2021年12月17日金曜日

【八高線撮影記事】209系3100番代「ハエ72編成」が走った最後の秋の日々 その3 高麗丘陵「鹿山峠」の話

高麗川〜東飯能の高麗丘陵の20パーミル勾配の頂点付近を越える列車
(2020年8月撮影)

■森のなかを列車が駆け抜ける
「自分の好みの鉄道シーン」というものが、鉄道趣味をやっているひとならばいくつかあると思う。私のそのうちのひとつは、森や林を抜けて走る列車の姿だ。

東京で生まれ育ったから、森のなかを走る列車には身近な親しみがあるわけではない。それでも、親に連れられて乗ったどこかの路線で列車が森を抜けるところを見ると、いつも楽しみだった。ウィルバート・オードリーとクリストファー・オードリー『汽車のえほん』を図書館で借りてよく読んでいたから、過去の読書からの連想かな。あるいは、芥川龍之介『トロッコ』のワンシーンを思い出すからか。

そういうわけで、中高生のころに当時非電化だった八高線が好きだったのは、高麗丘陵を越える区間が森のなかを抜けるように思えたから。そして都内から遠くはないのに、あたかもどこか遠いところのように思えたからだ。

八高線非電化区間の高麗川〜小川町〜寄居の区間に乗ると、そういう雑木林を抜ける箇所がいまでもいくつかあるので、乗るたびに楽しくて仕方がない。東武東上線の小川町〜寄居、西武池袋線・秩父線の高麗以遠もそうだ。秩父鉄道の影森駅前後や横瀬川の和銅橋付近の雑木林も好きだった。青梅線、あるいは房総半島の小湊鐵道、いすみ鉄道もしかり。

奈良線の棚倉付近は竹林だけど、椿井(つばい)大塚山古墳のところも林のなかを線路が走っていて、そこをうぐいす色の103系電車が走るのだから、私が見ることができなかった八高線の103系3000番代の身代わりを見ているような気持ちになる。奈良線になかなか行けない私にとって八高線は「奈良線のジェネリック」になりはしないだろうか。無理か。

「そうだ京都行こう」という感じで身軽にさっと奈良線にも行きたいな。

出典:国土地理院
(赤字は筆者が添付)
■いまでも森を抜ける雰囲気は健在
この高麗丘陵を列車が抜ける区間は、前回のエントリーでも記したようにかつては当時の鉄道ファンには「鹿山(かやま)峠」などと呼ばれたそうだ。電化されて架線柱が立ち、周辺に宅地が増えたところはあっても、いまでもその雰囲気はそう大きくは変わらない。

ただし、線路と並行して道路があるわけではない。この森のなかには線路と交差する3か所の小さな踏切があり、その踏切付近から列車をねらうほかない。そのうちの東飯能方のふたつの踏切について記す。

高麗川と東飯能のどちらが近いかというと、私には交通の便を考えると東飯能、より正確には西武池袋線飯能からのほうが近くて便利なように思える。公共交通機関利用ならば便利に使えるメッツァ(宮沢湖)までの直通バスと、飯能駅北口から武蔵高萩駅を結ぶ路線バスもある。この路線バスは高麗川駅には入らない。そして飯能駅からのほうが、メッツァ営業日には途中の停留所に停車しない直通バスが走るために運行本数が増える。だから、数回通ったのもみな飯能・東飯能からのルートだ。そこで、本稿でも飯能方面からの道のりを記す。なお、残念ながら東飯能駅とメッツァを結ぶバスは「当面のあいだ」運休中だ。

なお、付近にコンビニエンスストアは県道30号飯能寄居線を高麗川方向に進んだところにあるファミリーマート上鹿山店、あるいは同線を南下して飯能警察署方面に進み国道299号線を越えて直進したところにあるファミリーマート飯能双柳(なみやなぎ)店、または国道299号飯能狭山バイパスの中山陸橋手前のファミリーマート飯能青木店くらいしかない。いずれも離れている。それ以外にはより至近にそば屋とラーメンショップはあるが、営業日や時間などは各自確認してほしい。だから、食べ物は飲食店の数も多い飯能か丸広百貨店もある東飯能、もしくはコンビニエンスストアやヤオコーのある高麗川で入手しておくことをおすすめする。

