2024年2月12日月曜日

【秩父鉄道鉱石貨物列車】「瞳の大きなデキ507おじさん」と「根岸から来たタレ目のおじさんD502」の活躍


■「せり帽を被った大きな瞳の八百屋のおじさん」
むかしから私は秩父鉄道の電気機関車を見るといつも「せり帽を被った八百屋のおじさん」を勝手に連想してしまう。「お兄さん」でも魚屋でもいいけれどさ。せり帽とは、市場で競りに参加するときに被る番号の入ったプレートのある帽子(キャップ)のことだ。なんとなく、紺色の印象がある。秩父鉄道の電気機関車には数字だけのナンバープレートが正面にあるためだろうか。連想してしまう原因は自分ではよくわからない。

正面窓が比較的小さいデキ300形やデキ500形は、ハニワ顔に見える。東洋人だと自分を含めて奥二重や一重で目が細いひとはめずらしくはない。そして、正面窓が大きいデキ500形の後期型は、瞳の大きなおじさんのようだ。もしかしたら、中年の男性が多い印象がある運転士からの連想なのだろうか。少なくとも、これらの電気機関車の正面デザインが女性を連想する顔つきではないことは、みなさんにも共感してもらえそうな気はするのだが。

先日の武甲山の麓の駅とその構内側線の話の続きだ。朝いちばんの三輪(みのわ)鉱山行き列車の先頭にいたのは、前回書いたように現役最古参の機関車であるデキ102。第二便は現役で最新型のデキ507だった。

秩父鉄道の電気機関車は2024年2月現在、工場に検査入場するたびに正面窓のパッキン(Hゴム)が黒いものに交換が進められているようで、傷んだ部位だけ交換するからなのか、デキ507は貫通路のみは白っぽいグレーのままパッキンが残され、運転士側と助手席側の窓は黒いものになっている。そのせいか、なおさら「瞳の大きさ」が大きく見える。女性のメイクでマスカラで「眼でか」にするように、窓ガラスの周囲が黒いだけで窓の面積が大きく見えるのはおもしろい。

■「ィヨコハマ根岸から来たタレ目のおじさん」も写して「イイネ!」
麓の駅から20パーミルの勾配を越えて三輪鉱山に来る列車は、鉱山の入口で電気機関車から構内用のスイッチャー(入替用ディーゼル機関車)に付け替えを行う。20両編成の貨車は構内側線上にいるまま、いちど電気機関車が鉱山入口付近の停車位置で停車し、ディーゼル機関車とバトンタッチをする。その機関車は以前もお話したィヨコハマの根岸からやってきたD502だ。新潟鐵工所(現 新潟トランシス)製で、日本石油精製根岸製油所(現 ENEOS根岸製油所)で用いられていたから、新潟生まれィヨコハマ根岸育ち。タレ目なおじさん……イイネ!という顔つきをしている。ティアドロップ形サングラスもタレ目に見えるじゃない、ねえ? (ねえ、じゃない)



■鉱山での入替作業を見ていると
この機関車交換も見ていると私には萌えを感じるポイントがある。貨車から電気機関車が切り離されて、D502が連結され、貨車の連結器と自動空気ブレーキに使うエアホースも接続される。そして、D502が始動する前にいちど編成全体のブレーキを緩める。すると、ぷしゅーという音を立てて編成全体から空気が抜ける音がするとともに、空車であっても勾配に停車している20両の重い黒い貨車が、ぎしぎしと鳴りながら勾配をわずかに逆走しかける。そこへアイドリング音をからからと立てていたD502が「ブロロロロロ」という感じでエンジンを思い切りふかして前進を開始し、貨車が逆走をやめて鉱山に向けて動き出す。

この工程はYouTubeなどにも動画をアップしている方が少なからずいるから、そちらをご覧いただきたい。なんでも、動輪の空転を防ぐためにいったん自動連結器に遊びを持たせてから、その遊びをなくして牽引するために、意図的に貨車をほんのわずかに逆走させているのだそうだ。

このブレーキを緩める音と、貨車の動き、D502が思い切り排気ガスを排出しながら力いっぱいに力行(りっこう)する姿を見ると……かっちょええ……とほれぼれしてしまい、シャッターを切るのを忘れそうになる。


武州原谷貨物駅で積車の編成が出発する際に上り方に連結したスイッチャーが編成を押していき、突放するシーンと並んで、「秩父鉄道鉱石貨物列車の名シーン」のひとつなのではないか。もともとは「電車派」である私でさえも見ていて「萌え萌えきゅーん☆」となる(正確には「かっけえ!」とうならされる)。高度にテクノロジーが進歩しても変わらないでいる鉄道輸送の原点のようなシーンだからね。

■鉱山から降りてくるところもやっぱり撮る
鉱山で貨車20両に石灰石を積み、機関車の付替えをするのはだいたい20分から30分程度。だから、待つのに飽きると三輪鉱山の入口まで行ってそのようすを見ていた。何度書いているように鉱山付近は日が当たる(むしろ終日逆光になる)。だが、構内側線が秩父本線と合流するあたりは午前中は山の影になる時間が長くて、冬場は寒いのだ。動かずにじっと立っていると冷える。

鳥を見たり本線を行き来する電車を見ているうちに、鉱山から汽笛が聞こえてきた。そうして第二便のデキ507も鉱山から坂を下り始めた。



日陰でも雪があるとレフ板の役目を果たすから、シャドー部分にも光が回っているところは、写真的にはありがたい。晴れるとむしろ、昼まで線路に日が当たらないか、太陽が低い冬場だと木々の影がまだらに線路を覆ってしまう。


こうして第二便も撮った。このあとは、第三便がデキ501、第四便がデキ502、移動してさらにデキ503と504を見ている。朝の第一便以外はデキ500形しか自分は見ることがなかった。そういう日もあるということ。こればかりは仕方がない。

【撮影データ】
Nikon Df, D7200/AI AF Micro-Nikkor 60mm f/2.8D, AI AF Nikkor 180mm f/2.8D IF-ED/RAW/Adobe Photoshop CC 2024