2022年2月3日木曜日

【写真術のお話】撮影後にレタッチするならばRAW+JPEGで撮っておくことを卿(けい)らに勧める理由 補遺

Adobe CameraRawで絵作り設定に「カメラスタンダードv2」
プロファイルを当てて現像してからレタッチした写真

【はじめに】
先日のエントリーで「RAW+JPEGで撮影しておくとなにかといいよ」という話を、じつに長々と書いた。そこで記したのは、8ビットJPEGを撮影時の記録形式に選んでしまうと、階調の再現域が狭いために、撮影後に明るさを変えるようなレタッチはしづらくなるという話がおもだった。

例えていえば、火を通して味つけを済ませた料理を作り変えるのはむずかしいのと同様だ。大幅に作り変えるならばできるだけ素材に近いほうがやりやすい。ある世代以上の写真好きにならば、RAW形式ファイルはカラーネガフィルムのようなもので、8ビットJPEGファイルはカラーポジフィルムのようだ、といえばわかりやすいだろう。

このRAW形式ファイルの階調再現域の大きさを享受することのほかにも、RAW+JPEGで撮影しておく利点はある。今回はできるだけ手短にそれを記すつもりだ。

(早口で)ちなみに『銀河英雄伝説』で好きなのはローゼンリッター隊長のシェーンコップの勇敢さと聡明さ、そしてフェザーン総督のルビンスキーの策略家ぶり……オウフ、デュフフコポォ……どちらも声もカッコいい……いや、だからその話は長くなるので拙者まるでフォカヌポゥ以下略

これはオリジナルの「撮りっぱなし」画像
ピクチャーコントロール「スタンダード」で
彩度を+1している

■非純正の絵作りにすることができる
デジタルカメラの絵作りとは、イメージセンサーで得た光を電気信号に変換し、それを画像処理エンジンで画像データにする際に、各カメラメーカーの技術者が考えて設定したものだ。より正確にいうと画像処理エンジンを他社から購入している場合には、画像処理エンジンの製造元が考えた絵作りの設定を、カメラメーカーの技術者がさらにアレンジしている。それが「カメラメーカーごとの色の特徴」だ。

各社のカメラには、純正のRAW現像ソフトが用意されている。いまではRAW現像ソフトは自社製ではなくほとんどが市川ソフトラボラトリーに外注されているようだが、純正RAW現像ソフトでRAWファイルをデコードして画像ファイルに変換する際には、できるだけカメラ内での画像処理に近い絵作りにするように設計されている。

Adobe CameraRawにある「カメラスタンダードv2」は
「Adobeが考えたニコンの『ピクチャーコントロール:スタンダード』」だ。
つまり「ニコン純正」の「ピクチャーコントロール:スタンダード」ではない

「Adobe スタンダード」のプロファイルにしただけで
コントラストが低くなることがわかる

いっぽう、Adobeや市川ソフトラボラトリー、フェーズワンあるいはDxOLabなどのサードパーティ製RAW現像ソフトは「ソフトウェアメーカーが考えた絵作り」をするように設計されている。正確には「ソフトウェアメーカーが考えたカメラメーカーふうの絵作り」と「独自の絵作り」の両者に対応しているものが多い。

Adobe CameraRawの「Adobeスタンダード」にしたもの

Adobe CameraRawの「カメラスタンダードv2」

NX Studioで「最新のピクチャーコントール」にした
「スタンダード」の「ニコン純正」の絵作り

つまり、RAW現像ソフトを変えることで「カメラメーカーの考えた絵作り」ではない絵作りの設定にすることができる。もちろんこれはどれがいいという話ではなく、好みの問題だが、絵作りのバリエーションを楽しむことが可能だ。

また「かつてのコダクロームのようなシブい色にしたい」「Tri-Xふうの粒状感のあるモノクロームにしたい」などと考える場合にも、それに対応したプリセットが各社RAW現像ソフトに用意されているのも便利だ。

■レンズ収差とノイズのより細かい補正が可能
現在のカメラボディには、レンズの各種収差の補正プロファイルが組み込まれているものがほとんどだ。現在主流になりつつあるミラーレスカメラの場合はむしろ、カメラ内で収差を補正することが前提になってレンズ設計が進められている。具体的には、色収差、ゆがみ、周辺光量の補正をカメラボディ側に担わせている。そうすることでレンズの小型軽量化を図ろうという考え方だ。

NX Studioにはカメラ側に操作項目のない
「軸上色収差補正」の項目がある。
カメラボディ側よりも細かい設定ができる

Adobe CameraRawには各社レンズごとの収差補正プロファイルがあり、
そこに含まれているレンズであればレンズの収差補正が容易に可能だ。
色ずれ(フリンジ)の修正もさらに手動でできる


ところが、この補正はカメラ内に補正プロファイルがあり、かつカメラボディとレンズ側が通信を行って使用レンズをカメラが認識しやすい純正レンズに限られる場合が多い。古くはマイクロフォーサーズ規格でもゆがみの補正がボディ側で行われている。35mmフルサイズセンサーを用いるシグマとパナソニック、ライカが採用しているバヨネットLマウントの場合はレンズの処理プロファイルが共有されているようだ。

