2021年10月20日水曜日

【レンズフードの話】ニコンゼラチンフィルターホルダーAF-1はいつ発売されたのか

1977年ごろのニコンゼラチンフィルターホルダーAF-1
元箱が銀色だった。のちの製品では金色の箱になっている

■いったいいつ発売されたのかと考えていたら
カメラボディやレンズの発売年月日や発売当時の価格などを調べることは、零細メーカー製品でなければそう難しいことではない。ところが、メジャーメーカー製品でもアクセサリー類について、それもコンシューマー向けではなくどちらかというとニッチな業務用途向け製品の発売年月日を調べるのは、意外とむずかしい。

それはネット検索では用が足りないから。カメラ誌やムック本にも取り上げられる頻度が低いものはなおのこと参照しづらい。そうなるとむかしからの調査手法を踏襲することが必要になる。つまり、古いカタログや価格表などを念入りに足で探して見つけ出し、それら紙の資料を参照するほかない。

所有していない資料となると、場合によってはメーカー広報さんに調べてもらうか、日本カメラ博物館(JCIIライブラリー)などで学芸員さんに相談しながら書庫から旧日本カメラ社の『カメラ年鑑』や、いまは日本写真映像用品工業会(CIPA)になったむかしの日本写真機工業会(JCIA)のカメラ総合カタログなどを、たんねんに探るほかなさそうだ。さすがにそういう目的で国会図書館にまで行ったことはないけれど、場合によっては必要になるかも。

先日話題にしたニコンゼラチンフィルターホルダーAF-1も、そういえばいつ発売されたのか、などと気にはなっていた。もっとも、本気でなにかの記事をどこかの媒体で執筆するつもりでいたのではなく、ぼんやりとした好奇心という感じの、ふんわりとした気持ちレベルでいた。その程度の気持ちだから、ただひとりで夢想するだけで、業界の先輩たちやメーカー広報さんの手を煩わせたり、都心まで調べにいくことはしていなかった。そのうちわかればいいかな、という程度の気持ちだった。なんといっても、あれもああだったし。

そんなことを考えながら、緊急事態宣言も解除になったから……などとものすごくひさしぶりに都内に出て、とあるカメラ店についつい立ち寄ったら、元箱と説明書が付属するニコンゼラチンフォルダーAF-1がワンコイン以下で売られていたのを見つけた。

これはもう事故です。不可抗力。研究のためだ。いや、それともカメラ店に立ち寄ったのは「未必の故意」というやつだろうか。

未必の故意とは「行為者が、罪となる事実の発生を積極的に意図したり希望したりしたわけではないまま、その行為からその事実が起こるかも知れないと思いながら、そうなっても仕方がないと、あえてその危険をおかして行為する心理状態」なのだそうだ。


■AI方式になった1977(昭和52)年には存在していたよう
ちょっと言葉つかいが乱れてあれだけどさ、元箱と製品が入っていた透明プラスチック袋、そして使用説明書が付属してさんびゃくえんだぜ。ぶっちゃけ買うだろ、そりゃ。

なにしろいままで説明書を見たことがなかったのだ。I have never seen, 見たこともない♪ などと、しばしば引用するほうではない、べつの「アムロ」の歌詞を連想しちゃうね。なつかしいでしょ。

そして、AF-1はアタッチメントサイズ⌀52mmのレンズを多く所有する私には、ひとつだけではつけかえの頻度が高かったから、AF-1が複数あるとなにかと便利だもの。いいわけだ。

この説明書にはニコンF2フォトミックAに装着した写真が載っていた。ニコンF2シリーズのうちフォトミックAは1977(昭和52)年に、AIニッコールレンズに対応して発売されている。そこから類推すると、AF-1は遅くとも1977年には市場に出たということを意味するはずだ。

これはだいたい想像していたとおりだ。それは、1970年代になると印刷物のカラー化がだいぶ進み、リバーサルフィルムで撮影して印刷原版として納品するということが強く意識され始め、交換レンズのほうもシリーズ全体で発色をできるだけ揃えることが行われはじめたからだ。いまの製品しか知らないと想像しづらいが、クラッシックカメラやレンズを複数使用している方ならばわかるはずだ。古いレンズでは同じメーカーの製品でもレンズを交換すると色みが変わってしまうということがあった。硝材や構成、コーティングがことなるとレンズの発色傾向も変わるというのは、想像できるでしょう。

『アサヒカメラ』ニューフェース診断室を見ていると、1976(昭和51)年7月号のニコマートELWと同時に取り上げられたZoom Nikkor 28〜45mm F4.5とNikkor 50mm F1.4Sに対して、それまでにはなかった評価項目として、カラーコントリビューションが追加されている。レンズのカラー特性を実測し、そのメーカーの標準レンズとの差がどのくらいあるかについて表示をしようと試みられているということだ。ユーザーから交換レンズごとの色みの差についての情報が求められるようになったのではないか。


