜いた自作フードを作り、レンズ前面にはめて使うほうが効果があるはずだ。

PENTAXのHD PENTAX-DA 21mmF3.2AL Limitedレンズフードや、Tamron 35mm F/2.8 Di III OSD M1:2 (Model F053) 用キャップタイプフードのようなものを自分で作るべきなのだろう。工作をするのにどうにも腰が重すぎる私は、その代用に黒いパーマセルテープ(シュアーテープ)を使っているのだが。

もちろん、フレアを画面いっぱいにいれて「ふわふわしたいならどうぞ」。Adoは不思議な歌い方がおもしろいよね。

なお角型フィルター自体はいまでも、風景写真を撮るひとたちには必要なものだろう。境界部分にグラデーションのあるハーフNDフィルターや、星景写真用に星をにじませてめだたせて撮るための弱いソフトフィルターならば用いる方は少なくないはず。ブラックミストなどを好む方もいるだろう。

ただし、超広角レンズはどんどん大口径化していて、⌀82mmよりもアタッチメントサイズが大きいことはめずらしくはない。ニコンAF-4のような100インチ角用でレンズアダプターに⌀82mmと⌀95mmが用意されているゼラチンフィルターホルダーではないと、現在の超広角レンズには使えないだろう。

そして、最近のガラスやアクリル製の角型フィルターは厚みがあることと長方形で長辺が長いために、これら過去のゼラチンフィルターホルダーではサイズが合わず使用できないのではないかと思う。古いゼラチンフィルターホルダーが使えたらおもしろいのにね。

【2021年6月9日追記】
ようやく晴れたのでAI AF Micro Nikkor 105mm F2.8DにAF-1とHN-12(ワンセット+延長部2枚)を装着したものと、なしの例でわかりやすい写真を撮ることができた。日没直前の太陽が集合住宅の中庭にある木の向こうから照っているのでフレアが生じている。

だが、望遠レンズであれば長くすればレンズフードだけでもかなりフレアをカットすることは可能だ。純正フードでは効果がいまひとつと思っているものでも、ケラれない長さにすればフレアカットがうまくできることがある。ご参考までに。

AI AF Micro Nikkor 105mm F2.8Dでレンズフードなし

AI AF Micro Nikkor 105mm F2.8D+AF-1+HN-12(延長部を2枚追加)

【2023年7月24日追記】
初期の製品にはゼラチンフィルターを挟む部分が無塗装で銀色のままの製品があるようだ。AKG先生に教えられて検索をかけると、AF-2のそういう個体の写真が見つかった。裏面の回転止めの仕様も何種類かあるようだ。奥が深い……。銀色の製品はものすごく格好いいが、スタジオで白バックの物撮りを近接して行う場合などには、AF-1やAF-2がレフ板のように反射してしまうのではないか。大部分が黒く塗装されているのはそういう理由ではないかと推測される。見つけてもコレクションにとどめておくほうがよさそう。