2020年7月23日木曜日

【ニッコールレンズのお話】AF-S NIKKOR 50mm f/1.8G(Special Edition)を手に入れた

デキ3021とDfブラックは似て見えるかも

■35ミリフルサイズミラーレス機が主流の時代だというのに
いまのレンズ交換式デジタルカメラの新製品はミラーレスカメラが主流だ。ソニーが先行したぶん、とくに35mmフルサイズのデジタルカメラでシェアを奪われつつあるキヤノンとニコンが二強がそれに追いつき追い越そうとしているからだ。

先日も、キヤノンから本格的な撮影にも使えそうなEOS R5およびR6の製品発表があった。EOS 5Dシリーズと6Dシリーズは今後は一眼レフではなくミラーレスのR5とR6になっていきそうだ。また、つい数日前にはニコンからはZ 6のデチューン版といってもよさそうなZ 5が発表された。SDメモリーカード(UHS-II)対応のダブルスロットと撮影中にUSB給電が可能な仕様は魅力的だ。とはいえ、発売後2年たち価格が下落して、さらにボディのみの購入でも2万円のキャッシュバックキャンペーンも適用されるZ 6との価格差がそう大きくないところはなやましそうだ。静止画しか撮らず少しでも安く手に入れたいならばZ 5で、4K動画をフルフレームで行いたいならZ 6だろうか。

すでに国内市場だけではなく国外でも一眼レフよりもミラーレスカメラの出荷台数が増えているそうだ。自分の胸に手を当てて考えてみても、ほとんどのみなさんがこれから買いたいカメラはもしあっても「一眼レフ」ではないのではないか。一眼レフは今後、光学ファインダーがどうしても必要だという少数のユーザー向けのカメラになっていくと私は予想している。

Nikon Df/F2.8/AE/IS0 1,600

Nikon Df/F3.2/AE/IS0 400

AF-S NIKKOR 50mm f/1.8G(Special Edition)を手に入れた
そういう状況であることは承知しているのに、AF-S NIKKOR 50mm f/1.8G(Special Edition)を2020年夏になって手に入れた。おでばかだから。いやあ、元箱入りで付属品もすべて揃っているのに、たいへん安価に思えた商品を某パソコンショップでまたもや見つけてしまったから、カッとなってつい。責任能力がないという主張をしたりしてな。ひとのせいにするなよ、私。

時代につねに周回遅れで、そのことをいささか誇りにさえ思っているところもあるかもしれない私は、GタイプニッコールレンズはDXフォーマットのレンズしか所有していなかった。とはいえ、興味はあるのでGタイプニッコールレンズを自分でも所有して使い込んでみようと思ったわけだ。所有していなかったのは絞り環がないからというようなニコ爺らしい理由ではない。そういうのを期待した方には申し訳ないけどな。たんに、Dタイプニッコールでも困らなかっただけだ。

ニコンFマウントはマウントの口径がいまとなっては小さくなり、そこに絞り環があるとさらにレンズの後玉を大きくしづらいといった制限があったと思われる。そのためにFマウントニッコールレンズは画素数の増え続けたデジタルカメラに対応した画質にしづらくて、前玉を大きくしていくほかなかったと私は見ている。新しいテクノロジーを否定するのはニコ爺としてはよろしくないと思うぜ。私は周回遅れでも新しいものへの興味はある。いろいろと説得力のないいいわけだけどさ。

Nikon Df/F2.8/AE(-1.0EV)/IS0 450

Nikon Df/F2.8/AE(-0.3EV)/IS0 1,600

■光学系はAF-S NIKKOR 50mm f/1.8G通常版と変わらない
さて、AF-S NIKKOR 50mm f/1.8G(Special Edition)は2013年11月のNikon Df発売時にキットレンズとして用意されたものだ。光学系は2011年6月に発売されたAF-S NIKKOR 50mm f/1.8Gと同じ。

この通常版のAF-S NIKKOR 50mm f/1.8Gは1980年に発売されたAi Nikkor 50mm F1.8S以来約30年ぶりに光学設計が一新されたレンズだ。『ニッコール千夜一夜物語 第60話』によれば、オートフォーカスレンズであるAI AF Nikkor 50mm F1.8Sと現在も発売されているDタイプのAI AF Nikkor 50mm f/1.8DはマニュアルフォーカスのAI-Sレンズと光学系は同じだという。

