2022年2月14日月曜日

【秩父鉄道撮影記事】雪の日の鉱石貨物列車 デキ303号を三輪線でねらう


■大雪の日に我慢できずに正丸峠を越えた
東京首都圏に大雪の予報が出た三連休の前日に、直前まで迷ったすえに思い切って西武秩父線で正丸峠を越えて、秩父へ出かけた。迷ったのは、まずあれがああであるうえに、午前中よりも午後のほうが降雪量が増えるという予報だったから。夕方から夜に列車の運休などが行われると、帰宅困難者になってしまう。

東京首都圏でも、あるいは標高が高く盆地である秩父でも、降雪ならまだしも積雪の機会はそう多くはない。かの「平成26年豪雪」(2014年2月)は、その稀有な積雪の量が尋常ではないために起きたものだ。

だから迷いはあった。けれど「雪が積もる」機会はそうはない。だから思い切って出かけることにして、数年ぶりにトレッキングシューズを用意した。そんなためらいがあって家を出たのが早くはなく、西武秩父に到着したのは正午ごろだった。

そうして御花畑から秩父鉄道秩父本線に乗り、武甲山麓の駅に降り立つと、あたり一面に数センチの積雪があった。ポイントのヒーターに電源が入れられて焦げるような匂いがあたりにただよう。そういえば、長年用いられていた融雪カンテラから、数年前に置き換えられたのだった。

■武甲山麓の駅にデキ303牽引返空列車がやってきた
午前中の鉱石貨物列車が運行されていたということは、Twitterのタイムラインから見て知っていた。午前中の第一便の運行まえに、前夜に麓の駅に到着して待機していたデキ103号が、霜取り列車として単機で三輪(みのわ)線を往復したそうだ。やはり始発列車で来るべきだった。

そう思いながら「湯乃澤橋」と刻まれた陸橋のある、三輪線が三輪鉱山に入っていく曲線区間にたどり着くと、何人もの撮影者がいた。まったく、みんな好きだなあ! と苦笑する。自分もそのひとりだから、ばかにしているわけではもちろんない。彼らから午前中の列車の運行のようすを聞き、自分もカメラのセッティングを始めた。

すると、さきほど降り立った麓の駅に列車がやってくるのが、降りしきる雪ごしに見えた。上部に前照灯がふたつ灯っているところを見ると、旅客列車ではなく三輪鉱山行きの返空鉱石貨物列車だ。デキ300形か500形か……デキ303号だった。



300mmをつけて三輪線の勾配を登る列車を追いかけた。画面に雪が写りこむ。こういう降雪の写真を撮りたかったのだ。ふだんの日よりも背景が雪で隠されていい。もっとも、あとでよく考えたら、しゃがんでカメラの高さを低くして撮るほうが、架線柱をもう少し隠すこともできたはずだった。

■いきなり山を降りてきて
返空列車がこうして三輪鉱山に入っていったならば、30分ほど待てば鉱山から積車として降りてくる。あとは、それを雪のなかで待てばいいだけだ。

湿度の多い雪で、ふわふわと舞う感じではないし、そう多く積もるとも思えない。秩父市内でも西武秩父駅や御花畑駅付近では、たいして積もっていなかった。平成26年豪雪のときのような降り方ではない。とはいえ、各鉄道会社から計画運休の可能性も予告されていたので、待ち時間にTwitterで公式の運行状況をチェックしながら待った。帰れなくなるとまずいから。

そうしてしばらく経つと、さきほどのデキ303号が三輪鉱山から降りてきた。たいていは曲線区間の奥から汽笛が聞こえるので、それを合図に撮影の準備に入る。だが、雪のせいかそれも聞こえず、線路の軋む音と主電動機のうなりを耳にして用心したところに列車が姿を現すものだから、少々驚かされた。前照灯が灯されていないし、パンタグラフが片方降りていることにも。



■これだけでもかなり満足
ともかく、デキ303号はゆっくりと用心深く三輪線を降りていき、麓の駅でいちど停車してから上り方へ出発していった。

私は昭和の終わりから、それなりに長いこと秩父鉄道沿線の列車を見ている。国鉄115系電車や東武東上線8000系電車が秩父鉄道に乗り入れ、日本車輌製の自社発注の100形300系、500系がいて、小田急から譲渡された800系も活躍していて、車体の塗装も小豆色とはだ色のツートンカラーだった昭和60年代から。だが、降雪の日に鉱石貨物列車を撮ったのはこれがはじめてだ。電車のほうをおもに写していたからという理由もある。

