2017年1月22日日曜日

【デジタルカメラチラシの裏】手動絞りレンズと中露合理主義


MC ZENITAR-N 2.8/16はAi-S対応の機械式絞り

■ニコンとペンタックスが電磁式絞りを採用
さいきん、ニコン一眼レフ用レンズの絞り機構が「機械式絞り」から「電磁式絞り」になりつつある。末尾に”E”のインデックスが入るものが、この電磁式絞りのレンズだ。また、ニコン同様にずっと機械式絞りを採用していたペンタックスにも、電磁式絞りのレンズ「HD DA 55-300mmF4.5-6.3ED PLM WR RE」が昨年夏に登場した。こちらは「KAF4」マウントと名乗る。

一眼レフを製品化しているカメラメーカーで、AF一眼レフを登場させる際にマウント変更をしなかったニコンとペンタックスはずっと機械式絞りを採用し続けていた。この両者が電磁式絞りを採用しはじめたというわけだ。

ZENITAR-M 1.7/50は絞り連動ピンを持つM42レンズ

■主流はすでに電磁式絞り
この機械式絞りと電磁式絞りというのは、カメラボディからレンズへの絞りの制御方式のこと。ボディ側で設定した絞り値にレンズを制御する際に、絞り連動レバーなどの機械式な連動機構を用いるものが機械式絞り。電気信号のみをレンズ側に与えて、絞り値の変更はレンズ内の電磁石で制御させるものが電磁式絞りだ。

電磁式絞りはすでに、一眼レフではキヤノンEFマウントには1980年代の登場時から採用されている。マイクロフォーサーズ規格の交換レンズも、マニュアルフォーカスレンズのコシナのフォクトレンダーシリーズやコーワのプロミナーシリーズをのぞけば、この電磁式絞りだ。

■絞り制御の高精度化と動画への対応
この電磁式絞りのメリットは、より高精度な絞り制御が可能であるところだという。より正確にいうと、機械式絞りよりも安価に高精度化できるところ、というべきか。また、ボディとの機械式連動がないほうがレンズ後部のスペースを用いやすく、レンズ設計の自由度も高くなるだろう。

かつては、電磁式絞りでは連続撮影時に連写速度の低下が生じやすいという言い方でニコンは機械式絞りに固執していたはずだ。それが、技術の進歩により電磁式絞りのほうが高精度に動作できるようになったということらしい。

静止画しか撮影しないというカメラファンは多いと思うが、機械絞り式のレンズは動画撮影に対応しにくい。連続的な絞り制御がしづらく、また撮影中に絞り動作を行うとこの連動音も記録してしまうことも。もっとも、動作音に関しては電磁式絞りでも動画対応レンズではないと拾うことがあるが。
 
マイクロフォーサーズ規格は機械的な絞り連動機構を備えない

■そう思うと、手動絞りの採用は合理主義のあらわれか

じつは、ここまでは長い前フリだ。

さいきんの中国・中一光学製レンズ、あるいはロシア・ゼニットブランドレンズが出すレンズ新製品が機械式絞りでも電磁式絞りでもない「手動絞り」でのものばかりであることを、私は「おもしろくないなあ」と思っていたのだ。

「中一」をおもしろく思わないのは、私の心がいつまでも「中二」だからかも。冗談です。どちらにも一眼レフであるEFマウントやニコンFマウントレンズも用意されているが、この手動絞りとは機械式絞り以前のもので、カメラボディとレンズ側の絞り機構の連動をいっさい行わない。

機械式絞りとはもともと、カメラボディ側の露出計との連動に対応して作られたものだ。そして、TTL開放測光が主流になると、ファインダー内は絞り開放の明るい状態で見たい。だが、露出計には撮影時に用いる絞りを連動させたい、という目的のために工夫されてきた。手動絞りはこの開放測光のための連動機構を持たないから、光学ファインダーでは手動絞りは使いやすいとはいえない。フィルム一眼レフを製造していたゼニットはずっとM42マウント時代から機械絞りのレンズを作ってきたのに……と思うと、いささか残念にさえ思っていた。

ところが、これらの手動絞りの採用は、考えたらものすごく合理主義的なのだということに、いまさらながら気づかされたわけだ。まず、どちらのラインナップも絞り開放ではややクラシカルな描写をする大口径レンズがおもでだ。そういうノスタルジックな描写を求めてファンは買うのだろうから、じっさいにはほとんど絞り開放で用いられるのだろう。そして、光学ファインダーの一眼レフでも絞って使いたい人は、どうしてもならライブビューを使えばいい。

したがって、ほとんど絞って使われないのであれば、ボディとの絞り連動機構のために構造を複雑にする必要がない。各種マウントにあわせる場合には、フランジバックに対応してマウント部分のみ作り変えるだけですむ。

マニュアルフォーカスレンズを買うのは操作を楽しみたいユーザーだろうから、レンズ側の絞り環で絞りの操作ができれば、むりにボディとレンズ側が連動してボディ側の操作で絞り値が動く必要もないのかもしれない。高精度な機械絞りや電磁絞りを採用すれば、人件費がむかしほどは安くはないいまの中国やロシアでも、コスト的にもかなり高額な製品になってしまうだろう。手動絞りにしてしまえば、機械的にも電気的にも連動機構を持たないぶん、コストダウンもできて故障しにくい。

古いレンズはしばしばこの絞り連動機構に支障をきたすことは、ここにお越しになる方のうちクラシックカメラ好きにはご理解いただけるだろう。

さらに、手動絞りであれば絞り動作もほぼ無段階で制御でき、動画にも対応しやすい。それに、マイクロフォーサーズボディ、あるいはソニーαボディではなくても、おそらくは(もちろん妄想ではあるけれど)そう遠くない将来「望遠レンズを用いて高速連写で動体撮影をするハイアマチュア専用機」以外は、カメラボディはみなEVF(電子ビューファインダー)のいわゆるミラーレスカメラになっていくのだろうから。EVFならば絞り値の変化を表示画像に反映させず明るいまま表示させることも可能だ。フォクトレンダーレンズやプロミナーレンズが手動絞りなのも、あくまでも想像だけど似たような理由だろう。

こうして考えてみると、中国とロシアのメーカーの割り切りというか、合理主義に驚かされもする。いわば、ローテクであることをうまく利用して割り切っているからだ。

機械絞りがないのはおもしろみがない、などと考える私がいかにヲタで、近視眼的だったということだ。いけませんね。

*初出時、「ソニーAマウント(ミノルタAマウント)」を電磁式絞りと記していましたが、Aマウントは機械式絞りです。訂正いたします。レンズ側に絞り環はありませんが、ボディ側から機械的な連動で絞りが制御されます。なお、NEX用のEマウントは電磁式絞りです。