AF-S NIKKOR 50mm f/1.8G(Special Edition)はNikon Dfに合わせて、レザートーン塗装とアルミ製の飾りリング、ローレット状のマニュアルフォーカスリングといった、かつてのマニュアルフォーカスレンズふうの外装が施されている。光学系が同じなのだから写り自体は通常版のAF-S NIKKOR 50mm f/1.8Gとは変わらない。おそらくは、Nikon Dfの生産もすでに終了していると思われるので、在庫のあるものが販売されているだけで、このレンズもいまは作られていないはずだ。

Nikon D7200/F8.0/AE(-0.3EV)/IS0 200

Nikon D7200/F8.0/AE(-0.3EV)/IS0 400

レンズ構成は6群7枚で、非球面レンズを1枚使用。最短撮影距離は0.45mで最大撮影倍率は0.15倍。円形絞りを採用し絞り羽根は7枚。サイズは最大径73mm、全長52.5mm、重量190g、アタッチメントサイズ⌀58mmというもの。AF-S NIKKOR 50mm f/1.8Gと比べると最大径が1mm大きく、重量が5g増えている。それでも、190gとは見た目から受ける印象とはことなりかなり軽い。外観や各部の動作の感触には高級感があるわけではないが、安っぽさは感じさせない。AI AF Nikkor 50mm f/1.8Dのような、いかにも普及版レンズという雰囲気はない。あのレンズは写りはいいのにそこが惜しまれるよね。

SWM(超音波モーター)を備えているので、AF駆動音はほぼ無音だ。また、スイッチの切り替えなしでマニュアルフォーカスも可能なM/A(エムバイエー)モードも使用できる。マニュアルフォーカス時のトルク感は、カプラー駆動のAFレンズに比べたらまあまあかな。

F2.8で均質になりF8.0からF11で解像感はピークに
AF-S NIKKOR 50mm f/1.8GとAF-S NIKKOR 50mm f/1.8G(Special Edition)は何度も使わせてもらっていて、軽やかに使えると好ましく思っていた。この「軽やか」というのは質量の話だけではなく、画質についてもそう思うのでその言い回しを用いている。

その画質の話をすれば、解像力チャートではなく、あくまでもいろいろと実写した結果得た印象で語ると、F1.8では被写体周辺にフレアが取り巻く。これがF2.8でほぼ解消されて周辺部と中央部の画質が揃ってくる。私自身はここ10年ほどすっかり世の中に定着した感のあるフレアっぽいハイキーな写真をほとんど撮らないので、絞り値を小さくするのはほとんどF2.8まで。F1.8ではハイエストライト周辺部にパープルフリンジが出るようだ。そしてF8.0からF11で解像感のピークになる。それに、35mmフルサイズのレンズは一般的にはF8.0からF11でもっとも解像感が高くなるから、これはごくふつうのことだ。

なお、NIKKOR Z 50mm f/1.8 Sは絞り開放から画面四隅まで高解像なのだそうだが、AF-S NIKKOR 50mm f/1.8Gはそうではないとこの記事にはある。設計や硝材、そして価格がまったくことなるのだから、それはそれだ。ショートフランジバックの恩恵というのは大きいのかもね。

FマウントのAF-S NIKKOR 50mm f/1.8G(Special Edition)に話を戻せば、ナノクリスタルコートではなくても逆光でもそう悪くはない(とくに強いわけではない)。マニュアルフォーカスのAi Nikkor 50mm F1.8Sでは半逆光で大きなフレアが出てしまうことに悩まされた。それに比べると内面の反射防止対策がずっと徹底していそうで、そういう経験はAF-S NIKKOR 50mm f/1.8Gではいまのところはない。付属するバヨネット式レンズフードHB-47はf/1.4Gとも共通だ。ぼけは開放F値がF1.8なので、そう大きくはない。ぼけ味自体は素直でいい感じだ。

Nikon D7200/F8.0/AE(-0.3EV)/IS0 100

Nikon D7200/F8.0/AE(-1.3EV)/IS0 100

■腕前を試されるレンズかも
前述のようにこのレンズは持ち歩くにも便利だ。AF-S NIKKOR 50mm f/1.8Gで質量185g、AF-S NIKKOR 50mm f/1.8G(Special Edition)でも190gだから、大きくぶ厚く重くなりがちな35mmフルサイズ一眼レフボディと組み合わせても大変軽快なのだ。また、DXフォーマットボディで75mm相当のやや短めな中望遠レンズとして使うのも楽しい。手ぶれ補正機構は備えていないので、ラフな撮影をしないようには心がけたい。

