8月30日(日)に秩父鉄道沿線を訪ねた話の続きだ。この日は「西武4000系電車に乗る」以外にも、いくつかのレジャーとしての「課題」を予定していた。
ふたつめは「SLパレオエクスプレスに乗ること」。いつも撮っているだけだし、いまや12系客車も貴重だ。前に乗ったのはいつだろうか。2021年にいまのWeb予約システムが立ち上がるその前のはず。
コロナ禍の感染対策として、人流抑制と確実な乗客数の把握をおそらくするために、このWeb予約システムが導入された。あわせて自由席制度が休止している。いまのSLパレオエクスプレスは実質的にすべてが座席指定制だ。
以前のように「出発間際に駅窓口でSL自由席券を買ってふらりと乗り込む」ことができなくなったことは残念だと感じていた。
だが、以前の自由席が3両で指定席が1両という編成では、繁忙期の下り5001列車は途中駅から乗車しても着席できなかった。寄居〜長瀞、長瀞〜御花畑では旅行会社のツアー客もたくさん乗ってくる。この人たちと座席の争奪戦になった。ツアー参加者はまさかせっかく乗るSL列車の座席の奪い合いをしないといけないとは思わないだろうなあ。気の毒に、とも。
さらに、以前のシステムでは座席指定は編成端のスハフ12であり、発電エンジンが床下にあるので「自走できるのではないか」と思えるほど騒音が大きい。おまけに、JRみどりの窓口などの他社からではないと窓口で座席指定券の購入ができなかった。
だから、各自がインターネットで予約状況を見ながら座席指定ができ、好きな車両を選ぶこともできる。そして、指定券を取れば着実に着席できるいまの方式のほうが、便利かもしれない。
話が少しそれた。今日は上り熊谷行きSL5002列車を長瀞から熊谷まで乗る。事前にそう決めてスマホから座席指定券を購入しておいた。上り鉱石貨物列車を牽引するデキ103を撮った場所で通過する下りSL5001列車を見ながら、今日は乗るぞ、と楽しみに思った。
そうしてあらためてスハフ12を見ていて、やっと気づいた。秩父鉄道の12系客車は後期型で車掌室の窓が小さいだけではなく、他の客車と連結することを想定しないからか、幌枠どころか幌座も一切ない。そこに違和感を覚えていたのだ。国鉄型客車には幌枠がつねにある、そんな印象があるから。
長瀞にSL5002列車は15時7分に到着し、13分に発車する。発車ホームは改札からいちばん遠い3番線だ。3番線発着の列車は構内踏切を通らないから、構内踏切からも進入するSLパレオエクスプレスを撮ることができる、そんなことに気づいた。
このSLパレオエクスプレスの乗車は私単独ではない。かつてのブログ「地味鉄庵」を主催されているおっとっとさんと長瀞駅で待ち合わせていた。お会いしてさっそくひさしぶりに12系客車に乗り込んだ。いやあ、12系客車に乗るのも久しぶりですなあ、と。
そうして時速45km/h程度でゆっくりと走る「SLパレオスクプレス」にひさしぶりに揺られた。キハフ12と悪口をいいたくなる発電用ディーゼルエンジンのうるさいスハフ12ではなく、3号車のオハ12に座席指定をとることができたのもよかった。
それなのに、車内の写真などは一枚も撮らなかった。すっかり忘れたんだよな。
SLパレオエクスプレス5002列車の寄居から熊谷までは、座席も多少空くことがある。SL5002列車はもともと長い下り勾配を走る列車のようなもので、煙は期待できない。だから、沿線に撮影に来ても天気がよろしくない日などは、以前から昼寝をするためにSL5002列車に乗っていたものだ。ゆっくり走る12系客車にゆられながらする昼寝はいいんだぜ。
今日はさすがに昼寝はしなかった。1時間ほどかけて熊谷までのんびり列車は走った。そして、熊谷ではSLパレオエクスプレスを待ち構えている回送時の牽引機デキ201を目にした。
私たちは『秩父路悠々フリーきっぷ』を持ち、時間に余裕もあり、さらには下り各駅停車が目の前に入線してきた。
そうなれば、デキ201牽引の広瀬川原行きの回送列車をどこかで写したくなるのが、オタクというものだ(そういうものなのです)。二駅ほど戻り、線路沿いを歩いてちょうど目指す場所にたどり着いたときに、デキ201の汽笛が聞こえてきた。
東武鉄道の電気機関車を彷彿させるこの警戒塗装は、デキ201にはよく似合っていてかっこいいよな。
