2016年10月27日木曜日

【1995年モスクワ】「モスクワ中央環状線」開業の知らせを聞いて……モスクワに行きたい!


さる2016年9月10日に、モスクワにあらたに「モスクワ中央環状線」(略称МЦКMTsK エムツェーカー):マスコーフスコエ・ツェントラーリノエ・カリツォー)という鉄道路線が開業したという。ここ数年来工事を進めているということは聞いていたので、ついに開業したのかとうれしくなった。運営は、モスクワ環状鉄道(略称МКЖД:MKZhD エムカージェーデー)。ロシア鉄道とモスクワ地下鉄が施設を所有し、運営に当たる。モスクワ市地下鉄14号線でもあり、運賃は地下鉄と同様に均一料金。全線54kmで駅はすべて開業すると31駅とのことだ。

モスクワの鉄道網は東京やベルリンと異なり、地上を走る通勤電車は都心部のターミナル駅に乗り入れるのみで、環状して走るのは地下鉄だけだった。地下鉄環状線はちょうど東京でいうところの山手線のように、都心部の外周をまわる。サンクト・ペテルブルク方面の発着駅であるレニングラード駅や、シベリアへの列車が発着するヤロスラブリ駅、ヨーロッパ方面への列車の発着駅であるベルロシア駅、中央アジア方面の列車の発着駅であるカザン駅など*1を地下鉄環状線が結ぶ。それより内側を走る鉄道は、地下鉄とわずかに残る路面電車(トラムヴァーイ)のみだ。それより外周には、環状に市内を移動する公共交通はバスとトロリーバスのみだった。ただし、貨物線は存在した。そこで、既存の貨物線を電化して旅客化したのがこのモスクワ中央環状線というわけだ。たしか、数年前にはこの貨物線の一部区間に蒸気機関車牽引の列車を走らせていたのではなかったか

ただし「中央環状線」と名乗るとはいえ、東京圏在住の筆者からするとむしろ、東京の外周を回るJR武蔵野線に近い(位置関係はもう少し市の内側なのだが)。じっさい、ロシースカヤ・ガゼータによるRussia Beyond the Headlines(RBTH)の日本語版ロシアNOWで見る沿線風景動画に映る風景は都市郊外そのもので、武蔵野線からの車窓風景を思い起こさせる。ボタニーチェスキー・サッド(植物園)駅、ブリバール・ロコソーフスカヴァ(ロコソフスキー庭園通り)駅、イズマイロヴォ駅、ショッセ・エントゥジアストフ(エントゥジアスト街道)駅、ドゥブロフカ駅、アフトザヴォーツカヤ(自動車工場:「ジル」ことリハチョフ名称自動車工場がある。ただし、すぐ隣にジル駅もあるので、既存の地下鉄ザマスクヴァレツカヤ線との乗換のために設けられた)駅、プローシャジ・ガガーリナ(ガガーリン広場)駅、ルージニキ駅、クトゥーゾフスカヤ駅、ジェラヴォイ・ツェントル(ビジネス・センター)駅、ハラショーヴァ駅、バルチースカヤ駅で、それぞれ地下鉄に乗り換えが可能だという。この駅名を見ても、それぞれ地下鉄の郊外部の駅だ。

鉄のお仲間のみなさんには、「JR武蔵野線をE231系電車が走るようなもの」と想像してもらうとわかりやすいかもしれない。より正確には、武蔵野線・京葉線からりんかい線の東臨運輸区と東京貨物ターミナルに渡り線を設けて、東京湾トンネルを通って浜川崎に出て、南武支線から新鶴見信号所を通って梶ヶ谷貨物ターミナルを通って環状する旅客線ができたような……山手貨物線を通る湘南新宿ラインみたいなものといえばもっと簡単だった。

なお、「中央」環状線と名乗るのは、さらに外周に地下鉄の環状線が計画されているからのようだ。東京圏にはもう武蔵野線の外側を環状に走る鉄道はできそうにない。

筆者はモスクワを訪問したのが2001年冬が最後なので、もう15年もごぶさたしている。ほんとうはすごく行きたいんだよ、ロシアに。だから、最新の写真は手元にない。掲載した写真も何度もみなさんにお見せしたものばかりだ。

1994年から1995年に筆者はこのモスクワ中央環状線の沿線のほんの外側であるヴァラビョーヴィエ・ゴールィ(雀が丘)の大学の寮に住んでいて、都心に出るのにときどき少し遠回りをしていた。地下鉄駅レーニンスキー・プロスペクト(レーニン大通り)に接続するプローシャジ・ガガーリナ(ガガーリン広場)付近の当時の貨物線の様子が何枚か写してあった。レーニンとガガーリンの名前が出てきて、いかにもソビエトっぽいね。


ガガーリン広場には、巨大なガガーリン像が立っていた。口の悪いモスクワっ子は、このガガーリン像をその形状から「アトクルィヴァーチェリ(栓抜き)」と呼んでいるとかいないとか。雄々しすぎてガガーリンには見えない。社会主義リアリズム時代の名残だ。


地下鉄レーニンスキー・プロスペクト駅のそばにこの貨物線の線路がある(いまはそんなわけで、地下鉄との乗換駅ができた)。当時の筆者は非鉄時代であり、ソ連崩壊後のロシアで鉄道を写していいのかよくわからず、旅行で乗った列車の記念写真以外は、地下鉄とトラムヴァーイくらいしか写していない。それでも、毎日カメラは持ち歩いていた。たまたまバスを降りてレーニン大通りから下を走る貨物線の線路を見下ろすと、たまたま列車がやってきたところを写しただけだ。Googleマップで見ると、いまはこの線路の上は公園になっていて、中央環状線は約1kmほどトンネルのなか(ガガーリン・トンネル)を走るそうだ。プローシャジ・ガガーリナ駅も地下駅だ。