前回のエントリーで書いた下加治高架橋と下加治踏切から高麗丘陵を振り返ると、目の前に長福寺踏切が見える。長福寺というお寺のすぐそばの小さな踏切だ。この踏切のところはカーブを描いているので、八王子方面行き列車を4両編成すべてを午後に順光で撮ることができる。雑草をうまくかわす必要はあるかもしれないから、そこは各自工夫されたい。

なお、長福寺には墓参者用のお手洗いもあるので、必要な場合はありがたくお借りしよう。お手洗いもこれから先に森に入ると、宮沢湖霊園入口付近まではない。それ以外では、メッツァのバスターミナルまで行く必要がある。

長福寺踏切を東飯能方から見たところ

ここから高麗川に向かって線路は森のなかを抜ける。線路に沿う道路もなくなる。次の踏切に向かうには、この長福寺踏切を渡って、長福寺から見て宮沢湖や県道30号飯能寄居線を背に左に(高麗川方向)へ降りていく。すると数軒の住宅と畑があり、里山の風景が目の前に見える。

長福寺踏切から降りていき、畑を目の前にしたらさらに左に行く。北の高麗川の方向に向かうということだ。送電線が森を抜けていく。その方向に道がある。

送電線のほうに向けて進む

白いガードレールのところから列車を撮ったのかな

1988年秋にはDD51牽引セメント列車が走っていた

その道中に森の切れ目がある。むかしは列車を写すことができた。すっかり忘れていたけれど、DD51の写真はここで撮ったのか、と自分の写真を思い出してなつかしんだ。ただ、いまは手前の畑も耕作されていないようだし、線路沿いもいろいろと木々が育っているようで、うまく写せそうにはない。

里山の風景が好きなのかも

■高麗丘陵のサミット付近にある宮沢踏切
送電線に沿って、小さな道を進んでいくと、道はまた森に入る。久邇(くに)カントリークラブのすぐわきだ。自動車は軽自動車以外の通行は控えるようにと注意書きがあり、道も狭いのでめったに通らないものの、ときおり通行がある。あとは、地元のみなさんの散歩のコースのようだ。

ゴルフ場すぐそばの森に入ると、めざす宮沢踏切は目の前だ。googleストリートビューでも見られるところが21世紀だなあ。

森のなかを抜ける感じがするでしょう

周囲が木々に囲まれていて、ときおりゴルフ場からのゴルフ客の嬌声が聞こえるほかは、鳥のさえずりと頭上を行き交う航空機のジェット音くらいしか聞こえない。ゴルフ場で騒いでいいとは思えないけれど、プレー中の客が関西方言で「あかん! 池ボチャしてもうたあ!」と騒いでいるのをたまたま聞いた。おっちゃん、おもろいけど静かにしたほうがええんちゃう。

iPhone 7 PLUSのHDRを使ったらちょっと不自然だ 

12月上旬の12時半ごろの日の当たり方はこう。
300ミリくらいのレンズが必要だ

13時を過ぎると日陰が増えてしまった

ここはただし、線路は森のなかにあるので、太陽が低い時期は日が差す時間が限られそうだ。

東飯能方を向いて高麗川・川越方面行き列車に太陽光が当たる姿を撮るならば、太陽が低い季節は午前中から正午ごろまでだ。横から日が差すので色づいた木々が輝くように見えたのはいい。新緑の時期もよさそうだ。まだらに日が当たるのがいやならば、曇りの日か早朝もしくは夕方の薄暮の時間を選ぼう。日没の時間はひとが通らないからいろいろとあれだけどね。なにしろここはいにしえのインターネッツで「ビスコの踏切」などとよばれるコラージュが流行った場所だから。懐中電灯があったほうが帰り道に便利だ。

カーブを越えてくる列車を撮るには踏切警報機と機器箱の隙間から撮る必要があるので、35mm判で300mmより長いレンズがあるほうがいい。さらに、上記の構図では立ち位置が狭いので、ほかにも撮影者の方がいたら工夫しあってほしい。

