2022年5月4日水曜日

【秩父鉄道撮影記事】デキ201+12系客車+デキ105の団体臨時列車にワレ遭遇ス。そしてRAW現像とレタッチで太陽が入ってしまう構図をなんとかする話


■デキ201+12系客車+デキ105の団臨がやってきたあ!
秩父鉄道秩父本線のうち、筆者が呼ぶところの「北武区間」こと北武鉄道が開業させた羽生〜熊谷の、田んぼのなかにある有名な駅で降りた。そして熊谷方の曲線区間にいたところ、団体臨時列車がやってくると聞いて待ち構えた、という話の続きだ。

熊谷から自分が乗ってきた7500系電車7505編成「秩父三社トレイン」が羽生より戻ってきて、さきほどの羽生行きナナハチ(7800系電車)と交換し、熊谷方に去った。そしてしばらくすると、太陽を隠していた厚い黒雲が徐々に晴れてきた。

まずいな……と私は考えた。それは、私はふだん「RGBで255, 255, 255になる白い空」を画面内に入れないように、強く心がけているからだ。ら抜き言葉と「文頭なので」を使わないことと合わせて、私の3つの心がけだ。なにしろ、白い空は主要被写体ではないのにどうしても目を引いてしまう邪魔者だもの。画面内に邪魔なものはできる限り入れないというのは、フレーミングの基本だ。

■RAW現像とレタッチで対応しようと決意した
考えていたフレーミングでは太陽は画面内に入る位置にある。ただ、雲が厚くて太陽が隠れていたからなんとかなっていた。それが、その雲が晴れてしまうと、手前の地面や列車の影になる部分との輝度差が非常に大きくなってしまう。「雲よ、太陽を隠してくれえ」というめずらしい願いごとをした。

逆光で撮影するのが嫌だからではない。影になる部分は露出補正なりシャドー部分の補正で対応できる。私が考え込んだのは、画面内の輝度差が8ビット256色に収まらなくなることを危惧したからだ。手持ち撮影なので、輝度差を光学的に小さくするハーフNDフィルターなどを使いにくい。

願いもむなしく、さきほどよりも雲がどんどん薄くなってきた。こうなると画面内に太陽を写し込まざるを得ない。もっと焦点距離の長いレンズを使えば画面内に太陽は入らない。だが、列車の背後の邪魔な風景も望遠圧縮効果で引きつけてしまう。


太陽を画面に入れないようにしたかったのは、もうひとつ理由がある。使っているレンズが古いためにゴーストが生じてしまうからだ。思えば、曲線の外側から撮ったほうがいいのではないかという「ゴーストの囁き」はあったから、それに素直に従えばよかったのかもしれない。でも枯れ草がうるさい感じではあったから。

そういうわけで撮影時に、RAW現像とレタッチをどう行うかを考えながら、太陽が画面に入る構図で撮影することに決めた。ゴーストも生じることが試写の結果わかったので、あきらめて撮影後に消すことに。ふだんもRAW現像とレタッチを考えて撮影してはいるものの、撮影後に画面から何かを消すことを前提に撮ることは少ない。もっと工程を少なくするのだ。

■デキプッシュプルの団臨が登場
そんなことを考えているうちに、行田バイパスの向こうから電気機関車が姿を現した。ふだんの旅客列車よりも長い編成がゆっくりと近づいてきた。羽生方の先頭に立つのはデキ201号で、12系客車4両をはさみ、熊谷方の最後尾にデキ105号がいる。どちらの電気機関車もふたつともパンタグラフをあげていた。編成上はプッシュプルに見えるが、もしかしたらデキ105はムド(無動力)かもしれない。駆動音がしたのかどうかよく覚えていない……。

私自身は、この北武区間を走る客車列車を自分の目で見たのははじめてだ。いいものを見てしまったと感激している心のゆとりは、正直にいうと撮影時にはなかった。

撮影後に拡大再生してみたところ、大学の鉄道研究同好会が主催したというヘッドマークが取りつけられていることに気づいた。そして、乗客にはとある鉄道媒体で有名なかの編集長氏が乗っていることにも。そういえばその学校のOBだったはずだ。