だから、雪の日に鉱石貨物列車を1往復写せただけでも、自分にとっての「欠けているピース」を埋めることができたような気持ちだ。思い切って正丸峠を越えてきてよかった。

【撮影・RAW現像・レタッチについて】
レンズの選択:一般的には雨や雪、曇りの日などの悪天候時には広角レンズを用いて画角を広くして、画面内の白い色の面積を多く取ると、じつにしまりのない絵柄になることが多い。空などの被写体の背景を真っ白(RGBで表示すると255.255.255)にすること、つまり白飛びさせることは、絶対に避ける。さらに、白い空は写真の主役ではないのに目を引いてしまうので、できるかぎり画面には入れない。入れるとしても255.255.255になるような露出には絶対にしない。したがって、悪天候の日には望遠レンズでアップで撮り、できるだけ空を画面に入れないことが多い。

露出設定:雪の日は画面全体が白くなるので、カメラの露出計に従うと露出アンダーになることが多い。雪を白く写すには露出計の表示よりもプラス側に設定するか、プラスの露出補正が必要になる。だが、私はプラス補正はわずかに留めておいている。それは白とびをさせたくないからであり、やや露出アンダーめに写すほうが好みだから。露出モードは白い雪と前照灯にまどわされがちなので、マニュアル露出で撮影する。「飛ばさずつぶさず」という露出に設定してRAW+JPEGで撮影し、RAW現像とレタッチをする。

絞り値:使用するレンズの焦点距離と開放F値にもよるが、降雪が激しいときに大きな絞り値で撮影すると、画面内で降り積もる雪の粒の姿がめだちうるさい感じになってしまう。そこで、私は被写界深度を深くする場合を除いては、絞り開放からせいぜい二絞り程度にとどめる。300mm F4のレンズはF5.6からF8程度、180mm F2.8でもF5.6程度までしか絞らない。

ホワイトバランス:ホワイトバランスは5,000Kの数値入力で設定する。5,000Kは晴天時の設定よりやや低めの色温度だが、雪の日ではやや青みがかかるところを好ましく思っている。オートホワイトバランス(AWB)は屋外では用いない。

AF(オートフォーカス):いつものようにAFモードは「コンティニュアスAFサーボ(AF-C)」で「AFエリアモード」は「ダイナミック9点」を選択し、AF追従撮影を行なっている。予測駆動AFが働く設定だ。降雪量が多いとAF(オートフォーカス)は列車ではなく雪にピントを合わせようとする機種がある。そういう場合は線路を使ってどこかの部分でピントを合わせて、そのまま固定する「置きピン」にすると、ストレスを感じずに撮影できる。鉱石貨物列車は速度が遅いので、昼間の撮影であれば、エントリー機種のAFでもなんとかなることが多い。

RAW現像:ハイライトを抑えるためにハイライト部分はマイナス補正し、シャドーを見せるためにシャドー部分をプラス補正をする。つまり、結果的にはコントラストを下げていることになる。そのうえで、画面全体の明るさはRAW現像ソフト上で露出量の再設定をして決める。絵作り設定にAdobe Camera Rawの「カメラスタンダードv2」を選んでいるので、彩度はそう多くは足さない。せいぜいAdobe Camera RawやLightroomのスライダーで+10程度だ。ヒストグラム表示と警告表示も見て確かめつつ、RAW現像の最後に慎重に足す。なお、雪の粒をとくに大きくめだたせたいわけではないので、明瞭度の追加や「かすみの除去」も行わなかった。

レタッチの内容:画面四隅に周辺光量落ちを作っている。画面内に意図せず写り込んでしまったものをめだたせないように、レイヤーマスクを作成してその部分の彩度と明度を落とす処理を行ったカットもある。

【撮影データ】
Nikon Df/AI AF Nikkor 180mm f/2.8D IF-ED, AI AF Nikkor ED 300mm F4S (IF)/RAW