さて、東武鉄道といえば……かつて優等列車に用いられた5700系電車というものがあった。筆者は子どものころに浅草駅で見かけたことがあるだけだが、昭和50年代にはシルヘッダーのあるごつごつした車体に濃いベージュと小豆色の東武急行色をまとったこの電車は、ものすごく古色蒼然として渋く思えた。
実車は東武博物館に保存されているが、もう一両ある。行田市内のレストラン『電車食堂マスタードシード』にて店舗として車体が活用されているのがそれだ。このことは知識としては知っていた。けれど、撮影に出ると列車を追いかけることに夢中になり、食事をしに立ち寄ることがなかなかできなかった。私は公共交通機関で撮影に出るから、寄り道しづらいということもある。
お店は高崎線なら吹上駅下車。秩父鉄道ならば行田市下車。ものづくり大学近くにある。
今日はSLパレオエクスプレスに乗り、そのあとで夕方のディナータイムにこの『マスタードシード』を訪ねてみよう。そう思い、おっとっとさんをお誘いしていたのだった。みっつめの今日の目標がこれだ。
高崎線吹上駅のほうが秩父鉄道行田市駅よりも流しのタクシーをつかまえやすいだろう、そう思い吹上で降りた。さいわい、ロータリーには数台のタクシーがいた。運転手に「ものづくり大学近くの電車のレストラン『マスタードシード』まで」と話したら、一発で通じた。Webサイトに「吹上駅から徒歩15分車で5分」と書いてあった通りに、タクシー運賃は1,000円で済んだ。
曇りの日の夕方にそうしてたどりついた『マスタードシード』を前にして、私もおっとっとさんもなんだか言葉を失った。ひさしぶりに見る5700系電車がきれいに整備されていて、「生きている鉄道車両」に見える気がして、息を呑んだ。ふたりとも感激してしまったのだ。
すごい。かっこいい。すごくいい!
感激して早口になりながら(少なくとも私だけは早口になった)店内に入った。店内だけを見ると鉄道車両の内部という感じはあまりしないかも。アメリカ雑貨と日本の昭和っぽい雑貨が所狭しと飾られていて、その日は尾崎豊、レベッカ、プリンセスプリンセスといった昭和終わりから平成初期のJ-POPがヘビロテされていた。
ピザとパスタが売りのお店だそうで、注文したパスタも麺には生パスタが使われていて、食感がとてもよかった。手作りケーキもあるそうだ。
生ビール2杯のせいか、おいしい料理となつかしいJ-POPに感激したせいか。食事を終えてほろよい加減で店の外に出てみると、またもや息を呑んだ。あたりがすっかり暗くなり、車体が投光器に照らされている。窓から室内の明かりが見えるクハ703の雰囲気のよさといったら。先ほどとはまた異なる雰囲気のよさなのだ。またもや感激した。ふたりとも黙ってカメラを取り出してしばしの撮影タイムだ。これを目にしたら撮るだろ。
帰りはタクシーを呼ばずに歩いた。食後のちょっとした散歩というところだ。秋の虫が鳴き始めるなかを15分ほど歩いて吹上駅に行き、やってきた上野東京ラインの列車に乗った。帰宅してからも脳が興奮しているのかなかなか寝つけなかった。夜の明かりのなかで見たクハ703にすっかり魅了されたらしい。まるで幻のようにも思える。
西武4000系電車、SLパレオエクスプレス、そして『マスタードシード』の東武5700系電車。今日は3つもの昭和から平成にかけての鉄道車両を楽しんだ。こういうレジャーも夏休みっぽいよな。今後もたまにはこういう「電車遊び」もしていこうと思う。おつきあいくださったおっとっとさん、ありがとうございました。
『マスタードシード』のこの東武5700系電車の再塗装などは、近年、有志のファンの方々が行っているようだ。数年前にはクラウンドファンディングも行われたそうだ。保存車両の美しい姿を保つために地道に活動をする方々にたいしては、ほんとうに頭が下がる。お店も今後も利用したいし、保存活動への寄付に協力することもできればと思う。『マスタードシード』のお店の皆さん、保存活動をされている関係各位の皆さんにもお礼申し上げます。
【撮影データ】
NikonDf,iPhone SE3/AI Nikkor 50mm F1.8S,AI Nikkor ED 180mm F2.8S/RAW/Adobe Photoshop CC 2025