いっぽう、高麗川方を向くと倒木対策か土砂崩れ対策か、いろいろな鉄骨がめだつので、レンズや構図の工夫も必要だ。よく目をこらすと20パーミルの勾配標が奥に見える。高麗丘陵を越える地点の頂点付近なのだろう。

こちら側は日陰に完全になるほうが撮りやすいかも
iPhone 7 PLUSでHDRを使ってCamera Rawで展開しても白トビが直せない。
白トビを無理に暗くしても汚いグレーになるだけなので
撮影時に露出アンダーにしないといけない

1991年春はこんな感じだった。
越後線から転属してきた500番代で、
押し込み式通風器で前面強化がなされていない

画面左奥に勾配標がある
いまのほうが木々が伸びているのかな

やっぱり209系3500番代とE231系3000番代は
「口が大きいひとが笑っている」感じがする

■もしみなさんの参考になるならばうれしい
この道をさらに進んで森を抜けると、数軒の住宅がある。カイロプラクティックののぼりを立てているお宅のところで道がふたつにわかれるが、どちらを進んでも県道30号飯能寄居線に出る。左に進むと下宮沢バス停、右に進んで携帯電話の中継所を越えて森のなかの道を行くと、宮沢湖霊園入口付近の宮沢バス停付近に出る。どちらも、飯能駅北口とメッツァ、宮沢湖温泉を経由して武蔵高萩駅を結ぶイーグルバスの停留所だ。高麗川駅に行くには小畦橋バス停で下車して10分弱歩く必要がある。また、このイーグルバスに乗ると下鹿山バス停からは川越線の有名撮影地にアクセスできる。

県道30号飯能寄居線の宮沢湖霊園入口付近に出たところ。
宮沢バス停の近くだ。うっそうとした森の奥に宮沢踏切がある。
県道30号からだとわかりにくい。
「この上り坂の狭い道に入るのかよ、うっそーマジかよ」と思う、かも

私自身はこの踏切からは県道30号飯能寄居線に出るよりも、久邇カントリークラブ沿いの道を戻って、飯能・東飯能へ戻ることが多い。上り坂もあるし。上記の路線バスはメッツァや飯能靖和病院からも乗ることができるが、メッツァ営業日はメッツァから乗らないと帰宅客で混雑して座れないことがある。東飯能までなら2キロくらい、飯能までは3キロくらいの距離か。だから、そういう場合はあきらめてとぼとぼと歩く。

これがかつて「鹿山峠」とよばれた高麗丘陵の撮影地のガイドだ。こうしてみると、なかなか魅力的だし散歩にもいい。103系3000番代が走っていたころに来たかった……とちらりと思ったけれど、それはいまさら思っても仕方がない。そのころは鉄道をまったく撮っていなかったから。

稲荷踏切にて300mm。
もっと焦点距離が長いほうがいい。
いろいろと工夫が必要だ。
ここも午後遅いと日が当たらない

なお、高麗丘陵の高麗川寄りにはもうひとつ稲荷踏切という名の小さな踏切もある。もう少し周囲が開けているが、やはり機器箱などがあるために超望遠レンズがほしくなるし、かなり工夫しないとうまく撮影しづらいのと、製材所のある道を入っていっていいのかな……と私はなんとなくためらう。場所は上鹿山バス停が目の前で、ファミリーマート上鹿山店が近くにある。宮沢踏切とは県道30号飯能寄居線に出て、すぐ横を自動車が飛ばす道を20分程度歩くこともあって、私はあまり好きじゃないな。

なお、稲荷踏切は日高市内に位置しているので、駅は高麗川のほうが近い。

各種訪問記を参考にして四半世紀ぶりに訪ねたので、自分への備忘録も兼ねて記した。もし、この記事がみなさんのなにかしらの参考になれば、私としては望外の喜びだ。

【2022年1月3日追記】:飯能駅北口と武蔵高萩駅を結ぶイーグルバスは高麗川駅には入りません。筆者の確認不足でしたので、その部分の記述を加筆訂正しました。訂正し、お詫び申し上げます。

【撮影データ】
NikonDf, NikonD7200, iPhone 7Plus/AI AF Nikkor 35mm f/2D, AI AF Nikkor 180mm f/2.8D IF-ED,  AI AF Nikkor ED 300mm F4S (IF)/RAW/Adobe Photoshop CC