■二種類の現像を行い空のハイエストライト部分に重ねた
では、どういうRAW現像とレタッチを行ったのかを以下に解説していこう。まず、撮影時にはもっとも高輝度のハイエストライト部分を抑えるために、マニュアル露出モードで露出アンダーに設定して空を白く飛ばさないように撮影した。光源などのハイエストライトが飛ぶのはやむを得ないことはあるが、撮影時に「できる限り白飛びさせない露出になるように、空を基準に露出を決める」ことがまずは大前提だ。8ビットJPEGではうまく露出を決める自信は私にはないかも。したがって、画像形式もいつものようにRAW+JPEG同時記録で、そのRAW形式ファイルを現像している。

そして、RAW現像時には撮影時につぶれたシャドーを見せるために、シャドー部分をプラス補正をした。ハイライトをマイナス補正してもいるから、結果的にはコントラストを落としていることになる。画面全体の明るさはRAW現像ソフト上で露出量の再設定をして決める。そうして最初に基本となる、空が白っぽいカットを現像して作る。これが以下だ。この基本カットでも空の部分を255,255,255にすることは避ける。


これだけでもよいのかもしれない。だが、空の部分の雲の上に「なにもないグレーの部分」が大きくあるのは、気が引ける。

そこで、RAW現像ソフト上でマイナス補正を強めに行って、空の部分のみを使うカットを作るべく、もういちど現像を行った。そのカットを上記の画像に重ねる。画像の濃度が加算されるように、レイヤーの描画モードは「乗算」にして、不透明度を調整して80パーセントにした。そのレイヤーには、列車の部分などのつぶしたくない部分にグラデーションツールなどを使ってレイヤーマスクを作る。

むかしのモノクロプリントの言い方をすると、レイヤーを使って空のもっとも白っぽい部分にだけ「焼き込み」を行ったということだ。引き伸ばし機にセットした印画紙の上で、手で影を作りながら追加の露光を行うあの処理と、原理的には同じことを行った。その重ねたレイヤーだけを表示すると以下のようになる。


レイヤーの構成のうち、赤い枠で囲った部分がその「焼き込み」を行ったのと同じ効果のレイヤーだ。「描画モード」と「不透明度」も調整していることに注目されたい。描画モードと不透明度に関しては細かい説明はしきれないので、ご存じない方は各自検索されたい。簡単にいうと、描画モードとは「レイヤー同士の重ね方」あるいは「混ぜ方」のことだ。「ブレンディングモード」という原語の呼び名のほうがわかりやすいかもしれない。濃さが気に入らない場合は不透明度の数値を変えて対応する。あるいはレイヤーマスクの上のグラデーションを作り直す。レイヤーを統合しない限り、何度でもやり直しができる。

撮影時にグラデーションのあるハーフNDフィルター(以下、HNDフィルター)でも使えばこういうレタッチは不要だろうが、HNDフィルターは輝度の境界をうまく設定する必要はあるだろう。細かい調整もHNDフィルターではできないし、フィルターガラスが高精度のHNDフィルターを選ばないと、かえってフレアやゴーストを生じさせかねず、画質にも影響が出る。そういう点ではデジタル的にレタッチを行うほうが私には好ましい。


ほかにも、生じてしまったゴーストを消すレイヤーも合計3枚作った。ゴーストの色成分であるグリーン、ブルー、シアンの各チャンネルの彩度を落として濃度を上げて、めだたせないようにした。空のハイエストライト部分を焼き込むことよりも、ゴーストを消すほうが手間がかかった。

だが、画面に効果を与えないフレアーとゴーストはこの写真に不要だと考える。主役を引き立てない不要なものは写真に写し込まないように、情報の整理整頓はつねに心がけたい。私には「情報量が多い写真」というものは好ましいとは思えない。「なにを主題にしたいのか撮影者が決められずにいて、目についたものをばくぜんと画面内に入れて写してごまかした写真」に思えることが多いから。

そう思うと、フレアとゴーストが生じにくい最新のレンズを用いるほうが、なにかと生産効率が高くなるのだと思い知った。ため息が出る。

そして、画面四隅に周辺光量落ちを設けるレベル補正レイヤーと画面全体の濃度を調整するレベル補正レイヤー、わずかにアンバーに色温度を変える「レンズフィルター」も重ねて、全体の調子を整えてから完成だ。いろいろと細かい処理が多く、レイヤーが多くてみなさんの参考になるような美しい構成ではないかもしれないな。

【撮影データ】
Nikon Df/AI AF Micro-Nikkor 60mm f/2.8D/RAW/Adobe Photoshop CC