AF-1はネットオークションなどに出品されている個体の画像からみると、元箱や使用説明書のデザインはいろいろと変更されているようで、後年に発売されたと思しきものは金色の箱に入れられ、説明書も冊子になっている。このバージョンはコート紙に印刷されている。日本語と英語のほか、ドイツ語、フランス語、スペイン語の説明もある。

価格は箱などには記載されていないが、小森都支雄さんの学研(現 学研プラス)『ニコンF2完全攻略』に掲載されている1979(昭和54)年3月版のシステムチャート(P.80)にはAF-1が定価3,000円、AF-2は定価6,000円とある。さらに、手元の日本写真機工業会刊行『93年カメラ総合カタログ VOL.106』(P.87)によると価格はAF-1が税別3,000円、AF-2は税別6,000円とあったことは、先日もお伝えしたとおり。

1970年代から90年代の3,000円は、それなりの金額ではないかな。けっして安価ではない。業務用途の製品だからだ。

ニコンプラザ東京にあった歴代ニコンフラッグシップ機の展示

2021年12月追記:ニコンプラザ東京で見た、ニコンFおよびニコンフォトミックFTN(指あてにプラスチックのある最終生産型)で閲覧できたカタログにAF-1は2,500円、AF-2は5,000円とありました。やはり1970年代初頭に発売されたと考えていいと思います。

■アタッチメントサイズ52mmのレンズとの適合
とはいえ期待した当時の使用説明書には、おおまかな焦点距離とフードの適合しか掲載されてはいなかった。AF-1とAF-2共通の説明書だが、AF-1の部分だけ以下引用する。

レンズフード
●AF-1には、別売りの52mm偏光フィルター用フードHN-12をフィルターホルダー前部にねじ込んで使用します。HN-12は2個1組になっており、レンズの焦点距離によって単独で、または2個重ねて使用します。

(写真AF-1)
A - f=35〜55mmレンズ用フード(単独で使う)
B - f=80〜200mmレンズ用フード(Aに重ねて使う)

35mmより焦点距離が長いレンズではないとレンズフードは使えない、ということは自分で試して知っていたので、やはりそうなのかというところ。というわけで、2021年10月にもなっていまさら時代錯誤な使用例を以下に示す。

AI Nikkor 28mm f/2.8Sには
ホルダーのみ装着可能。フードは使用不可
(わずかにケラれる)

AI Nikkor 35mm f/1.4Sや
AI AF Nikkor 35mm f/2Dには
HN-12の基部のみ使用

AI Nikkor 50mm f/1.4S
AI AF Nikkor 50mm f/1.4D
AI Nikkor 50mm F1.8Sには
HN-12を一組(基部と延長部)使用

AI Nikkor 85mm F2Sには
HN-12一組に延長部を2つ追加

AI AF Micro Nikkor 105mm F2.8Dにも
HN-12一組に延長部を2つ追加

焦点距離が同じレンズならば同様のはずだ。ただし、公称値と実際の焦点距離には差もあるし、保護用などのガラス製光学フィルターを併用する場合には念のためにライブビューや視野率100パーセントのEVFのあるカメラで、事前に試写してほしい。最小絞り(最大絞り値、つまりF16や22、32にして)じっさいに撮影したい撮影距離にレンズヘリコイドを設定して、白い壁などを+2EVオーバーくらいにして写してみよう。レンズの周辺光量落ちと区別がつかないことがあるから、絞り開放ではだめですよ。

とくに、フィルター枠が分厚い製品を用いるとこの組み合わせでケラれることがあるかもしれないからだ。使用する撮影距離にもよるだろうから、無限遠と最短撮影距離のほかに、「実際に使いたい撮影距離」でも調べておくといい。

■F2と使えば時代考証もバッチリ
そうか、AI方式に対応したF2とは時代考証が合うわけか。というわけで、F2フォトミックASと組み合わせて機材の写真を撮ったのがこれ。私はF2が大好きなのでうれしくなる。F2がデジタルカメラだったら最高なんだけどな。もちろん、のちのF3にもよく似合うはずだ。


じっさいに私が撮影に持ち出すときは、デジタル一眼レフに装着したレンズに用いるので、いつものDfと組み合わせるけどね。おそらくは、ZシリーズのZ fcにもよく似合うと思う。自分ではまだ実際には試せていないので「脳内フォトショップによる合成」(つまり妄想)だ。


「身構えているときに死神は来ないものさ、ハサウェイ」とアムロは言っていたけれど、死神はこうして来ている気がするのは気のせいかな。レンズフードの鬼はこうして成仏できないままか。何かの役に立つとは思えない知識をまた仕入れてしまったというわけさ。よくしゃべる!