RAW現像ソフトにはこれらレンズの各種収差補正機能も含まれている。純正レンズの補正プロファイルがRAW現像ソフト側にあらかじめ含まれていることも多い。さらに、カメラ側では補正しきれない色収差の細かい補正も可能だ。

もちろん、非純正レンズのレンズ収差もRAW現像時に手動で補正できる。ソフトウェアメーカー製RAW現像ソフトならばレンズメーカー製レンズの補正プロファイルが用意されているものもある。

ノイズ除去に関しても同様で、カメラ側では輝度ノイズとカラーノイズの一律でしか調整できない機種が多いが、RAW現像ソフト側ではそれぞれ別個に行うことで、より細かい追い込みが可能だ。モアレの除去に対応しているものも。

Adobe CameraRawでは輝度ノイズとカラーノイズを
それぞれ別個に補正できる

NX Studioでもノイズリダクションを「マニュアル」に設定すると
輝度ノイズとカラーノイズを個別調整ができるようになる

■古いカメラでも最新バージョンの絵作りを享受できる
カメラの機種が新しくなり、搭載される画像処理エンジンが進化してマイコンの処理速度が向上することで絵作りが改良されると、RAW現像ソフトは旧来のものと最新の絵作りの両者に対応することが多い。

古い機種にはピクチャーコントロール内に
「明瞭度」の設定項目がない。
また、最新機種であれば0.25ステップずつ補正できる
補正段数が1ステップずつだ

すると、古いカメラを使っているユーザーにはありがたいことに、最新のRAW現像ソフトならば、新しいカメラにしか搭載されない絵作り設定を選べるようになることがある。これはなかなか興味深い。

NX Studioではピクチャーコントロールを「カメラ互換」から
「最新のピクチャーコントロール」に変更すると、
発売時に明瞭度の設定変更ができなかった機種でも調整可能になり、
さらにZシリーズ各機種のように「ミドルレンジシャープ」の調整も可能になる


NX StudioではZシリーズカメラにある
Creative Picture Controlも使えるようになる

たとえば、2005年に発売されたピクチャーコントロールのないNikon D2Xや、2013年に発売されたNikon Dfでも、そのRAWファイルから最新のピクチャーコントロールでRAW現像ができる。高感度で撮影するなどのカメラにとって厳しい条件でなければ、いささか大げさにいえば現在のNikon Z 7IIなどに近い絵作りに仕上げることが可能になる。なんだか得する気がしないだろうか。

2010年にD2Xで撮影したRAW形式ファイルにも
最新のピクチャーコントロールやノイズ除去、レンズ収差補正を適応できる

高感度で撮影しているからさすがに「Z 7IIと同じ絵」にはならない。
カメラ側で発生した高感度ノイズは完全には除去できず
D2X自体のダイナミックレンジが狭いから。
だが、撮影時にはできなかったRAW現像が可能になったのはたしかだ

■複数のファイル形式で保存しておくとデータの破損に対応しやすい
最後に、絵作りに関してではない利点がある。それは、複数のファイルで記録しておくことで万が一のデータの破損にたいして対応しやすいということだ。

保存してあるハードディスクの故障により、ひとまとめにして保存しておいたものがすべて失われるという危険性はあるので、そこはクラウドストレージサービスを使うなどして保存場所を複数にして分散させておくなどの工夫はしてもらいたいが、RAW形式ファイルが壊れてもJPEGファイルは無理やり開くことができた、という経験は私にもある。

デュアルスロットのカメラであれば、RAW形式ファイルとJPEGファイルの記録場所をわけることができる機種も存在する。私はそこまではしないが、これも記録場所をわけておくことで、万が一のメモリーカードエラーに起因するデータ破損にたいして備えておく対処のひとつだ。

RAW+JPEG撮影の欠点があるとすれば、それはデータ容量が大きくなるぶん、連続撮影速度や連続撮影枚数が少なくなること、大容量の記録メディアやHDDが必要になることだろうか。だが、やみくもに連写をする必要はあまりないように思えるし、メモリーカードやHDDは年々価格が下がる。私にはこれらの欠点があっても、上記の利点のほうが勝るように思える。

こう思うと、エントリーユーザーこそRAW+JPEG撮影をしておくほうが、あとで露出などの撮影時のミスや失敗を修正しやすいのでよいのかもしれない、と最近は考えを改めた。カメラも予算の許すだけ上位機種を買うほうが、使いやすいうえに失敗しにくいものね。

【今回のお話のざっくりとしたまとめ】
「RAW+JPEGで撮影しておくと、RAW形式ファイルから最新の絵作り、ノイズ除去、レンズ収差補正を使用でき、複数のファイルを持っておくことでファイルの破損リスクが少し減りますよ」

【撮影データ】
Nikon D2X, Df/AI AF Zoom-Nikkor 80-200mm f/2.8D ED <NEW>, AI AF Nikkor 180mm f/2.8D IF-ED/RAW/Adobe Photoshop CC(西武新101系電車は2010年4月と、2021年11月上旬の撮影)