このAF-S NIKKOR 50mm f/1.8GシリーズはカールツァイスのレンズやシグマのArtシリーズ、あるいはケンコー・トキナーのOpera 50mmのように性能を追求して大きく重いレンズになるというのとは対極にあるかもしれない。50ミリクラスのレンズはカールツァイスOtusの登場する前と後で二つの系統ができたといっていいだろう。価格を抑えてボディ側やRAW現像ソフトでの画像補正込みである程度の性能水準を保つレンズと、価格が高くなっても光学的に徹底的に性能を追求して大きく重いレンズに。

AF-S NIKKOR 50mm f/1.8GとAF-S NIKKOR 50mm f/1.8G(Special Edition)はそのOtus以前のレンズであり、さきほどの分類に従えば前者というわけだ。だから、絞り開放での描写は柔らかいし、ちょっと絞ったときの明快なコントラストと解像感が楽しい。キヤノンEF 50mm F1.8 STFのときにもそう感じた。

ただ、AF-S NIKKOR 50mm f/1.8GもEF 50mm F1.8 STFのように最短撮影距離がもう少し短いとなお便利だろうなあ、と希望を書いておきますよ。残念ながらNIKKOR Z 50mm f/1.8 Sも最短撮影距離が0.45mなんだよなあ。

そういうわけで、絞り開放では画面中心部と周辺部の画質差はもちろんある。だから、絞りを開くときにはとくに、周辺部に主要被写体を置かない構図にするといった撮影者の工夫は必要かも。絞りを開けば柔らかく、絞れば明快に写る。自分の足で被写体との距離を工夫すること。そして絞り値は被写界深度の調整に用いるだけではなく、描写のコントロールを行うためにも用いたい。

そう思うと、50mmレンズの使いこなしとは「標準」レンズであってもやはり奥が深い。けれど、私は思うのだ。気軽に入手できる機材でうまく撮る工夫をするのはけっこうおもしろいと。これは、けっして負け惜しみなんかじゃないですよ。

Nikon D7500/F2.8/AE(-0.3EV)/IS0 400

手軽に入手できる単焦点レンズとして、ズームレンズしか持っていないユーザーにもこのおもしろさは試してもらいたい。Special Editionである必要はなく通常のものでいい。DXフォーマットで使うのもいい感じだ。75mm相当の「中望遠レンズ」として考えると最短撮影距離0.45mは悪くはない。ファインダー像も明るく見えるのもいい。もちろん、「レンズ沼」に落ちるかどうかはまたあれだ。

なお、AF-S NIKKOR 50mm f/1.4Gのほうは、私は触れたこともないので比較ができない。絞り羽根があちらは9枚あるのと、ぼけ量が大きいはずだから、大きなぼけを生かした撮影をするのが目的でF1.4という数値が好きならば、f/1.4Gをえらんだほうがいい。「f/1.4Gのほうがいいんじゃないかなあ」などと、あとでうじうじと悔やむことなくしあわせに過ごせるだろう。

また、ぼけを追求するならばAF-S NIKKOR 58mm f/1.4Gというレンズもある。撮ったことが私はないのでこれも想像でしかないが、どうやら相当なくせのあるレンズのようで、使いこなすにはいろいろな腕前が要求されるみたい。だからあのレンズは必ずしも万人におすすめできるわけではなさそう。通常版のAF-S NIKKOR 50mm f/1.8GとAF-S NIKKOR 50mm f/1.8G(Special Edition)にはそこまでの難易度は要求されない。

◇掲載しているのはいずれもお借りしたレンズで以前に撮影したものです。また、いずれもKindle電子書籍『ぼろフォト解決シリーズ』への掲載用に撮影したものがおもです。『ぼろフォト解決シリーズ』の『Nikon Dfで上毛電気鉄道を撮る』『Nikon Df脱・初心者マニュアル』『Nikon D7500脱・初心者マニュアル』と『Foton作例集』の『Nikon AF-S NIKKOR 50mm f/1.8G 秋山薫・作例集』にAF-S NIKKOR 50mm f/1.8G(Special Edition)とAF-S NIKKOR 50mm f/1.8Gの写真を掲載しています。月額読み放題制度であるkindle unlimitedにも対応しているので、こちらもあわせてごらんいただけたらとてもうれしく思います。