走ってきた列車はいま見るとM62型ディーゼル機関車の2車体方式バージョン2M62U(2М62У)の単機回送だった。M62型はウクライナ・ルガンスク機関車工場製(ルガンスクは「ルハンシク」とウクライナ語ではいうけれど、ロシア語人口の多いウクライナ東部のためかWebサイトにもロシア語の"Лугансктепловоз"(ルガンスクチェプロヴォーズ)とある)電気式ディーゼル機関車だ。


そして、モスクワ中央環状鉄道は何度かモスクワ川を渡る。モスクワ川が蛇行して流れているからだ。この、ゴーリキー公園近くでスタジアムがあるルージニキを結ぶ橋はノヴォアンドレイエフスキー・モスト(ノヴォアンドレイ橋)と名づけられている。貨物線だったころから歩行者通路があった。いまはそもそも、自動車道(第3交通環状線:トレーチエ・トランスポルトノエ・カリツォー)が平行しているので、その橋もかけられている。筆者がいた時代はもう大昔というわけだ。なにしろいまや高層ビルコンプレックスのモスクワ・シティ(Московский Международный Деловой Центр:ММДЦ)などいうものがあるのだもの。私がいた頃の近代高層建築といえば、ノーヴィ・アルバートの高層ビルとモスクワ市市庁舎になったコメコンビル、そしてアーマンド・ハマーの建てた国際貿易センタービル(一般のロシア人は入れないために地下鉄駅からも遠く、たんに西側から来ただけでお金がない学生は入れても、あまりそう居心地のよろしくないビルだった。佐藤優さんの本などを参照されたい)のほかは、スターリン建築と郊外のアパート群くらいしかなかったのだ。


ほとんどの写真はレーニンスキー・プロスペクト駅付近のガガーリン区(市の南西部から南部)の写真だが、以下は市の南部のユージヌイ・レチノイ・ヴァクザール(モスクワ川南港)方面をコローメンスコエから望んでいる。地下鉄ザマスクヴァレツカヤ線はアフトザヴォーツカヤ駅のあたりでモスクワ川を地上で渡る。そこから見える光景は、多摩川の六郷土手あたりに似ている気がしていた。もっとも、モスクワのほうが緑が多い。思えばこの頃から私は都心よりも郊外の町ばかりうろうろしているというわけか。


なお、モスクワ中央環状鉄道を走る電車はジーメンス製ЭС2Г(ES2G)型「ラースタチカ(つばめ)」だ。ロシア語で「エレクトリーチカ(電車)」というと、緑色で車体にリブがあり、2扉で木製の椅子のある近郊型電車ЭР2(ER2)を思い出してしまうのは筆者がアナクロだから。ER2とその後継であるER4はいまは独立したバルト三国のラトビア・リガ車両製造工場(ラトビア語では"RVR : Rīgas vagonbūves rūpnīca"。ロシア語では"Рижский вагоностроительный завод"(リーシュスキー・ヴァゴナスタライーチェリヌィ・ザヴォート))製だ。国産ではなく(といっても、その頃だってロシア製ではない)外国製(ドイツ製)の電車を使うところがいまのロシアらしい。モスクワとサンクト・ペテルブルクを結ぶ高速列車サプサンだってジーメンス製の電車だ。ソビエト製の高速鉄道用の電車ЭР200(ER200)を見てみたかったよ。

このモスクワ中央環状鉄道がもしソビエト時代に開業していたら、ER2が吊り掛け駆動の音をたてて走っていて、社会主義時代の緑皮車好きのおっとっとさんも私も大喜びしただろう。でも、ソビエト時代であれば撮影はできそうにないな。いまであれば写真を撮ってもとがめられることもないだろう。それにしても、ジーメンスのインバーターといえば歌うのだろうか、などと気になることはたくさんある(YouTube動画を見ていると、どうやら歌わないみたい)。ああ、モスクワに行きたい!*2

YouTubeにさっそくロシアのみなさんがアップされた動画がある。うーん、沿線風景はやはりJR武蔵野線という感じ。そのなかのひとつでプローシャジ・ガガーリナ駅を「なんだかヨーロッパの地下鉄の駅みたい」と撮影者が語っていたけれど、新しい鉄道路線は無国籍風でどこもそう雰囲気が変わらいものだなと思わされたし、私にはドイツの鉄道や仁川空港鉄道を思い起こさせた。


*1 サンクト・ペテルブルク方面の発着駅であるレニングラード駅や、シベリアへの列車が発着するヤロスラブリ駅、ヨーロッパ方面への列車の発着駅であるベルロシア駅、中央アジア方面の列車の発着駅であるカザン駅など:この名前のつけかたは、パリの駅をご存じの方は理解できるだろう。「ガール・ド・リヨン」(リヨン方面駅)というような命名だ。つまり、モスクワ市内の発着駅もそれぞれ「レニングラード方面駅」「ヤロスラブリ方面駅」という意味だ。


*2 ああ、モスクワに行きたい!:チェーホフ『三人姉妹』のイリーナのセリフ

【撮影データ】
Nikon New FM2, Konica BiGmini BM-301/Ai Nikkor 35mm f/2S, MC MIR-24N 2/35/Kodak Academy 200, SVEMA Foto100/ILFORD ID-11ほか
(最後の写真は1994年9月、ほかは1995年2月から3月撮影)

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